第83話『混同と処刑』+『外伝〜ソード草刈ワールド・破〜』
突然足元から突き出した氷の塔に突き上げれたジークは一瞬気を失っていた間にツタによって簀巻き状態にされ、気付けば宙吊りになっていた。
「ようやく準備は整った」
ピンクの目玉が南の空からユリスの元へと帰ってくるなりユリスはジークに向けて皮肉のこもった笑みを向けてくるが、何故それが自分に向けられるのか分からない。
ただジークには、合図を送るように指パッチンをするユリスを見つめることしかできなかった。
その合図と共にピンクの目玉は少し高い位置へと浮上すると瞼を大きく開き虹色の光線のようなものを放った。
その光線は決して殺傷目的に放たれた物ではなく範囲も直線ではなく長方形の一部屋分の壁に相当する広範囲のものであった。
その長方形の光線は枠のように見え、その中に虹色とはまた違った色が映し出され、その色彩達はバルカ城を象っていた。
「こんな手品を俺達に見せてどうする気だ?」
ヴェイグが問うとユリスは鼻で笑った。
「手品じゃない。コイツの片割れが見ている景色をこうして映像化してるのさ」
片割れというのはピンクの目玉のことだろう。
ユリスが人型になってからは周囲に常時二つ浮いていたが今は一つしかいない。
つまり、もう片方が見ている景色を今居る目玉が受信しているということだ。
「じゃあこれは本物のバルカ城なの?」
「黙って見てな、嫌でも信じたくなる。マオ、特にお前はな」
現地の目玉が移動しているらしく映像は半壊状態のバルカ城へと近付いていき、かつてゲオルギアスや6芒星と戦った屋上へと浮上していく。
勢い余って屋上より少し高めまで到達してしまったが屋上には色取り取りの点が存在しヒトがいることが分かる。
「何で壊れかけの城の屋上なんかにヒトがいるんだ?今日は何かの記念日だったか?」
ブライトはマオとユージーンを見ながら確認するが2人共画面から目を離さず答えようとはしなかった。
「記念日ねぇ。なるかもしれないぜ?」
ユリスの言葉にブライトが首を傾げている間にも映像はどんどん屋上へ向けて降下していく。
すると半円となった屋上の中心に巨大な十字架があり、それを数十人の兵士が囲んでいることが分かった。
更に十字架には誰かが縛り付けられているようだった。
「待てよ……どいうことだよこれは!?」
ジークが声を張り上げるが構わず映像は下降速度を緩めていき、張り付けにされている人物を正面から見据える位置で静止した。
張りつけにされているのは女性のようで金色の髪に金色の耳、そして金色をした九本の尻尾が垂れ下がっていた。
「てめぇ!あいつに何をした!?」
そう、今張り付けにされているのはヤコだった。
ジークはがむしゃらにもがき暴れながら怒鳴るがユリスは依然と平静のまま画面を見上げていた。
「勘違いするなジーク、あの場に送ったのは俺ではない。そこにいるマオとユージーンを含めた軍の奴等だよ!」
「な……に……?」
「ジーク兄さん、あのヒトと知り合いなの?」
ルルの質問に今は答える余裕の無いジークはマオとユージーンを見る。
それに対してマオとユージーンはお互いに目を合わせ、頷き合った後マオがジークと目を合わせる。
「そうだよ」
マオは一回頷いた。
「何でだよ……アイツが何をした……」
ジークの身体が思わず震える。
「答えろよおい!!」
ジークの求めた返答は、マオからではなく映像から告げられる。
『罪状』
兵士の1人が十字架の前に立ち、羊皮紙に書かれた文面を事務的に読み上げる。
『我が国カレギアを滅亡の危機へと陥れんとするユリスの配下であることが判明したため、ここで処刑する。バイラスバルカ襲撃事件の際、牢に幽閉されていたのにもかかわらずフォルス反応が感知されたことを証拠とする。また、ユリス再生の際等、マオ大佐より多数の感知報告が挙げられている』
「何時の間に……」
ジークは目を見開くが、マオは映像から目を離さず口を開く。
「アニカマルでナイラと話してたって言ったよね?あの時本当は状況証拠の提示と処刑の同意を請求されてたんだ。黙っててごめんね」
「ごめんじゃねぇよ……そんなこと今頃言われたってどうしようもねぇだろうが!!」
「落ち着けジーク!それを訊いたのはてめぇだ!それに……そんな話簡単に一般人に言えるわけねぇだろ」
ブライトがなだめようとするがジークは奥歯を噛み締め、映像に視線を戻した。
『その他の証拠については各自確認されたし』
兵士は読み終わった羊皮紙を折りたたみ懐にしまう。
そして、片手を曇天の空に掲げる。
それを合図に十字架の周りに待機していた兵士数十人が一斉に詠唱を始める。
「やめろ……」
審判の手が、無常にも振り下ろされる。
『執行!!』
「やめろぉおおおおおおお!!!!」
合図と同時に大容量の光が十字架の上に収束する。
そして刹那、ヤコはピンクの目玉に視線を向けるとなにやら呟く。
「っ!!」
ジークは思わず言葉を失い目を見開く。
その直後、ヤコは光の柱に包み込まれた。
同時に映像が乱れスクリーンが消失する。
「ちっ、巻き込まれたか」
ユリスは舌打ちしながら新しい目玉を黒い霧から生成する。
その間にジークは光の柱が立ち上る南の空を見る。
ここからでも実際に見えることが幻影やユリスの作った幻ではないことの証拠となる。
* * *
ヴェイグはいまいち状況をつかめずにいた。
ジークとマオのやり取りを見る限りではあの女性はジークの知り合いのようだが、今までジークの話にあのような女性が出てきた覚えはない。
そもそも、あの女性がユリスの配下と兵士は言っていたが6芒星にあのような人物はいない。
(新しく仲間に加えたのかそれとも元々裏で繋がっていたのか?そもそも俺達にあんなものを見せることに何の意図が……)
ヴェイグが黙って思考していると、おもむろにユリスが溜息をついた。
「まったく、俺の貴重な右腕を処刑しやがって。これからの作戦が水の泡だ」
「適当な事言ってんじゃねぇぞ!!」
ヴェイグの横で縛られていたジークから黒いオーラが出るとツタをブチブチと破り、屋上へ着地した。
ツタを破った黒いオーラはそのまま導火線を伝うように全てのツタを粉々にしていきヴェイグのツタへ到達するのも時間の問題だった。
「おいおい失礼だな。割と本気で沈んでるんだぜ?」
言いながらもユリスはジークの拳をひらりとかわし、蹴り飛ばすとジークは屋上の壁へと激突した。
「そんなわけで余興は終わりだ。ジルバ、もう殺して良いぞ」
「待ちかねたぞユリス」
ジークのフォルスにより開放されたヴェイグ達が武器を構える。
一方でジルバも黒い霧を全身に纏う。
まずはジンとティトレイが挟み込むようにユリスに接近する。
「ウィンドスラッシュ!!」
正面からはフィオナの風の刃が迫る。
それをユリスは直立不動で待ち受ける。
「はぁ!」
「うりゃ!」
ジンとティトレイが同時に攻撃をくりだす。
「フィアフルストーム」
2人の攻撃が直撃する直前、一言だけ呟くとユリスを中心にして闇の空間が円状に開き、渦を巻き竜巻が発生した。
その竜巻は蟻地獄のように中心にいるユリスだけ地上に取り残しジンとティトレイを空中へ巻き上げた。
当然、フィオナのウィンドスラッシュもかき消される。
「そういえばさっき、何故俺様が多用な属性を操れるのか気にしてたよなぁ?」
次の詠唱に入ろうとするヒルダにユリスは視線で牽制をする。
「フォルスを1つしかもてないヒトなら当然疑問に思うよな。だがな、俺様は108のフォルスを自在に操ることができるんだよ!」
「108ですって……!?」
「そんなにたくさん……」
ヒルダとマオの集中力が切れ、気付けば詠唱も中断してしまっていた。
* * *
「無事かジーク!?」
ヴェイグは壁の破片に埋もれてうつ伏せに倒れているジークに背を向けて立つ。
ジークの安否も不安だがユリスから目を離すのも不安なためジークの姿を直接確認することができない。
ただ、ジークの声が微かに聞こえた。
「違う……そんなはずはねぇんだ……ヤコはユリスの仲間なんかじゃ……」
「切り替えるんだジーク!今倒すべきなのはユリスだ!いつまでもヒト1人に固執してる場合じゃない!!」
その言葉を聞いて、ジークは瓦礫の中からゆっくりと起き上がる。
「本気で……言っているのか?」
* * *
フィオナ、ヒルダ、マオの3人は竜巻が止む瞬間を待っていた。
いくらユリスと言えども視界が定かでない状態で攻撃を受ければ防ぐことはできない。
そしたらそこを起点にして再びコンボを繋げれば良い。
故にマオとヒルダは詠唱を終えたが発動させずに待機していた。
「今よ!」
闇の円が小さくなり竜巻が細くなった瞬間を見計らってフィオナは渾身の力で扇を振るう。
「サイクロ……」
扇を振り切る間際、フィオナの視界が突然真っ白になり身体を焼くような熱さと痛みが全身を貫いた。
「きゃああああ!!!」
「うわぁああああ!!!」
同じタイミングでヒルダとマオの断末魔も木霊した。
気付けばうつ伏せに倒れており、マオとヒルダは息を切らしながらなんとか立ち上がろうとしていた。
「今の……もしかしてジルバのディバインセイバーじゃない?」
「ジルバはユージーン達が相手してるはずでしょ?それがどうして……」
マオとヒルダ、そしてフィオナもうつ伏せながらもジルバが居た方向を見る。
すると、ユージーン、アニー、ブライト、ルル、カインの5人全員が倒れており、ジルバは優雅に教鞭で自分の掌を叩いていた。
「みんな!!」
ヴェイグがユリスとジルバを見据えながら大剣を握る手に力を込める。
「おっとヴェイグ、こっちのことばっかり気にしてて良いのか?」
ユリスは馬鹿にするかのように人差し指でヴェイグの後ろをさす。
「お前の後ろ、えらいことになってるぜ?」
「何!?」
ヴェイグは咄嗟に振り返る。
後ろにはジークしかいなかったはずだ。
「くそ……くそっ……」
見るとジークの体から黒いオーラと霧が溢れ出していた。
その様子を見てマオがフォルスキューブを具現化させる。
「まずいよヴェイグ!ジークのフォルスが完全に暴走しかけてる!!」
「ちぃ!!」
ヴェイグはジークの肩を揺さぶろうとするが触る寸前に手が止まった。
(今の状態のジークに触れて大丈夫なのか?触れた瞬間に俺の手が消えたりしないだろうか……)
ヴェイグはもどかしそうに拳を握る。
「しっかりしろジーク!!気をしっかり持て!!」
とにかく怒鳴ることでヴェイグはジークを正気に戻そうと試みる。
すると、声は届いたようでジークの黒い耳がピクっと動くと瞳の焦点がヴェイグに向けられる。
「ヴェイグ……」
ヴェイグは安心したかのように一息短い溜息をつく。
「ヴェイグ……お前……」
しかし、突然ジークは何かに怯えるかのように信じられない物でも見たかのような目でヴェイグを見る。
「どうしたジーク?」
「あぁ、そういうことか……そういうことかよ……ははっ、こいつはどうしようもねぇな」
ヴェイグに返答しない代わりに突然笑いだすジークにヴェイグは更に首を傾げる。
「クソが……」
ジークの声のトーンが一気に沈む。
「ヴェイグ離れて!!!」
「くっそぉおおおおお!!!!!!」
マオが声を張り上げた直後、ジークの体が黒いオーラに包まれた。
〜続く〜
「ようやく準備は整った」
ピンクの目玉が南の空からユリスの元へと帰ってくるなりユリスはジークに向けて皮肉のこもった笑みを向けてくるが、何故それが自分に向けられるのか分からない。
ただジークには、合図を送るように指パッチンをするユリスを見つめることしかできなかった。
その合図と共にピンクの目玉は少し高い位置へと浮上すると瞼を大きく開き虹色の光線のようなものを放った。
その光線は決して殺傷目的に放たれた物ではなく範囲も直線ではなく長方形の一部屋分の壁に相当する広範囲のものであった。
その長方形の光線は枠のように見え、その中に虹色とはまた違った色が映し出され、その色彩達はバルカ城を象っていた。
「こんな手品を俺達に見せてどうする気だ?」
ヴェイグが問うとユリスは鼻で笑った。
「手品じゃない。コイツの片割れが見ている景色をこうして映像化してるのさ」
片割れというのはピンクの目玉のことだろう。
ユリスが人型になってからは周囲に常時二つ浮いていたが今は一つしかいない。
つまり、もう片方が見ている景色を今居る目玉が受信しているということだ。
「じゃあこれは本物のバルカ城なの?」
「黙って見てな、嫌でも信じたくなる。マオ、特にお前はな」
現地の目玉が移動しているらしく映像は半壊状態のバルカ城へと近付いていき、かつてゲオルギアスや6芒星と戦った屋上へと浮上していく。
勢い余って屋上より少し高めまで到達してしまったが屋上には色取り取りの点が存在しヒトがいることが分かる。
「何で壊れかけの城の屋上なんかにヒトがいるんだ?今日は何かの記念日だったか?」
ブライトはマオとユージーンを見ながら確認するが2人共画面から目を離さず答えようとはしなかった。
「記念日ねぇ。なるかもしれないぜ?」
ユリスの言葉にブライトが首を傾げている間にも映像はどんどん屋上へ向けて降下していく。
すると半円となった屋上の中心に巨大な十字架があり、それを数十人の兵士が囲んでいることが分かった。
更に十字架には誰かが縛り付けられているようだった。
「待てよ……どいうことだよこれは!?」
ジークが声を張り上げるが構わず映像は下降速度を緩めていき、張り付けにされている人物を正面から見据える位置で静止した。
張りつけにされているのは女性のようで金色の髪に金色の耳、そして金色をした九本の尻尾が垂れ下がっていた。
「てめぇ!あいつに何をした!?」
そう、今張り付けにされているのはヤコだった。
ジークはがむしゃらにもがき暴れながら怒鳴るがユリスは依然と平静のまま画面を見上げていた。
「勘違いするなジーク、あの場に送ったのは俺ではない。そこにいるマオとユージーンを含めた軍の奴等だよ!」
「な……に……?」
「ジーク兄さん、あのヒトと知り合いなの?」
ルルの質問に今は答える余裕の無いジークはマオとユージーンを見る。
それに対してマオとユージーンはお互いに目を合わせ、頷き合った後マオがジークと目を合わせる。
「そうだよ」
マオは一回頷いた。
「何でだよ……アイツが何をした……」
ジークの身体が思わず震える。
「答えろよおい!!」
ジークの求めた返答は、マオからではなく映像から告げられる。
『罪状』
兵士の1人が十字架の前に立ち、羊皮紙に書かれた文面を事務的に読み上げる。
『我が国カレギアを滅亡の危機へと陥れんとするユリスの配下であることが判明したため、ここで処刑する。バイラスバルカ襲撃事件の際、牢に幽閉されていたのにもかかわらずフォルス反応が感知されたことを証拠とする。また、ユリス再生の際等、マオ大佐より多数の感知報告が挙げられている』
「何時の間に……」
ジークは目を見開くが、マオは映像から目を離さず口を開く。
「アニカマルでナイラと話してたって言ったよね?あの時本当は状況証拠の提示と処刑の同意を請求されてたんだ。黙っててごめんね」
「ごめんじゃねぇよ……そんなこと今頃言われたってどうしようもねぇだろうが!!」
「落ち着けジーク!それを訊いたのはてめぇだ!それに……そんな話簡単に一般人に言えるわけねぇだろ」
ブライトがなだめようとするがジークは奥歯を噛み締め、映像に視線を戻した。
『その他の証拠については各自確認されたし』
兵士は読み終わった羊皮紙を折りたたみ懐にしまう。
そして、片手を曇天の空に掲げる。
それを合図に十字架の周りに待機していた兵士数十人が一斉に詠唱を始める。
「やめろ……」
審判の手が、無常にも振り下ろされる。
『執行!!』
「やめろぉおおおおおおお!!!!」
合図と同時に大容量の光が十字架の上に収束する。
そして刹那、ヤコはピンクの目玉に視線を向けるとなにやら呟く。
「っ!!」
ジークは思わず言葉を失い目を見開く。
その直後、ヤコは光の柱に包み込まれた。
同時に映像が乱れスクリーンが消失する。
「ちっ、巻き込まれたか」
ユリスは舌打ちしながら新しい目玉を黒い霧から生成する。
その間にジークは光の柱が立ち上る南の空を見る。
ここからでも実際に見えることが幻影やユリスの作った幻ではないことの証拠となる。
* * *
ヴェイグはいまいち状況をつかめずにいた。
ジークとマオのやり取りを見る限りではあの女性はジークの知り合いのようだが、今までジークの話にあのような女性が出てきた覚えはない。
そもそも、あの女性がユリスの配下と兵士は言っていたが6芒星にあのような人物はいない。
(新しく仲間に加えたのかそれとも元々裏で繋がっていたのか?そもそも俺達にあんなものを見せることに何の意図が……)
ヴェイグが黙って思考していると、おもむろにユリスが溜息をついた。
「まったく、俺の貴重な右腕を処刑しやがって。これからの作戦が水の泡だ」
「適当な事言ってんじゃねぇぞ!!」
ヴェイグの横で縛られていたジークから黒いオーラが出るとツタをブチブチと破り、屋上へ着地した。
ツタを破った黒いオーラはそのまま導火線を伝うように全てのツタを粉々にしていきヴェイグのツタへ到達するのも時間の問題だった。
「おいおい失礼だな。割と本気で沈んでるんだぜ?」
言いながらもユリスはジークの拳をひらりとかわし、蹴り飛ばすとジークは屋上の壁へと激突した。
「そんなわけで余興は終わりだ。ジルバ、もう殺して良いぞ」
「待ちかねたぞユリス」
ジークのフォルスにより開放されたヴェイグ達が武器を構える。
一方でジルバも黒い霧を全身に纏う。
まずはジンとティトレイが挟み込むようにユリスに接近する。
「ウィンドスラッシュ!!」
正面からはフィオナの風の刃が迫る。
それをユリスは直立不動で待ち受ける。
「はぁ!」
「うりゃ!」
ジンとティトレイが同時に攻撃をくりだす。
「フィアフルストーム」
2人の攻撃が直撃する直前、一言だけ呟くとユリスを中心にして闇の空間が円状に開き、渦を巻き竜巻が発生した。
その竜巻は蟻地獄のように中心にいるユリスだけ地上に取り残しジンとティトレイを空中へ巻き上げた。
当然、フィオナのウィンドスラッシュもかき消される。
「そういえばさっき、何故俺様が多用な属性を操れるのか気にしてたよなぁ?」
次の詠唱に入ろうとするヒルダにユリスは視線で牽制をする。
「フォルスを1つしかもてないヒトなら当然疑問に思うよな。だがな、俺様は108のフォルスを自在に操ることができるんだよ!」
「108ですって……!?」
「そんなにたくさん……」
ヒルダとマオの集中力が切れ、気付けば詠唱も中断してしまっていた。
* * *
「無事かジーク!?」
ヴェイグは壁の破片に埋もれてうつ伏せに倒れているジークに背を向けて立つ。
ジークの安否も不安だがユリスから目を離すのも不安なためジークの姿を直接確認することができない。
ただ、ジークの声が微かに聞こえた。
「違う……そんなはずはねぇんだ……ヤコはユリスの仲間なんかじゃ……」
「切り替えるんだジーク!今倒すべきなのはユリスだ!いつまでもヒト1人に固執してる場合じゃない!!」
その言葉を聞いて、ジークは瓦礫の中からゆっくりと起き上がる。
「本気で……言っているのか?」
* * *
フィオナ、ヒルダ、マオの3人は竜巻が止む瞬間を待っていた。
いくらユリスと言えども視界が定かでない状態で攻撃を受ければ防ぐことはできない。
そしたらそこを起点にして再びコンボを繋げれば良い。
故にマオとヒルダは詠唱を終えたが発動させずに待機していた。
「今よ!」
闇の円が小さくなり竜巻が細くなった瞬間を見計らってフィオナは渾身の力で扇を振るう。
「サイクロ……」
扇を振り切る間際、フィオナの視界が突然真っ白になり身体を焼くような熱さと痛みが全身を貫いた。
「きゃああああ!!!」
「うわぁああああ!!!」
同じタイミングでヒルダとマオの断末魔も木霊した。
気付けばうつ伏せに倒れており、マオとヒルダは息を切らしながらなんとか立ち上がろうとしていた。
「今の……もしかしてジルバのディバインセイバーじゃない?」
「ジルバはユージーン達が相手してるはずでしょ?それがどうして……」
マオとヒルダ、そしてフィオナもうつ伏せながらもジルバが居た方向を見る。
すると、ユージーン、アニー、ブライト、ルル、カインの5人全員が倒れており、ジルバは優雅に教鞭で自分の掌を叩いていた。
「みんな!!」
ヴェイグがユリスとジルバを見据えながら大剣を握る手に力を込める。
「おっとヴェイグ、こっちのことばっかり気にしてて良いのか?」
ユリスは馬鹿にするかのように人差し指でヴェイグの後ろをさす。
「お前の後ろ、えらいことになってるぜ?」
「何!?」
ヴェイグは咄嗟に振り返る。
後ろにはジークしかいなかったはずだ。
「くそ……くそっ……」
見るとジークの体から黒いオーラと霧が溢れ出していた。
その様子を見てマオがフォルスキューブを具現化させる。
「まずいよヴェイグ!ジークのフォルスが完全に暴走しかけてる!!」
「ちぃ!!」
ヴェイグはジークの肩を揺さぶろうとするが触る寸前に手が止まった。
(今の状態のジークに触れて大丈夫なのか?触れた瞬間に俺の手が消えたりしないだろうか……)
ヴェイグはもどかしそうに拳を握る。
「しっかりしろジーク!!気をしっかり持て!!」
とにかく怒鳴ることでヴェイグはジークを正気に戻そうと試みる。
すると、声は届いたようでジークの黒い耳がピクっと動くと瞳の焦点がヴェイグに向けられる。
「ヴェイグ……」
ヴェイグは安心したかのように一息短い溜息をつく。
「ヴェイグ……お前……」
しかし、突然ジークは何かに怯えるかのように信じられない物でも見たかのような目でヴェイグを見る。
「どうしたジーク?」
「あぁ、そういうことか……そういうことかよ……ははっ、こいつはどうしようもねぇな」
ヴェイグに返答しない代わりに突然笑いだすジークにヴェイグは更に首を傾げる。
「クソが……」
ジークの声のトーンが一気に沈む。
「ヴェイグ離れて!!!」
「くっそぉおおおおお!!!!!!」
マオが声を張り上げた直後、ジークの体が黒いオーラに包まれた。
〜続く〜
■作者メッセージ
【外伝〜ソード草刈ワールド・破〜】
「さてと、チャリティさんの手伝いにでも……」
カインが草むらの中でしゃがんだ状態から立ち上がろうとすると、頭を後ろから押さえ込まれ再びしゃがんでしまう。
「ちょっと!私を置いてどこに行くつもりよ!」
後ろを見るとカインと同じ白い髪を腰まで伸ばした少女がカインの頭を押さえつけていた。
「どこって、チャリティさんの所だけど?」
「あんたが居なくなったら誰が私にジークの居場所を教えるのよ!?」
「そんなの自分で確認すれば良いだろ?こっからでも草むらの影から見えるんだから」
「それができないから言ってるんじゃない!」
「何でさ!?ジーク君の顔を見るだけで話しかけるよりマシだろ!?」
「……何よ?お姉ちゃんに歯向かう気?」
「それ何回も言ってるけど、僕が兄でアイナが妹ね」
「何ですってぇ!?」
そう、この少女がカインと双子のアイナである。
「ちょっと待って?カイン、あなたさっき何て言った?」
「え?ジーク君の顔を見るだけで話すよりはマシだろって……」
「その前!」
「その前?えぇっと……こっからでも草むらの影から見える……だったかな?」
「ま、まずい!」
アイナの顔色が変わるのと同時に、突然周囲から歓声が沸き上がった。
「すげぇ!ジークのあの速さは何だ!?」
「草刈鎌の扱い方が尋常じゃないわ!」
上から見るとジークは着々とアイナとカインが隠れている草むらに向かっており、距離はもう1mを切っていた。
「ひぃっ!こっちに来る〜!」
這いながらアイナは回れ右をし、中腰でカインを引き摺りながらジークから逃げる。
「確認だけどアイナはジーク君のこと嫌ってるんじゃないんだよね?」
「大好きよ!!」
後ろ向きに引き摺られているカインの問いにアイナは頬を赤く染めながらも即答した。
ジークと距離を取ってるはずなのにもかかわらず後ろから迫る草を刈り取るシャカシャカ音は一向に遠ざからない。
それでもアイナは逃げ回ると周囲の話し声が耳に入ってくる。
「ジーク断突なんじゃない!?」
「まさかアイツにあんな隠された特技があったなんてな……」
「当然じゃない、ジークはチャリティさんの代わりに毎日家の周りの雑草を処理してるんだから」
アイナが得意気に言う。
「え?そうなの?」
カインが疑問を口にするとアイナは突然方向を90度変え、直進する。
するとジークのシャカシャカ音は遠ざかって行った。
それによりアイナはようやく止まりカインは胸を撫で下ろす。
「ジークのすごい所はそれだけじゃないわ!市場で買い物をする時も、より新鮮な物を家族に食べさせるために1時間も選んで買う時もあるんだから!」
「……アイナはその1時間何してたの?」
カインは恐る恐るきくと、アイナはきょとんとした。
「ずっと見てたけど?それがどうかした?」
「それストーカーって言うんじゃないの?」
「失礼ね!私はジークを見守ってただけよ!それに男が女を尾行してたら犯罪だけど、私がジークの後をつけていたって無罪よ!だって私女の子だもん!」
「そういうもんなのかなぁ〜?」
「そういうものなの!」
どこかネジの外れた双子であった。
一方、ジンはジーク達が刈り取った草を詰めた袋が3つ満杯になったので一旦グラウンドに運び、その帰りに同じく満杯になった袋をグラウンドに運びに行く途中のイーリスと鉢合わせた。
彼女は両手で一つずつ、計2袋を運んでいたがイーリスの細腕では重過ぎるのかよろよろと千鳥足になっていた。
「一個貸して」
ジンがよろけるイーリスに声をかけながら支える。
「えっ!?でもそんなの悪いよ!」
「良いから」
そう言ってジンは半ば強引にイーリスが左手で持っていた袋を掴む。
すると、腕に想像以上の負荷がかかった。
(重っ!!これ二袋分の重さがあるんじゃ……)
ジンはおもむろにイーリスの顔を見ると彼女は心配そうにジンを見ていた。
「だ、大丈夫?往復する回数を減らすために強引に詰め込んだから重いんじゃない?」
そんな顔をされてはジンも黙ってはいられなかった。
「だ、大丈夫大丈夫!これぐらい余裕だって!」
「ジン君って見かけによらず力持ちなんだね♪」
そうして2人で袋をグラウンドへ運び収集所へ置き終わるとイーリスは溜息をついた。
「もうこんなにたくさん置いてある……。私も頑張らなくちゃ!」
イーリスは小さく拳を握りガッツポーズをする。
「良かったら俺も手伝おうか?」
ジンの発言にイーリスは首を傾げる。
「いやだから、俺もイーリスのグループとして手伝おうかって言ってんの」
「えぇっ!!それって私と同じ家族に……!!」
「違う違う違う違う違う!!そうじゃなくて!!」
顔を真っ赤に染めて両手で口を隠すイーリスにジンは全力で首を振る。
「助っ人として……手伝おうかってことなんだけど……」
同じ家族という言葉を聞いてから妙に照れくさくなったジンは頬を指でかきながら言うと、イーリスも指を絡ませながら上目遣いでジンを見る。
「……良いの?」
「どうせ俺達は4人兄妹で他のみんなより有利なんだから、1人ぐらい抜けたって構わないって」
「あ、ありがとう!お礼に今度のピクニックに行く時、私お弁当作ってくね!」
「楽しみにしてる」
ジンとイーリスはお互いに微笑み合う。
そんな2人を校舎の影から覗く人物がいた。
「ふぅ〜ん、あの2人そういう関係だったのねぇ。あ〜アッツイアッツイ!こんな季節だってのにあそこだけ真夏ね。バカンスにでも行ったらどうかしら」
「バカンス気分なのはあんたでしょうがチャリティ!」
影から覗いていたチャリティの首根っこをヴィーナが後ろからグイっと引っ張るとチャリティの目が><のようになった。
「だ、誰がバカンスしてるってのよ!?」
「あんたよあんた!弟がせっせと草刈ってんのにこんな所でさぼってんじゃないわよ!」
「失礼ね!私はここで弟の成長を見守ってたのよ!知ってる?男が女の様子を覗くと犯罪だけど女がやると無罪になるのよ?」
「なるわけないでしょうが!!」
極常識なことを怒鳴られ、チャリティはびくっと震えるが拗ねたように唇を尖らせる。
「だって、うち4人姉弟で他のグループより有利だから優勝は間違いないし。私が手を出したって邪魔なだけだし」
それを聞いてヴィーナは溜息を吐いた。
「だったら私の所を手伝いなさい。イーリスと組んでやってるんだけど女二人じゃやっぱり人手が足りないのよね」
「えぇ〜……面倒だからパス!」
チャリティが腕を頭の後ろで組みながら言うと、ヴィーナの表情が蔭る。
「今……何か言ったかしら?」
「ヴィーナ大好きって言ったわ♪」
「あら、私も大好きよ?愛してるわ♪」
「姐さん!俺達もお手伝いしやす!!」
そこへ世紀末コンビが加わる。
「こうなったらヤケよ!やってやろうじゃない!!」
やる気を出したチャリティだが、この後ジンと顔を合わせることになるのであった。
〜続く〜
【楽談パート63】
takeshi「ども〜!アイナを出せたことに満足のtakeshiです!そして!」
ヤコ「初めまして……で良いのかな?」
チャリティ「あら、貴方来たの」
ヤコ「うん、私死んだから。でもその件についてちょっと言いたいことがあるの」
takeshi「何ですか?」
ヤコ「今回本編でジークが咆えて、良い感じのシリアスで終わったよね」
takeshi「良い感じかどうかは分かりませんがね」
ヤコ「黙って。今私が話してるから」
takeshi「はい……」
ヤコ「それなのにあの外伝の内容は何?本編の余韻を返して。私死んだんだよ?」
takeshi「そうですね……」
ヤコ「この外伝が本編と微妙に繋がる伏線っていうのは知ってる。でももっと違うストーリーでもできたよね?」
takeshi「はい……おっしゃるとおりで」
マティアス「なんだか上司に怒られる部下みたいな構図になってるわよ?」
ヤコ「マティアス、あなたからも何か言って」
マティアス「私?そうね〜」
takeshi「私ラスボスでもないのにフルボッコですか……」
マティアス「ヤコ、貴方がさっさと私の前に現れていれば私が保護するつもりだったのよ?」
ヤコ「え……?」
マティアス「貴方も知っての通り私はナイラや私自信の手で貴方の所在を探していたわ。私の両親の手がかりを探すついでにね」
ヤコ「うん……だからあなたとナイラの目が届いていない時にジークと会ったりして本当に苦労した」
マティアス「でも私は貴方を処刑台に上げるために探してたわけじゃないわ。ユリスは絶対に貴方に会いに来るというのは分かっていたから私が保護してエサになってもらおうと思っていたの。そうすれば向こうから来てくれるのだからいちいち探す手間を省けるしこっちの得意な戦場を選べるし、利点しかないってわけ」
ヤコ「……確かにそうね」
マティアス「それなのに私が留守の間に勝手にユリスに見つかるわ処刑されるわで私のパーフェクトな作戦は全て台無しよ!バカか?バカなのか!?」
ヤコ「ごめんなさい……」
マティアス「まぁ、分かれば良いわ。それに、貴方も何か考えがあって処刑台に立ったんでしょう?」
ヤコ「さすがだね。ジークが暴走するのは計算外だったけど、多分上手くいくと思う」
takeshi「あれ?じゃあ私が怒られる理由は無かったんじゃないですか?」
マティアス「余韻はまた別問題だと思うわよ?」
ヤコ「同感」
takeshi「ですよねー。とりあえず本編で語ることのできない補足説明ありがとうございました」
ヤコ「何のこと?」
マティアス「さぁ?」
takeshi「ちなみに今回外伝に出てきたアイナですが、おそらく外伝にしか出てきません。ジークと同じフィールドには恥ずかしくて立てないので!なのでキャラクター名鑑にも登録されません」
ヤコ「そうなんだ」
マティアス「チャリティはあんなんで鍋の具材をちゃんとゲットできるのかしら?ものすごく不安だわ……」
ヤコ「何の話?」
takeshi「結果も含めて次回分かりますよ。ではまた〜」
「さてと、チャリティさんの手伝いにでも……」
カインが草むらの中でしゃがんだ状態から立ち上がろうとすると、頭を後ろから押さえ込まれ再びしゃがんでしまう。
「ちょっと!私を置いてどこに行くつもりよ!」
後ろを見るとカインと同じ白い髪を腰まで伸ばした少女がカインの頭を押さえつけていた。
「どこって、チャリティさんの所だけど?」
「あんたが居なくなったら誰が私にジークの居場所を教えるのよ!?」
「そんなの自分で確認すれば良いだろ?こっからでも草むらの影から見えるんだから」
「それができないから言ってるんじゃない!」
「何でさ!?ジーク君の顔を見るだけで話しかけるよりマシだろ!?」
「……何よ?お姉ちゃんに歯向かう気?」
「それ何回も言ってるけど、僕が兄でアイナが妹ね」
「何ですってぇ!?」
そう、この少女がカインと双子のアイナである。
「ちょっと待って?カイン、あなたさっき何て言った?」
「え?ジーク君の顔を見るだけで話すよりはマシだろって……」
「その前!」
「その前?えぇっと……こっからでも草むらの影から見える……だったかな?」
「ま、まずい!」
アイナの顔色が変わるのと同時に、突然周囲から歓声が沸き上がった。
「すげぇ!ジークのあの速さは何だ!?」
「草刈鎌の扱い方が尋常じゃないわ!」
上から見るとジークは着々とアイナとカインが隠れている草むらに向かっており、距離はもう1mを切っていた。
「ひぃっ!こっちに来る〜!」
這いながらアイナは回れ右をし、中腰でカインを引き摺りながらジークから逃げる。
「確認だけどアイナはジーク君のこと嫌ってるんじゃないんだよね?」
「大好きよ!!」
後ろ向きに引き摺られているカインの問いにアイナは頬を赤く染めながらも即答した。
ジークと距離を取ってるはずなのにもかかわらず後ろから迫る草を刈り取るシャカシャカ音は一向に遠ざからない。
それでもアイナは逃げ回ると周囲の話し声が耳に入ってくる。
「ジーク断突なんじゃない!?」
「まさかアイツにあんな隠された特技があったなんてな……」
「当然じゃない、ジークはチャリティさんの代わりに毎日家の周りの雑草を処理してるんだから」
アイナが得意気に言う。
「え?そうなの?」
カインが疑問を口にするとアイナは突然方向を90度変え、直進する。
するとジークのシャカシャカ音は遠ざかって行った。
それによりアイナはようやく止まりカインは胸を撫で下ろす。
「ジークのすごい所はそれだけじゃないわ!市場で買い物をする時も、より新鮮な物を家族に食べさせるために1時間も選んで買う時もあるんだから!」
「……アイナはその1時間何してたの?」
カインは恐る恐るきくと、アイナはきょとんとした。
「ずっと見てたけど?それがどうかした?」
「それストーカーって言うんじゃないの?」
「失礼ね!私はジークを見守ってただけよ!それに男が女を尾行してたら犯罪だけど、私がジークの後をつけていたって無罪よ!だって私女の子だもん!」
「そういうもんなのかなぁ〜?」
「そういうものなの!」
どこかネジの外れた双子であった。
一方、ジンはジーク達が刈り取った草を詰めた袋が3つ満杯になったので一旦グラウンドに運び、その帰りに同じく満杯になった袋をグラウンドに運びに行く途中のイーリスと鉢合わせた。
彼女は両手で一つずつ、計2袋を運んでいたがイーリスの細腕では重過ぎるのかよろよろと千鳥足になっていた。
「一個貸して」
ジンがよろけるイーリスに声をかけながら支える。
「えっ!?でもそんなの悪いよ!」
「良いから」
そう言ってジンは半ば強引にイーリスが左手で持っていた袋を掴む。
すると、腕に想像以上の負荷がかかった。
(重っ!!これ二袋分の重さがあるんじゃ……)
ジンはおもむろにイーリスの顔を見ると彼女は心配そうにジンを見ていた。
「だ、大丈夫?往復する回数を減らすために強引に詰め込んだから重いんじゃない?」
そんな顔をされてはジンも黙ってはいられなかった。
「だ、大丈夫大丈夫!これぐらい余裕だって!」
「ジン君って見かけによらず力持ちなんだね♪」
そうして2人で袋をグラウンドへ運び収集所へ置き終わるとイーリスは溜息をついた。
「もうこんなにたくさん置いてある……。私も頑張らなくちゃ!」
イーリスは小さく拳を握りガッツポーズをする。
「良かったら俺も手伝おうか?」
ジンの発言にイーリスは首を傾げる。
「いやだから、俺もイーリスのグループとして手伝おうかって言ってんの」
「えぇっ!!それって私と同じ家族に……!!」
「違う違う違う違う違う!!そうじゃなくて!!」
顔を真っ赤に染めて両手で口を隠すイーリスにジンは全力で首を振る。
「助っ人として……手伝おうかってことなんだけど……」
同じ家族という言葉を聞いてから妙に照れくさくなったジンは頬を指でかきながら言うと、イーリスも指を絡ませながら上目遣いでジンを見る。
「……良いの?」
「どうせ俺達は4人兄妹で他のみんなより有利なんだから、1人ぐらい抜けたって構わないって」
「あ、ありがとう!お礼に今度のピクニックに行く時、私お弁当作ってくね!」
「楽しみにしてる」
ジンとイーリスはお互いに微笑み合う。
そんな2人を校舎の影から覗く人物がいた。
「ふぅ〜ん、あの2人そういう関係だったのねぇ。あ〜アッツイアッツイ!こんな季節だってのにあそこだけ真夏ね。バカンスにでも行ったらどうかしら」
「バカンス気分なのはあんたでしょうがチャリティ!」
影から覗いていたチャリティの首根っこをヴィーナが後ろからグイっと引っ張るとチャリティの目が><のようになった。
「だ、誰がバカンスしてるってのよ!?」
「あんたよあんた!弟がせっせと草刈ってんのにこんな所でさぼってんじゃないわよ!」
「失礼ね!私はここで弟の成長を見守ってたのよ!知ってる?男が女の様子を覗くと犯罪だけど女がやると無罪になるのよ?」
「なるわけないでしょうが!!」
極常識なことを怒鳴られ、チャリティはびくっと震えるが拗ねたように唇を尖らせる。
「だって、うち4人姉弟で他のグループより有利だから優勝は間違いないし。私が手を出したって邪魔なだけだし」
それを聞いてヴィーナは溜息を吐いた。
「だったら私の所を手伝いなさい。イーリスと組んでやってるんだけど女二人じゃやっぱり人手が足りないのよね」
「えぇ〜……面倒だからパス!」
チャリティが腕を頭の後ろで組みながら言うと、ヴィーナの表情が蔭る。
「今……何か言ったかしら?」
「ヴィーナ大好きって言ったわ♪」
「あら、私も大好きよ?愛してるわ♪」
「姐さん!俺達もお手伝いしやす!!」
そこへ世紀末コンビが加わる。
「こうなったらヤケよ!やってやろうじゃない!!」
やる気を出したチャリティだが、この後ジンと顔を合わせることになるのであった。
〜続く〜
【楽談パート63】
takeshi「ども〜!アイナを出せたことに満足のtakeshiです!そして!」
ヤコ「初めまして……で良いのかな?」
チャリティ「あら、貴方来たの」
ヤコ「うん、私死んだから。でもその件についてちょっと言いたいことがあるの」
takeshi「何ですか?」
ヤコ「今回本編でジークが咆えて、良い感じのシリアスで終わったよね」
takeshi「良い感じかどうかは分かりませんがね」
ヤコ「黙って。今私が話してるから」
takeshi「はい……」
ヤコ「それなのにあの外伝の内容は何?本編の余韻を返して。私死んだんだよ?」
takeshi「そうですね……」
ヤコ「この外伝が本編と微妙に繋がる伏線っていうのは知ってる。でももっと違うストーリーでもできたよね?」
takeshi「はい……おっしゃるとおりで」
マティアス「なんだか上司に怒られる部下みたいな構図になってるわよ?」
ヤコ「マティアス、あなたからも何か言って」
マティアス「私?そうね〜」
takeshi「私ラスボスでもないのにフルボッコですか……」
マティアス「ヤコ、貴方がさっさと私の前に現れていれば私が保護するつもりだったのよ?」
ヤコ「え……?」
マティアス「貴方も知っての通り私はナイラや私自信の手で貴方の所在を探していたわ。私の両親の手がかりを探すついでにね」
ヤコ「うん……だからあなたとナイラの目が届いていない時にジークと会ったりして本当に苦労した」
マティアス「でも私は貴方を処刑台に上げるために探してたわけじゃないわ。ユリスは絶対に貴方に会いに来るというのは分かっていたから私が保護してエサになってもらおうと思っていたの。そうすれば向こうから来てくれるのだからいちいち探す手間を省けるしこっちの得意な戦場を選べるし、利点しかないってわけ」
ヤコ「……確かにそうね」
マティアス「それなのに私が留守の間に勝手にユリスに見つかるわ処刑されるわで私のパーフェクトな作戦は全て台無しよ!バカか?バカなのか!?」
ヤコ「ごめんなさい……」
マティアス「まぁ、分かれば良いわ。それに、貴方も何か考えがあって処刑台に立ったんでしょう?」
ヤコ「さすがだね。ジークが暴走するのは計算外だったけど、多分上手くいくと思う」
takeshi「あれ?じゃあ私が怒られる理由は無かったんじゃないですか?」
マティアス「余韻はまた別問題だと思うわよ?」
ヤコ「同感」
takeshi「ですよねー。とりあえず本編で語ることのできない補足説明ありがとうございました」
ヤコ「何のこと?」
マティアス「さぁ?」
takeshi「ちなみに今回外伝に出てきたアイナですが、おそらく外伝にしか出てきません。ジークと同じフィールドには恥ずかしくて立てないので!なのでキャラクター名鑑にも登録されません」
ヤコ「そうなんだ」
マティアス「チャリティはあんなんで鍋の具材をちゃんとゲットできるのかしら?ものすごく不安だわ……」
ヤコ「何の話?」
takeshi「結果も含めて次回分かりますよ。ではまた〜」