第13話『酋長とクインシェル』
宮殿の入り口である鉄製の大きな扉の前には2人の門番が立っていた。
門番はブライトの姿を確認すると、すぐに扉を開きブライトは舌打ちした。
「お見通しって訳か」
ブライトは意味深なことを呟いてから宮殿の中へ入ると、ヴェイグ達もそのあとに続いた。
扉をくぐり青いカーペットを踏みながら進むと、そこには巨大な樹が一本立っていた。
宮殿の高い天井を突かんとばかりに伸びる大木からは無数の枝が伸びており、葉は青々と茂っていた。
よくみるとこの宮殿には扉というものは先程入ってきた入り口のみにあり、壁にいくつか窓があるだけであった。
そう、まるでこの大木を包み隠すかのように宮殿が建てられたかのようだった。
そして、頂上の枝が小刻みに揺れると、そこからバサッと鳥のようなものが飛び出し、大木を旋回すると、一番下に位置するヒトの頭より少し上の高さの枝に着地した。
その鳥ように見えたものはフクロウのような姿をしており、しかし背中はすっかり曲がっていた。
「ホゥ、いつまでそこで呆けとるつもりじゃ?」
「「フクロウが喋った!!」」
マオとティトレイが驚きの表情を浮かべると、フクロウは顔を顔を顰めた。
「フクロウじゃねぇよ。アレがこの集落の酋長だ」
ブライトが指差すと、フクロウのガジュマは偉そうに胸を張る。
「酋長のケナードじゃ。英雄諸君、ようこそクインシェルへ。民に代わって歓迎しよう」
ケナードと名乗ったホクロウは翼を起用に胸に当て、お辞儀をした。
だがすぐさま険しい表情へと戻す。
「じゃが、今回は特例じゃ。昨今外からのヒトが増えたからとは言え、自ら他所者を招きいれるなどあってはならぬことじゃ。余計なものまで連れてきおって……」
ケナードは掘りの深い顔でマティアスを睨んだが、彼女はウィンクで返した。
「俺達をここに呼んだのはそれを言うためだけか?」
ブライトは投げやりに問うたが、ここでヴェイグに疑問が浮かんだ。
「ブライト、俺達はいつケナードさんに呼ばれていたんだ?少なくとも俺は初対面だが……?」
ヴェイグはアニーやユージーンを見渡すが、心当たりはないというように首を横に振るばかりであった。
「この爺さんは『千里』のフォルスを持っててな、どんなに遠くの出来事も見ることができんだよ。だから俺がお前等を連れてくることだって知ってたし、俺が敢(あ)えて爺さんに会わないようにして集落から出て行こうとしていたことも分かってたって訳だ」
ブライトがケナードに会わないようにしていたのは、今のような説教から回避するためだと後で彼は付け加えた。
そもそもこの集落に外海のヒトを入れた時点で大罪であり、処罰は逃れられないためブライトは最悪の事態を想定していた。
そこで、無駄な時間と労力を費やさないためにもケナードとの面会は避けたかったのだが、先手を打たれた。
しかし、今回は特例にするとのことのため、ブライトの心配は杞憂に終わった。
「わしはここで全てを見ておった。無論、ラドラスの落日から始まったユリスの一件もな。そして、闇の力に関してもじゃ」
『闇の力』という言葉を聞いて、ヴェイグ達6人以外は何のことか分からず、フィオナはどこかで聞いたようなと脳をフル回転させた。
「闇の力とは即ち聖獣の力。聖獣とは遥か昔、ヒューマを殲滅させようとしていたゲオルギアスを封印した存在じゃ」
「そういえば、カインを探している最中にビビスタ辺りでそんな名前聞いたな」
ジークは一緒に旅をしたガイドさんの話を思い出しながら言うと、マオは優しい声で言った。
「それはきっとフェニアがいた塔の近くを通ったからだね。それと、ゲオルギアスが悪者みたいに言われてるけど、本当は違うんだよ?確かに大昔はヒューマを滅ぼそうとしてたけど、1年前はユリスを倒すために力を貸してくれたんだ」
「今のユリスに対抗するにはやはり聖獣の力が必要じゃ。ヤツも何かフォルスを持っているのかは分からんが、ヤツの行動だけはわしの眼を持ってしても見ることはできん。じゃが、聖獣の力は既にこの地上には存在しない。そうじゃな?」
ケナードがヴェイグ達を見ると、6人は黙って頷いた。
「今聖獣の力を宿しているのはそこにいる6人だけじゃ。他の者が付いて行ったところで足手まといになるだけ。……何を言いたいのか、分かるな?ブライト」
そう、酋長がブライト達を呼んだ理由というのはこれを伝えるだめだった。
お前等は足手まといになるだけだから、ここに残れと。
だがブライトからの返答は意外なものだった。
「俺だってそれぐらい分かってるさ。流石に聖獣の存在なんざ知らなかったし、そんなでけぇもんの助けがあってようやくユリスを倒せたってのも初耳だ。だが、そんなもの知らなくたって俺達とヴェイグ達の間に何かが決定的に違うのは分かってた。だから俺も、こいつらの保護者として、ここに置いていこうと考えていたところだ」
それを聞いて、ジーク、ジン、ルル、フィオナ、カインの5人は何も反論することができなかった。
何故なら、あのカレギア城屋上にて6芒星と対峙した時、明らかに足を引っ張っていた自覚があったから。
足は引っ張っていなくとも瞬殺されたのは事実である。
そんな自分達がヴェイグ達に付いて行っても足手まといにならない。
そう言い切れる自信は彼らに無かった。
「あら?さっきから黙って聞いていれば、まるでここなら安全みたいな言い方ね?何か隠し兵器でもあるのかしら?」
沈黙を破ったのはマティアスだった。
不適な笑みを浮かべる彼女はケナードを見るが、彼は身震いをさせ羽を数枚落とした後鋭い目付きでマティアスを睨み返した。
「この集落に兵器等ある訳ないじゃろう。ただ、大陸から大分離れておるこのクインシェルならばユリスの手も届かぬと言っておるのじゃ」
「甘いわ!」
マティアスはビシっと人差し指をケナードに向けた。
「女王貝だったかしら?あれが祀ってあるという島が一年前隆起したことと、思念の影響がこの集落にも出ていること。この二つは明らかにユリスと関係しているわ。良い?このカレギアの中で安全な場所なんて絶対に無い。むしろ、こいつらと一緒にいたほうが安全かもしれないわよ?」
マティアスはヴェイグ達に視線を送る。
まるで次は貴方達の番というように。
「酋長、あんたはさっきユリスを倒すためには聖獣の力が必要だと言ったな」
ヴェイグは一歩前に出ると、枝の上にいるケナードを見上げた。
「それは大きな勘違いだ。ユリスは力では倒せない。それを知ったからこそ、俺達は聖獣に頼らないと決めたんだ」
「ユリスは1年前よりも更に強くなっています。多分私達だけじゃ勝てない……。だから、皆さんの力が必要なんです!」
アニーが指を組みながら言うと、ケナードは困ったように首を傾げた。
そして、ブライトは後ろ髪をかきながら言う。
「まぁ確かに何処にいても一緒ってのはあるかもな。……行くか?」
ジーク達は強く頷いた。
「というか、私はお父さんを連れ戻すのが目的なんだから何と言われようとついて行く気だったわよ?」
フィオナは忘れられているのではあるまいなと不安そうに言うと、「それもそうだな」とユージーンは笑いながら言った。
「そういう訳だ酋長。ブライトも納得したし、行ってきて良いよな?」
「ふむ……これから先、お前が一番苦労するのだがな……」
ケナードはジークを一瞥してから大木の後ろへ首を伸ばし、前へ出て来いと促した。
すると、今まで大木の後ろで身を潜めていたブラウンの髪を肩まで伸ばしたヒューマの女性が姿を現した。
「初めまして。イーリスといいます」
姿を現したのはここに来ることになった原因であるイーリスであった。
「ブライト、お前の予想通りイーリスのフォルスで思念を抑制することができる。生徒と共に旅立つのであれば、自制ぐらいはできるようにしていくがよい」
間接的にではあるがケナードから旅立ちの許可が下りた。
早速ブライトとユージーンはイーリスに歩み寄ると、彼女の両手から青白い光が発せられ、2人の体はその光に包み込まれた。
「結局、彼女のフォルスって何なの?」
ヒルダが質問すると、それにジンが答えた
「イーリスのフォルスは『制動』のフォルスって言ってヒトの感情を沈めたり、逆に動かしたりすることができるフォルスらしいんだけど、あんまり使っているところ見たことがないから、あまり知らないんだよね。でも今回は『制動』のフォルスで思念を制御するつもりなんじゃないかな?」
ジンが説明を終えると調度光も凝縮していき、光が完全に消えるとイーリスはふぅっと一息ついた。
「うむ、信じられん……。あれほど俺の心を騒ぎ立てていた衝動が嘘のように静まりかえっている」
「うっし!そんじゃ、帰るか!」
気分爽快と言わんばかりに肩をまわしながらブライトは言い、一同は酋長の宮殿を後にした。
宮殿を出るとすっかり日も暮れており、一番星が輝いていた。
「ジン君ジン君!一番星だよ!?」
イーリスはジンと肩を並べて歩く中、輝く星を指差してはしゃぐと、ジンは照れくさそうにうつむいた。
「そ、そうだね……。イーリスと夜空を眺めるのはなんか久しぶりだな」
「ジン君、下なんか見てても星見えないよ?」
イーリスはジンの顔を覗き込むが、そんなやり取りがされている中にルルが割り込んだ。
「ねぇイーリスちゃん。学校で喧嘩があったって聞いたけど、ヴィーナさんはどうしてるの?」
「ヴィーナさんなら多分今日も病院だと思うよ?みんながクインシェルを出て行ってから毎日お見舞いに行ってるんだよ」
「病院って、誰か入院してんのか?」
ティトレイが訊ねると、ルルは悲しそうな目をしながら答えた。
「うん……。お父さんが入院してるんだ……」
どうやらジーク達の父親は長い間入院しているらしく、それまでは姉弟のうちの誰かが毎日交代でお見舞いに行っていたのだが、ここしばらくはジーク達の姉貴分であるヴィーナがお見舞いに行ってくれていたとのことだった。
すると、ブライトが突然提案を持ち出してきた。
「ちょうどいい。今から俺達も親父さんの所へ見舞いに行くか」
「え?」
マオは「賛成〜」と言うと、誰も反対する者はなく、病院へと向かうことになるはずだったのだが、カインが疑問符を口に出した。
「あ、えっと…ジーク君は行かないほうが良いんじゃない?ほら、晩ご飯の準備もしなきゃだし!折角帰ってきたんだし、僕もジーク君の料理食べたいな〜……なんて」
「何言ってんだお前?料理なんかまた別の日でも良いだろ?」
「い、良いから!ジーク君は先に帰ってて!!……そうだ!イーリスを送って行ってあげてよ!」
「確かに帰ろうとは思っていたけど……1人で帰れるよ?」
首を傾げるイーリスをカインは物凄い形相で睨んだ。
彼がこんな表情を出すところを初めて見た。
「イーリス、今日は泊まってかなくて良いの?」
ジンが訊ねると、イーリスはコクリと頷いた。
「なんか邪魔しちゃったら悪いし。……な、なんかよく分からないけど、帰ろ?お義兄さん」
「あ、あぁ……」
こうしてジークとイーリスが夜の闇に消えていくのを見送っていると、去り際にイーリスが放った一言に何か引っかかりを感じていたヒルダが何か閃いたかのように目を見開いた。
「イーリスってどこかで聞いた名前だと思ったらブライトの話しに出てきた、ジンが助けた子の名前だったのね」
「そうだよ!ちなみに2人は付き合っているんだよ!」
またもやルルの悪戯心を止めることができなかったジンはその場に消沈し、辺りには驚きの喚声が響き渡った。
「あの後色々あって……告白されたんだ……」
「どおりで兄妹の中で一番落ち着いている訳ね」
ヒルダは納得と言った感じで喋るが、それに共感するものはいなかった。
しかし、気付くとイーリスは引き返して来ており、ジンの側まで歩み寄ると胸倉を掴み顔を近づけた。
「浮気したら許さねぇぞコラ」
「はい……分かってます」
ジンが冷や汗を流すなか、イーリスはジンを離すとニコリと笑みを浮かべた。
「それだけ伝えにきたの。それじゃあね!」
それだけ言い残してイーリスは再び夜の闇へと消えていった。
「……何あれ?二重人格?」
フィオナは信じられないものでも見たかのように大きく目を見開いていると、ジンは苦笑いをしながら頷いた。
「なるほど、制動のフォルスか」
ヴェイグが勝手に納得したところでジークが抜けた一同は病院へと向かった。
〜続く〜
門番はブライトの姿を確認すると、すぐに扉を開きブライトは舌打ちした。
「お見通しって訳か」
ブライトは意味深なことを呟いてから宮殿の中へ入ると、ヴェイグ達もそのあとに続いた。
扉をくぐり青いカーペットを踏みながら進むと、そこには巨大な樹が一本立っていた。
宮殿の高い天井を突かんとばかりに伸びる大木からは無数の枝が伸びており、葉は青々と茂っていた。
よくみるとこの宮殿には扉というものは先程入ってきた入り口のみにあり、壁にいくつか窓があるだけであった。
そう、まるでこの大木を包み隠すかのように宮殿が建てられたかのようだった。
そして、頂上の枝が小刻みに揺れると、そこからバサッと鳥のようなものが飛び出し、大木を旋回すると、一番下に位置するヒトの頭より少し上の高さの枝に着地した。
その鳥ように見えたものはフクロウのような姿をしており、しかし背中はすっかり曲がっていた。
「ホゥ、いつまでそこで呆けとるつもりじゃ?」
「「フクロウが喋った!!」」
マオとティトレイが驚きの表情を浮かべると、フクロウは顔を顔を顰めた。
「フクロウじゃねぇよ。アレがこの集落の酋長だ」
ブライトが指差すと、フクロウのガジュマは偉そうに胸を張る。
「酋長のケナードじゃ。英雄諸君、ようこそクインシェルへ。民に代わって歓迎しよう」
ケナードと名乗ったホクロウは翼を起用に胸に当て、お辞儀をした。
だがすぐさま険しい表情へと戻す。
「じゃが、今回は特例じゃ。昨今外からのヒトが増えたからとは言え、自ら他所者を招きいれるなどあってはならぬことじゃ。余計なものまで連れてきおって……」
ケナードは掘りの深い顔でマティアスを睨んだが、彼女はウィンクで返した。
「俺達をここに呼んだのはそれを言うためだけか?」
ブライトは投げやりに問うたが、ここでヴェイグに疑問が浮かんだ。
「ブライト、俺達はいつケナードさんに呼ばれていたんだ?少なくとも俺は初対面だが……?」
ヴェイグはアニーやユージーンを見渡すが、心当たりはないというように首を横に振るばかりであった。
「この爺さんは『千里』のフォルスを持っててな、どんなに遠くの出来事も見ることができんだよ。だから俺がお前等を連れてくることだって知ってたし、俺が敢(あ)えて爺さんに会わないようにして集落から出て行こうとしていたことも分かってたって訳だ」
ブライトがケナードに会わないようにしていたのは、今のような説教から回避するためだと後で彼は付け加えた。
そもそもこの集落に外海のヒトを入れた時点で大罪であり、処罰は逃れられないためブライトは最悪の事態を想定していた。
そこで、無駄な時間と労力を費やさないためにもケナードとの面会は避けたかったのだが、先手を打たれた。
しかし、今回は特例にするとのことのため、ブライトの心配は杞憂に終わった。
「わしはここで全てを見ておった。無論、ラドラスの落日から始まったユリスの一件もな。そして、闇の力に関してもじゃ」
『闇の力』という言葉を聞いて、ヴェイグ達6人以外は何のことか分からず、フィオナはどこかで聞いたようなと脳をフル回転させた。
「闇の力とは即ち聖獣の力。聖獣とは遥か昔、ヒューマを殲滅させようとしていたゲオルギアスを封印した存在じゃ」
「そういえば、カインを探している最中にビビスタ辺りでそんな名前聞いたな」
ジークは一緒に旅をしたガイドさんの話を思い出しながら言うと、マオは優しい声で言った。
「それはきっとフェニアがいた塔の近くを通ったからだね。それと、ゲオルギアスが悪者みたいに言われてるけど、本当は違うんだよ?確かに大昔はヒューマを滅ぼそうとしてたけど、1年前はユリスを倒すために力を貸してくれたんだ」
「今のユリスに対抗するにはやはり聖獣の力が必要じゃ。ヤツも何かフォルスを持っているのかは分からんが、ヤツの行動だけはわしの眼を持ってしても見ることはできん。じゃが、聖獣の力は既にこの地上には存在しない。そうじゃな?」
ケナードがヴェイグ達を見ると、6人は黙って頷いた。
「今聖獣の力を宿しているのはそこにいる6人だけじゃ。他の者が付いて行ったところで足手まといになるだけ。……何を言いたいのか、分かるな?ブライト」
そう、酋長がブライト達を呼んだ理由というのはこれを伝えるだめだった。
お前等は足手まといになるだけだから、ここに残れと。
だがブライトからの返答は意外なものだった。
「俺だってそれぐらい分かってるさ。流石に聖獣の存在なんざ知らなかったし、そんなでけぇもんの助けがあってようやくユリスを倒せたってのも初耳だ。だが、そんなもの知らなくたって俺達とヴェイグ達の間に何かが決定的に違うのは分かってた。だから俺も、こいつらの保護者として、ここに置いていこうと考えていたところだ」
それを聞いて、ジーク、ジン、ルル、フィオナ、カインの5人は何も反論することができなかった。
何故なら、あのカレギア城屋上にて6芒星と対峙した時、明らかに足を引っ張っていた自覚があったから。
足は引っ張っていなくとも瞬殺されたのは事実である。
そんな自分達がヴェイグ達に付いて行っても足手まといにならない。
そう言い切れる自信は彼らに無かった。
「あら?さっきから黙って聞いていれば、まるでここなら安全みたいな言い方ね?何か隠し兵器でもあるのかしら?」
沈黙を破ったのはマティアスだった。
不適な笑みを浮かべる彼女はケナードを見るが、彼は身震いをさせ羽を数枚落とした後鋭い目付きでマティアスを睨み返した。
「この集落に兵器等ある訳ないじゃろう。ただ、大陸から大分離れておるこのクインシェルならばユリスの手も届かぬと言っておるのじゃ」
「甘いわ!」
マティアスはビシっと人差し指をケナードに向けた。
「女王貝だったかしら?あれが祀ってあるという島が一年前隆起したことと、思念の影響がこの集落にも出ていること。この二つは明らかにユリスと関係しているわ。良い?このカレギアの中で安全な場所なんて絶対に無い。むしろ、こいつらと一緒にいたほうが安全かもしれないわよ?」
マティアスはヴェイグ達に視線を送る。
まるで次は貴方達の番というように。
「酋長、あんたはさっきユリスを倒すためには聖獣の力が必要だと言ったな」
ヴェイグは一歩前に出ると、枝の上にいるケナードを見上げた。
「それは大きな勘違いだ。ユリスは力では倒せない。それを知ったからこそ、俺達は聖獣に頼らないと決めたんだ」
「ユリスは1年前よりも更に強くなっています。多分私達だけじゃ勝てない……。だから、皆さんの力が必要なんです!」
アニーが指を組みながら言うと、ケナードは困ったように首を傾げた。
そして、ブライトは後ろ髪をかきながら言う。
「まぁ確かに何処にいても一緒ってのはあるかもな。……行くか?」
ジーク達は強く頷いた。
「というか、私はお父さんを連れ戻すのが目的なんだから何と言われようとついて行く気だったわよ?」
フィオナは忘れられているのではあるまいなと不安そうに言うと、「それもそうだな」とユージーンは笑いながら言った。
「そういう訳だ酋長。ブライトも納得したし、行ってきて良いよな?」
「ふむ……これから先、お前が一番苦労するのだがな……」
ケナードはジークを一瞥してから大木の後ろへ首を伸ばし、前へ出て来いと促した。
すると、今まで大木の後ろで身を潜めていたブラウンの髪を肩まで伸ばしたヒューマの女性が姿を現した。
「初めまして。イーリスといいます」
姿を現したのはここに来ることになった原因であるイーリスであった。
「ブライト、お前の予想通りイーリスのフォルスで思念を抑制することができる。生徒と共に旅立つのであれば、自制ぐらいはできるようにしていくがよい」
間接的にではあるがケナードから旅立ちの許可が下りた。
早速ブライトとユージーンはイーリスに歩み寄ると、彼女の両手から青白い光が発せられ、2人の体はその光に包み込まれた。
「結局、彼女のフォルスって何なの?」
ヒルダが質問すると、それにジンが答えた
「イーリスのフォルスは『制動』のフォルスって言ってヒトの感情を沈めたり、逆に動かしたりすることができるフォルスらしいんだけど、あんまり使っているところ見たことがないから、あまり知らないんだよね。でも今回は『制動』のフォルスで思念を制御するつもりなんじゃないかな?」
ジンが説明を終えると調度光も凝縮していき、光が完全に消えるとイーリスはふぅっと一息ついた。
「うむ、信じられん……。あれほど俺の心を騒ぎ立てていた衝動が嘘のように静まりかえっている」
「うっし!そんじゃ、帰るか!」
気分爽快と言わんばかりに肩をまわしながらブライトは言い、一同は酋長の宮殿を後にした。
宮殿を出るとすっかり日も暮れており、一番星が輝いていた。
「ジン君ジン君!一番星だよ!?」
イーリスはジンと肩を並べて歩く中、輝く星を指差してはしゃぐと、ジンは照れくさそうにうつむいた。
「そ、そうだね……。イーリスと夜空を眺めるのはなんか久しぶりだな」
「ジン君、下なんか見てても星見えないよ?」
イーリスはジンの顔を覗き込むが、そんなやり取りがされている中にルルが割り込んだ。
「ねぇイーリスちゃん。学校で喧嘩があったって聞いたけど、ヴィーナさんはどうしてるの?」
「ヴィーナさんなら多分今日も病院だと思うよ?みんながクインシェルを出て行ってから毎日お見舞いに行ってるんだよ」
「病院って、誰か入院してんのか?」
ティトレイが訊ねると、ルルは悲しそうな目をしながら答えた。
「うん……。お父さんが入院してるんだ……」
どうやらジーク達の父親は長い間入院しているらしく、それまでは姉弟のうちの誰かが毎日交代でお見舞いに行っていたのだが、ここしばらくはジーク達の姉貴分であるヴィーナがお見舞いに行ってくれていたとのことだった。
すると、ブライトが突然提案を持ち出してきた。
「ちょうどいい。今から俺達も親父さんの所へ見舞いに行くか」
「え?」
マオは「賛成〜」と言うと、誰も反対する者はなく、病院へと向かうことになるはずだったのだが、カインが疑問符を口に出した。
「あ、えっと…ジーク君は行かないほうが良いんじゃない?ほら、晩ご飯の準備もしなきゃだし!折角帰ってきたんだし、僕もジーク君の料理食べたいな〜……なんて」
「何言ってんだお前?料理なんかまた別の日でも良いだろ?」
「い、良いから!ジーク君は先に帰ってて!!……そうだ!イーリスを送って行ってあげてよ!」
「確かに帰ろうとは思っていたけど……1人で帰れるよ?」
首を傾げるイーリスをカインは物凄い形相で睨んだ。
彼がこんな表情を出すところを初めて見た。
「イーリス、今日は泊まってかなくて良いの?」
ジンが訊ねると、イーリスはコクリと頷いた。
「なんか邪魔しちゃったら悪いし。……な、なんかよく分からないけど、帰ろ?お義兄さん」
「あ、あぁ……」
こうしてジークとイーリスが夜の闇に消えていくのを見送っていると、去り際にイーリスが放った一言に何か引っかかりを感じていたヒルダが何か閃いたかのように目を見開いた。
「イーリスってどこかで聞いた名前だと思ったらブライトの話しに出てきた、ジンが助けた子の名前だったのね」
「そうだよ!ちなみに2人は付き合っているんだよ!」
またもやルルの悪戯心を止めることができなかったジンはその場に消沈し、辺りには驚きの喚声が響き渡った。
「あの後色々あって……告白されたんだ……」
「どおりで兄妹の中で一番落ち着いている訳ね」
ヒルダは納得と言った感じで喋るが、それに共感するものはいなかった。
しかし、気付くとイーリスは引き返して来ており、ジンの側まで歩み寄ると胸倉を掴み顔を近づけた。
「浮気したら許さねぇぞコラ」
「はい……分かってます」
ジンが冷や汗を流すなか、イーリスはジンを離すとニコリと笑みを浮かべた。
「それだけ伝えにきたの。それじゃあね!」
それだけ言い残してイーリスは再び夜の闇へと消えていった。
「……何あれ?二重人格?」
フィオナは信じられないものでも見たかのように大きく目を見開いていると、ジンは苦笑いをしながら頷いた。
「なるほど、制動のフォルスか」
ヴェイグが勝手に納得したところでジークが抜けた一同は病院へと向かった。
〜続く〜
■作者メッセージ
ども〜!今回は5000文字ジャストのtakeshiです。
書いてる最中は5000字長いなぁ〜と思うのですが、感覚で4000字あたりを越えてくると突然5000字短いヨッと叫びたくなる不思議。
今回は肉と皮と少しの骨を削ってなんとか5000字ジャストです・・・。
そんなことより、ようやく集落の名前を出せました。
クインシェルですが、とりあえず名前は覚えなくても大丈夫です。
ジークの実家と覚えていてくださればそれで十分です。
そして今回初登場となりました酋長のケナードです。ホクロウです。
ケナード化粧品で覚えてください。勿論元ネタは違いますが・・・。
イーリスはようやく二つ目の人格も出せたので今回が正式な登場ということで、彼女もキャラクター名鑑にのります。
ちなみに酋長といえばやはりドバル酋長の印象が強く、もう少し反発させようと思ったのですが、時間の無駄なのでさっさと折れていただきました。
オラに文字数を分けてくれ〜!!!
ではまた〜
書いてる最中は5000字長いなぁ〜と思うのですが、感覚で4000字あたりを越えてくると突然5000字短いヨッと叫びたくなる不思議。
今回は肉と皮と少しの骨を削ってなんとか5000字ジャストです・・・。
そんなことより、ようやく集落の名前を出せました。
クインシェルですが、とりあえず名前は覚えなくても大丈夫です。
ジークの実家と覚えていてくださればそれで十分です。
そして今回初登場となりました酋長のケナードです。ホクロウです。
ケナード化粧品で覚えてください。勿論元ネタは違いますが・・・。
イーリスはようやく二つ目の人格も出せたので今回が正式な登場ということで、彼女もキャラクター名鑑にのります。
ちなみに酋長といえばやはりドバル酋長の印象が強く、もう少し反発させようと思ったのですが、時間の無駄なのでさっさと折れていただきました。
オラに文字数を分けてくれ〜!!!
ではまた〜