第8話『代償と秋沙雨』
「それで、話っていうのは?」
甲板にてカインはユージーンに訊ねると、ユージーンは拳をアゴにあてながら答えた。
「話というのはお前のフォルスついてだ」
カインは眉をピクリと動かし、ユージーンは続けた。
「これは俺の勝手な憶測に過ぎないのだが……お前がヒトの命を再生する時、自らの寿命を代償としているのではないか?」
「な…なんでそう思うの?」
カインは俯きながら拳に力を込めた。
「俺が死んだあの時、生き返る時に体の中へ生命の息吹が流れ込むのを感じた。だがあれは俺の生命ではなく、外部からによるものだと感じだ。残念ながら上手くは表現できないのだが、俺と同じくお前に再生されたジークの様子を思い返してみると俺の仮定は強ち間違っていないと思ってな」
ブライトとユージーン達が剣を交えている間、ジークは誰も死なないようにと心配していた。
例え死んだとしてもカインのフォルスにより再生できるのだから本来であれば杞憂であるのだが、ジークはそれにより削られるカインの寿命を心配していたのだろう。
そして、つい先刻もバイラスから攻撃を受けた傷もカインの再生を拒んでいた。
それを聞いたカインは拳をゆっくりと解くと、息を一回吐いた。
「さすが、勘が鋭いね。折角ジーク君も気を遣って気付かないフリをしていてくれてたのに」
「大きすぎる力には常に代償が付き纏う。それはフォルスも同様だ。氷や雷ならば大気中の水分が必要になり、炎ならば酸素が必要になる。それがお前の場合は生命力だとはな」
「唯一の救いは僕1人分の寿命全部を使わなくても命を再生できたことかな」
カインははにかみながら言うが、ユージーンは依然として険しい表情のままだった。
「他の者には言わないのか?特にブライトは心配するのではないか?」
「うん……。でも今は余計な心配はかけたくないんだ。全部終わったらみんなに話すよ」
「そうか……」
その頃にはまたティトレイが怒り出すのだろうなとユージーンは思いながらも頷いた。
「それに、今ここで置いていかれる訳にはいかないよ。どうせ、ジーク君は振り向いてくれないだろうけどさ」
「お前にしては弱腰だな」
ジークに関してはいつも強気だったカインが突然しおらしくなったことにユージーンは違和感を感じた。
「僕、ジーク君に必要だって言われて本当に嬉しかったんだ。あんなバカな真似をした僕をまだ必要してくれるヒトがいるんだって。でも……それはジーク君も一緒なんだ」
破壊のフォルスを手にしたことで最早壊すことしかできないと思っていたジーク。
しかし、そんな彼に護ってほしいと掛けられた言葉は彼にってどれだけ救いになったか。
同じ体験をしたカインはジークの気持ちが痛いほどよく分かり、分かるぶんだけいたたまれない気持ちになる。
「そういった事に関しては大した助言はできないが、今お前が慌てる必要は無い。お前らにはまだまだ時間があるのだからな」
ユージーンはカインの肩を優しく叩くと、カインはユージーンの顔をみた。
「ありがとう、ユージーン」
「なに、気にするな!俺もお前が仲間でいてくれたほうが心強いからな」
ユージーンは笑いながら言うと、カインはもう一度礼を言った。
そして一方でマオが向かった船室では修羅場が起きていた。
「ねぇマオ。なんであの時すぐに詠唱をとめたの?」
船室ではヴェイグ、アニー、ティトレイ、ヒルダ、ブライト、ジンの6人がカードで遊んでおり、その壁際では機嫌を悪そうにしたルルがマオに言い寄っていた。
今日はよく問い詰められるなぁと思いながらもマオは必死に質問した。
「あ、あの時って?」
壁に背を当て、とうとう追い詰められたマオは訊ねるが、ルルは頬を膨らませながら尚も機嫌が悪いまま答えた。
「マティアスが武器をしまえって言った時!あの時導術を使ってれば勝てたんじゃないの?」
「それは無理なんじゃないかな〜?もし反撃されたらただじゃ済まなかっただろうし……」
マオは後ろ髪をかきながら言うと、ルルは腕を組んで目線を逸らした。
「そんなこと言って……本当はマティアスのウィンクにときめいちゃったんじゃないの?」
確かにあの時マティアスはマオにウィンクしており、ちょうどそのタイミングに詠唱を止めたのは事実であった。
「だからって、それはないって!」
マオは声を張って否定するがルルは「…本当に?」と上目遣いでまだ疑っている。
「そういえばあの時、マオの顔が少し赤くなってたっけ。あっ、ティトレイそれダウトね」
「ほらやっぱりぃ〜!!」
「赤くなってないヨ!!そもそもジンはボク達より前にいたんだから見てる訳ないじゃん!!」
マオは火に油を注いだジンに向かって怒鳴ると、ティトレイが大量のカードを回収していた。
「いいえ、嘘ではないわよ?私も隣で見たもの」
「ヒルダまで何言い出すのさ!?」
「マ〜オ〜〜?」
眠れる獅子が呼び起こされそうになる傍らで、ジンとヒルダはくすりと笑いあった。
「ブライトダウトだぜ!!」
「お前バカだろ……。そんだけ手札あんだから考えろよ」
ティトレイが涙を流しながらカードを回収し、さりげなくヴェイグが最後のカードを出し終わった時だった。
突然鈍い音が船内に響き渡ると共に、船体が大きく傾いた。
爆発音が聞こえなかったことからエンジンの故障ではないと推測した一同は急いで甲板へ向かった。
船首へ向かおうにも一旦甲板へ出て、そこから連絡通路を通る必要があるため必然的に甲板へ出ることになる。
しかし甲板では巨大なイカのようなバイラスが触手を船体へ絡ませており、どうやら甲板へ出て正解のようだった。
「ったく、海は怪物だらけだな」
ブライトは両手に銃を構えると、船首にいたジーク達も合流した。
殺気を感じた巨大イカは体を船体に乗せると、二本の触手をヴェイグとジンへ伸ばしてきた。
2人はそれを横に跳ねて回避した後、ジンは触手を切り上げ、ヴェイグは絶氷斬にて斬りつけながら触手を凍結させた。
しかし触手は切れることがなく、ジンによって切り上げられた触手はダメージはあったらしく怯むように歪み、もう一本の触手は凍った触手を砕くために甲板へ叩きつけている。
それにより甲板は大きく揺れた。
「大人しくしろっての!」
ティトレイは触手を掻い潜り、本体の前へと出ると両手を勢い良く突き出す轟裂破を叩き込み、本体はうねった。
そしてそこへブライトの詠唱が終わり、グラビティが先程凍結した触手を完全に押しつぶした。
すると巨大イカは激痛のあまり船体を絡んでいた触手を離すが、その触手を含めた全ての触手をヴェイグ達へ伸ばしてきた。
そこでアニーのパワークラフトにより攻撃力が上昇しているフィオナが思いっきり扇を振った。
「サイクロン!!」
竜巻によって触手が跳ね返されたイカであったが、それでも一本の触手が伸びる。
「裁きの十字架よ、敵を撃て!」
そこへマオの詠唱が終了する。
「ブラッディクロス!」
伸ばされた触手の真下から出現した十字架は障害物をもろともせずそびえ立ち、触手を切断した。
「そこだっ!!」
竜巻が止んだのを見計らい、触手を跳躍しながらかわすと、ジークとカインは同時にイカ本体を殴り飛ばした。
「大地よ吼えよ、全て葬り去るがいい」
そして、ヒルダの詠唱が終わる。
「グランドダッシャー!!」
ヒルダが自分の目の前で腕をクロスさせると、イカの真下より無数の岩が隆起することでイカは下部より殴りつけられ、最後に中央より巨大な岩槍により突き上げられた。
巨体が打ち上げられるとその巨大な影により甲板は暗くなり、そんな中ユージーンが槍を突き出しながら跳躍した。
「裂駆槍!!」
風を切り、十分に勢いのついたその槍はイカ本体を貫くと、ユージーンは甲板の先端に着地し、巨大なイカは深海へと沈んでいった。
「あー気持ち悪かった。もっと可愛いバイラスとかいないのかしら?」
「そんなのいたら逆にたおせねぇだろ……」
フィオナの愚痴にジークが突っ込んでいると、海に魚影が見えた。
それは素早く海から跳ね上がると、サメのようなバイラスは鋭い牙を持つ口をあけてルルへ飛び掛った。
「あぶないっ!!」
そこへマティアスが素早くルルを抱き、軽快に跳ねながら甲板の中央でルルを降ろした。
「あ、ありがとう……」
「礼には及ばないわ」
マティアスはニコっと笑うと、ジークも胸を撫で下ろした。
「まさかもう一匹いたとはな」
ティトレイが拳をぶつけるなか、ルルも如意棒を構えなおした。
「もう許さないんだから…!!」
ルルは小さく呟くと、再びサメのバイラスがルルへ飛び掛ってきた。
幸か不幸か、バイラスは標的をルルに絞っているようだ。
「蒼翔閃!」
ルルは如意棒を細くしたまま一気に伸ばすと、サメの口を弾き宙へ舞い上がった。
そこへルルも高く跳躍し一回如意棒を振り上げると、振り下ろすのと同時に如意棒を太くさせた。
その巨大な如意棒に押し潰されたサメは甲板に埋め込まれた。
「おい……甲板にヒビが入ったぞフリィース長男」
「あぁ、そうだな」
これは誰が責任をとるんだと言いたげな口調でブライトはジークに言うが、ジークはルルが無事なら何でもよかった。
しかし、まだ安心するには早かった。
甲板の先、船の後方部の波が一際大きく盛り上がると、その中から船体の2倍はあるであろうクジラのようなバイラスが姿を現した。
「次から次へと…!!」
ヴェイグは大剣を構えるが、クジラのバイラスは大きな口を開き、船体を丸呑みする勢いだった。
「しょうがないわねぇ!!」
マティアスは甲板の先端に立つと、闘気を両手に集中させた。
そして、一気に突き出す。
「爆竜拳!!」
突き出された両手からクジラの半分のサイズではあるが龍を象(かたど)った閃光がクジラの口内上顎と衝突した。
クジラのバイラスは大気が震えるような唸り声を上げながら口から煙を出し、海の中へひっくり返った。
「怪獣大戦争かよ……」
ティトレイが唖然としていると、クジラは海中で体勢を立て直したのか再び浮上し、接近してきた。
(チッ……。やっぱり武器が無いと威力も全然落ちるわね……)
マティアスは苦虫を噛み締めたような顔をしていると、アニーが不意に大陸方面を指差した。
「あれ、誰か走ってきます!」
「海の上で誰か走ってくるって、そんな間違った表現……」
誰から教わったんだとブライトが突っ込む前に、彼自身で現実を見てしまった。
アニーの言うとおり、ピンクの羽織を着たオレンジの髪をした人物が海の上を走ってきていた。
その人物はどこからともなくビームサーベルを抜き出すと、クジラの脇腹へ入った。
「秋沙雨」
ピンクの羽織をなびかせながらその人物は突きの体勢に入り、無数の突きを繰り出した。
その突きが一撃一撃入る毎にクジラの体はめり込み、悲鳴を上げた。
そして、最後に切り上げると、そのクジラの巨体は大きく打ちあがったが、海に落下した後すぐさま逃げていった。
「逃がしたか、さすがにしぶといな……」
その人物は縦笛のような物にビームサーベルをしまうと、クジラが海に叩きつけられた衝撃ですっかり海水を被ったヴェイグ達のいる甲板へと跳躍した。
「もしかして英雄御一行……かな?」
中性的な声で男女の区別が付かなかったが、その羽織を着た人物はユージーンを見た後、服の裾を絞るマティアスを見た。
「龍が見えたからまさかとは思ったけど……。へぇ?君が集団行動をするなんてね」
「べっ、別に貴方には関係無いでしょ!?ついでに、私はこいつらの監視をしてるだけ。武器さえあればあんなバイラス楽勝だったんだから」
「ははは、分かってるよ」
顔も中性的な顔をしている人物は笑ったが、ヴェイグ達は完全に置いていかれていた。
そこでマオが手を上げながら質問した。
「えっと、君も王の剣なの?」
「残念だけど外れだよ。僕の名前はレラーブ・エリズィオン。所属は……第二王子のお目付け役みたいなものかな?今調度その王子を探しているんだけど、君達知らないかな?」
マティアスと仲良さそうにしているレラーブと名乗った人物は、彼女と違って感情に起伏はないが、冷静な物腰で優しく微笑みかけてきた。
レラーブの問いには勿論全員が心当たりがなく、首を縦に振る者はいなかった。
第2王子とは一体……。
〜続く〜
【※レラーブ・エリズィオンがキャラクター名鑑(下)に追加されました】
甲板にてカインはユージーンに訊ねると、ユージーンは拳をアゴにあてながら答えた。
「話というのはお前のフォルスついてだ」
カインは眉をピクリと動かし、ユージーンは続けた。
「これは俺の勝手な憶測に過ぎないのだが……お前がヒトの命を再生する時、自らの寿命を代償としているのではないか?」
「な…なんでそう思うの?」
カインは俯きながら拳に力を込めた。
「俺が死んだあの時、生き返る時に体の中へ生命の息吹が流れ込むのを感じた。だがあれは俺の生命ではなく、外部からによるものだと感じだ。残念ながら上手くは表現できないのだが、俺と同じくお前に再生されたジークの様子を思い返してみると俺の仮定は強ち間違っていないと思ってな」
ブライトとユージーン達が剣を交えている間、ジークは誰も死なないようにと心配していた。
例え死んだとしてもカインのフォルスにより再生できるのだから本来であれば杞憂であるのだが、ジークはそれにより削られるカインの寿命を心配していたのだろう。
そして、つい先刻もバイラスから攻撃を受けた傷もカインの再生を拒んでいた。
それを聞いたカインは拳をゆっくりと解くと、息を一回吐いた。
「さすが、勘が鋭いね。折角ジーク君も気を遣って気付かないフリをしていてくれてたのに」
「大きすぎる力には常に代償が付き纏う。それはフォルスも同様だ。氷や雷ならば大気中の水分が必要になり、炎ならば酸素が必要になる。それがお前の場合は生命力だとはな」
「唯一の救いは僕1人分の寿命全部を使わなくても命を再生できたことかな」
カインははにかみながら言うが、ユージーンは依然として険しい表情のままだった。
「他の者には言わないのか?特にブライトは心配するのではないか?」
「うん……。でも今は余計な心配はかけたくないんだ。全部終わったらみんなに話すよ」
「そうか……」
その頃にはまたティトレイが怒り出すのだろうなとユージーンは思いながらも頷いた。
「それに、今ここで置いていかれる訳にはいかないよ。どうせ、ジーク君は振り向いてくれないだろうけどさ」
「お前にしては弱腰だな」
ジークに関してはいつも強気だったカインが突然しおらしくなったことにユージーンは違和感を感じた。
「僕、ジーク君に必要だって言われて本当に嬉しかったんだ。あんなバカな真似をした僕をまだ必要してくれるヒトがいるんだって。でも……それはジーク君も一緒なんだ」
破壊のフォルスを手にしたことで最早壊すことしかできないと思っていたジーク。
しかし、そんな彼に護ってほしいと掛けられた言葉は彼にってどれだけ救いになったか。
同じ体験をしたカインはジークの気持ちが痛いほどよく分かり、分かるぶんだけいたたまれない気持ちになる。
「そういった事に関しては大した助言はできないが、今お前が慌てる必要は無い。お前らにはまだまだ時間があるのだからな」
ユージーンはカインの肩を優しく叩くと、カインはユージーンの顔をみた。
「ありがとう、ユージーン」
「なに、気にするな!俺もお前が仲間でいてくれたほうが心強いからな」
ユージーンは笑いながら言うと、カインはもう一度礼を言った。
そして一方でマオが向かった船室では修羅場が起きていた。
「ねぇマオ。なんであの時すぐに詠唱をとめたの?」
船室ではヴェイグ、アニー、ティトレイ、ヒルダ、ブライト、ジンの6人がカードで遊んでおり、その壁際では機嫌を悪そうにしたルルがマオに言い寄っていた。
今日はよく問い詰められるなぁと思いながらもマオは必死に質問した。
「あ、あの時って?」
壁に背を当て、とうとう追い詰められたマオは訊ねるが、ルルは頬を膨らませながら尚も機嫌が悪いまま答えた。
「マティアスが武器をしまえって言った時!あの時導術を使ってれば勝てたんじゃないの?」
「それは無理なんじゃないかな〜?もし反撃されたらただじゃ済まなかっただろうし……」
マオは後ろ髪をかきながら言うと、ルルは腕を組んで目線を逸らした。
「そんなこと言って……本当はマティアスのウィンクにときめいちゃったんじゃないの?」
確かにあの時マティアスはマオにウィンクしており、ちょうどそのタイミングに詠唱を止めたのは事実であった。
「だからって、それはないって!」
マオは声を張って否定するがルルは「…本当に?」と上目遣いでまだ疑っている。
「そういえばあの時、マオの顔が少し赤くなってたっけ。あっ、ティトレイそれダウトね」
「ほらやっぱりぃ〜!!」
「赤くなってないヨ!!そもそもジンはボク達より前にいたんだから見てる訳ないじゃん!!」
マオは火に油を注いだジンに向かって怒鳴ると、ティトレイが大量のカードを回収していた。
「いいえ、嘘ではないわよ?私も隣で見たもの」
「ヒルダまで何言い出すのさ!?」
「マ〜オ〜〜?」
眠れる獅子が呼び起こされそうになる傍らで、ジンとヒルダはくすりと笑いあった。
「ブライトダウトだぜ!!」
「お前バカだろ……。そんだけ手札あんだから考えろよ」
ティトレイが涙を流しながらカードを回収し、さりげなくヴェイグが最後のカードを出し終わった時だった。
突然鈍い音が船内に響き渡ると共に、船体が大きく傾いた。
爆発音が聞こえなかったことからエンジンの故障ではないと推測した一同は急いで甲板へ向かった。
船首へ向かおうにも一旦甲板へ出て、そこから連絡通路を通る必要があるため必然的に甲板へ出ることになる。
しかし甲板では巨大なイカのようなバイラスが触手を船体へ絡ませており、どうやら甲板へ出て正解のようだった。
「ったく、海は怪物だらけだな」
ブライトは両手に銃を構えると、船首にいたジーク達も合流した。
殺気を感じた巨大イカは体を船体に乗せると、二本の触手をヴェイグとジンへ伸ばしてきた。
2人はそれを横に跳ねて回避した後、ジンは触手を切り上げ、ヴェイグは絶氷斬にて斬りつけながら触手を凍結させた。
しかし触手は切れることがなく、ジンによって切り上げられた触手はダメージはあったらしく怯むように歪み、もう一本の触手は凍った触手を砕くために甲板へ叩きつけている。
それにより甲板は大きく揺れた。
「大人しくしろっての!」
ティトレイは触手を掻い潜り、本体の前へと出ると両手を勢い良く突き出す轟裂破を叩き込み、本体はうねった。
そしてそこへブライトの詠唱が終わり、グラビティが先程凍結した触手を完全に押しつぶした。
すると巨大イカは激痛のあまり船体を絡んでいた触手を離すが、その触手を含めた全ての触手をヴェイグ達へ伸ばしてきた。
そこでアニーのパワークラフトにより攻撃力が上昇しているフィオナが思いっきり扇を振った。
「サイクロン!!」
竜巻によって触手が跳ね返されたイカであったが、それでも一本の触手が伸びる。
「裁きの十字架よ、敵を撃て!」
そこへマオの詠唱が終了する。
「ブラッディクロス!」
伸ばされた触手の真下から出現した十字架は障害物をもろともせずそびえ立ち、触手を切断した。
「そこだっ!!」
竜巻が止んだのを見計らい、触手を跳躍しながらかわすと、ジークとカインは同時にイカ本体を殴り飛ばした。
「大地よ吼えよ、全て葬り去るがいい」
そして、ヒルダの詠唱が終わる。
「グランドダッシャー!!」
ヒルダが自分の目の前で腕をクロスさせると、イカの真下より無数の岩が隆起することでイカは下部より殴りつけられ、最後に中央より巨大な岩槍により突き上げられた。
巨体が打ち上げられるとその巨大な影により甲板は暗くなり、そんな中ユージーンが槍を突き出しながら跳躍した。
「裂駆槍!!」
風を切り、十分に勢いのついたその槍はイカ本体を貫くと、ユージーンは甲板の先端に着地し、巨大なイカは深海へと沈んでいった。
「あー気持ち悪かった。もっと可愛いバイラスとかいないのかしら?」
「そんなのいたら逆にたおせねぇだろ……」
フィオナの愚痴にジークが突っ込んでいると、海に魚影が見えた。
それは素早く海から跳ね上がると、サメのようなバイラスは鋭い牙を持つ口をあけてルルへ飛び掛った。
「あぶないっ!!」
そこへマティアスが素早くルルを抱き、軽快に跳ねながら甲板の中央でルルを降ろした。
「あ、ありがとう……」
「礼には及ばないわ」
マティアスはニコっと笑うと、ジークも胸を撫で下ろした。
「まさかもう一匹いたとはな」
ティトレイが拳をぶつけるなか、ルルも如意棒を構えなおした。
「もう許さないんだから…!!」
ルルは小さく呟くと、再びサメのバイラスがルルへ飛び掛ってきた。
幸か不幸か、バイラスは標的をルルに絞っているようだ。
「蒼翔閃!」
ルルは如意棒を細くしたまま一気に伸ばすと、サメの口を弾き宙へ舞い上がった。
そこへルルも高く跳躍し一回如意棒を振り上げると、振り下ろすのと同時に如意棒を太くさせた。
その巨大な如意棒に押し潰されたサメは甲板に埋め込まれた。
「おい……甲板にヒビが入ったぞフリィース長男」
「あぁ、そうだな」
これは誰が責任をとるんだと言いたげな口調でブライトはジークに言うが、ジークはルルが無事なら何でもよかった。
しかし、まだ安心するには早かった。
甲板の先、船の後方部の波が一際大きく盛り上がると、その中から船体の2倍はあるであろうクジラのようなバイラスが姿を現した。
「次から次へと…!!」
ヴェイグは大剣を構えるが、クジラのバイラスは大きな口を開き、船体を丸呑みする勢いだった。
「しょうがないわねぇ!!」
マティアスは甲板の先端に立つと、闘気を両手に集中させた。
そして、一気に突き出す。
「爆竜拳!!」
突き出された両手からクジラの半分のサイズではあるが龍を象(かたど)った閃光がクジラの口内上顎と衝突した。
クジラのバイラスは大気が震えるような唸り声を上げながら口から煙を出し、海の中へひっくり返った。
「怪獣大戦争かよ……」
ティトレイが唖然としていると、クジラは海中で体勢を立て直したのか再び浮上し、接近してきた。
(チッ……。やっぱり武器が無いと威力も全然落ちるわね……)
マティアスは苦虫を噛み締めたような顔をしていると、アニーが不意に大陸方面を指差した。
「あれ、誰か走ってきます!」
「海の上で誰か走ってくるって、そんな間違った表現……」
誰から教わったんだとブライトが突っ込む前に、彼自身で現実を見てしまった。
アニーの言うとおり、ピンクの羽織を着たオレンジの髪をした人物が海の上を走ってきていた。
その人物はどこからともなくビームサーベルを抜き出すと、クジラの脇腹へ入った。
「秋沙雨」
ピンクの羽織をなびかせながらその人物は突きの体勢に入り、無数の突きを繰り出した。
その突きが一撃一撃入る毎にクジラの体はめり込み、悲鳴を上げた。
そして、最後に切り上げると、そのクジラの巨体は大きく打ちあがったが、海に落下した後すぐさま逃げていった。
「逃がしたか、さすがにしぶといな……」
その人物は縦笛のような物にビームサーベルをしまうと、クジラが海に叩きつけられた衝撃ですっかり海水を被ったヴェイグ達のいる甲板へと跳躍した。
「もしかして英雄御一行……かな?」
中性的な声で男女の区別が付かなかったが、その羽織を着た人物はユージーンを見た後、服の裾を絞るマティアスを見た。
「龍が見えたからまさかとは思ったけど……。へぇ?君が集団行動をするなんてね」
「べっ、別に貴方には関係無いでしょ!?ついでに、私はこいつらの監視をしてるだけ。武器さえあればあんなバイラス楽勝だったんだから」
「ははは、分かってるよ」
顔も中性的な顔をしている人物は笑ったが、ヴェイグ達は完全に置いていかれていた。
そこでマオが手を上げながら質問した。
「えっと、君も王の剣なの?」
「残念だけど外れだよ。僕の名前はレラーブ・エリズィオン。所属は……第二王子のお目付け役みたいなものかな?今調度その王子を探しているんだけど、君達知らないかな?」
マティアスと仲良さそうにしているレラーブと名乗った人物は、彼女と違って感情に起伏はないが、冷静な物腰で優しく微笑みかけてきた。
レラーブの問いには勿論全員が心当たりがなく、首を縦に振る者はいなかった。
第2王子とは一体……。
〜続く〜
【※レラーブ・エリズィオンがキャラクター名鑑(下)に追加されました】
■作者メッセージ
ども〜!休み明けのtakeshiです。
1日1回更新を目指していたのですが、早速挫折してしまいました;
さて、今回また新キャラが登場しました。
レラーブ・何ちゃらです。
ファミリーネームはどうでも良いので覚えなくても大丈夫です。
ただ彼の場合は結構重要キャラなので、名前だけでも覚えててやってください。
恐らく今頃は↑に【追加されました】と出ていると思いますが、今日は少し時間がないのでキャラクター名鑑には明日追加します。
ついでにジークがラジルダで会った金髪の青年も追加しておこうと思います。
特に意味はないんですがね、前の名鑑にも載ってたとのことだったので。
しっかし、相変わらず戦闘描写は苦手です・・・。
テイルズの売りなのに苦手です・・・。
頑張らなくては・・・!!
ちなみに今回のタイトルも苦し紛れの産物です。
申し訳ありません。
ではまた〜
1日1回更新を目指していたのですが、早速挫折してしまいました;
さて、今回また新キャラが登場しました。
レラーブ・何ちゃらです。
ファミリーネームはどうでも良いので覚えなくても大丈夫です。
ただ彼の場合は結構重要キャラなので、名前だけでも覚えててやってください。
恐らく今頃は↑に【追加されました】と出ていると思いますが、今日は少し時間がないのでキャラクター名鑑には明日追加します。
ついでにジークがラジルダで会った金髪の青年も追加しておこうと思います。
特に意味はないんですがね、前の名鑑にも載ってたとのことだったので。
しっかし、相変わらず戦闘描写は苦手です・・・。
テイルズの売りなのに苦手です・・・。
頑張らなくては・・・!!
ちなみに今回のタイトルも苦し紛れの産物です。
申し訳ありません。
ではまた〜