第9話『カレーとベルト』
「第2王子というとアガーテ陛下の親族か。陛下にご姉弟がいたことなど、俺は初耳だが?」
ユージーンは拳を顎にあてながら言うと、レラーブは相変わらず笑顔で返した。
「うん、暗殺の可能性もあるから本当は内密なんだ。だから、君達も誰にも言わないでね」
「姉弟といっても腹違いなのよ。ちなみに、他にあと3人王子と王女がいたのだけれど両方とも既に暗殺済み。第2王子は私の仕事だったのだけど、こいつに邪魔された所為で失敗に終わったって訳」
マティアスはレラーブを睨んだが、レラーブは表情を微動だにさせなかった。
そもそも先程からこの2人は顔見知りのような素振りをみせていたが、どうやらマティアスが王子暗殺の命を受けた際に、そのお目付け役と刃を交えていたとのことだった。
更に失敗に終わったという言動から、マティアスはレラーブに負けたということが分かり、一同はレラーブの実力の程を測りかねていた。
しかし、一つ疑問が浮かび上がる。
「第2王子の暗殺にマティアスが係わっているということは、王の剣が関連しているのか?」
ヴェイグが疑問を投げかけると、マティアスは何食わぬ顔で答えた。
「そうよ?ラドラス陛下の尊厳を守るために元老院から命令されたの。おかげで失敗した私は酷い目にあったわ……」
マティアスは自分の体を強く抱きしめながら言い、彼女達が任務を第1に考える理由がなんとなく分かった気がした。
しかしマティアスはすぐに冷静な表情になると、レラーブに詰め寄った。
「というか、未だに王子を見つけられない貴方はこんなところで機密事項をベラベラと喋ってる暇があるのかしら?」
「うん、そうだね。王子を探し始めてからもう1年がたってしまった。いざ探してみると意外と見つからないものだね……」
そんなに長い間探しているのかと呆れるマオ達を無視して、レラーブは再び海へと飛び込んでいった。
「お、おい!!」
ティトレイは急いで手摺から乗り出し眼下で波打つ海を見ると、レラーブは平然と手を振りながらこちらを向いていた。
「君達ももし王子を見つけたら僕に知らせてね。王っていう言葉が口癖みたいな人だから、会えばすぐに分かるよ」
それだけ言い残してレラーブは夕日に染まる海の上を走り去って行った。
「どうやって海の上に立っているんでしょうか?」
先程レラーブの足元を確認したが下駄という特殊な物を履いてはいたが、別段特殊な加工を施してあるようには見えなかった。
アニーが小さくなるレラーブの姿を見送りながら疑問を口にすると、マティアスが髪をかきあげながら機嫌悪そうに答えた。
「どういう原理かは私も知らないけど、秋のフォルスのおかげだって昔自慢気に言ってたわ」
どうやらレラーブは秋のフォルスを持っているらしい。
アニーが「素敵なフォルスですね」と言う傍らで、マオは腕を頭の後ろで組んだ。
「ていうかさ、マティアスとレラーブって仲良いよネ」
それを聞いたマティアスの表情は途端に黒い物へと豹変した。
「次つまらないこと言ったら、消すわよ?」
「は、はい……」
何時にもまして機嫌が悪く、その低い声はマオを脅すのに十分すぎた。
そしてしばらくすると船は再び動き始め、冷たい風が頬を撫でた。
「冷えてきたわね」
ヒルダが自分の腕をさすりながら言うと、ユージーンは大陸方面を見た。
「そろそろビビスタ地方にさしかかるのだろう。あの辺りは夜になると冷えるからな。早めに船室に戻ったほうがいいだろう」
ユージーンが視線を中間達に戻すと、一人足りないことに気付いた。
「ジークはどうした?」
「兄さんならついさっき船室に戻ったみたいだけど?」
本当に寒いのが苦手なやつだと一同は思いながらも、気温は日が沈むにつれて少しずつ下がってきたため、ヴェイグ達も船室へ戻ることにした。
「そういえば、ブライト達の街まであとどれくらいで着くんだ?」
ヴェイグはまだ聞いてなかったと思いブライトに訊ねた。
「定期船だと1日かかるからな。明日の夕方頃には着くんじゃねぇか?」
それを聞いてヴェイグ達は絶句した。
「そんなにかかるの!?ちょっと、聞いてない!!」
フィオナは怒鳴るが、仕方ないものは仕方なかった。
それでもブツブツと文句を言い続けるフィオナをよそにヴェイグ達は濡れた体をなんとかするために一旦シャワーを浴び、その後大客室の扉を開いた。
この定期船には小さな船室の他に、お客が全員で食事をするための大客室が用意されている。
他の定期船に比べ長距離用の船のため他にも色々と用意されているのだが、そのため何隻も長距離用の定期船を造ることはできず、1日に出航する便も限られているのである。
マティアスは機嫌が悪いため、別室にいるといって別行動をとり、大客室の中央に設置されている暖房の前にはジークが陣取っていた。
大客室には両端にテーブルが設置されており、中央には談笑用に円を描くように繋がったイスが用意されていた。
そのイスは中央の暖房を挟んで前後に二つ用意されており、今ジークは手前側の円型イスに座っているので一同はそのイスに腰を下ろした。
「そういえばさっきレラーブが言ってた王が口癖みたいな王子だけどさ」
唐突にジンがジークに話を振ると、特にすることもないので全員が注目した。
「その話を聞いて思い出したんだけど随分前にオーちゃんって子がいたよね」
「……あぁ、そういえばいたなそんなの。いつの間にか居なくなっちまったやつだろ?」
ジークは少し考えた後思い出したが、ルルは眉間にシワを寄せていた。
「え〜?私知らないよ?」
「知らないって、俺はお前が連れてきたって聞いたぞ?」
ブライトは意外だというように言ったが、ルルは余計に悩み始めた。
「つっても、6年も昔のことだからな。ルルは覚えてなくても仕方ねぇか」
そういう訳で時間も有り余る程あるためブライトは昔話をすることにした。
その昔話はとある海岸から始まる。
海は空の色を反射し真っ青に染まり、小さな波が白い砂浜の上を往復している。
そんな波打ち際で1人の少女、当時7歳のルルは体育座りをして丸くなっていた。
「はぁ〜……」
ルルは溜息をつくと顔を膝の中へ埋(うず)めてしまう。
すると、波に乗って1人の男性がルルの前へと漂着した。
その男はまだ幼く深海のような青い頭から猫の耳を生やしており、尻尾もあった。
砂浜に打ち付けられた少年はうつ伏せのまま起き上がることもなく、まるで死んでいるかのようだった。
「はぁ〜……」
ルルは顔を上げながらもう一度大きな溜息をつくと、ちかくにあった棒切れを座ったまま海に投げた。
「くぉっら貴様!!人が倒れているというのに無視か!?」
その少年はやけに偉そうな口調で怒鳴りながら顔だけと突然上げた。
「ふぇっ!?」
ルルはゾンビでも見たかのような顔で驚き、後ろに手をついた。
「俺の存在は棒切れ以下なのか……?」
その少年の顔はヒューマの顔立ちをしており、猫とヒューマのハーフのようだった。
年齢は6歳のルルより少し上のようにみえ、ルルはとりあえずお兄ちゃんと呼んだ。
「お兄ちゃん……怪我してるの?」
先程からうつ伏せのまま起き上がろうとしない少年を心配し、問うたが見る限り外傷はない。
「いや、身体的外傷はない。吹っ飛ばされた時はさすがに死んだかと思ったがな」
「吹っ飛ばされたって…お兄ちゃんも誰かと喧嘩したの?」
「いや、喧嘩ではない。いや、喧嘩かもしれんが巻き込まれた、と言うほうが適切かもしれんな」
そこまで少年が言うと、突然ギュルルル〜っと情けない音が木霊した。
「……誰か貴様の家族でも呼んできてはもらえないだろうか?さっきから腹が減って立てんのだ」
うつ伏せのままだったのはその為らしい。
だが、ルルは体育座りの体勢に戻ると顔を埋(うず)めてしまった。
「やだ……帰ったらお姉ちゃんとジークお兄ちゃんが喧嘩してるもん……」
「むぅ……ならば他に手はないのか?腹が空いているとはいえ、もう少しは歩けそうだ」
「だったら家に来れば何か食べさせてあげられるかも……」
ルルは閃いたように顔を上げると、少年の顔も晴れた。
「おぉ!ということは案内してくれるのだな!?」
「やだ……帰ったらお姉ちゃんとジークお兄ちゃんが喧嘩してるもん……」
再びルルは顔を埋めると、少年の顔も曇った。
「(まずい……これでは埒(らち)があかん……)わ、分かった……。ではこうしよう。俺が貴様の姉上と兄上の仲を取り持ってやろう。その報酬として飯をいただく。どうだ?」
「……いい。どうせ、できないもん」
即答された。
「む、無理ではない!世の中やってみなければ分からぬこともある!そう、一国の王にだってなれるのだ!」
「……オー?」
「うむ、王だ」
ルルが顔を上げると、今度こそチャンスを逃がさんと言わんばかりに少年は強く頷いた。
「……キミはオーになりたいの?」
「それが俺の夢だ」
ルルは「ふぅ〜ん……」と何か考えながら呟いた後、おもむろに立ち上がった。
「じゃあ私がオーって呼んであげるよ!」
「おぉそうか!……いやそうではない。まずは飯だ。そして貴様の兄上と姉上だ」
「……本当に、仲直りさせてくれるの?」
ルルは膝を立てまま座ると、少年は再び力強く頷いた。
ここでこの子の心を掴み損なっては最早次はない。
何故ならタイムリミットはもうすぐそこまで来ているからである。
お腹のタイムリミットが。
「最初からそう言っている。だが早くせねば俺が先に死んでしまいそうだ」
「わ、分かった!案内してあげる!立てる?オーちゃん」
「お、オーちゃん?……まぁ良い。少し、肩を貸してくれると助かる」
ルルは自分より少し背の高い少年に肩を貸すと、少年はルルの肩に腕をまわしなんとか立ち上がった。
「すまない。そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はルーベルトだ」
「ルー……ベルト?カレーでベルトなのにO(オー)になりたいなんて変わってるね?ていうかどういうこと?」
「いや、貴様の脳内がどうなってるの?と俺は突っ込みたい」
「ま、いいや!私はルル・フリィース。よろしくね、オーちゃん!」
「う、うむ……。ところでその指は大丈夫なのか?」
オーちゃんはルルの指に何枚も貼られている絆創膏を見て言うと、ルルは照れくさそうに笑った。
「う、うん。これは、何でもないの」
こうしてオーちゃんはルルに引き摺(ず)られながらフリィース家へと運ばれて行った。
〜続く〜
【※キャラクター名鑑(下)にルーベルトが追加されました】
ユージーンは拳を顎にあてながら言うと、レラーブは相変わらず笑顔で返した。
「うん、暗殺の可能性もあるから本当は内密なんだ。だから、君達も誰にも言わないでね」
「姉弟といっても腹違いなのよ。ちなみに、他にあと3人王子と王女がいたのだけれど両方とも既に暗殺済み。第2王子は私の仕事だったのだけど、こいつに邪魔された所為で失敗に終わったって訳」
マティアスはレラーブを睨んだが、レラーブは表情を微動だにさせなかった。
そもそも先程からこの2人は顔見知りのような素振りをみせていたが、どうやらマティアスが王子暗殺の命を受けた際に、そのお目付け役と刃を交えていたとのことだった。
更に失敗に終わったという言動から、マティアスはレラーブに負けたということが分かり、一同はレラーブの実力の程を測りかねていた。
しかし、一つ疑問が浮かび上がる。
「第2王子の暗殺にマティアスが係わっているということは、王の剣が関連しているのか?」
ヴェイグが疑問を投げかけると、マティアスは何食わぬ顔で答えた。
「そうよ?ラドラス陛下の尊厳を守るために元老院から命令されたの。おかげで失敗した私は酷い目にあったわ……」
マティアスは自分の体を強く抱きしめながら言い、彼女達が任務を第1に考える理由がなんとなく分かった気がした。
しかしマティアスはすぐに冷静な表情になると、レラーブに詰め寄った。
「というか、未だに王子を見つけられない貴方はこんなところで機密事項をベラベラと喋ってる暇があるのかしら?」
「うん、そうだね。王子を探し始めてからもう1年がたってしまった。いざ探してみると意外と見つからないものだね……」
そんなに長い間探しているのかと呆れるマオ達を無視して、レラーブは再び海へと飛び込んでいった。
「お、おい!!」
ティトレイは急いで手摺から乗り出し眼下で波打つ海を見ると、レラーブは平然と手を振りながらこちらを向いていた。
「君達ももし王子を見つけたら僕に知らせてね。王っていう言葉が口癖みたいな人だから、会えばすぐに分かるよ」
それだけ言い残してレラーブは夕日に染まる海の上を走り去って行った。
「どうやって海の上に立っているんでしょうか?」
先程レラーブの足元を確認したが下駄という特殊な物を履いてはいたが、別段特殊な加工を施してあるようには見えなかった。
アニーが小さくなるレラーブの姿を見送りながら疑問を口にすると、マティアスが髪をかきあげながら機嫌悪そうに答えた。
「どういう原理かは私も知らないけど、秋のフォルスのおかげだって昔自慢気に言ってたわ」
どうやらレラーブは秋のフォルスを持っているらしい。
アニーが「素敵なフォルスですね」と言う傍らで、マオは腕を頭の後ろで組んだ。
「ていうかさ、マティアスとレラーブって仲良いよネ」
それを聞いたマティアスの表情は途端に黒い物へと豹変した。
「次つまらないこと言ったら、消すわよ?」
「は、はい……」
何時にもまして機嫌が悪く、その低い声はマオを脅すのに十分すぎた。
そしてしばらくすると船は再び動き始め、冷たい風が頬を撫でた。
「冷えてきたわね」
ヒルダが自分の腕をさすりながら言うと、ユージーンは大陸方面を見た。
「そろそろビビスタ地方にさしかかるのだろう。あの辺りは夜になると冷えるからな。早めに船室に戻ったほうがいいだろう」
ユージーンが視線を中間達に戻すと、一人足りないことに気付いた。
「ジークはどうした?」
「兄さんならついさっき船室に戻ったみたいだけど?」
本当に寒いのが苦手なやつだと一同は思いながらも、気温は日が沈むにつれて少しずつ下がってきたため、ヴェイグ達も船室へ戻ることにした。
「そういえば、ブライト達の街まであとどれくらいで着くんだ?」
ヴェイグはまだ聞いてなかったと思いブライトに訊ねた。
「定期船だと1日かかるからな。明日の夕方頃には着くんじゃねぇか?」
それを聞いてヴェイグ達は絶句した。
「そんなにかかるの!?ちょっと、聞いてない!!」
フィオナは怒鳴るが、仕方ないものは仕方なかった。
それでもブツブツと文句を言い続けるフィオナをよそにヴェイグ達は濡れた体をなんとかするために一旦シャワーを浴び、その後大客室の扉を開いた。
この定期船には小さな船室の他に、お客が全員で食事をするための大客室が用意されている。
他の定期船に比べ長距離用の船のため他にも色々と用意されているのだが、そのため何隻も長距離用の定期船を造ることはできず、1日に出航する便も限られているのである。
マティアスは機嫌が悪いため、別室にいるといって別行動をとり、大客室の中央に設置されている暖房の前にはジークが陣取っていた。
大客室には両端にテーブルが設置されており、中央には談笑用に円を描くように繋がったイスが用意されていた。
そのイスは中央の暖房を挟んで前後に二つ用意されており、今ジークは手前側の円型イスに座っているので一同はそのイスに腰を下ろした。
「そういえばさっきレラーブが言ってた王が口癖みたいな王子だけどさ」
唐突にジンがジークに話を振ると、特にすることもないので全員が注目した。
「その話を聞いて思い出したんだけど随分前にオーちゃんって子がいたよね」
「……あぁ、そういえばいたなそんなの。いつの間にか居なくなっちまったやつだろ?」
ジークは少し考えた後思い出したが、ルルは眉間にシワを寄せていた。
「え〜?私知らないよ?」
「知らないって、俺はお前が連れてきたって聞いたぞ?」
ブライトは意外だというように言ったが、ルルは余計に悩み始めた。
「つっても、6年も昔のことだからな。ルルは覚えてなくても仕方ねぇか」
そういう訳で時間も有り余る程あるためブライトは昔話をすることにした。
その昔話はとある海岸から始まる。
海は空の色を反射し真っ青に染まり、小さな波が白い砂浜の上を往復している。
そんな波打ち際で1人の少女、当時7歳のルルは体育座りをして丸くなっていた。
「はぁ〜……」
ルルは溜息をつくと顔を膝の中へ埋(うず)めてしまう。
すると、波に乗って1人の男性がルルの前へと漂着した。
その男はまだ幼く深海のような青い頭から猫の耳を生やしており、尻尾もあった。
砂浜に打ち付けられた少年はうつ伏せのまま起き上がることもなく、まるで死んでいるかのようだった。
「はぁ〜……」
ルルは顔を上げながらもう一度大きな溜息をつくと、ちかくにあった棒切れを座ったまま海に投げた。
「くぉっら貴様!!人が倒れているというのに無視か!?」
その少年はやけに偉そうな口調で怒鳴りながら顔だけと突然上げた。
「ふぇっ!?」
ルルはゾンビでも見たかのような顔で驚き、後ろに手をついた。
「俺の存在は棒切れ以下なのか……?」
その少年の顔はヒューマの顔立ちをしており、猫とヒューマのハーフのようだった。
年齢は6歳のルルより少し上のようにみえ、ルルはとりあえずお兄ちゃんと呼んだ。
「お兄ちゃん……怪我してるの?」
先程からうつ伏せのまま起き上がろうとしない少年を心配し、問うたが見る限り外傷はない。
「いや、身体的外傷はない。吹っ飛ばされた時はさすがに死んだかと思ったがな」
「吹っ飛ばされたって…お兄ちゃんも誰かと喧嘩したの?」
「いや、喧嘩ではない。いや、喧嘩かもしれんが巻き込まれた、と言うほうが適切かもしれんな」
そこまで少年が言うと、突然ギュルルル〜っと情けない音が木霊した。
「……誰か貴様の家族でも呼んできてはもらえないだろうか?さっきから腹が減って立てんのだ」
うつ伏せのままだったのはその為らしい。
だが、ルルは体育座りの体勢に戻ると顔を埋(うず)めてしまった。
「やだ……帰ったらお姉ちゃんとジークお兄ちゃんが喧嘩してるもん……」
「むぅ……ならば他に手はないのか?腹が空いているとはいえ、もう少しは歩けそうだ」
「だったら家に来れば何か食べさせてあげられるかも……」
ルルは閃いたように顔を上げると、少年の顔も晴れた。
「おぉ!ということは案内してくれるのだな!?」
「やだ……帰ったらお姉ちゃんとジークお兄ちゃんが喧嘩してるもん……」
再びルルは顔を埋めると、少年の顔も曇った。
「(まずい……これでは埒(らち)があかん……)わ、分かった……。ではこうしよう。俺が貴様の姉上と兄上の仲を取り持ってやろう。その報酬として飯をいただく。どうだ?」
「……いい。どうせ、できないもん」
即答された。
「む、無理ではない!世の中やってみなければ分からぬこともある!そう、一国の王にだってなれるのだ!」
「……オー?」
「うむ、王だ」
ルルが顔を上げると、今度こそチャンスを逃がさんと言わんばかりに少年は強く頷いた。
「……キミはオーになりたいの?」
「それが俺の夢だ」
ルルは「ふぅ〜ん……」と何か考えながら呟いた後、おもむろに立ち上がった。
「じゃあ私がオーって呼んであげるよ!」
「おぉそうか!……いやそうではない。まずは飯だ。そして貴様の兄上と姉上だ」
「……本当に、仲直りさせてくれるの?」
ルルは膝を立てまま座ると、少年は再び力強く頷いた。
ここでこの子の心を掴み損なっては最早次はない。
何故ならタイムリミットはもうすぐそこまで来ているからである。
お腹のタイムリミットが。
「最初からそう言っている。だが早くせねば俺が先に死んでしまいそうだ」
「わ、分かった!案内してあげる!立てる?オーちゃん」
「お、オーちゃん?……まぁ良い。少し、肩を貸してくれると助かる」
ルルは自分より少し背の高い少年に肩を貸すと、少年はルルの肩に腕をまわしなんとか立ち上がった。
「すまない。そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はルーベルトだ」
「ルー……ベルト?カレーでベルトなのにO(オー)になりたいなんて変わってるね?ていうかどういうこと?」
「いや、貴様の脳内がどうなってるの?と俺は突っ込みたい」
「ま、いいや!私はルル・フリィース。よろしくね、オーちゃん!」
「う、うむ……。ところでその指は大丈夫なのか?」
オーちゃんはルルの指に何枚も貼られている絆創膏を見て言うと、ルルは照れくさそうに笑った。
「う、うん。これは、何でもないの」
こうしてオーちゃんはルルに引き摺(ず)られながらフリィース家へと運ばれて行った。
〜続く〜
【※キャラクター名鑑(下)にルーベルトが追加されました】
■作者メッセージ
ども〜!昔話のtakeshiです。
この過去編も前々から書きたかったことだったのでついつい話が長くなってしまい、このペースだと3話〜4話位またぎそうです;
ちなみにもう1話分は既に完成しているので後は更新するのみですので、今日はこの辺で語ることがなくなります。
てな訳で!
次の回ではこのメッセージ欄を使ってオマケをやろうと思います!!
さてさて、どれほどの反感を買うのか・・・。
ちなみに、前回書きましたレラーブもきちんとキャラクター名鑑に載せましたので、まだ見てない方は一応確認お願いします。
ではまた〜
この過去編も前々から書きたかったことだったのでついつい話が長くなってしまい、このペースだと3話〜4話位またぎそうです;
ちなみにもう1話分は既に完成しているので後は更新するのみですので、今日はこの辺で語ることがなくなります。
てな訳で!
次の回ではこのメッセージ欄を使ってオマケをやろうと思います!!
さてさて、どれほどの反感を買うのか・・・。
ちなみに、前回書きましたレラーブもきちんとキャラクター名鑑に載せましたので、まだ見てない方は一応確認お願いします。
ではまた〜