ANOTHER5【もう1つの過去】
あたしは旅立つ前に一旦デスティニーアイランドに戻っていた。この高台はあたしにとっては『もう1つ』の故郷なので、暫く帰ってこれない事を考えると名残惜しい。このいつもの場所で町の景色を眺めなからアイスを食べている
今日はアイスの味がやけに切ない。いや、味は甘くてしょっぱいいつもの味なのだが、こことの別れが中々出来なくて妙に切ない味に感じるのだろう。あえて言うなら涙の味のように
「……ぇ」
何処からか少女がしたような気がしたが、あたしの耳には一切入らなかった。虚ろな瞳で空を見上げていると誰かの声がはっきりと聞こえた
「ねぇってば!」
「のわっ!」
いきなり叫ばれて驚き、振り替えるとそこには以前祭りの時に出会った赤い髪の少女がいた。あたしと同じ青い瞳からは何処か純粋な光を感じる
「な、何だよ?」
あまりにも突然の事だったので、少しおどけた声で聞く。少女は軽く笑顔を作り言った
「貴女、前会ったよね?ここで何してるの?」
何故か興味津々に聞く少女はまるでこちらの事を警戒していない。アイスを食べ終わったのでアイスの棒を近くのゴミ箱に捨てに行きながら言う
「ちょっとな。町の景色を見てたんだぜ」
そう素っ気なく答え、ゴミ箱にアイスの棒を放り投げる。その後改めて崖に座り、再び少女を見た
「ふぅん。隣、良い?」
「別に。席なんて減るもんじゃねぇしな」
少女は左隣に腰を掛ける。この席は普段はフィオが座る所である。こうして並んで見てみると、座高が頭半分ほど違う事がわかる。こう見えてあたしは身長162pなのだが、正直もっと延びてほしい物である
「所で貴女の名前は?」
彼女の当然の質問。しかしあたしはすぐには答えずあえてこう言う事にした
「人に物を訪ねる時はまず自分から、だぜ」
あたしのルールであり、大抵少女がしたような質問に対してこう答える事が多い。少女が少し微笑み、改めて名乗る
「私はカイリ。宜しくね」
「俺はマリム、マリム・ディアス!覚えとけよ」
お互いに自己紹介する。少女――カイリは意外にも簡単に意気投合し、色んな事を話した。あたしもこれまでの事を意外にも簡単に話せるほど気が合う事に驚きを感じた
「キーブレード……あっ、もしかして!」
「あぁ?」
カイリはあたしの話を聞き、何かに感付いたようだ
「他の世界から!?」
その言葉を聞いてとても驚いた、何故ならそれは事実だから。あたしは元々、アースという世界の出身で、訳あってこのデスティニーアイランドに移り住んだのだ。フィオとダークもアースの出身であたしについてきてくれた
「何でわかったんだよ?」
恐る恐る聞いてみるとカイリはその質問に答えてくれた
「実は私も他の世界から来てるんだ……だから、他の世界の匂いってすぐわかるの」
その言葉に何となく納得し、カイリにシーソルトアイスを手渡した。渡す際に食べてみてと言い、カイリは静かに頷く。何故だかわからないが、あたしはしょっちゅうここに来てはここに来る人にアイスをあげている気がする
それを口にしたとき、口の中に甘い、だけどしょっぱい不思議な味が広がった。一言で言うなら海の水のしょっぱさである
「甘くて……しょっぱい……」
「でも美味しいだろ?ここでいつもフィオとダークって言う友達と一緒に食べるんだ」
大変明るいイントネーションでそう言った。その明るさはカイリに何かを感じさせていたようで、何故かボーッとしている。それを不自然だと思わない訳がなく、彼女の名前を呼んだ
「カイリ?」
カイリの様子が明らかにおかしい、先程まであんなに明るかったと言うのに石ころ同然に動かない。暫く様子を見ているとカイリがさっきまでとはまるで違う、切ない声を発した
「マリム……私の話を……聞いてくれる?」
今にも泣きそうな声で話を聞くように頼んでくるが正直な所イマイチ状況を把握出来てない。でも流石に放っておけないのでカイリの話を聞く事にした
「私はね、他の世界から来たって言ったでしょ?」
彼女の表情がやけに真剣だったので静かに頷く事にした。この時すでに笑顔は消え失せ、カイリの話を真剣に聞いている
「私『彼』に助けられて、気が付いたら町長の家のベッドにいた。目が覚めたら横から声が、彼の声が聞こえた。『ねぇ、君大丈夫?』って……優しい声だった」
「……」
「それに、この世界に来てから、初めて話しかけてきてくれたのも、彼なんだ……」
カイリは過去の事をこの時思い出していた
今から10年も前、どういう訳か島に流れ着き、そこに通り掛かった少年に見つけられたあのときを
『ねぇ!大丈夫!?』
『う、う〜ん………』
少年は仕方なくカイリをおぶって町に向かった。そして町長の家に預け、それ以降カイリは町長の家でお世話になっている。町長の手助けの元、学校に通い始めたが、この時はまだ人見知りで、ろくに話しかける事もままならなかった。だが、少年はカイリに話しかけて来た。少年はカイリにとって、この世界の初めての友達になった
『ねぇ、君、なんて名前?』
『カイリ……。君は?』
『俺?俺はソラ!宜しくな!』
それが始まりだった。少年ソラと友達になり、カイリの人生は大きく変わった。ソラを通してソラの親友リクや、ソラの友達のティーダ、セルフィ、ワッカとも友達になり、笑顔が増えて、何もかもが楽しかった。だが
「あのときの嵐が、私達を引き裂いた……」
震えた声でカイリが話を続ける。今から1年前の事。ソラとリクとでみんなに内緒で外の世界に行くためにイカダを作り、旅立つ前夜に島を襲った嵐は、この世界をも壊し、3人を離ればなれにした
「それから色々あって、また会えたけど……」
『持ってって!大切なお守りなんだから、絶対返してよ!』
『……必ず返すよ』
『約束だよ……?』
『……約束する』
『忘れないで……私が、何時でも側にいること……』
「あのとき私はソラを送り出したけど、笑顔で送り出したけど……!でも、本当は、本当はっ、いってほしくなくってっ……!本当はまだ一緒にいたくてっ……!でも……!」
あまりの悲しみにとうとう涙を流したカイリ。涙をどれだけ吹いても、どんどん溢れてくる。カイリは手で顔を覆った。あたしはこの時黙って見ている事しか出来なかった
数分後、カイリは何とか落ち着き、涙を拭った。正直表情をさっきから一切変えていないあたしは一体どうしたら良いのかわからなくなっている
「ごめんね……急に泣いたりして……」
「いや、良いんだぜ」
要らない情けだろうが、カイリを慰める。おそらくカイリにはあたしの言葉が妙に切なく感じてしまうのかもしれない。何故ならカイリは先程からその友人の生まれ変わりのようにあたしの事を見ている。性格や雰囲気だろうか、そう言えばあのときもあたしの事をリクと呼んでいた
「……」 
暫く沈黙状態が続いたが、あたしはあることを思い付くとカイリを慰めるように彼女の肩に手を置きこう言った
「なぁ、力になれるかわかんねぇけどあたしで良ければ何時でも会いに来るよ」
「えっ?」
カイリは少し驚いたが、笑顔で頷いた。あたしの言った言葉が少しでも励みになったのなら嬉しい。その後、何時も通りキーブレードライドに乗り込み、カイリに手を振って、異空の回廊を開き回廊の中に突入した
今日はアイスの味がやけに切ない。いや、味は甘くてしょっぱいいつもの味なのだが、こことの別れが中々出来なくて妙に切ない味に感じるのだろう。あえて言うなら涙の味のように
「……ぇ」
何処からか少女がしたような気がしたが、あたしの耳には一切入らなかった。虚ろな瞳で空を見上げていると誰かの声がはっきりと聞こえた
「ねぇってば!」
「のわっ!」
いきなり叫ばれて驚き、振り替えるとそこには以前祭りの時に出会った赤い髪の少女がいた。あたしと同じ青い瞳からは何処か純粋な光を感じる
「な、何だよ?」
あまりにも突然の事だったので、少しおどけた声で聞く。少女は軽く笑顔を作り言った
「貴女、前会ったよね?ここで何してるの?」
何故か興味津々に聞く少女はまるでこちらの事を警戒していない。アイスを食べ終わったのでアイスの棒を近くのゴミ箱に捨てに行きながら言う
「ちょっとな。町の景色を見てたんだぜ」
そう素っ気なく答え、ゴミ箱にアイスの棒を放り投げる。その後改めて崖に座り、再び少女を見た
「ふぅん。隣、良い?」
「別に。席なんて減るもんじゃねぇしな」
少女は左隣に腰を掛ける。この席は普段はフィオが座る所である。こうして並んで見てみると、座高が頭半分ほど違う事がわかる。こう見えてあたしは身長162pなのだが、正直もっと延びてほしい物である
「所で貴女の名前は?」
彼女の当然の質問。しかしあたしはすぐには答えずあえてこう言う事にした
「人に物を訪ねる時はまず自分から、だぜ」
あたしのルールであり、大抵少女がしたような質問に対してこう答える事が多い。少女が少し微笑み、改めて名乗る
「私はカイリ。宜しくね」
「俺はマリム、マリム・ディアス!覚えとけよ」
お互いに自己紹介する。少女――カイリは意外にも簡単に意気投合し、色んな事を話した。あたしもこれまでの事を意外にも簡単に話せるほど気が合う事に驚きを感じた
「キーブレード……あっ、もしかして!」
「あぁ?」
カイリはあたしの話を聞き、何かに感付いたようだ
「他の世界から!?」
その言葉を聞いてとても驚いた、何故ならそれは事実だから。あたしは元々、アースという世界の出身で、訳あってこのデスティニーアイランドに移り住んだのだ。フィオとダークもアースの出身であたしについてきてくれた
「何でわかったんだよ?」
恐る恐る聞いてみるとカイリはその質問に答えてくれた
「実は私も他の世界から来てるんだ……だから、他の世界の匂いってすぐわかるの」
その言葉に何となく納得し、カイリにシーソルトアイスを手渡した。渡す際に食べてみてと言い、カイリは静かに頷く。何故だかわからないが、あたしはしょっちゅうここに来てはここに来る人にアイスをあげている気がする
それを口にしたとき、口の中に甘い、だけどしょっぱい不思議な味が広がった。一言で言うなら海の水のしょっぱさである
「甘くて……しょっぱい……」
「でも美味しいだろ?ここでいつもフィオとダークって言う友達と一緒に食べるんだ」
大変明るいイントネーションでそう言った。その明るさはカイリに何かを感じさせていたようで、何故かボーッとしている。それを不自然だと思わない訳がなく、彼女の名前を呼んだ
「カイリ?」
カイリの様子が明らかにおかしい、先程まであんなに明るかったと言うのに石ころ同然に動かない。暫く様子を見ているとカイリがさっきまでとはまるで違う、切ない声を発した
「マリム……私の話を……聞いてくれる?」
今にも泣きそうな声で話を聞くように頼んでくるが正直な所イマイチ状況を把握出来てない。でも流石に放っておけないのでカイリの話を聞く事にした
「私はね、他の世界から来たって言ったでしょ?」
彼女の表情がやけに真剣だったので静かに頷く事にした。この時すでに笑顔は消え失せ、カイリの話を真剣に聞いている
「私『彼』に助けられて、気が付いたら町長の家のベッドにいた。目が覚めたら横から声が、彼の声が聞こえた。『ねぇ、君大丈夫?』って……優しい声だった」
「……」
「それに、この世界に来てから、初めて話しかけてきてくれたのも、彼なんだ……」
カイリは過去の事をこの時思い出していた
今から10年も前、どういう訳か島に流れ着き、そこに通り掛かった少年に見つけられたあのときを
『ねぇ!大丈夫!?』
『う、う〜ん………』
少年は仕方なくカイリをおぶって町に向かった。そして町長の家に預け、それ以降カイリは町長の家でお世話になっている。町長の手助けの元、学校に通い始めたが、この時はまだ人見知りで、ろくに話しかける事もままならなかった。だが、少年はカイリに話しかけて来た。少年はカイリにとって、この世界の初めての友達になった
『ねぇ、君、なんて名前?』
『カイリ……。君は?』
『俺?俺はソラ!宜しくな!』
それが始まりだった。少年ソラと友達になり、カイリの人生は大きく変わった。ソラを通してソラの親友リクや、ソラの友達のティーダ、セルフィ、ワッカとも友達になり、笑顔が増えて、何もかもが楽しかった。だが
「あのときの嵐が、私達を引き裂いた……」
震えた声でカイリが話を続ける。今から1年前の事。ソラとリクとでみんなに内緒で外の世界に行くためにイカダを作り、旅立つ前夜に島を襲った嵐は、この世界をも壊し、3人を離ればなれにした
「それから色々あって、また会えたけど……」
『持ってって!大切なお守りなんだから、絶対返してよ!』
『……必ず返すよ』
『約束だよ……?』
『……約束する』
『忘れないで……私が、何時でも側にいること……』
「あのとき私はソラを送り出したけど、笑顔で送り出したけど……!でも、本当は、本当はっ、いってほしくなくってっ……!本当はまだ一緒にいたくてっ……!でも……!」
あまりの悲しみにとうとう涙を流したカイリ。涙をどれだけ吹いても、どんどん溢れてくる。カイリは手で顔を覆った。あたしはこの時黙って見ている事しか出来なかった
数分後、カイリは何とか落ち着き、涙を拭った。正直表情をさっきから一切変えていないあたしは一体どうしたら良いのかわからなくなっている
「ごめんね……急に泣いたりして……」
「いや、良いんだぜ」
要らない情けだろうが、カイリを慰める。おそらくカイリにはあたしの言葉が妙に切なく感じてしまうのかもしれない。何故ならカイリは先程からその友人の生まれ変わりのようにあたしの事を見ている。性格や雰囲気だろうか、そう言えばあのときもあたしの事をリクと呼んでいた
「……」 
暫く沈黙状態が続いたが、あたしはあることを思い付くとカイリを慰めるように彼女の肩に手を置きこう言った
「なぁ、力になれるかわかんねぇけどあたしで良ければ何時でも会いに来るよ」
「えっ?」
カイリは少し驚いたが、笑顔で頷いた。あたしの言った言葉が少しでも励みになったのなら嬉しい。その後、何時も通りキーブレードライドに乗り込み、カイリに手を振って、異空の回廊を開き回廊の中に突入した