第11話『ドッヂボールときっかけ』
リビングにはジン達と同様の黒髪を肩まで下ろしたチャリティが居た。
「ヴィーナ〜、お客帰った〜?折角話す気になったんだから早く聞いてよ〜」
こちらに背を向けるようにソファに座っていたチャリティだったがソファの上で反転すると、ルルとジンの姿を見て目を丸くした。
「何々?ルルちゃんったらお姉ちゃんのことを心配して迎えに来てくれたの!?キャー嬉しい!!」
チャリティはルルに抱きつくと、ルルはそれを迷惑そうにはがした。
「一応、俺達もいるんだけど……」
ジンはオーちゃんを指差しながら言うがチャリティは構わずソファに深く座り込んだ。
「まっ、誰が来ても当分帰らないけどね。見てなさいよ?ジークが寂しくなって泣きながら頼みにくるまで帰ってやらないんだから!!」
チャリティが鼻を鳴らす傍らでヴィーナは人数分の紅茶をテーブルに置き、ルル達もソファに座った。
「それで?喧嘩の理由を話してくれるんでしょ?」
ヴィーナは優しく言うと、チャリティは掴みかかるように話し始めた。
「そうなのよ聞いて!?事の発端は昨日まで遡るんだけど、昨日ピーチパイの特別販売をやってたじゃない!?」
「あぁ、外からのレシピが手に入ったってやつね」
ヴィーナは紅茶をすすりながら聞き続けた。
「それをね、私は苦労してなんとか一個だけ買えたの!でもすぐに食べるのは勿体無かったから明日みんなで食べようと思って冷蔵庫に入れておいたのね?そしたらジークが今朝全部食べちゃったのよ!信じられる!?1ホール丸ごとよ!?」
チャリティはテーブルをバンバン叩き、4人は紅茶を膝の上に避難させた。
「それで私は何で残しておかなかったのかって聞いたの。そしたらあいつ何て言ったと思う?「気付いたら全部食べてた」とか言いやがったのよ!?気付くでしょ普通!!バカなの?ねぇバカなのあいつ?」
ヴィーナはコトっと紅茶の入ったカップをコースターの上に置いた。
「確かにそれはジークが悪いわね。私だって並んだのに買えなかった物をまさか1人で食べちゃうなんて……」
「でもジークお兄ちゃん、お姉ちゃんにぬいぐるみを壊されたから怒ったって言ってたよ?」
ここまでぬいぐるみの話が出てこなかったことを不信に思ったルルが言うと、チャリティは眉をピクっと動かした。
「た、確かに無くなったピーチパイに夢中で、ぬいぐるみを踏んだら腕がもげたわね……」
「ぬいぐるみって?」
ヴィーナは何気なく質問したが、チャリティの顔色は更に悪くなった。
「あ、あいつがお母さんからもらったクマのぬいぐるみ……」
「ちょっとそれって大問題じゃない!バカはどっちなのよ、このバカ!」
ヴィーナが怒鳴るとチャリティは子犬のように小さくなった。
「なんだ、母上からいただいたものならば、また買っていただけば良いではないか」
オーちゃんが言うと、場の空気が一瞬にして重くなった。
「この子達のお母さんはもういないのよ。だから、ジークのぬいぐるみは形見のようなものだったの」
「そう……だったのか」
オーちゃんは聞いてはいけないことを聞いてしまったことに気付き、俯いてしまった。
確かにそんなに大切なぬいぐるみを壊されたのであれば怒る気持ちも分かるが、チャリティが苦労して手に入れたピーチパイを皆で食べたかったという気持ちも無碍(むげ)にすることはできない。
「紅茶、なかなかの味であった。礼を言う」
オーちゃんは立ち上がると、それだけ言い残して外へと出て行った。
ルルとジンは慌ててそれを追いかけ、外へと出た。
「それで、これからどうする?」
「分からん……」
ジンの質問に力なく答えつつも、オーちゃんは歩きながら考え続けた。
すると、学校の校門前で女性とぶつかってしまった。
「むっ、すまない!ボーっとしていた」
「ううん、こちらこそごめんね?」
その栗色の髪を腰まで伸ばした大人のヒューマの女性は豊満な胸を揺らしながらしゃがんだ。
「あっリノア先生こんにちは!」
ルルとジンがその女性を見て挨拶すると、リノアと呼ばれた女性も挨拶を返した。
「あら、ルルちゃんとジン君。こんにちは。この子、見ない顔だけど新しいお友達かな?」
リノアは優しい口調で訊ねると、ルルは笑顔で頷いた。
よほど信頼されている先生なのだろう。
ルルはオーちゃんの事を話すと、リノアも自分はここの学校で教師をやっており、もう1人別の先生がいることを教えてくれた。
「なにか考えごとをしてたのかな?良かったら先生に教えてくれると嬉しいな」
リノアは微笑みながら言うと、オーちゃんは頬を染めながら言った。
「う、うむ。実は訳あって今喧嘩している2人を仲直りさせたいのだが、両方に正当な理由があるためにどうしたら良いのか分からんのだ……」
「そっかぁ〜」
リノアは指を下唇に当てて少し考えるような仕草をしてから、ポンっと両手を叩いた。
「だったら勝負するのはどうかな?そういうのはお互いに決着がつくまで正々堂々とぶつかったほうがスッキリするんだよ?」
「け、決闘か!?」
この女は恐ろしいことを言うとオーちゃんは多少引きながらも確認したが、リノアは首を横に振った。
そしてそれから数十分後、グランドに白線で書かれた長方形を二つに分けられたコートの上にジークとチャリティは対峙した。
コートの中央ラインの上にはオーちゃんがボールを持って立っている。
「急に呼び出して何の用だよ?」
機嫌悪そうにジークはオーチャンに訊ねると、オーちゃんはボールをバウンドさせながら得意気に鼻で笑った。
「ふっ、感謝するが良い。貴様らのつまらん喧嘩をこの俺が終わらせてやるのだからな!この、ドッヂボールで!!」
ジークのコートにはルルとジンが、チャリティのコートにはカインとヴィーナがそれぞれ入っている。
このチームでドッヂボールをし、白黒はっきりさせようというのである。
「それは構わないが、何でカインがいるんだ?」
「頑張りましょうね、チャリティさん!」
小さくガッツポーズするカインを見ながらジークが問うと、どうやらカインはジークの家に遊びに行こうとしていたらしく、そこを捕まったとのことだった。
「ではジャンプボールなのだが……」
オーちゃんがジークとチャリティに前に出るように促そうとしたが、ジークはそれを拒否した。
「そっちは女2人だろ?ボールはそっちにやるよ。どうせ負けねぇし」
この頃は自信に満ちているジークはチャリティにボールを譲ると、彼女はニヤリと笑った。
「後悔してもしらないわよ?」
ジークが首を傾げるなか、試合開始のホイッスルがグラウンドに響き渡る。
その直後、チャリティはボールを振りかぶると、地面を踏みしめ渾身の力でボールを投げた。
チャリティの手から離れたボールはあまりのスピードに形を維持できず、弧を描くような形に歪みながらもジンへと向かっていった。
なんとか目視できたジンは回避しようと横に飛ぼうとするが、後ろに無関係のクラスメイトが歩いていた。
このまま避けたら彼女に当たってしまうと予知したジンは避けることなくそのボールに顔面を打ち抜かれ、女性の前まで吹き飛んだ。
「ジ、ジン君?大丈夫?」
「や、やぁイーリス。僕は大丈夫だよ」
鼻血を出しながら言うジンの言葉には説得力がなく、イーリスと呼ばれたジンのクラスメイトは走り去ってしまった。
「アウト」
「ぇえっ!?顔面ってセーフじゃないの!?」
オーちゃんの審判にジンは抗議したが、セーフなんてあったらキリがないので何処にヒットしてもアウトということにしたらしい。
ジンは痛む顔面をおさえながら外野へ出ていった。
ジークはボールを拾いながらもチャリティの恐ろしさを実感し、先攻を与えてしまったことを後悔した。
だが負ける訳にもいかない。
ジークはボールを強く握り、渾身の力でチャリティに向かって投げた。
「止まって見えるわね!!」
チャリティは真正面からボールを受け止める体勢に入った。
しかし、チャリティの目の前でボールが二つに分裂すると綺麗に二手に別れ、後ろに控えていたカインとヴィーナにヒットした。
「フォルスを使うなんて……やるじゃない?」
当時のジークのフォルスは分解のフォルスであり、それをジークは利用することでボールを二つに分けたらしい。
だが、二つに分けたことでチャリティは両手で二つのボールを掴んだ。
「姉貴こそ、相変わらず無茶苦茶だな」
2人は睨みあいながらも笑顔をこぼすと、チャリティの両腕をふりかぶった。
「これに勝ったら、そろそろあんたもお姉さんと呼ぶようにしないと、いけないわね!」
チャリティは勝利予告をしながら鉄砲玉のごとくボールが発射した。
だが次の瞬間。
「グラビティ!!」
校舎より声が聞こえると、チャリティとジークはその場に重力により押しつぶされてしまった。
そして、声の主であるブライトがズンズン歩いてきた。
「てめぇら!なに勝手にグラウンド使ってんだ!?つうか姉弟喧嘩の道具に学校使ってんじゃねぇよ!!」
「こ、これは失礼した。貴公もここの学校の関係者なのか?」
ブライトの剣幕にオーちゃんは怯えながらも謝罪すると、ブライトはジロリとオーちゃんを見た。
「俺はここの学校の教師をしているブライトだ。てめぇは?」
「あっ、先生!オーちゃんは…えっと…カレーベルトっていうんだよ?O(オー)になりたいんだって!」
「ぁあ?カレーでベルトで文字になりたいのか?変わってるな、お前」
「変わっているのは貴様等の頭だ!!というかどうしてくれるのだ、この始末」
オーちゃんはすっかり伸びているジークとチャリティを見て言ったが、ブライトは今一要領を得ずにいた。
「あのね、先生。ジークお兄ちゃんとお姉ちゃんが喧嘩していることをリノア先生に話してみたらドッヂボールで決着を付けてみたら?って言われたの。この線もリノア先生が引いてくれたんだよ?」
「何っ!?リノア先生がそう言ったのか?……だったら仕方ねぇな!おらお前等!さっさと続きやれ!そんでもってケリつけろ!」
先程とは一変して肯定的になったブライトだったが、ジークとチャリティは立ち上がるとボールは掴まずにお互い歩み寄った。
「なんだか馬鹿らしくなったわ。大切なぬいぐるみだったのに、ごめんねジーク」
「俺こそ、勝手に姉貴のお菓子食べて悪かった。……ごめん」
2人はお互いに謝り、オーちゃんはやっと使命を果たしたとばかりにその場に座り込んだ。
「あのぬいぐるみ、なんとか治せれば良いんだけどね……」
チャリティは責任を感じながら思索するが、そこへルルが歩み寄った。
「あのね……これ……」
ルルはクマのぬいぐるみをジークに差し出すと、それはどこももげていない完璧なるぬいぐるみだった。
ジークはあちらこちら確認してみるが、決して新しく買ったものではなく『Dearジーク』という刺繍もきちんと入っていた。
「これ……ルルちゃんが治したの?」
チャリティが驚きながら問うと、ルルは照れながら答える。
「エヘヘ、ちょっと時間かかっちゃったけど、何回か練習したおかげでちゃんと治せたよ?」
どうやら指の絆創膏はその時のものらしい。
ジークはおもむろにルルに歩み寄ると、ポンっとルルの頭に掌を乗せた。
「……ありがとな、ルル。大したもんだ」
「あら!ジークがルルちゃんを褒めるなんて珍しいわね!?何年振り!?もしかして初めて!?」
チャリティのテンションが上がるのを見ながらジンはやれやれと傍観していた。
すると、ふと後ろから声をかけられた。
「ジン君、ちょっと良いかな?」
振り返るとそこには救急箱を持ったイーリスがいた。
「さっきジン君が私を助けてくれた時に、その、怪我しちゃったみたいだから……。手当てしようと思って……」
「あ、ありがとう……」
こうして小さな姉弟喧嘩は幕を閉じ、日が暮れると全員帰路につき、オーちゃんはフリィース家に泊まっていくことになった。
「ねぇジーク。私今晩シーフードカレーが食べたいんだけど?」
「いや、それ昼間に食べたからパスだな」
それを聞いたチャリティはジークの頬を両側から引っ張った。
「な・ん・で!私の分も残しておかないのかな〜?」
「おっ、おーひゃんあ!!」
ジークはチャリティの両手から逃れてから言い直した。
「オーちゃんが全部食っちまったんだよ……イカだけ残して」
その後、オーちゃんに牙が向いたのは言うまでも無い。
〜続く〜
「ヴィーナ〜、お客帰った〜?折角話す気になったんだから早く聞いてよ〜」
こちらに背を向けるようにソファに座っていたチャリティだったがソファの上で反転すると、ルルとジンの姿を見て目を丸くした。
「何々?ルルちゃんったらお姉ちゃんのことを心配して迎えに来てくれたの!?キャー嬉しい!!」
チャリティはルルに抱きつくと、ルルはそれを迷惑そうにはがした。
「一応、俺達もいるんだけど……」
ジンはオーちゃんを指差しながら言うがチャリティは構わずソファに深く座り込んだ。
「まっ、誰が来ても当分帰らないけどね。見てなさいよ?ジークが寂しくなって泣きながら頼みにくるまで帰ってやらないんだから!!」
チャリティが鼻を鳴らす傍らでヴィーナは人数分の紅茶をテーブルに置き、ルル達もソファに座った。
「それで?喧嘩の理由を話してくれるんでしょ?」
ヴィーナは優しく言うと、チャリティは掴みかかるように話し始めた。
「そうなのよ聞いて!?事の発端は昨日まで遡るんだけど、昨日ピーチパイの特別販売をやってたじゃない!?」
「あぁ、外からのレシピが手に入ったってやつね」
ヴィーナは紅茶をすすりながら聞き続けた。
「それをね、私は苦労してなんとか一個だけ買えたの!でもすぐに食べるのは勿体無かったから明日みんなで食べようと思って冷蔵庫に入れておいたのね?そしたらジークが今朝全部食べちゃったのよ!信じられる!?1ホール丸ごとよ!?」
チャリティはテーブルをバンバン叩き、4人は紅茶を膝の上に避難させた。
「それで私は何で残しておかなかったのかって聞いたの。そしたらあいつ何て言ったと思う?「気付いたら全部食べてた」とか言いやがったのよ!?気付くでしょ普通!!バカなの?ねぇバカなのあいつ?」
ヴィーナはコトっと紅茶の入ったカップをコースターの上に置いた。
「確かにそれはジークが悪いわね。私だって並んだのに買えなかった物をまさか1人で食べちゃうなんて……」
「でもジークお兄ちゃん、お姉ちゃんにぬいぐるみを壊されたから怒ったって言ってたよ?」
ここまでぬいぐるみの話が出てこなかったことを不信に思ったルルが言うと、チャリティは眉をピクっと動かした。
「た、確かに無くなったピーチパイに夢中で、ぬいぐるみを踏んだら腕がもげたわね……」
「ぬいぐるみって?」
ヴィーナは何気なく質問したが、チャリティの顔色は更に悪くなった。
「あ、あいつがお母さんからもらったクマのぬいぐるみ……」
「ちょっとそれって大問題じゃない!バカはどっちなのよ、このバカ!」
ヴィーナが怒鳴るとチャリティは子犬のように小さくなった。
「なんだ、母上からいただいたものならば、また買っていただけば良いではないか」
オーちゃんが言うと、場の空気が一瞬にして重くなった。
「この子達のお母さんはもういないのよ。だから、ジークのぬいぐるみは形見のようなものだったの」
「そう……だったのか」
オーちゃんは聞いてはいけないことを聞いてしまったことに気付き、俯いてしまった。
確かにそんなに大切なぬいぐるみを壊されたのであれば怒る気持ちも分かるが、チャリティが苦労して手に入れたピーチパイを皆で食べたかったという気持ちも無碍(むげ)にすることはできない。
「紅茶、なかなかの味であった。礼を言う」
オーちゃんは立ち上がると、それだけ言い残して外へと出て行った。
ルルとジンは慌ててそれを追いかけ、外へと出た。
「それで、これからどうする?」
「分からん……」
ジンの質問に力なく答えつつも、オーちゃんは歩きながら考え続けた。
すると、学校の校門前で女性とぶつかってしまった。
「むっ、すまない!ボーっとしていた」
「ううん、こちらこそごめんね?」
その栗色の髪を腰まで伸ばした大人のヒューマの女性は豊満な胸を揺らしながらしゃがんだ。
「あっリノア先生こんにちは!」
ルルとジンがその女性を見て挨拶すると、リノアと呼ばれた女性も挨拶を返した。
「あら、ルルちゃんとジン君。こんにちは。この子、見ない顔だけど新しいお友達かな?」
リノアは優しい口調で訊ねると、ルルは笑顔で頷いた。
よほど信頼されている先生なのだろう。
ルルはオーちゃんの事を話すと、リノアも自分はここの学校で教師をやっており、もう1人別の先生がいることを教えてくれた。
「なにか考えごとをしてたのかな?良かったら先生に教えてくれると嬉しいな」
リノアは微笑みながら言うと、オーちゃんは頬を染めながら言った。
「う、うむ。実は訳あって今喧嘩している2人を仲直りさせたいのだが、両方に正当な理由があるためにどうしたら良いのか分からんのだ……」
「そっかぁ〜」
リノアは指を下唇に当てて少し考えるような仕草をしてから、ポンっと両手を叩いた。
「だったら勝負するのはどうかな?そういうのはお互いに決着がつくまで正々堂々とぶつかったほうがスッキリするんだよ?」
「け、決闘か!?」
この女は恐ろしいことを言うとオーちゃんは多少引きながらも確認したが、リノアは首を横に振った。
そしてそれから数十分後、グランドに白線で書かれた長方形を二つに分けられたコートの上にジークとチャリティは対峙した。
コートの中央ラインの上にはオーちゃんがボールを持って立っている。
「急に呼び出して何の用だよ?」
機嫌悪そうにジークはオーチャンに訊ねると、オーちゃんはボールをバウンドさせながら得意気に鼻で笑った。
「ふっ、感謝するが良い。貴様らのつまらん喧嘩をこの俺が終わらせてやるのだからな!この、ドッヂボールで!!」
ジークのコートにはルルとジンが、チャリティのコートにはカインとヴィーナがそれぞれ入っている。
このチームでドッヂボールをし、白黒はっきりさせようというのである。
「それは構わないが、何でカインがいるんだ?」
「頑張りましょうね、チャリティさん!」
小さくガッツポーズするカインを見ながらジークが問うと、どうやらカインはジークの家に遊びに行こうとしていたらしく、そこを捕まったとのことだった。
「ではジャンプボールなのだが……」
オーちゃんがジークとチャリティに前に出るように促そうとしたが、ジークはそれを拒否した。
「そっちは女2人だろ?ボールはそっちにやるよ。どうせ負けねぇし」
この頃は自信に満ちているジークはチャリティにボールを譲ると、彼女はニヤリと笑った。
「後悔してもしらないわよ?」
ジークが首を傾げるなか、試合開始のホイッスルがグラウンドに響き渡る。
その直後、チャリティはボールを振りかぶると、地面を踏みしめ渾身の力でボールを投げた。
チャリティの手から離れたボールはあまりのスピードに形を維持できず、弧を描くような形に歪みながらもジンへと向かっていった。
なんとか目視できたジンは回避しようと横に飛ぼうとするが、後ろに無関係のクラスメイトが歩いていた。
このまま避けたら彼女に当たってしまうと予知したジンは避けることなくそのボールに顔面を打ち抜かれ、女性の前まで吹き飛んだ。
「ジ、ジン君?大丈夫?」
「や、やぁイーリス。僕は大丈夫だよ」
鼻血を出しながら言うジンの言葉には説得力がなく、イーリスと呼ばれたジンのクラスメイトは走り去ってしまった。
「アウト」
「ぇえっ!?顔面ってセーフじゃないの!?」
オーちゃんの審判にジンは抗議したが、セーフなんてあったらキリがないので何処にヒットしてもアウトということにしたらしい。
ジンは痛む顔面をおさえながら外野へ出ていった。
ジークはボールを拾いながらもチャリティの恐ろしさを実感し、先攻を与えてしまったことを後悔した。
だが負ける訳にもいかない。
ジークはボールを強く握り、渾身の力でチャリティに向かって投げた。
「止まって見えるわね!!」
チャリティは真正面からボールを受け止める体勢に入った。
しかし、チャリティの目の前でボールが二つに分裂すると綺麗に二手に別れ、後ろに控えていたカインとヴィーナにヒットした。
「フォルスを使うなんて……やるじゃない?」
当時のジークのフォルスは分解のフォルスであり、それをジークは利用することでボールを二つに分けたらしい。
だが、二つに分けたことでチャリティは両手で二つのボールを掴んだ。
「姉貴こそ、相変わらず無茶苦茶だな」
2人は睨みあいながらも笑顔をこぼすと、チャリティの両腕をふりかぶった。
「これに勝ったら、そろそろあんたもお姉さんと呼ぶようにしないと、いけないわね!」
チャリティは勝利予告をしながら鉄砲玉のごとくボールが発射した。
だが次の瞬間。
「グラビティ!!」
校舎より声が聞こえると、チャリティとジークはその場に重力により押しつぶされてしまった。
そして、声の主であるブライトがズンズン歩いてきた。
「てめぇら!なに勝手にグラウンド使ってんだ!?つうか姉弟喧嘩の道具に学校使ってんじゃねぇよ!!」
「こ、これは失礼した。貴公もここの学校の関係者なのか?」
ブライトの剣幕にオーちゃんは怯えながらも謝罪すると、ブライトはジロリとオーちゃんを見た。
「俺はここの学校の教師をしているブライトだ。てめぇは?」
「あっ、先生!オーちゃんは…えっと…カレーベルトっていうんだよ?O(オー)になりたいんだって!」
「ぁあ?カレーでベルトで文字になりたいのか?変わってるな、お前」
「変わっているのは貴様等の頭だ!!というかどうしてくれるのだ、この始末」
オーちゃんはすっかり伸びているジークとチャリティを見て言ったが、ブライトは今一要領を得ずにいた。
「あのね、先生。ジークお兄ちゃんとお姉ちゃんが喧嘩していることをリノア先生に話してみたらドッヂボールで決着を付けてみたら?って言われたの。この線もリノア先生が引いてくれたんだよ?」
「何っ!?リノア先生がそう言ったのか?……だったら仕方ねぇな!おらお前等!さっさと続きやれ!そんでもってケリつけろ!」
先程とは一変して肯定的になったブライトだったが、ジークとチャリティは立ち上がるとボールは掴まずにお互い歩み寄った。
「なんだか馬鹿らしくなったわ。大切なぬいぐるみだったのに、ごめんねジーク」
「俺こそ、勝手に姉貴のお菓子食べて悪かった。……ごめん」
2人はお互いに謝り、オーちゃんはやっと使命を果たしたとばかりにその場に座り込んだ。
「あのぬいぐるみ、なんとか治せれば良いんだけどね……」
チャリティは責任を感じながら思索するが、そこへルルが歩み寄った。
「あのね……これ……」
ルルはクマのぬいぐるみをジークに差し出すと、それはどこももげていない完璧なるぬいぐるみだった。
ジークはあちらこちら確認してみるが、決して新しく買ったものではなく『Dearジーク』という刺繍もきちんと入っていた。
「これ……ルルちゃんが治したの?」
チャリティが驚きながら問うと、ルルは照れながら答える。
「エヘヘ、ちょっと時間かかっちゃったけど、何回か練習したおかげでちゃんと治せたよ?」
どうやら指の絆創膏はその時のものらしい。
ジークはおもむろにルルに歩み寄ると、ポンっとルルの頭に掌を乗せた。
「……ありがとな、ルル。大したもんだ」
「あら!ジークがルルちゃんを褒めるなんて珍しいわね!?何年振り!?もしかして初めて!?」
チャリティのテンションが上がるのを見ながらジンはやれやれと傍観していた。
すると、ふと後ろから声をかけられた。
「ジン君、ちょっと良いかな?」
振り返るとそこには救急箱を持ったイーリスがいた。
「さっきジン君が私を助けてくれた時に、その、怪我しちゃったみたいだから……。手当てしようと思って……」
「あ、ありがとう……」
こうして小さな姉弟喧嘩は幕を閉じ、日が暮れると全員帰路につき、オーちゃんはフリィース家に泊まっていくことになった。
「ねぇジーク。私今晩シーフードカレーが食べたいんだけど?」
「いや、それ昼間に食べたからパスだな」
それを聞いたチャリティはジークの頬を両側から引っ張った。
「な・ん・で!私の分も残しておかないのかな〜?」
「おっ、おーひゃんあ!!」
ジークはチャリティの両手から逃れてから言い直した。
「オーちゃんが全部食っちまったんだよ……イカだけ残して」
その後、オーちゃんに牙が向いたのは言うまでも無い。
〜続く〜
■作者メッセージ
ども〜!新キャラ続出のtakeshiです!
また新キャラです・・・。
今回出てきたのはリノア先生とイーリスですね!
それと前回キャラ名鑑に載ったヴィーナもお忘れなく!
イーリスはともかく、リノア先生は次回に正式登場するのでその際にキャラクター名鑑に更新されます。
更に過去編は今回で終わりなのですが、次回の頭に少しだけかかります。
ネタばれになってしまいしたが、今日も二つ連続投稿するので問題ナッシングです!!
明日から更新速度が一気に滞りそうですしね・・・。
そんな訳で次回の12話では再びオマケをつけます。
案外早く続きましたね;
いかんいかん(汗
そういえばイカ娘の二期が近いですね!
しかしゆるゆりを犠牲にしなくてはならないというのが何とも・・・!!!
これで夏目友人帳だけ続いたら絶対に許さん・・・。
まっ、ゆるゆりはこれ以上続いても失速するだけのように見えるので調度いいかもしれませんね?
あぁ・・・また長々とorz
感想お待ちしております!
お待ちして良いんでしょうか!?
ではまた〜
また新キャラです・・・。
今回出てきたのはリノア先生とイーリスですね!
それと前回キャラ名鑑に載ったヴィーナもお忘れなく!
イーリスはともかく、リノア先生は次回に正式登場するのでその際にキャラクター名鑑に更新されます。
更に過去編は今回で終わりなのですが、次回の頭に少しだけかかります。
ネタばれになってしまいしたが、今日も二つ連続投稿するので問題ナッシングです!!
明日から更新速度が一気に滞りそうですしね・・・。
そんな訳で次回の12話では再びオマケをつけます。
案外早く続きましたね;
いかんいかん(汗
そういえばイカ娘の二期が近いですね!
しかしゆるゆりを犠牲にしなくてはならないというのが何とも・・・!!!
これで夏目友人帳だけ続いたら絶対に許さん・・・。
まっ、ゆるゆりはこれ以上続いても失速するだけのように見えるので調度いいかもしれませんね?
あぁ・・・また長々とorz
感想お待ちしております!
お待ちして良いんでしょうか!?
ではまた〜