キングダムハーツ【Five・Blade/Special・Episode2】『ヒトミの愛』
ヤッホー!私ヒトミ!キーブレード使いの一人であるレイお兄ちゃんの妹です!
あれから月日が経ってやっと世界に平和が訪れたは良いけど、クロナさん達はどっか行っちゃうし、お兄ちゃんは不在だし、つまらないなぁ……
そうそう、事件が終わって落ち着いてきた頃に私こんな質問をよくされるようになったんだ。
『ヒトミってどうしてレイの事好きなの?』と。私はお兄ちゃんの事が好き。それはみんな公認の事実だと思う。しかし私はその理由を今まで話した事は無い。聞かれても恥ずかしいから教えてなかったけど、今回は特別に教えようかな……
あれは、七年前のある日の事。
クロナさんが消えてから二年ほど経ち、お兄ちゃんも流石に立ち直ってキーブレード使いとしての特訓のお陰でなんとかキーブレードを出せるくらいにまで強くなった。フィオさんやダークさんと私はある日出会ったミッキーと言う人物にキーブレードを触れさせてもらい、継承してもらったがまだ覚醒する気配は無い。
私も早くキーブレードが欲しいと思っていた。もちろんフィオさん達も。今とそこまで性格などは変わっていなかったからこの頃から少しせっかちだった。いや、たった一つだけ違う所があった。
「あんた何やってんの!」
「何って、特訓だよ?」
この頃の私はお兄ちゃんが大嫌いだった。今からは想像も出来ないでしょ?でも本当。あの頃の私はクロナさんと大変な時だと言うのにのんきに毎日を送っているお兄ちゃんに腹を立てていた。その為この頃はお兄ちゃんとも、名前でも呼ばず一通して『あんた』としか呼ばなかった。
「そんな事してる暇あったら、情報の一つや二つくらい集めたら!?」
そう言って何時も怒鳴ってはその場を去る。何時も私がお兄ちゃんにばかりきつく接するのでダークさん達も私達の関係を心配していたが、私はすぐに『あいつが全部悪い』と返していた。
「……ったく…」
当時七歳の頃の自分の部屋。その内容は世間から言わせれば『ヤンチャ小僧の部屋』で、少なくとも私自身も女の子の部屋らしくないと自覚していた。流石に足の踏み場も無いと言う訳では無いが。
「あいつなんかに……任せてらんない……」
そう言って私は棚の上に置いてある写真を見た。その写真にはお兄ちゃんとクロナさん、フィオさんとダークさんと私の五人が写っていた。
「あいつの代わりに私がクロナさんを助けるんだ……」
当時クロナさんと私は同じ女性と言う事もあってか仲が良かった。その頃はお兄ちゃんの事はただの兄としか認識しておらず、対した感情も無かった。そしてクロナさんのお兄ちゃんに対する思いをよく応援していた。
でも突然彼女は姿を消した。その時はお兄ちゃんもそれを悔やんでいた。でも暫くして立ち直り、キーブレードが覚醒した。だがそれを使いこなせるようになるためと言って特訓するようになっていった。それに頭に来た私は思わず『本気でクロナさんを助ける気があるの!?』と一喝してしまい、それがきっかけで私達の関係はギクシャクし始めた。そして何時しか、お兄ちゃんを大嫌いになっていた。
ただ特訓してたって少しずつしか強くならないし、何の情報も得られない。そうしてる内にクロナさんは何処かで寂しい思いをしている。そう思った私はあのときのお兄ちゃんの感情を理解出来なかった。と言うか焦っていたのかもしれない。
「……あいつなんて……」
首を横に振り、お兄ちゃんの事を頭から追い出そうとしたが、中々離れない。仕方無く気分転換の為に外へ出掛けた。一応ヒナタお姉ちゃんには散歩だと言っておいた。
そよ風村から少し北にある東野原に私は来ていた。ここは空気も美味しく、たくさんの小動物が戯れている。
「良いなぁ、動物は」
今見つめている犬や猫を見て私は呟いた。動物は人よりも知識が浅い。時には人よりも優秀だが喋ったり考えたり出来るのは精々人間だけだ。だからこそ何も悩まず、何時も楽しんでいられる。その点人間は思い悩み、自分自身を苦しめる。
「私はどうしたら良いんだろ?」
私は悔しかった。歳上ながら自分と仲良くしてくれたクロナさんに何もしてあげられなかった事が。しかもお兄ちゃんは戦う力、キーブレードを得た。でも私にはそれがない。助けたいと言う思いだけが一人前で、戦う力が無いと言う事が辛かった。
戦う力が欲しい、そう思っていた時、背後から声が聞こえた。
「力が欲しいかね?」
振り向くとそこには茶色のローブに身を包んだ謎の男がいた。いつ現れたのかわからないその男からは他の人とは違う気配が放たれていた。
「力が欲しいのだろう?戦う力が」
「おじさん…何でわかったの!?」
男が何故私の心を読めたのかはわからない。ただ力が欲しいのは本当だ。
「どうなんだ?」
「……うん、力が欲しい。大切な仲間を救えるほどの力!」
そう言うと男は自らの名前を名乗った。
「そうか、我が名はアンセム。闇の探求者」
「えっ?」
「お前に力をやろう」
そう言ってアンセムと名乗った男は一瞬で目の前に一枚の紙を出現させた。それは不気味な光に包まれて浮いており、その近くには同じく浮いている羽ペンが用意されていた。
「ここにサインしてくれれば、契約成立だ」
確かに名前を書く欄がある。その上には注意事項などが書いてあるのだろうが、当時の私には難しい文字ばかりで読めず、そのまま名前を記入した。
「ヒトミ・ディアス。了解した。それでは……」
アンセムが突如右手から紫色の炎を出し、私に向かって投げつけた。
「えっ?」
しかし、その炎は何故か熱くなく、痛みも無ければ燃え移りもしなかった。寧ろ何かに包まれていると言った方が正しい感覚だった。そしてその炎が消えると私の中に何か凄い物が生まれた気がした。
「おめでとう、これで君は闇の住人だ!」
アンセムの先程の言葉をようやく理解した。力とはすなわち闇の力の事だった。確かに自分から闇の力を感じる。私はとてつもない契約を交わしてしまった。だが、当時の私にそんな事どうでも良かった。力を得た、その事が嬉しくて堪らなかったからだ。
「早速、あの木に向かって闇を放って見るといい」
そう言ってアンセムはこの野原に唯一生えている木を指差した。5メートルほどあるその木はよく育っており、小鳥達の巣もあった。しかし私はそんなことお構いなしにアンセムの言う通りにした。
「……闇よ!」
そう言うと右手から闇色の炎、ダークファイガが放たれ、木まで飛んでいった。すると木が燃え始め、あっという間に炎に包まれた。しかも普通の色ではなく闇の色で。
「どうだ?これが君の力だ」
この時、やっと闇の力を手にした事を後悔した。私の小さな欲望が自然を破壊し、生き物の住む場所を奪ってしまったと言う事に気付き、自分の震えている右手を見た。そこからも闇の力を感じ、私は自分と言う存在に怯えた。
「わ、私は……!」
途端に頭がクラクラしてきて、私はその場で気絶してしまった。地面に倒れ、視界が薄れていく。その時アンセムが姿を消していくのが見えた。
目を開けるとそこは私の部屋のベッドの上だった。夢だったのかと自分の右手を見てみると、やはり闇を感じた。夢などでは無かったのだ。
「私は……」
その時、部屋のドアが荒々しく開けられ、ある人物が入ってきた。
「ヒトミ!大丈夫か!?」
お兄ちゃんだった。その表情はいつも以上に真剣な物で、こちらを見つめていた。
「あんた……どうしてここに?特訓はどうしたのよ?」
「ここ最近、特訓なんてする暇無いよ」
私はその言葉に驚いた。その頃お兄ちゃんはただ特訓しかしない印象があった為、とても信じられなかった。だが話を聞いてみるともう二週間は特訓していないらしい。
「ふ、ふん!どうせまた下らない理由でしょ?あんたっていつもそう!クロナさんを助ける気あるの!?」
私はお兄ちゃんに対して相変わらずきつい態度をぶつけた。そしてとうとう聞きたかった事を聞いた。するとお兄ちゃんはなんと涙を流した。
「えっ!?」
「下らない理由なんかじゃない……!それにクロナだって助けたい……!」
涙を拭いながら話を続けようとするお兄ちゃんの涙はそれでも止まらず、私は半分焦って聞いた。
「じゃ、じゃあ何でここにいるのよ?」
「決まってるだろ……ヒトミが心配だからだよ!!」
その言葉を聞いて驚いたと同時に嬉しかった。昔からただの兄としか認識していなかったお兄ちゃんは特に私とは話をする機会は無く、あっても年に1、2回程度だった。その為お兄ちゃんの気持ちが一切わからなかった。だが、今回初めて彼の気持ちを彼の口から聞けた。
「クロナだって助けたいよ!!でも他のみんなも守りたいよ!!だからこそ強くなって、もう誰も失いたくないんだよ!!」
私はこれまで理解出来なかった特訓の意味を初めて理解した。焦っても仕方無い、ならばゆっくり強くなって今出来る事をする。そんな当たり前の事を私は見失っていた。だがお兄ちゃんは失っていなかった。
「もちろん、ヒトミもそのうちの一人だ!!」
「じゃ、じゃあなんであんたは特訓サボってこんなとこにいるの!?矛盾してるでしょ!?」
今最大の疑問だった。お兄ちゃんの気持ちは十分にわかった。なら何故特訓をせずにここにいるのか、それがわからなかった。その時、部屋の外から声が聞こえた。
「ヒトミ、落ち着きなさい」
声の主はヒナタお姉ちゃんだった。いつの間にか私達の話を聞いていて、部屋の外にいたのだ。お姉ちゃんは部屋に入ってきて、こう言った。
「二週間前に東野原で倒れていた貴女をレイは特訓の帰りに見つけてここまで運んできて、それからずっと貴女の看病をしてたのよ!!」
お姉ちゃんの表情は真剣でとても嘘をついているようには見えなかった。特訓をしていない期間はずっと私の看病をしていたとなると、辻褄が合う。もしあの出来事が夢じゃ無いならあのあとすぐにお兄ちゃんが来てくれて、家まで運ぶとすぐに看病を始めたのだろう。
「レイは暇さえあれば貴女の側にいたわ。例えフィオ君達に誘われても、貴女と一緒にいるんだって……」
ただでさえ仲の良い二人からの誘いをも断り、出来るだけ私の側にいようとしたと言う知らせに私は嬉しくなった。そして同時に涙が流れた。自分の兄がここまで自分の事を考えてくれているなんて思わなかったからだ。
「ヒトミ、俺は君を怒らせるような事ばかりしてきたかもしれない、クロナを助ける気が無いと思われてしまうかもしれない、でも俺はクロナを本気で助けたいと思ってるし、みんなも守りたい。ヒトミもその一人だ。それに大切な妹だからこそ、助けたい。俺はヒトミの事が好きだ」
「お兄……ちゃん」
私はこの時、初めて彼の事をお兄ちゃんと呼んだ。それからと言う物の一ヶ月経った頃に私の容態は安定し、お兄ちゃんと一緒にそよ風村を歩いていた。
「ヒトミ、具合はどう?」
「大丈夫だよ、これもお兄ちゃんのお陰」
この時はこんな台詞が自分の口から出るなんて思いもしなかった。私の容態が安定するまでずっと一緒にいてくれたお兄ちゃんを今では誰よりも好きになっていた。現にその手は確りと繋がれている。
「あの、ごめんね。あのとききつく当たっちゃって」
「気にしなくて良いよ、誰だって素直になれない時あるから」
普段からしたかった他愛ない会話。私はずっとこうして笑いたかったのかもしれない。そして見つけたかったのかもしれない。この気持ちを。
今なら言える。誰に文句を言われようと、けなされようと、批判されようと確りとはっきりと誰にでも断言出来る事がある。私が例え嫌っていた時期があったとしても、それに怯えたり逃げたりすること無く普段通り関わり、闇に怯えていた私に付きっきりで看病してくれた彼の事が……
「お兄ちゃん、大っ好きだよ!!」
その声は天まで届いた。そんな気がしたその日。それからはみんな知っての通り。世間は私みたいな人の事をブラコンだとか言うけど、それは私にとっては誉め言葉でしかない。だってこんな素敵な兄を嫌いでいる方がおかしいから。これからも私は、大好きな人の助けになっていこう。
あれから月日が経ってやっと世界に平和が訪れたは良いけど、クロナさん達はどっか行っちゃうし、お兄ちゃんは不在だし、つまらないなぁ……
そうそう、事件が終わって落ち着いてきた頃に私こんな質問をよくされるようになったんだ。
『ヒトミってどうしてレイの事好きなの?』と。私はお兄ちゃんの事が好き。それはみんな公認の事実だと思う。しかし私はその理由を今まで話した事は無い。聞かれても恥ずかしいから教えてなかったけど、今回は特別に教えようかな……
あれは、七年前のある日の事。
クロナさんが消えてから二年ほど経ち、お兄ちゃんも流石に立ち直ってキーブレード使いとしての特訓のお陰でなんとかキーブレードを出せるくらいにまで強くなった。フィオさんやダークさんと私はある日出会ったミッキーと言う人物にキーブレードを触れさせてもらい、継承してもらったがまだ覚醒する気配は無い。
私も早くキーブレードが欲しいと思っていた。もちろんフィオさん達も。今とそこまで性格などは変わっていなかったからこの頃から少しせっかちだった。いや、たった一つだけ違う所があった。
「あんた何やってんの!」
「何って、特訓だよ?」
この頃の私はお兄ちゃんが大嫌いだった。今からは想像も出来ないでしょ?でも本当。あの頃の私はクロナさんと大変な時だと言うのにのんきに毎日を送っているお兄ちゃんに腹を立てていた。その為この頃はお兄ちゃんとも、名前でも呼ばず一通して『あんた』としか呼ばなかった。
「そんな事してる暇あったら、情報の一つや二つくらい集めたら!?」
そう言って何時も怒鳴ってはその場を去る。何時も私がお兄ちゃんにばかりきつく接するのでダークさん達も私達の関係を心配していたが、私はすぐに『あいつが全部悪い』と返していた。
「……ったく…」
当時七歳の頃の自分の部屋。その内容は世間から言わせれば『ヤンチャ小僧の部屋』で、少なくとも私自身も女の子の部屋らしくないと自覚していた。流石に足の踏み場も無いと言う訳では無いが。
「あいつなんかに……任せてらんない……」
そう言って私は棚の上に置いてある写真を見た。その写真にはお兄ちゃんとクロナさん、フィオさんとダークさんと私の五人が写っていた。
「あいつの代わりに私がクロナさんを助けるんだ……」
当時クロナさんと私は同じ女性と言う事もあってか仲が良かった。その頃はお兄ちゃんの事はただの兄としか認識しておらず、対した感情も無かった。そしてクロナさんのお兄ちゃんに対する思いをよく応援していた。
でも突然彼女は姿を消した。その時はお兄ちゃんもそれを悔やんでいた。でも暫くして立ち直り、キーブレードが覚醒した。だがそれを使いこなせるようになるためと言って特訓するようになっていった。それに頭に来た私は思わず『本気でクロナさんを助ける気があるの!?』と一喝してしまい、それがきっかけで私達の関係はギクシャクし始めた。そして何時しか、お兄ちゃんを大嫌いになっていた。
ただ特訓してたって少しずつしか強くならないし、何の情報も得られない。そうしてる内にクロナさんは何処かで寂しい思いをしている。そう思った私はあのときのお兄ちゃんの感情を理解出来なかった。と言うか焦っていたのかもしれない。
「……あいつなんて……」
首を横に振り、お兄ちゃんの事を頭から追い出そうとしたが、中々離れない。仕方無く気分転換の為に外へ出掛けた。一応ヒナタお姉ちゃんには散歩だと言っておいた。
そよ風村から少し北にある東野原に私は来ていた。ここは空気も美味しく、たくさんの小動物が戯れている。
「良いなぁ、動物は」
今見つめている犬や猫を見て私は呟いた。動物は人よりも知識が浅い。時には人よりも優秀だが喋ったり考えたり出来るのは精々人間だけだ。だからこそ何も悩まず、何時も楽しんでいられる。その点人間は思い悩み、自分自身を苦しめる。
「私はどうしたら良いんだろ?」
私は悔しかった。歳上ながら自分と仲良くしてくれたクロナさんに何もしてあげられなかった事が。しかもお兄ちゃんは戦う力、キーブレードを得た。でも私にはそれがない。助けたいと言う思いだけが一人前で、戦う力が無いと言う事が辛かった。
戦う力が欲しい、そう思っていた時、背後から声が聞こえた。
「力が欲しいかね?」
振り向くとそこには茶色のローブに身を包んだ謎の男がいた。いつ現れたのかわからないその男からは他の人とは違う気配が放たれていた。
「力が欲しいのだろう?戦う力が」
「おじさん…何でわかったの!?」
男が何故私の心を読めたのかはわからない。ただ力が欲しいのは本当だ。
「どうなんだ?」
「……うん、力が欲しい。大切な仲間を救えるほどの力!」
そう言うと男は自らの名前を名乗った。
「そうか、我が名はアンセム。闇の探求者」
「えっ?」
「お前に力をやろう」
そう言ってアンセムと名乗った男は一瞬で目の前に一枚の紙を出現させた。それは不気味な光に包まれて浮いており、その近くには同じく浮いている羽ペンが用意されていた。
「ここにサインしてくれれば、契約成立だ」
確かに名前を書く欄がある。その上には注意事項などが書いてあるのだろうが、当時の私には難しい文字ばかりで読めず、そのまま名前を記入した。
「ヒトミ・ディアス。了解した。それでは……」
アンセムが突如右手から紫色の炎を出し、私に向かって投げつけた。
「えっ?」
しかし、その炎は何故か熱くなく、痛みも無ければ燃え移りもしなかった。寧ろ何かに包まれていると言った方が正しい感覚だった。そしてその炎が消えると私の中に何か凄い物が生まれた気がした。
「おめでとう、これで君は闇の住人だ!」
アンセムの先程の言葉をようやく理解した。力とはすなわち闇の力の事だった。確かに自分から闇の力を感じる。私はとてつもない契約を交わしてしまった。だが、当時の私にそんな事どうでも良かった。力を得た、その事が嬉しくて堪らなかったからだ。
「早速、あの木に向かって闇を放って見るといい」
そう言ってアンセムはこの野原に唯一生えている木を指差した。5メートルほどあるその木はよく育っており、小鳥達の巣もあった。しかし私はそんなことお構いなしにアンセムの言う通りにした。
「……闇よ!」
そう言うと右手から闇色の炎、ダークファイガが放たれ、木まで飛んでいった。すると木が燃え始め、あっという間に炎に包まれた。しかも普通の色ではなく闇の色で。
「どうだ?これが君の力だ」
この時、やっと闇の力を手にした事を後悔した。私の小さな欲望が自然を破壊し、生き物の住む場所を奪ってしまったと言う事に気付き、自分の震えている右手を見た。そこからも闇の力を感じ、私は自分と言う存在に怯えた。
「わ、私は……!」
途端に頭がクラクラしてきて、私はその場で気絶してしまった。地面に倒れ、視界が薄れていく。その時アンセムが姿を消していくのが見えた。
目を開けるとそこは私の部屋のベッドの上だった。夢だったのかと自分の右手を見てみると、やはり闇を感じた。夢などでは無かったのだ。
「私は……」
その時、部屋のドアが荒々しく開けられ、ある人物が入ってきた。
「ヒトミ!大丈夫か!?」
お兄ちゃんだった。その表情はいつも以上に真剣な物で、こちらを見つめていた。
「あんた……どうしてここに?特訓はどうしたのよ?」
「ここ最近、特訓なんてする暇無いよ」
私はその言葉に驚いた。その頃お兄ちゃんはただ特訓しかしない印象があった為、とても信じられなかった。だが話を聞いてみるともう二週間は特訓していないらしい。
「ふ、ふん!どうせまた下らない理由でしょ?あんたっていつもそう!クロナさんを助ける気あるの!?」
私はお兄ちゃんに対して相変わらずきつい態度をぶつけた。そしてとうとう聞きたかった事を聞いた。するとお兄ちゃんはなんと涙を流した。
「えっ!?」
「下らない理由なんかじゃない……!それにクロナだって助けたい……!」
涙を拭いながら話を続けようとするお兄ちゃんの涙はそれでも止まらず、私は半分焦って聞いた。
「じゃ、じゃあ何でここにいるのよ?」
「決まってるだろ……ヒトミが心配だからだよ!!」
その言葉を聞いて驚いたと同時に嬉しかった。昔からただの兄としか認識していなかったお兄ちゃんは特に私とは話をする機会は無く、あっても年に1、2回程度だった。その為お兄ちゃんの気持ちが一切わからなかった。だが、今回初めて彼の気持ちを彼の口から聞けた。
「クロナだって助けたいよ!!でも他のみんなも守りたいよ!!だからこそ強くなって、もう誰も失いたくないんだよ!!」
私はこれまで理解出来なかった特訓の意味を初めて理解した。焦っても仕方無い、ならばゆっくり強くなって今出来る事をする。そんな当たり前の事を私は見失っていた。だがお兄ちゃんは失っていなかった。
「もちろん、ヒトミもそのうちの一人だ!!」
「じゃ、じゃあなんであんたは特訓サボってこんなとこにいるの!?矛盾してるでしょ!?」
今最大の疑問だった。お兄ちゃんの気持ちは十分にわかった。なら何故特訓をせずにここにいるのか、それがわからなかった。その時、部屋の外から声が聞こえた。
「ヒトミ、落ち着きなさい」
声の主はヒナタお姉ちゃんだった。いつの間にか私達の話を聞いていて、部屋の外にいたのだ。お姉ちゃんは部屋に入ってきて、こう言った。
「二週間前に東野原で倒れていた貴女をレイは特訓の帰りに見つけてここまで運んできて、それからずっと貴女の看病をしてたのよ!!」
お姉ちゃんの表情は真剣でとても嘘をついているようには見えなかった。特訓をしていない期間はずっと私の看病をしていたとなると、辻褄が合う。もしあの出来事が夢じゃ無いならあのあとすぐにお兄ちゃんが来てくれて、家まで運ぶとすぐに看病を始めたのだろう。
「レイは暇さえあれば貴女の側にいたわ。例えフィオ君達に誘われても、貴女と一緒にいるんだって……」
ただでさえ仲の良い二人からの誘いをも断り、出来るだけ私の側にいようとしたと言う知らせに私は嬉しくなった。そして同時に涙が流れた。自分の兄がここまで自分の事を考えてくれているなんて思わなかったからだ。
「ヒトミ、俺は君を怒らせるような事ばかりしてきたかもしれない、クロナを助ける気が無いと思われてしまうかもしれない、でも俺はクロナを本気で助けたいと思ってるし、みんなも守りたい。ヒトミもその一人だ。それに大切な妹だからこそ、助けたい。俺はヒトミの事が好きだ」
「お兄……ちゃん」
私はこの時、初めて彼の事をお兄ちゃんと呼んだ。それからと言う物の一ヶ月経った頃に私の容態は安定し、お兄ちゃんと一緒にそよ風村を歩いていた。
「ヒトミ、具合はどう?」
「大丈夫だよ、これもお兄ちゃんのお陰」
この時はこんな台詞が自分の口から出るなんて思いもしなかった。私の容態が安定するまでずっと一緒にいてくれたお兄ちゃんを今では誰よりも好きになっていた。現にその手は確りと繋がれている。
「あの、ごめんね。あのとききつく当たっちゃって」
「気にしなくて良いよ、誰だって素直になれない時あるから」
普段からしたかった他愛ない会話。私はずっとこうして笑いたかったのかもしれない。そして見つけたかったのかもしれない。この気持ちを。
今なら言える。誰に文句を言われようと、けなされようと、批判されようと確りとはっきりと誰にでも断言出来る事がある。私が例え嫌っていた時期があったとしても、それに怯えたり逃げたりすること無く普段通り関わり、闇に怯えていた私に付きっきりで看病してくれた彼の事が……
「お兄ちゃん、大っ好きだよ!!」
その声は天まで届いた。そんな気がしたその日。それからはみんな知っての通り。世間は私みたいな人の事をブラコンだとか言うけど、それは私にとっては誉め言葉でしかない。だってこんな素敵な兄を嫌いでいる方がおかしいから。これからも私は、大好きな人の助けになっていこう。
■作者メッセージ
スペシャルエピソード企画第2段が終わりました。これまでライガとヒトミが主役として彼らのストーリーが描かれていましたが、実は次回のスペシャルエピソード企画も作成中です!詳細がわかり次第報告しますのでこうご期待!
ちなみに小説内に登場した画像は作者の手描きです。下手ですみません。
ちなみに小説内に登場した画像は作者の手描きです。下手ですみません。