第6話『盾と剣』
「手間をかけたな」
完全復帰を遂げたユージーンはカインに礼を言うと、アニーとカイン以外のメンバーは先程の女性を囲んでいた。
武器はお互い構えていないが、いつ何をしかけてくるかは分からない。
牽制のための円陣であったが、それでも少女は赤紫のツインテールをなびかせて平然と立っていた。
「なに?こんな大所帯で少女1人を囲んじゃって、恥ずかしくないわけ?」
少女は笑いながら言うと、ティトレイが拳を振り上げそうになるがヒルダに「やめな」と止められた。
「まぁ良いわ。あながち、貴方達の対応は間違っていないのだしね。まず、察しの通り私は貴方達から見たら味方ではないわ」
「てことはユリスの手下か!?」
ブライトは腰の銃に手を伸ばすが、少女は手をヒラヒラと返した。
「外れ。大体、今貴方達の言う敵っていうのはユリスだけではないでしょう?例えば……元老院とか?」
少女は不適な笑みを浮かべながらマオを見る。
「え?元老院って軍の一部のヒトしか知らないんじゃ……」
ルルはバルカでユージーンから聞いた話を思い出しながらマオを見た。
「キミ……何者なの?」
「ふふっ、自己紹介が遅れたわね。私の名前はマティアス。所属は王の剣(つるぎ)の隊長よ」
「王の剣だと!?」
ここで後ろで話を聞いていたユージーンが声を荒げた。
「さすが王の盾のユージーン元隊長ね。私達の存在も知っていたなんて」
「噂を耳にしただけだ。万が一、王の盾が寝返った時抑止力となる勢力が存在すると。それは王の盾とは対となるため王の剣と呼ばれる……とな」
マティアスと名乗った少女はそれまでの余裕な笑みを止め、真剣な面持ちへと表情を変えた。
「大体そんなところね。元々四星なんかも性格破綻者がほとんどで何時王に刃向かってもおかしくなかったもの」
その後マティアスは「性格で言えば私達も変わらないけど……」と呟いた後、再び続けた。
「でも私達の仕事は王の盾への牽制だけじゃないわ。あんな奴等、やろうと思えばすぐにでも消せるしね。私達の主な任務は名前の通り王の盾にできないことをすること。例えば王の盾は王様に害をなす危険因子を排除することが役割なのに対して私達は軍内外全てにおいて王にとって危険因子になるであろう全ての者を排除する役割を担っている。つまり、例え相手が王の盾の隊長だろうが大佐だろうが殺す許可を得てるってこと」
「つまり、あんたは後の危険因子でなるであろう私達を消しにきたって訳ね」
ヒルダは目を閉じながら冷静にまとめたが、体の周囲には電気が帯電していた。
そして、誰もがいつでも戦闘態勢に入れるよう精神を研ぎ澄まし、周囲は冷たく重い空気に包まれていた。
「はいちょっとタンマタンマ!ヒトの話は最後まで聞く!」
マティアスは両手を叩きながら言うと、一旦凍ってしまいそうな冷たい空気は無くなったが、上からのしかかる重い重圧は解けないままだった。
「確かに私は元老院の命令でマオ大佐率いる英雄6人を招集しに来たわ。それがまさか外で暴動を起こしてる張本人だとは思わなくて一番凶暴そうにしていたライオンさんを見せ締めとして殺そうと思ったのも確かよ。それがまさかユージーンに当たるとは流石の私も予想していなかったわ。けど安心してちょうだい?今の私はもう貴方達を連れて行く気はないから」
「そう言われて、はいそうですか、とでも言うと思ってんのか?」
ジークはなおも疑いの視線を向けるとマティアスはやれやれと言ったように鼻で息をついた。
「これだけ内部事情を話してもまだ信用できない訳?私がまだ話していないのは〜……そうね」
マティアスは人差し指をアゴに当ててから少し考えた後、再び笑顔で話した。
「私達王の剣は全部で4人しかいないってことかしら?貴方達は運が良いわ。私達は4人で首都の東西南北を監視していたのだけれど、もし他の3人に見つかっていたらこの中の半分は間違いなく死んでいたわ。あっ、勘違いしないでね?別に他の3人が私より強いって事じゃなくて、4人の中で私が一番理性があるってことだから。でなければあいつらの隊長なんてやってられないわ」
最後にマティアスは溜息を吐いてから話は終わった。
「ということは、本当に俺達を見逃してくれんの?」
ジンはティトレイと目が合うとお互いに笑顔がこぼれそうになった。
しかし、
「はぁ?誰が見逃すなんて言ったかしら?」
「違うの?」
マティアスは眉をひそめたが、カインの台詞を聞くと彼女はカインをキッと睨んだ。
「こんな小さな任務でも私達に失敗は許されないの。だから、連行する代わりにこれからしばらくの間私が貴方達を監視します」
全員が全員嫌そうな顔をしたのだろう。
マティアスは目くじらを立てながら続けた。
「何よ?それとも全員ここでバラバラにされたいの?」
そう言われると反論はできず、さらに今マティアスと戦っても無傷で勝てる自信は誰にもなかった。
「そうね、確かにこれだけで信じろって言うほうが無理ね。私も何かの弾みで誰か殺しちゃったりしないか自信ないもの」
マティアスはさらりと恐ろしいことを言ってから足で器用に薙刀を手元に蹴り上げ、その薙刀をフィオナへ投げた。
「ちょっ、何!?」
「あなた、大雑把そうに見えて意外とこういう管理とか得意そうね。その子、あなたに預けておくわ。精々隣の子に壊されないように注意することね」
マティアスはジークを指差した後、フィオナにウィンクした。
「一つ聞きたい。そうまでして俺達に付いてくる目的は何だ?」
任務は絶対という王の剣の隊長がそこまでして最初の目的を曲げ、自分達を監視すると言う。
そこには絶対に何か裏があるはずと推測したユージーンはマティアスに訊ねてみたが、返ってきたのは途方も無い回答だった。
「そうね、強いて言えば好奇心かしら?このままあのジジイ達の言うことに従ってても世界は平和にならないし、詰まらないわ。言っとくけど、私達だってこのカレギアは大事なのよ?」
「そ、そうか」
「ユージーン、どうする?」
マオが意見を仰ぐと、他のメンバーの視線もユージーンに集中した。
すると、ヴェイグが口を開いた。
「俺は、こいつを信じても良いと思う。ユリスとの戦いの前に無駄な争いは避けるべきだ。しかも今はあちらから戦う気はないと言っている。ここは素直に聞き入れるべきなんじゃないか?」
ヴェイグの意見に全員は頷き、いつの間にか重たい重圧もなくなっていた。
「……そうだな。こういうのもなんだが監視の程、よろしく頼む」
「えぇ、こちらこそよろしく頼むわ。特に、変な行動とか起こされるとまた私達の仕事が増えるだけだから、絶対にやめてちょうだいね?」
マティアスは再びウィンクをしたが、笑えない話だった。
今のは言い換えれば少しでもおかしな行動を起こしたら殺すぞと脅されたようなものである。
だが、危険因子として捉えられているヴェイグ達にとってはそれが正しい監視のされ方なのだろう。
兎にも角にも既に武器を所持していない目の前にいるヒトは丸腰のただの少女である。
全員は緊張を解くと円陣を崩し、これからどうするか話し合おうとした。
「やっと緊張を解いてくれたわね。ずっと我慢してた甲斐があったわ」
マティアスはニヤリと笑みを浮かべると、ルルに手を伸ばした。
「チッ……」
全員瞬時に武器を構えようとするが、マティアスの両手がルルの背中に周ってしまう。
「キャーーー!!!やっぱ可愛い!!ずっと触りたかったのよね〜!!耳もモフモフ〜♪」
マティアスはルルを抱きしめたり頭の耳をグニグニ触り、悦楽に浸っていた。
「く、くすぐったい……や、やめっ……」
「やっぱ殺さなくて正解だったわね!ハーフ同士、仲良くしましょうね」
尚もルルを触り続けるマティアスをここでジークが強引に引き離した。
「嫌がってんだろうが。あと、ハーフ同士ってお前……」
即座にマオの背後へと隠れたルルを見てマティアスは残念な顔をした後、マティアスは何もなかったかのように平然を装った。
「そうよ、私もハーフよ?一見ヒューマにしか見えないでしょうけど、このツインテールに見える髪は触手よ」
触手というのは龍によく見られるものらしく、マティアスは龍に近いガジュマとヒューマの子孫なのだと告げられた。
「ガジュマにも色々なのがいるのね」
ヒルダはユージーンとブライトを見て言うと、ブライトは何やら唸っていた。
「いや、そのガジュマはもしかすると……」
と、ブライトがそこまで言いかけた時だった。
「バ、バイラスだぁああああ!!!」
街の方から住人の悲鳴が聞こえた。
全員は急いで街に戻ると商店へと続く道で街の住人2人と白衣を着た医療団が1人孔雀のようなバイラス三体に囲まれていた。
ティトレイはボウガンを放つことで孔雀の一匹にヒットさせ注意をこちらに向けると、三体は一斉に威嚇モードに入った。
羽を広げ、威嚇をした孔雀三体はこれもまた一斉にティトレイを目掛けて突進してくる。
おかげで開放された住人等は腰が抜けたがすぐにブライトとアニーが駆け寄った。
「大丈夫か!?早く正門広場に非難しろ!」
あそこならテントも沢山設営されており医療チームも充実している。
しかし、ヒューマの住人は立ち上がれずにいた。
「こ、腰が抜けてしまって……たたたた、立てない……」
「バカかてめぇは!!んなもん根性でどうにかしやがれ!!」
「ひぃっ!」
ブライトの喝によりヒューマは驚きの拍子にピンと立ち上がったが、震えている。
「あ…悪い。別に怖がらせる気はなかったんだ……」
ブライトが突然自分を襲った衝動に疑問を抱いている中、アニーはヒューマに落ち着くように促し、優しく正門広場の状況を案内した。
そして非難が無事に終わった頃にはバイラスも倒し終わり、相変わらず苦戦したのかジークの顔には孔雀の足跡が残っていた。
それを見たアニーがパタパタと消毒の準備を始め、脱脂綿に消毒液を湿らせ顔を拭いていると横からカインがキーキー喚いていた。
「まさか街にバイラスが入ってくるなんて……1年前の再来も良い所ね。私ちょっと他の三人に街の警備を強めるよう言ってくるわ!私の武器だけ持って立ち去るなんてことは絶対に許さないんだからね!!」
マティアスはフィオナに向かってビシっと指をさすとそのまま走り去ってしまった。
「やはり思念の影響か……」
「思念?」
ブライトは疑問を口にするとユージーンは真剣な面持ちで答えた。
「二年前、カレギア中に振り撒かれた一種の病気のような物だ」
ユージーンは思念のことについて説明すると、ブライトの顔は青ざめていった。
「俺が……こいつらを憎み始めるってのか…?」
「教師という責任があるからかもしれんがお前もよく耐えているほうだ。だが、この思念にはどうしても抗えないものがある。俺も当時は相当荒れていたのだが、アニーに鎮魂錠という薬を処方してもらうことで大分楽になった」
だがその薬をつくれるラジルダはもうなくなっている。
「以前よりも感情の高まりを感じる。このままではやがて俺はまたあの時のように怒り狂うかもしれん。そうなる前に手を打ちたいところなのだが……」
方法が無い。
全員が沈黙し、それでも何か方法はないものかと思案する。
すると、ブライトに何か案があるようなのだが、何か苦しい表情をしながら話した。
「心を鎮めるっつうんなら俺の生徒に心当たりがある」
「本当かよ!?ブライト!」
ティトレイは嬉しそうに言ったが、ルルが申し訳なさそうに手をあげた。
「それって、私達の街にみんなを入れるって……ことだよね?」
そう、ジーク達の街は絶海の孤島、つまり島自体が街なのだが遥か昔から外海の者の立ち入りは禁じられている。
「だがチャリティのフォルスが消えてから外からのヒトは増えるわ、定期船は出るようになるわで規則も少しは緩和されてるはずだ。問題ねぇだろ。……教師の俺がこういうこと言うのもなんだけとよ」
ブライトは頬をかきながら言ったが、最早手段はこれしかない。
一同はジーク達の故郷へと向かうことになった。
「おっまたせ〜。どこへ向かうか決まったかしら?」
タイミングを図っていたかのように現れたマティアスを加え、一同はまずバルカ港へと向かった。
〜続く〜
【※マティアスがキャラクター名鑑(下)に追加されました】
完全復帰を遂げたユージーンはカインに礼を言うと、アニーとカイン以外のメンバーは先程の女性を囲んでいた。
武器はお互い構えていないが、いつ何をしかけてくるかは分からない。
牽制のための円陣であったが、それでも少女は赤紫のツインテールをなびかせて平然と立っていた。
「なに?こんな大所帯で少女1人を囲んじゃって、恥ずかしくないわけ?」
少女は笑いながら言うと、ティトレイが拳を振り上げそうになるがヒルダに「やめな」と止められた。
「まぁ良いわ。あながち、貴方達の対応は間違っていないのだしね。まず、察しの通り私は貴方達から見たら味方ではないわ」
「てことはユリスの手下か!?」
ブライトは腰の銃に手を伸ばすが、少女は手をヒラヒラと返した。
「外れ。大体、今貴方達の言う敵っていうのはユリスだけではないでしょう?例えば……元老院とか?」
少女は不適な笑みを浮かべながらマオを見る。
「え?元老院って軍の一部のヒトしか知らないんじゃ……」
ルルはバルカでユージーンから聞いた話を思い出しながらマオを見た。
「キミ……何者なの?」
「ふふっ、自己紹介が遅れたわね。私の名前はマティアス。所属は王の剣(つるぎ)の隊長よ」
「王の剣だと!?」
ここで後ろで話を聞いていたユージーンが声を荒げた。
「さすが王の盾のユージーン元隊長ね。私達の存在も知っていたなんて」
「噂を耳にしただけだ。万が一、王の盾が寝返った時抑止力となる勢力が存在すると。それは王の盾とは対となるため王の剣と呼ばれる……とな」
マティアスと名乗った少女はそれまでの余裕な笑みを止め、真剣な面持ちへと表情を変えた。
「大体そんなところね。元々四星なんかも性格破綻者がほとんどで何時王に刃向かってもおかしくなかったもの」
その後マティアスは「性格で言えば私達も変わらないけど……」と呟いた後、再び続けた。
「でも私達の仕事は王の盾への牽制だけじゃないわ。あんな奴等、やろうと思えばすぐにでも消せるしね。私達の主な任務は名前の通り王の盾にできないことをすること。例えば王の盾は王様に害をなす危険因子を排除することが役割なのに対して私達は軍内外全てにおいて王にとって危険因子になるであろう全ての者を排除する役割を担っている。つまり、例え相手が王の盾の隊長だろうが大佐だろうが殺す許可を得てるってこと」
「つまり、あんたは後の危険因子でなるであろう私達を消しにきたって訳ね」
ヒルダは目を閉じながら冷静にまとめたが、体の周囲には電気が帯電していた。
そして、誰もがいつでも戦闘態勢に入れるよう精神を研ぎ澄まし、周囲は冷たく重い空気に包まれていた。
「はいちょっとタンマタンマ!ヒトの話は最後まで聞く!」
マティアスは両手を叩きながら言うと、一旦凍ってしまいそうな冷たい空気は無くなったが、上からのしかかる重い重圧は解けないままだった。
「確かに私は元老院の命令でマオ大佐率いる英雄6人を招集しに来たわ。それがまさか外で暴動を起こしてる張本人だとは思わなくて一番凶暴そうにしていたライオンさんを見せ締めとして殺そうと思ったのも確かよ。それがまさかユージーンに当たるとは流石の私も予想していなかったわ。けど安心してちょうだい?今の私はもう貴方達を連れて行く気はないから」
「そう言われて、はいそうですか、とでも言うと思ってんのか?」
ジークはなおも疑いの視線を向けるとマティアスはやれやれと言ったように鼻で息をついた。
「これだけ内部事情を話してもまだ信用できない訳?私がまだ話していないのは〜……そうね」
マティアスは人差し指をアゴに当ててから少し考えた後、再び笑顔で話した。
「私達王の剣は全部で4人しかいないってことかしら?貴方達は運が良いわ。私達は4人で首都の東西南北を監視していたのだけれど、もし他の3人に見つかっていたらこの中の半分は間違いなく死んでいたわ。あっ、勘違いしないでね?別に他の3人が私より強いって事じゃなくて、4人の中で私が一番理性があるってことだから。でなければあいつらの隊長なんてやってられないわ」
最後にマティアスは溜息を吐いてから話は終わった。
「ということは、本当に俺達を見逃してくれんの?」
ジンはティトレイと目が合うとお互いに笑顔がこぼれそうになった。
しかし、
「はぁ?誰が見逃すなんて言ったかしら?」
「違うの?」
マティアスは眉をひそめたが、カインの台詞を聞くと彼女はカインをキッと睨んだ。
「こんな小さな任務でも私達に失敗は許されないの。だから、連行する代わりにこれからしばらくの間私が貴方達を監視します」
全員が全員嫌そうな顔をしたのだろう。
マティアスは目くじらを立てながら続けた。
「何よ?それとも全員ここでバラバラにされたいの?」
そう言われると反論はできず、さらに今マティアスと戦っても無傷で勝てる自信は誰にもなかった。
「そうね、確かにこれだけで信じろって言うほうが無理ね。私も何かの弾みで誰か殺しちゃったりしないか自信ないもの」
マティアスはさらりと恐ろしいことを言ってから足で器用に薙刀を手元に蹴り上げ、その薙刀をフィオナへ投げた。
「ちょっ、何!?」
「あなた、大雑把そうに見えて意外とこういう管理とか得意そうね。その子、あなたに預けておくわ。精々隣の子に壊されないように注意することね」
マティアスはジークを指差した後、フィオナにウィンクした。
「一つ聞きたい。そうまでして俺達に付いてくる目的は何だ?」
任務は絶対という王の剣の隊長がそこまでして最初の目的を曲げ、自分達を監視すると言う。
そこには絶対に何か裏があるはずと推測したユージーンはマティアスに訊ねてみたが、返ってきたのは途方も無い回答だった。
「そうね、強いて言えば好奇心かしら?このままあのジジイ達の言うことに従ってても世界は平和にならないし、詰まらないわ。言っとくけど、私達だってこのカレギアは大事なのよ?」
「そ、そうか」
「ユージーン、どうする?」
マオが意見を仰ぐと、他のメンバーの視線もユージーンに集中した。
すると、ヴェイグが口を開いた。
「俺は、こいつを信じても良いと思う。ユリスとの戦いの前に無駄な争いは避けるべきだ。しかも今はあちらから戦う気はないと言っている。ここは素直に聞き入れるべきなんじゃないか?」
ヴェイグの意見に全員は頷き、いつの間にか重たい重圧もなくなっていた。
「……そうだな。こういうのもなんだが監視の程、よろしく頼む」
「えぇ、こちらこそよろしく頼むわ。特に、変な行動とか起こされるとまた私達の仕事が増えるだけだから、絶対にやめてちょうだいね?」
マティアスは再びウィンクをしたが、笑えない話だった。
今のは言い換えれば少しでもおかしな行動を起こしたら殺すぞと脅されたようなものである。
だが、危険因子として捉えられているヴェイグ達にとってはそれが正しい監視のされ方なのだろう。
兎にも角にも既に武器を所持していない目の前にいるヒトは丸腰のただの少女である。
全員は緊張を解くと円陣を崩し、これからどうするか話し合おうとした。
「やっと緊張を解いてくれたわね。ずっと我慢してた甲斐があったわ」
マティアスはニヤリと笑みを浮かべると、ルルに手を伸ばした。
「チッ……」
全員瞬時に武器を構えようとするが、マティアスの両手がルルの背中に周ってしまう。
「キャーーー!!!やっぱ可愛い!!ずっと触りたかったのよね〜!!耳もモフモフ〜♪」
マティアスはルルを抱きしめたり頭の耳をグニグニ触り、悦楽に浸っていた。
「く、くすぐったい……や、やめっ……」
「やっぱ殺さなくて正解だったわね!ハーフ同士、仲良くしましょうね」
尚もルルを触り続けるマティアスをここでジークが強引に引き離した。
「嫌がってんだろうが。あと、ハーフ同士ってお前……」
即座にマオの背後へと隠れたルルを見てマティアスは残念な顔をした後、マティアスは何もなかったかのように平然を装った。
「そうよ、私もハーフよ?一見ヒューマにしか見えないでしょうけど、このツインテールに見える髪は触手よ」
触手というのは龍によく見られるものらしく、マティアスは龍に近いガジュマとヒューマの子孫なのだと告げられた。
「ガジュマにも色々なのがいるのね」
ヒルダはユージーンとブライトを見て言うと、ブライトは何やら唸っていた。
「いや、そのガジュマはもしかすると……」
と、ブライトがそこまで言いかけた時だった。
「バ、バイラスだぁああああ!!!」
街の方から住人の悲鳴が聞こえた。
全員は急いで街に戻ると商店へと続く道で街の住人2人と白衣を着た医療団が1人孔雀のようなバイラス三体に囲まれていた。
ティトレイはボウガンを放つことで孔雀の一匹にヒットさせ注意をこちらに向けると、三体は一斉に威嚇モードに入った。
羽を広げ、威嚇をした孔雀三体はこれもまた一斉にティトレイを目掛けて突進してくる。
おかげで開放された住人等は腰が抜けたがすぐにブライトとアニーが駆け寄った。
「大丈夫か!?早く正門広場に非難しろ!」
あそこならテントも沢山設営されており医療チームも充実している。
しかし、ヒューマの住人は立ち上がれずにいた。
「こ、腰が抜けてしまって……たたたた、立てない……」
「バカかてめぇは!!んなもん根性でどうにかしやがれ!!」
「ひぃっ!」
ブライトの喝によりヒューマは驚きの拍子にピンと立ち上がったが、震えている。
「あ…悪い。別に怖がらせる気はなかったんだ……」
ブライトが突然自分を襲った衝動に疑問を抱いている中、アニーはヒューマに落ち着くように促し、優しく正門広場の状況を案内した。
そして非難が無事に終わった頃にはバイラスも倒し終わり、相変わらず苦戦したのかジークの顔には孔雀の足跡が残っていた。
それを見たアニーがパタパタと消毒の準備を始め、脱脂綿に消毒液を湿らせ顔を拭いていると横からカインがキーキー喚いていた。
「まさか街にバイラスが入ってくるなんて……1年前の再来も良い所ね。私ちょっと他の三人に街の警備を強めるよう言ってくるわ!私の武器だけ持って立ち去るなんてことは絶対に許さないんだからね!!」
マティアスはフィオナに向かってビシっと指をさすとそのまま走り去ってしまった。
「やはり思念の影響か……」
「思念?」
ブライトは疑問を口にするとユージーンは真剣な面持ちで答えた。
「二年前、カレギア中に振り撒かれた一種の病気のような物だ」
ユージーンは思念のことについて説明すると、ブライトの顔は青ざめていった。
「俺が……こいつらを憎み始めるってのか…?」
「教師という責任があるからかもしれんがお前もよく耐えているほうだ。だが、この思念にはどうしても抗えないものがある。俺も当時は相当荒れていたのだが、アニーに鎮魂錠という薬を処方してもらうことで大分楽になった」
だがその薬をつくれるラジルダはもうなくなっている。
「以前よりも感情の高まりを感じる。このままではやがて俺はまたあの時のように怒り狂うかもしれん。そうなる前に手を打ちたいところなのだが……」
方法が無い。
全員が沈黙し、それでも何か方法はないものかと思案する。
すると、ブライトに何か案があるようなのだが、何か苦しい表情をしながら話した。
「心を鎮めるっつうんなら俺の生徒に心当たりがある」
「本当かよ!?ブライト!」
ティトレイは嬉しそうに言ったが、ルルが申し訳なさそうに手をあげた。
「それって、私達の街にみんなを入れるって……ことだよね?」
そう、ジーク達の街は絶海の孤島、つまり島自体が街なのだが遥か昔から外海の者の立ち入りは禁じられている。
「だがチャリティのフォルスが消えてから外からのヒトは増えるわ、定期船は出るようになるわで規則も少しは緩和されてるはずだ。問題ねぇだろ。……教師の俺がこういうこと言うのもなんだけとよ」
ブライトは頬をかきながら言ったが、最早手段はこれしかない。
一同はジーク達の故郷へと向かうことになった。
「おっまたせ〜。どこへ向かうか決まったかしら?」
タイミングを図っていたかのように現れたマティアスを加え、一同はまずバルカ港へと向かった。
〜続く〜
【※マティアスがキャラクター名鑑(下)に追加されました】
■作者メッセージ
ども〜!運気が上がって欲しいと切に願うtakeshiです。
さてさて、ここで新しい団体『王の剣(つるぎ)』の名前が出ました。
最初は矛盾の意味を含めて王の矛という名前だったのですが余りにも語呂が悪すぎたので剣にしました。
まぁ矛盾という意味は変わりませんが;
キャラクター名鑑も是非見てみてくださいね!
でも面倒でしたら無理はしないでください。
ではまた〜
さてさて、ここで新しい団体『王の剣(つるぎ)』の名前が出ました。
最初は矛盾の意味を含めて王の矛という名前だったのですが余りにも語呂が悪すぎたので剣にしました。
まぁ矛盾という意味は変わりませんが;
キャラクター名鑑も是非見てみてくださいね!
でも面倒でしたら無理はしないでください。
ではまた〜