第7話『夕暮れの海と青春』
バルカ港から定期船が出港したのは夕暮れ時だった。
行き先が極地なため定期船は何本も出ている訳ではなくそれでも1日三本出ているというのは多いほうであった。
そのため時間が余ったヴェイグ達はマティアスに強引に自己紹介をさせられ、マティアスが逐一質問を入れる中で一通り済んだ頃には定期船の出航時刻になっていた。
船は海を滑るように走り、夕日に照らされる海はなんとも鮮やかな色をしていた。
そんな船内では船室にてユージーンとマオが話をしていると突然扉が勢いよく開かれた。
「こんなところにいたのね」
「マティアス!?」
突然の来訪者にマオは水を噴くと、ユージーンが何のようかと訊ねた。
「この間、貴方達の元に不可解な事件の報告書が回ってこなかったかしら?」
不可解な事件と言われ思考を巡らせてみたが、最近自分達が巻き込まれている事件全てが不可解すぎてどれが不可解なのか答えられなかった。
「つっかえないわね。自主してきた犯人を収容所へ連行中に警護の兵士が殺された事件のことよ」
それを聞いてマオは「あぁ!」と頭に電球マークを浮かべた。
その報告書に目を通していたのはこの物語が始まった当初。
船の破壊事故が起き、ジークと出会う少し前に目を通していた報告書である。
その報告書の内容というのが、大方マティアスの言った通りで女性が殺人を犯したとかで自主をしてきたため収容所に連行しようとしたが、途中護送隊は襲撃を受け全滅したが自主してきた女性はそのまま収容所に監禁され、それを襲撃した男が見張っているという内容だった。
その男は自主した女性を逃がす素振りは見せないが、かと言って見張りの兵士も近づけない状況であり、今もなお現状維持を続けている。
「それがどうかしたの?」
マオはコップを片付けながら聞くと、マティアスは腕を組みながらソファーに深々と座った。
「その女がここしばらく昏睡状態だったらしいわ。最近また目を覚ましたらしいんだけど、彼女が昏睡状態に陥った時っていうのが調度貴方達が城の屋上で倒れているのを発見された時なのよね。これって偶然かしら?」
マティアスは鋭い目付きでマオとユージーンを見るが、2人は顔を見合わせた。
「お前は俺達がその女と繋がっていると考えているのだろうが、俺達はその女と会ったことさえない。信じろと言って信じてはもらえないだろうが、それが真実だ」
ユージーンが言うと、マティアスは「ふぅ〜ん…」と目をそらしながら人差し指をアゴに当てると、再びマオを見た。
「じゃあ質問を変えるわ。最近貴方達の周りで変わったことはないかしら?ちなみに、もし嘘なんてついたら木っ端微塵にするけど、分かってるわよね?」
相変わらずシャレにならない脅しをしてくるなとマオは冷や汗をかきながら考えてみた。
「そういえば、最近ジークの周りで変なフォルス反応を感じるんだよね。それぐらい……かなぁ?」
それを聞いてマティアスは突然立ち上がった。
「えっ?ボク嘘は言ってないヨ!?」
「やっぱりアイツなのね。分かったわ、ありがとう。失礼するわ」
それだけ言ってマティアスは外へ出て行ってしまった。
「マオ、今言ったことは本当なのか?」
「うん、ちょっと前からたまにだけどジークのとは違うフォルスを感じるんだよネ。ただ、最近は何も感じなかったんだけど、実はまた今も感じてるんだ」
「様子を見に行かなくて良いのか?」
「しばらく様子を見てたけど、ジークに害を加える気はなさそうだったからね。多分大丈夫だと思うヨ?」
ユージーンはそうかと一回安心すると、再び険しい表情になった。
「少しカインの所へ行ってくる。お前はヴェイグ達の所へ行っててくれ」
マオは何も訊かずに「ほ〜い」と軽く答えると、別の船室へと向かった。
場は変わり、朱色に染まる海を眺めつつ、甲板に呼び出されたフィオナは船の揺れに足をとられながらも呼び出した張本人の元へと向かった。
「で?私に話って何の用?」
フィオナは手摺に掴まりながら海を眺めていたカインに向かっていうと、彼は俯きながら振り返った。
「えっと…来てくれてありがとう、来てくれないんじゃないかと思った。ごめんね、ジーク君じゃなくて」
「何でそこでジークの名前が出てくるのよ?」
フィオナはカインの隣に立つと手摺に背を向け体重を預け、用件はそれだけかと催促した。
「その…えっと…あの……」
カインは落ち着きがないように両手をあたふたさせながら顔を上げ、賢明に言葉を絞り出した。
「フィオナはさ……僕のこと、恨んで……る?」
カインは再び俯くと、フィオナは「は?」と言って眉をしかめた。
「ちょっと、何で私があんたを恨むのよ?」
「だって、フィオナのお父さんが今こんな事になってるのって僕の所為だし……。ユリスを再生した事に関してはヴェイグ達に許してもらったけど、まだフィオナに大事なこと聞いてなかった」
カインは震える声で言うと、フィオナは暫く何も答えなかった。
あぁ、この子はジーク達が言うとおり本当に優しいヒトなんだ。
そこには表も裏も無い。
万人に対して気を使ってしまうヒトなんだ。
フィオナはバカらしくなりフッと吹き出した。
「何でふくの?」
「だって、私がカインを恨んでる訳ないじゃない」
フィオナは笑いながら言ったが、少し気を落ち着けてからまた続けた。
「確かにちょっと前までは恨んでいたけど、よく考えたらあんたってお父さんの意識を取り戻してくれた恩人でもあるのよね……。そんなヒトを恨むほど私は小さくない。見くびらないでほしいわね」
「ご、ごめん……」
フィオナが胸を張って言うと、逆にカインが縮こまってしまった。
「ほら、すぐにそうやって謝らない。ジークだって、そういうの嫌いなんじゃない?」
「うん……よく注意された」
フィオナは「でしょ?」と言ってから手を差し伸べた。
「なに?ライバルとして認める握手?」
「そうじゃなくて!……その、仲間としての握手よ……」
「言ってて恥ずかしいでしょ?」
フィオナは顔を背けたまま何も返してこなかったが、カインが笑いながら手を握ると、その暖かい手はしっかりと握り返してくれた。
「ふむ、取り込み中だったか?」
気付くと二人の間にユージーンが立っていた。
カインは慌てて手を離すと、えらく慌て始めた。
「ち、違うんだユージーン!これは恋とかのライバルじゃなくて握手としての仲間で……」
混乱するカインを見てフィオナは溜息を吐くと、ユージーンに何か用かと訊ねた。
「あぁ、カインに話があって来たのだが……大丈夫か?」
ユージーンはカインを案ずると、一通り混乱し終わったのか少し冷静に戻った様子だった。
「あの、ユージーン。今のはジーク君には内緒にしといてね?」
ユージーンはとりあえず首を傾げることしかできなかった。
「私は立ち去った方がよさそうね。わざわざカインを探して来たってことはそういうことなんでしょ?」
ユージーンは申し訳なそうに頷くと、フィオナは軽く鼻で息をつきながら立ち去った。
(とは言え、船室に戻るのも惜しいわね。船首にでも行こうかしら?)
フィオナは連絡通路へ向かうが、今船首にはジークが波風を堪能していた。
人見知りの彼にとって久しぶりの1人の時間は心地よく、久しぶりに心が開放されたようだった。
「こういう時、ヒトは海に向かって叫ぶのよね?」
「あぁ、そうみたいだな」
先程まで1人だったのにも係わらず、突然現れた女性にジークは動じずに答えた。
「……久しぶりだな」
船の縁(へり)に腰をかけ、九本の尻尾は風にユラユラと揺らされ、たなびく黄色の髪を片手で押さえながら狐のハーフのような少女は赤いクマが特徴的な綺麗な顔立ちでニコリと微笑んだ。
「そうだね」
繊細で、どこか寂しげな声が返ってきた。
「……今まで何してたんだよ?」
「う〜ん……」
女性は髪を押さえるのをやめ、空を見上げた。
「寝てた……かな?」
相変わらずよく分からないヤツだと思いながらジークは縁に肘をついた。
彼女には聞きたいことがある。
何故軍人と偽ってカイン探しに同行したのか。
何故カレギア城で地下に落下した時助けてくれたのか。
そして、ユリスがジーク達にトドメをさそうとした時、動かないはずの体が突然軽くなり、自分でも信じられない力を出せたのは明らかに彼女がジークに触れた瞬間に何か力が溢れるような感覚に満ちたことを今でも覚えている。
あれは一時的なものではあったが、どうやったのか。
聞きたいことは山ほどあったが、ひとまずまとめてみた。
「お前……何者なんだ?」
ジークは縁に座っている女性の顔を見上げると、女性の人差し指がジークの唇に触れた。
「女の子にお前なんて言わないの。私の名前は……」
言いかけると、女性の姿は突然消えてしまった。
「おい!!」
ジークは急いで眼下の海を見るが、どこにも姿は無い。
「そんなところで1人で叫んでたら異端者として殺すわよ?それとも、青春の真っ最中だったのかしら?」
振り向くと不適な笑みを浮かべたマティアスが立っていた。
「ていうかそこに立つのやめてくれる?後光が差して眩しいったらありゃしないわ」
マティアスは片手を額に当てながら目を細めて言うが、ジークは依然として動かなかった。
「はいはい、私がそっちに行けば良いのね」
マティアスは口を尖らせながらジークの隣に立つと、縁に寄りかかった。
「単刀直入にきくわ。貴方何者なの?」
その質問はさっき俺もしたなとジークは思い出した。
そもそも単刀直入すぎてどう返答するべきか分からない。
ジークはしばらく思考を巡らせたが、なかなか返答が返ってこないジークを見てマティアスは首を傾げた。
「(さすがに唐突過ぎたかしら?だったら…)最近変わったこととかあるかしら?」
マティアスは極力不信感を与えないよう笑顔に勉(つと)めたがジークは見向きもしなかった。
何故なら彼にとって最近変わったことが多過ぎたからである。
最近は初対面であってもなかなか話せるようになってきた。
更に少しずつではあるが強くなってきているのを感じた。
相変わらず答えの返ってこない様子にマティアスのこめかみに血管の青筋が入る。
「無駄よ!そいつは人見知りなもんだから、さっき会ったばっかのあんたなんかとは会話なんてできる訳ないわ!」
再び振り返ると、そこにはフィオナが仁王立ちしていた。
「ていうか眩しッ!後光なんか差しちゃって、あんたら何?神様気取りな訳?」
先程のマティアス同様に目を細めながら歩み寄ってくるフィオナを見て、マティアスは噴出した。
「貴方、面白いわね。気に入ったわ」
「あんたになんか気に入られても嬉しくも何ともないっての。まったく、これなら変な気を使わないで甲板に居座れば良かったわ」
フィオナはジッとマティアスを睨むがマティアスは平然と胸を張りながら鼻で笑った。
「お前、カインと話してたんじゃなかったのか?」
更に睨むフィオナだったがジークに話しかけられると、睨むのをやめ紫の髪をかき上げた。
「また聞こえてたの?まぁ良いけど。私のお父さんについてだったわ。カイン、私が恨んでるんじゃないかって心配してたみたい」
「それで?」
「あんな優しさの塊でできてるようなやつ、恨める訳ないじゃない。ちゃんと仲直りもしたわ。まっ、あいつが謝ってきたらぶっとばしてやろうと思っていたけどね」
「あいつは自分の行動には責任をとるやつだからな。そんなことはしねぇよ」
「えぇ、さっき話してみてよく分かったわ。それにしてもあんたは全然強くならないわね。あんなバイラスも倒せないなんて」
フィオナは街で住人がバイラスに襲われているところを助けた時のことを思い出した。
孔雀の突進を回避し、即座に距離を詰めたジークは拳を突き出したがジャンプしてかわされ、ジークは華麗な回し蹴りを顔面にお見舞いされた。
そのおかげで今は頬に湿布を貼っており、カインが自分が再生すると言い張ったが、それをジークは拒否した。
「たかがバイラスだと思って油断してたんだよ。次は負けねぇ」
「そんな言い訳してると、ブライトに怒られるわよ?」
ジークが「確かに……」と小さく呟く傍らで、始終を観察していたマティアスが口を開いた。
「貴方達、付き合ってるの?」
「「はぁ?」」
2人はハモリながらも眉間に皺を寄せてマティアスを見た。
「私とこいつは護る護られるの関係。ただそれだけよ」
ジークも強く頷くと、マティアスは「ふぅ〜ん」とだけ呟いた。
〜続く〜
行き先が極地なため定期船は何本も出ている訳ではなくそれでも1日三本出ているというのは多いほうであった。
そのため時間が余ったヴェイグ達はマティアスに強引に自己紹介をさせられ、マティアスが逐一質問を入れる中で一通り済んだ頃には定期船の出航時刻になっていた。
船は海を滑るように走り、夕日に照らされる海はなんとも鮮やかな色をしていた。
そんな船内では船室にてユージーンとマオが話をしていると突然扉が勢いよく開かれた。
「こんなところにいたのね」
「マティアス!?」
突然の来訪者にマオは水を噴くと、ユージーンが何のようかと訊ねた。
「この間、貴方達の元に不可解な事件の報告書が回ってこなかったかしら?」
不可解な事件と言われ思考を巡らせてみたが、最近自分達が巻き込まれている事件全てが不可解すぎてどれが不可解なのか答えられなかった。
「つっかえないわね。自主してきた犯人を収容所へ連行中に警護の兵士が殺された事件のことよ」
それを聞いてマオは「あぁ!」と頭に電球マークを浮かべた。
その報告書に目を通していたのはこの物語が始まった当初。
船の破壊事故が起き、ジークと出会う少し前に目を通していた報告書である。
その報告書の内容というのが、大方マティアスの言った通りで女性が殺人を犯したとかで自主をしてきたため収容所に連行しようとしたが、途中護送隊は襲撃を受け全滅したが自主してきた女性はそのまま収容所に監禁され、それを襲撃した男が見張っているという内容だった。
その男は自主した女性を逃がす素振りは見せないが、かと言って見張りの兵士も近づけない状況であり、今もなお現状維持を続けている。
「それがどうかしたの?」
マオはコップを片付けながら聞くと、マティアスは腕を組みながらソファーに深々と座った。
「その女がここしばらく昏睡状態だったらしいわ。最近また目を覚ましたらしいんだけど、彼女が昏睡状態に陥った時っていうのが調度貴方達が城の屋上で倒れているのを発見された時なのよね。これって偶然かしら?」
マティアスは鋭い目付きでマオとユージーンを見るが、2人は顔を見合わせた。
「お前は俺達がその女と繋がっていると考えているのだろうが、俺達はその女と会ったことさえない。信じろと言って信じてはもらえないだろうが、それが真実だ」
ユージーンが言うと、マティアスは「ふぅ〜ん…」と目をそらしながら人差し指をアゴに当てると、再びマオを見た。
「じゃあ質問を変えるわ。最近貴方達の周りで変わったことはないかしら?ちなみに、もし嘘なんてついたら木っ端微塵にするけど、分かってるわよね?」
相変わらずシャレにならない脅しをしてくるなとマオは冷や汗をかきながら考えてみた。
「そういえば、最近ジークの周りで変なフォルス反応を感じるんだよね。それぐらい……かなぁ?」
それを聞いてマティアスは突然立ち上がった。
「えっ?ボク嘘は言ってないヨ!?」
「やっぱりアイツなのね。分かったわ、ありがとう。失礼するわ」
それだけ言ってマティアスは外へ出て行ってしまった。
「マオ、今言ったことは本当なのか?」
「うん、ちょっと前からたまにだけどジークのとは違うフォルスを感じるんだよネ。ただ、最近は何も感じなかったんだけど、実はまた今も感じてるんだ」
「様子を見に行かなくて良いのか?」
「しばらく様子を見てたけど、ジークに害を加える気はなさそうだったからね。多分大丈夫だと思うヨ?」
ユージーンはそうかと一回安心すると、再び険しい表情になった。
「少しカインの所へ行ってくる。お前はヴェイグ達の所へ行っててくれ」
マオは何も訊かずに「ほ〜い」と軽く答えると、別の船室へと向かった。
場は変わり、朱色に染まる海を眺めつつ、甲板に呼び出されたフィオナは船の揺れに足をとられながらも呼び出した張本人の元へと向かった。
「で?私に話って何の用?」
フィオナは手摺に掴まりながら海を眺めていたカインに向かっていうと、彼は俯きながら振り返った。
「えっと…来てくれてありがとう、来てくれないんじゃないかと思った。ごめんね、ジーク君じゃなくて」
「何でそこでジークの名前が出てくるのよ?」
フィオナはカインの隣に立つと手摺に背を向け体重を預け、用件はそれだけかと催促した。
「その…えっと…あの……」
カインは落ち着きがないように両手をあたふたさせながら顔を上げ、賢明に言葉を絞り出した。
「フィオナはさ……僕のこと、恨んで……る?」
カインは再び俯くと、フィオナは「は?」と言って眉をしかめた。
「ちょっと、何で私があんたを恨むのよ?」
「だって、フィオナのお父さんが今こんな事になってるのって僕の所為だし……。ユリスを再生した事に関してはヴェイグ達に許してもらったけど、まだフィオナに大事なこと聞いてなかった」
カインは震える声で言うと、フィオナは暫く何も答えなかった。
あぁ、この子はジーク達が言うとおり本当に優しいヒトなんだ。
そこには表も裏も無い。
万人に対して気を使ってしまうヒトなんだ。
フィオナはバカらしくなりフッと吹き出した。
「何でふくの?」
「だって、私がカインを恨んでる訳ないじゃない」
フィオナは笑いながら言ったが、少し気を落ち着けてからまた続けた。
「確かにちょっと前までは恨んでいたけど、よく考えたらあんたってお父さんの意識を取り戻してくれた恩人でもあるのよね……。そんなヒトを恨むほど私は小さくない。見くびらないでほしいわね」
「ご、ごめん……」
フィオナが胸を張って言うと、逆にカインが縮こまってしまった。
「ほら、すぐにそうやって謝らない。ジークだって、そういうの嫌いなんじゃない?」
「うん……よく注意された」
フィオナは「でしょ?」と言ってから手を差し伸べた。
「なに?ライバルとして認める握手?」
「そうじゃなくて!……その、仲間としての握手よ……」
「言ってて恥ずかしいでしょ?」
フィオナは顔を背けたまま何も返してこなかったが、カインが笑いながら手を握ると、その暖かい手はしっかりと握り返してくれた。
「ふむ、取り込み中だったか?」
気付くと二人の間にユージーンが立っていた。
カインは慌てて手を離すと、えらく慌て始めた。
「ち、違うんだユージーン!これは恋とかのライバルじゃなくて握手としての仲間で……」
混乱するカインを見てフィオナは溜息を吐くと、ユージーンに何か用かと訊ねた。
「あぁ、カインに話があって来たのだが……大丈夫か?」
ユージーンはカインを案ずると、一通り混乱し終わったのか少し冷静に戻った様子だった。
「あの、ユージーン。今のはジーク君には内緒にしといてね?」
ユージーンはとりあえず首を傾げることしかできなかった。
「私は立ち去った方がよさそうね。わざわざカインを探して来たってことはそういうことなんでしょ?」
ユージーンは申し訳なそうに頷くと、フィオナは軽く鼻で息をつきながら立ち去った。
(とは言え、船室に戻るのも惜しいわね。船首にでも行こうかしら?)
フィオナは連絡通路へ向かうが、今船首にはジークが波風を堪能していた。
人見知りの彼にとって久しぶりの1人の時間は心地よく、久しぶりに心が開放されたようだった。
「こういう時、ヒトは海に向かって叫ぶのよね?」
「あぁ、そうみたいだな」
先程まで1人だったのにも係わらず、突然現れた女性にジークは動じずに答えた。
「……久しぶりだな」
船の縁(へり)に腰をかけ、九本の尻尾は風にユラユラと揺らされ、たなびく黄色の髪を片手で押さえながら狐のハーフのような少女は赤いクマが特徴的な綺麗な顔立ちでニコリと微笑んだ。
「そうだね」
繊細で、どこか寂しげな声が返ってきた。
「……今まで何してたんだよ?」
「う〜ん……」
女性は髪を押さえるのをやめ、空を見上げた。
「寝てた……かな?」
相変わらずよく分からないヤツだと思いながらジークは縁に肘をついた。
彼女には聞きたいことがある。
何故軍人と偽ってカイン探しに同行したのか。
何故カレギア城で地下に落下した時助けてくれたのか。
そして、ユリスがジーク達にトドメをさそうとした時、動かないはずの体が突然軽くなり、自分でも信じられない力を出せたのは明らかに彼女がジークに触れた瞬間に何か力が溢れるような感覚に満ちたことを今でも覚えている。
あれは一時的なものではあったが、どうやったのか。
聞きたいことは山ほどあったが、ひとまずまとめてみた。
「お前……何者なんだ?」
ジークは縁に座っている女性の顔を見上げると、女性の人差し指がジークの唇に触れた。
「女の子にお前なんて言わないの。私の名前は……」
言いかけると、女性の姿は突然消えてしまった。
「おい!!」
ジークは急いで眼下の海を見るが、どこにも姿は無い。
「そんなところで1人で叫んでたら異端者として殺すわよ?それとも、青春の真っ最中だったのかしら?」
振り向くと不適な笑みを浮かべたマティアスが立っていた。
「ていうかそこに立つのやめてくれる?後光が差して眩しいったらありゃしないわ」
マティアスは片手を額に当てながら目を細めて言うが、ジークは依然として動かなかった。
「はいはい、私がそっちに行けば良いのね」
マティアスは口を尖らせながらジークの隣に立つと、縁に寄りかかった。
「単刀直入にきくわ。貴方何者なの?」
その質問はさっき俺もしたなとジークは思い出した。
そもそも単刀直入すぎてどう返答するべきか分からない。
ジークはしばらく思考を巡らせたが、なかなか返答が返ってこないジークを見てマティアスは首を傾げた。
「(さすがに唐突過ぎたかしら?だったら…)最近変わったこととかあるかしら?」
マティアスは極力不信感を与えないよう笑顔に勉(つと)めたがジークは見向きもしなかった。
何故なら彼にとって最近変わったことが多過ぎたからである。
最近は初対面であってもなかなか話せるようになってきた。
更に少しずつではあるが強くなってきているのを感じた。
相変わらず答えの返ってこない様子にマティアスのこめかみに血管の青筋が入る。
「無駄よ!そいつは人見知りなもんだから、さっき会ったばっかのあんたなんかとは会話なんてできる訳ないわ!」
再び振り返ると、そこにはフィオナが仁王立ちしていた。
「ていうか眩しッ!後光なんか差しちゃって、あんたら何?神様気取りな訳?」
先程のマティアス同様に目を細めながら歩み寄ってくるフィオナを見て、マティアスは噴出した。
「貴方、面白いわね。気に入ったわ」
「あんたになんか気に入られても嬉しくも何ともないっての。まったく、これなら変な気を使わないで甲板に居座れば良かったわ」
フィオナはジッとマティアスを睨むがマティアスは平然と胸を張りながら鼻で笑った。
「お前、カインと話してたんじゃなかったのか?」
更に睨むフィオナだったがジークに話しかけられると、睨むのをやめ紫の髪をかき上げた。
「また聞こえてたの?まぁ良いけど。私のお父さんについてだったわ。カイン、私が恨んでるんじゃないかって心配してたみたい」
「それで?」
「あんな優しさの塊でできてるようなやつ、恨める訳ないじゃない。ちゃんと仲直りもしたわ。まっ、あいつが謝ってきたらぶっとばしてやろうと思っていたけどね」
「あいつは自分の行動には責任をとるやつだからな。そんなことはしねぇよ」
「えぇ、さっき話してみてよく分かったわ。それにしてもあんたは全然強くならないわね。あんなバイラスも倒せないなんて」
フィオナは街で住人がバイラスに襲われているところを助けた時のことを思い出した。
孔雀の突進を回避し、即座に距離を詰めたジークは拳を突き出したがジャンプしてかわされ、ジークは華麗な回し蹴りを顔面にお見舞いされた。
そのおかげで今は頬に湿布を貼っており、カインが自分が再生すると言い張ったが、それをジークは拒否した。
「たかがバイラスだと思って油断してたんだよ。次は負けねぇ」
「そんな言い訳してると、ブライトに怒られるわよ?」
ジークが「確かに……」と小さく呟く傍らで、始終を観察していたマティアスが口を開いた。
「貴方達、付き合ってるの?」
「「はぁ?」」
2人はハモリながらも眉間に皺を寄せてマティアスを見た。
「私とこいつは護る護られるの関係。ただそれだけよ」
ジークも強く頷くと、マティアスは「ふぅ〜ん」とだけ呟いた。
〜続く〜
■作者メッセージ
ども〜!なかなかオマケを行うタイミングがないtakeshiです。
とは言え、まだそんなにたっていませんが;
さてさて!ここに来てようやく!!この物語を書き始めて僅か5行目あたり(?)で張られていた伏線の一部を回収することができました!!!
長かっったっ!!
実はこれあらすじに書き漏らしていたことだったのですが、恐らくこんな複線は最早誰も覚えていないだろうと思い、防衛線も張らせていただきました。
これからバンバン新キャラが増えていくので、一人ずつ一緒に覚えていきましょう。
とりあえず、理不尽な生徒会長タイプのちょっと怖いお姉さんがマティアスです。
マッティで覚えましょう。
そのうち、その愛称も使う日がくるので!
良いですか?マッティですよ?マッティ。マティアスのマッティです。
ここに書くネタが無くなったらオマケでも書こうと思います。
あと、やはり感想のお返事もこっちなんですかね?
最近いただいた御二方はかなりお世話になっていた方々だったので感想ページを使って書きましたが、あちらだと文字数制限が少なすぎるんですよね・・・。
というか、感想を書くのに文字数が多すぎですってどういうことですか!?
語っても語り尽くせない場合はどうするんですか!?
まぁ確かに感想で7000字オーバーは流石にやりすぎたと思いますが・・・。
あれは若気のいたりでしたね;
とかなんとか書いてたらまたこんなに長く・・・。
長文失礼しました。
ではまた〜
とは言え、まだそんなにたっていませんが;
さてさて!ここに来てようやく!!この物語を書き始めて僅か5行目あたり(?)で張られていた伏線の一部を回収することができました!!!
長かっったっ!!
実はこれあらすじに書き漏らしていたことだったのですが、恐らくこんな複線は最早誰も覚えていないだろうと思い、防衛線も張らせていただきました。
これからバンバン新キャラが増えていくので、一人ずつ一緒に覚えていきましょう。
とりあえず、理不尽な生徒会長タイプのちょっと怖いお姉さんがマティアスです。
マッティで覚えましょう。
そのうち、その愛称も使う日がくるので!
良いですか?マッティですよ?マッティ。マティアスのマッティです。
ここに書くネタが無くなったらオマケでも書こうと思います。
あと、やはり感想のお返事もこっちなんですかね?
最近いただいた御二方はかなりお世話になっていた方々だったので感想ページを使って書きましたが、あちらだと文字数制限が少なすぎるんですよね・・・。
というか、感想を書くのに文字数が多すぎですってどういうことですか!?
語っても語り尽くせない場合はどうするんですか!?
まぁ確かに感想で7000字オーバーは流石にやりすぎたと思いますが・・・。
あれは若気のいたりでしたね;
とかなんとか書いてたらまたこんなに長く・・・。
長文失礼しました。
ではまた〜