第15話『事情と自情』
クインシェルの酋長、ケナードは大樹中で一番高い枝に止まり羽を閉じ、眠りにつこうとしていた。
しかし、黄色に光る目は閉じることなく、キョロキョロと何かを探るように動いていた。
そして目を閉じると一息息を吐いた。
「フォッフォ、目にも留まらぬ速さとはまさにこのことじゃな」
「あら、背後をとられているというのに随分余裕なのね。というか老人はもう寝る時間よ?」
ケナードがとまっている枝より一段下の枝にはマティアスが背後よりケナードの首を掴んでいた。
「門番も居ないから何か罠があるのかとも思ったのだけれど、とんだ期待外れだわ」
「門番が居たところでお前さんにかかればいともたやすく殺されてしまうじゃろ。わしは無駄な犠牲は出さぬ主義でな。それにわしは夜行性じゃから夜眼がきくんじゃよ?」
「……ふぅ〜ん、私が夜襲をかけにくるってこともお見通しだったって訳ね」
マティアスは気に入らないといったように眉を吊り上げるが、ケナードはなおも笑った。
「千里のフォルスを舐めるでないわ。じゃが、そういうお前さんこそ丸腰で乗り込んでくるとは大した余裕ではないか」
「私の武器が今どこにあるのかなんて貴方にとっては愚問でしょ?それに、貴方を殺すくらいなら武器なんかなくても十分だわ」
そういうとケナードを掴んでいるマティアスの手から青白い光が発光し、その光は龍の手を象ると鍵爪がケナードの首に食い込む。
「元々あいつらの監視なんてこの集落にくるための名目だったの。私の本当の目的はクインシェルの酋長であるあなたと取引をすることよ」
「取引……じゃと?」
鍵爪が食い込む若干の痛みに顔をしかめながらもケナードは復唱するように訊ねると、マティアスは頷いた。
「軍はユリスの襲撃に備えて戦力増強を考えているわ。そこで、この集落の民の力が必要って訳。ここまで言えば何を言いたいか分かるわよね?」
「徴兵という訳か……。じゃが、生憎この集落にお前さんらが望むような豪傑はおらんよ」
「しらをきるつもり?この集落には一つの村を丸ごと破壊できるヒトとその村を何事も無かったかのように再生して挙句の果てにはユリスまで再生するヒトが存在するのは分かりきっているの。あんな雑魚でさえそんな力を持っているのだもの。この集落にはそれ以上の力を持った民がいるのでしょう?」
「あの2人は特別じゃ。それに他の者も含めて皆、戦闘の訓練などまともに受けておらん。正直に言うが、お前さんの要望には応えられん。そもそも取引になっておらんではないか」
ケナードの言うとおり、取引とは簡単に言ってしまえば物々交換である。
マティアスはクインシェルの民が欲しいと言ってきたが、そのみかえりを彼女は話さないでいた。
しかしケナードの言葉を聞いたマティアスはキョトンとしていた。
「あなた、自分の状況を分かっていないようね。あなたの命と引き換えに集落の民を貸せと言っているのよ?ほら、十分取引になってるじゃない」
マティアスは自慢気に胸を張っていうと、ケナードは溜息を吐いた。
「残念じゃが、わしが死んだところで何も変わりはせんよ」
「構わないわ。あなたを殺した後無理矢理にでも連れ去っていくもの」
「ホッホッホ!お前さん、さっき自分で言ったことを忘れたんか?この集落にはあの2人以上に力のある者がおるのじゃろう?そいつらが束になっても、お前さんは勝てるのかのう?」
ケナードは自慢の髭を羽で器用に撫でると、マティアスは機嫌が悪くなったのか歯をギリギリと強く噛み締めた。
「もう一度言うが、わしを殺したところで何も変わりはせんよ。立場こそ酋長と名乗っているがそれはただの名前にすぎん。あやつらは今まで通り好きなように生きるじゃろう」
マティアスはそれを聞くと、呆れたように体の力を抜きフォルスの光も消えうせた。
「こんなところで老人を殺したところで何の自慢にもならないわ。お爺ちゃん、長生きするわよ」
「ホッホ、初めから殺す気など無かったくせに、よく言いおるわ」
ケナードは振り返りながら言うとマティアスは「は?」と聞き返した。
「お前さん程の実力があればわしが気配に気付く前に殺すこともできたじゃろう。それでもわしを殺さなかったのは何か訊ねたいことがあったのではないか?」
ケナードは探るように黄色く光る目を細めながら言うと、マティアスは機嫌を悪くしたのか腕を組んだ。
「……あなたの千里のフォルスは心の中まで見えるのかしら?」
「いんや、わしのフォルスは心の中どころか未来も過去も見えはせんよ。見えるのは今起きている事柄だけじゃ」
ケナードは瞳を閉じてから一度頷く。
「ふむ、じゃがお前さんが訊ねたいことは分かっておるつもりじゃ。……さっきのお前さんのフォルス、『龍』のフォルスじゃな?龍のフォルスに龍の血。古(いにしえ)に絶えたと言われる古代種の血族が何故今も生きているかは知らぬが、お前さんが知りたいのはそんなお前さんの両親の生息じゃろ」
「……えぇ、そうよ。どんな些細な情報でも良い。私は自分の両親を見つけて勝手に私を捨てたアイツ等をぶん殴ってやるんだから」
そこには明らかな殺意が込められており、深く聞くのはケナードも恐かったのでやめた。
「じゃが残念じゃ。わしの千里のフォルスを持ってしてもお前さんの両親の消息は分からん。しかし龍の存在は大陸では幻として語り継がれておる。しかも大陸ではその神話を追い求める変人もおるようじゃ。両親の手がかりを探したくばまずその男を捜すことじゃ」
マティアスはそれを聞くと顎に指を当て少し考えごとをした後、大樹から飛び降りた。
「参考になったわ。よく考えたら私、夜のランニング中だったの。良い寄り道になったわ」
マティアスはそれだけ言い残して外へと出て行った。
「寿命が縮んだわ……たわけめ」
ケナードが捨て台詞を吐く一方でフリィース家では食器が洗われる音が木霊していた。
台所ではジークが洗剤で食器を洗い、ジンは洗い終わった食器を丁寧に拭いている。
残るルルとフィオナはこの場にはいないようだった。
「ルル、なんだかんだ言ってニンジン全部食べてくれて良かったね」
「まさかあそこまで嫌がれるとは思わなかったけどな」
ジークは最後の最後まで顔をしわくちゃにしながら食べるルルの顔を思い出し、苦笑いしながらジンに皿を渡した。
一方二階のルル部屋へと招待されたフィオナは幾つものぬいぐるみに囲まれた自分の状況に唖然としていた。
ルルが裁縫を得意としているのはブライトから聞いたので知っており、バルカで開かれるはずだったフェスティバルの準備期間中に登場した着ぐるみを実際に見たことによりそのクオリティーの高さも熟知していた。
しかしよもや彼女の部屋に大小バラバラなぬいぐるみがここまで所狭しに並んでいようとは想像もしていなかった。
「本当に裁縫が得意なのね……。こんなに夢中になったのはやっぱりジークに褒められたから?」
「ち、違うよ!!確かに初めて褒められた時は嬉しかったけど……。でっ、でもね!?最近ジーク兄さんに褒められても全然嬉しくないんだ……。最近冷たいし」
ルルは近くにあったペンギンのようなぬいぐるみに顔をうずめ、フィオナは首を傾げた。
「そう?私には鬱陶しいぐらいルルのことを気にしているように見えるわよ?」
「そんなのフィオナがジーク兄さんのことをちゃんと見てないだけだよ」
ルルのボソっと呟いた一言はフィオナの胸を貫いたのか彼女は咄嗟に胸をおさえた。
「姉さんが生きてた頃はあんなに優しかったのにな〜……」
(私にはその頃の方が冷たかったように感じたわよ……)
今度は言葉には出さなかったが、フィオナはルルの言った『姉さんが生きていた頃』という言葉がどうも耳に残った。
ルルの話しから推測するにジークが変わったのはチャリティが死んでからということになる。
ルルの父親が病院で言っていたがジークがチャリティから死んでから何か考えているということはどうやら本当らしく、彼は一体何を考え、そもそも何故彼が悩む必要があるのかフィオナには全く分からない。
(確かに、あいつのこと全然見てなかったかも……)
フィオナがジークのことを考えている頃、当の本人はリビングにてあいかわらずジンと会話をしていた。
「そもそも兄さんはルルに構いすぎっていうか両極端すぎるんだよ。もっと他にも気にするべきヒトがいるんじゃないの?」
ジンは若干説教気味に言うとジークは眉をひそめた。
「え?もしかしてお前嫉妬してんの?」
ジンはテーブルを強く叩き何かを言おうとしたが、ここで二階よりルルとフィオナが降りてきた。
そしてフィオナはズンズンとジークに歩み寄り顔をちかづけると力強く開かれた瞳がジークの顔を映し出した。
しばらくそのまま硬直状態が続いたが、フィオナは一歩後退してから溜息をついた。
「無理無理。いくらがん見しても全然分かりやしないわ」
「フィオナどうしたの?」
ジンはフィオナに一応訊ねてみたが彼女は手をヒラヒラと返した。
「別に何でもないわよ。それより、これからルルちゃんとお風呂入ってくるから、絶対覗かないでよね」
覗かれるヒロインの決め台詞だけを言い残して2人は浴室へと入っていった。
しかしジークはボーっとしており、不意に玄関へと向かった。
「兄さん?」
「少し風に当たってくる」
外に出ると冷たい夜風がジークの頬を撫でた。
しかし今のジークにはその冷たさが感じることができず、逆に体の温度が上昇し続けていた。
(自覚した途端にアレはやばいだろ……)
フィオナの顔が目の前に来た時、ジークの頭の中は真っ白になっていた。
フィオナのことが好きだと分かったジークにとって、アレだけでも結構な刺激になってしまうらしい。
それでも時間がたつに連れ胸の鼓動も落ち着き始め夜風が冷たく感じてきた。
すると精神が研ぎ澄まされたのか微かな足音がジークの耳に届いた。
その足音はリズムからして走っているように聞こえ、それでいて安定したテンポで走ってくる。
その足音は次第に影へと形を変え、そして次第に姿を目視できる距離まで近付いてくると、足音の正体はマティアスだった。
「あら、こんな夜中に奇遇ね。でも青年男児の夜の徘徊は感心できないわね」
「別に玄関に居るくらい良いだろう」
「あぁ、ここが貴方の家なの」
マティアスは繁々と家を眺めると、不適な笑みを浮かべた。
「もしかしてルルちゃんは今お風呂?ちょっと覗いていこうかしら」
「よく分かったな……」
「貴方程じゃないけど、私も耳には自信があるのよ」
マティアスは自慢の触覚をかきあげてみせる。
「で、お前は何で深夜徘徊なんてしてるんだ?」
「私?私はランニング中よ。本当の強さを得るためには日々の鍛錬は欠かせないわ!」
「そう……なのか」
相変わらず自信に満ちた顔で言うマティアスだったが、この時ばかりはジークもえらく納得したように頷いた。
「やけに素直ね、逆に気持ち悪いわ……。ていうか、今夜は随分とお喋りなのね。人見知りは治ったのかしら?」
「そんなに簡単に治ったら苦労しねぇよ。ただ、良い機会だからお前にお礼を言おうと思ってな」
「お礼?」
「船の上でルルを助けてくれただろ?あの後ずっと礼を言いたいと思ってたんだ」
「あぁ、あの時ね。可愛い子は国の宝だもの、護るのは当然よ!だからお礼なんていらないわ」
「そうか……」
初対面は殺されそうになった所為もあり、印象は最悪なものだったがこうして話してみると案外良いヒトなのかもしれない。
そうジークには思えた。
「そうね、どうしてもお礼を言いたいっていうのなら貴方の今後のために一つ忠告をしてあげるわ」
マティアスはジークの家を一瞥してから表情を真剣な物へと変えた。
「私が船の上で貴方達付き合ってるのかと聞いた時、否定したわよね?別にあの言葉が嘘だったと思ってる訳ではないけども、一つだけ言わせてもらうわ」
ジークの胸が少し痛んだ。
確かにあの時のジークの言葉は嘘ではなかったが、今は本当の気持ちに気付いてしまっている。
今再び同じ質問をされても同じ返答はできなだいろう。
「これから先、有り得ない話しだとは思うけど仮に貴方がフィオナを好きになったとするわ」
ジークはこれ以上嘘を大きくさせまいと、自分の気持ちを伝える決心をした。
そして口を開こうとしたその時だ。
「もし好きになっても、その瞬間に諦めなさい」
冷酷な夜風が、ジークの胸を抉(えぐ)る。
〜続く〜
しかし、黄色に光る目は閉じることなく、キョロキョロと何かを探るように動いていた。
そして目を閉じると一息息を吐いた。
「フォッフォ、目にも留まらぬ速さとはまさにこのことじゃな」
「あら、背後をとられているというのに随分余裕なのね。というか老人はもう寝る時間よ?」
ケナードがとまっている枝より一段下の枝にはマティアスが背後よりケナードの首を掴んでいた。
「門番も居ないから何か罠があるのかとも思ったのだけれど、とんだ期待外れだわ」
「門番が居たところでお前さんにかかればいともたやすく殺されてしまうじゃろ。わしは無駄な犠牲は出さぬ主義でな。それにわしは夜行性じゃから夜眼がきくんじゃよ?」
「……ふぅ〜ん、私が夜襲をかけにくるってこともお見通しだったって訳ね」
マティアスは気に入らないといったように眉を吊り上げるが、ケナードはなおも笑った。
「千里のフォルスを舐めるでないわ。じゃが、そういうお前さんこそ丸腰で乗り込んでくるとは大した余裕ではないか」
「私の武器が今どこにあるのかなんて貴方にとっては愚問でしょ?それに、貴方を殺すくらいなら武器なんかなくても十分だわ」
そういうとケナードを掴んでいるマティアスの手から青白い光が発光し、その光は龍の手を象ると鍵爪がケナードの首に食い込む。
「元々あいつらの監視なんてこの集落にくるための名目だったの。私の本当の目的はクインシェルの酋長であるあなたと取引をすることよ」
「取引……じゃと?」
鍵爪が食い込む若干の痛みに顔をしかめながらもケナードは復唱するように訊ねると、マティアスは頷いた。
「軍はユリスの襲撃に備えて戦力増強を考えているわ。そこで、この集落の民の力が必要って訳。ここまで言えば何を言いたいか分かるわよね?」
「徴兵という訳か……。じゃが、生憎この集落にお前さんらが望むような豪傑はおらんよ」
「しらをきるつもり?この集落には一つの村を丸ごと破壊できるヒトとその村を何事も無かったかのように再生して挙句の果てにはユリスまで再生するヒトが存在するのは分かりきっているの。あんな雑魚でさえそんな力を持っているのだもの。この集落にはそれ以上の力を持った民がいるのでしょう?」
「あの2人は特別じゃ。それに他の者も含めて皆、戦闘の訓練などまともに受けておらん。正直に言うが、お前さんの要望には応えられん。そもそも取引になっておらんではないか」
ケナードの言うとおり、取引とは簡単に言ってしまえば物々交換である。
マティアスはクインシェルの民が欲しいと言ってきたが、そのみかえりを彼女は話さないでいた。
しかしケナードの言葉を聞いたマティアスはキョトンとしていた。
「あなた、自分の状況を分かっていないようね。あなたの命と引き換えに集落の民を貸せと言っているのよ?ほら、十分取引になってるじゃない」
マティアスは自慢気に胸を張っていうと、ケナードは溜息を吐いた。
「残念じゃが、わしが死んだところで何も変わりはせんよ」
「構わないわ。あなたを殺した後無理矢理にでも連れ去っていくもの」
「ホッホッホ!お前さん、さっき自分で言ったことを忘れたんか?この集落にはあの2人以上に力のある者がおるのじゃろう?そいつらが束になっても、お前さんは勝てるのかのう?」
ケナードは自慢の髭を羽で器用に撫でると、マティアスは機嫌が悪くなったのか歯をギリギリと強く噛み締めた。
「もう一度言うが、わしを殺したところで何も変わりはせんよ。立場こそ酋長と名乗っているがそれはただの名前にすぎん。あやつらは今まで通り好きなように生きるじゃろう」
マティアスはそれを聞くと、呆れたように体の力を抜きフォルスの光も消えうせた。
「こんなところで老人を殺したところで何の自慢にもならないわ。お爺ちゃん、長生きするわよ」
「ホッホ、初めから殺す気など無かったくせに、よく言いおるわ」
ケナードは振り返りながら言うとマティアスは「は?」と聞き返した。
「お前さん程の実力があればわしが気配に気付く前に殺すこともできたじゃろう。それでもわしを殺さなかったのは何か訊ねたいことがあったのではないか?」
ケナードは探るように黄色く光る目を細めながら言うと、マティアスは機嫌を悪くしたのか腕を組んだ。
「……あなたの千里のフォルスは心の中まで見えるのかしら?」
「いんや、わしのフォルスは心の中どころか未来も過去も見えはせんよ。見えるのは今起きている事柄だけじゃ」
ケナードは瞳を閉じてから一度頷く。
「ふむ、じゃがお前さんが訊ねたいことは分かっておるつもりじゃ。……さっきのお前さんのフォルス、『龍』のフォルスじゃな?龍のフォルスに龍の血。古(いにしえ)に絶えたと言われる古代種の血族が何故今も生きているかは知らぬが、お前さんが知りたいのはそんなお前さんの両親の生息じゃろ」
「……えぇ、そうよ。どんな些細な情報でも良い。私は自分の両親を見つけて勝手に私を捨てたアイツ等をぶん殴ってやるんだから」
そこには明らかな殺意が込められており、深く聞くのはケナードも恐かったのでやめた。
「じゃが残念じゃ。わしの千里のフォルスを持ってしてもお前さんの両親の消息は分からん。しかし龍の存在は大陸では幻として語り継がれておる。しかも大陸ではその神話を追い求める変人もおるようじゃ。両親の手がかりを探したくばまずその男を捜すことじゃ」
マティアスはそれを聞くと顎に指を当て少し考えごとをした後、大樹から飛び降りた。
「参考になったわ。よく考えたら私、夜のランニング中だったの。良い寄り道になったわ」
マティアスはそれだけ言い残して外へと出て行った。
「寿命が縮んだわ……たわけめ」
ケナードが捨て台詞を吐く一方でフリィース家では食器が洗われる音が木霊していた。
台所ではジークが洗剤で食器を洗い、ジンは洗い終わった食器を丁寧に拭いている。
残るルルとフィオナはこの場にはいないようだった。
「ルル、なんだかんだ言ってニンジン全部食べてくれて良かったね」
「まさかあそこまで嫌がれるとは思わなかったけどな」
ジークは最後の最後まで顔をしわくちゃにしながら食べるルルの顔を思い出し、苦笑いしながらジンに皿を渡した。
一方二階のルル部屋へと招待されたフィオナは幾つものぬいぐるみに囲まれた自分の状況に唖然としていた。
ルルが裁縫を得意としているのはブライトから聞いたので知っており、バルカで開かれるはずだったフェスティバルの準備期間中に登場した着ぐるみを実際に見たことによりそのクオリティーの高さも熟知していた。
しかしよもや彼女の部屋に大小バラバラなぬいぐるみがここまで所狭しに並んでいようとは想像もしていなかった。
「本当に裁縫が得意なのね……。こんなに夢中になったのはやっぱりジークに褒められたから?」
「ち、違うよ!!確かに初めて褒められた時は嬉しかったけど……。でっ、でもね!?最近ジーク兄さんに褒められても全然嬉しくないんだ……。最近冷たいし」
ルルは近くにあったペンギンのようなぬいぐるみに顔をうずめ、フィオナは首を傾げた。
「そう?私には鬱陶しいぐらいルルのことを気にしているように見えるわよ?」
「そんなのフィオナがジーク兄さんのことをちゃんと見てないだけだよ」
ルルのボソっと呟いた一言はフィオナの胸を貫いたのか彼女は咄嗟に胸をおさえた。
「姉さんが生きてた頃はあんなに優しかったのにな〜……」
(私にはその頃の方が冷たかったように感じたわよ……)
今度は言葉には出さなかったが、フィオナはルルの言った『姉さんが生きていた頃』という言葉がどうも耳に残った。
ルルの話しから推測するにジークが変わったのはチャリティが死んでからということになる。
ルルの父親が病院で言っていたがジークがチャリティから死んでから何か考えているということはどうやら本当らしく、彼は一体何を考え、そもそも何故彼が悩む必要があるのかフィオナには全く分からない。
(確かに、あいつのこと全然見てなかったかも……)
フィオナがジークのことを考えている頃、当の本人はリビングにてあいかわらずジンと会話をしていた。
「そもそも兄さんはルルに構いすぎっていうか両極端すぎるんだよ。もっと他にも気にするべきヒトがいるんじゃないの?」
ジンは若干説教気味に言うとジークは眉をひそめた。
「え?もしかしてお前嫉妬してんの?」
ジンはテーブルを強く叩き何かを言おうとしたが、ここで二階よりルルとフィオナが降りてきた。
そしてフィオナはズンズンとジークに歩み寄り顔をちかづけると力強く開かれた瞳がジークの顔を映し出した。
しばらくそのまま硬直状態が続いたが、フィオナは一歩後退してから溜息をついた。
「無理無理。いくらがん見しても全然分かりやしないわ」
「フィオナどうしたの?」
ジンはフィオナに一応訊ねてみたが彼女は手をヒラヒラと返した。
「別に何でもないわよ。それより、これからルルちゃんとお風呂入ってくるから、絶対覗かないでよね」
覗かれるヒロインの決め台詞だけを言い残して2人は浴室へと入っていった。
しかしジークはボーっとしており、不意に玄関へと向かった。
「兄さん?」
「少し風に当たってくる」
外に出ると冷たい夜風がジークの頬を撫でた。
しかし今のジークにはその冷たさが感じることができず、逆に体の温度が上昇し続けていた。
(自覚した途端にアレはやばいだろ……)
フィオナの顔が目の前に来た時、ジークの頭の中は真っ白になっていた。
フィオナのことが好きだと分かったジークにとって、アレだけでも結構な刺激になってしまうらしい。
それでも時間がたつに連れ胸の鼓動も落ち着き始め夜風が冷たく感じてきた。
すると精神が研ぎ澄まされたのか微かな足音がジークの耳に届いた。
その足音はリズムからして走っているように聞こえ、それでいて安定したテンポで走ってくる。
その足音は次第に影へと形を変え、そして次第に姿を目視できる距離まで近付いてくると、足音の正体はマティアスだった。
「あら、こんな夜中に奇遇ね。でも青年男児の夜の徘徊は感心できないわね」
「別に玄関に居るくらい良いだろう」
「あぁ、ここが貴方の家なの」
マティアスは繁々と家を眺めると、不適な笑みを浮かべた。
「もしかしてルルちゃんは今お風呂?ちょっと覗いていこうかしら」
「よく分かったな……」
「貴方程じゃないけど、私も耳には自信があるのよ」
マティアスは自慢の触覚をかきあげてみせる。
「で、お前は何で深夜徘徊なんてしてるんだ?」
「私?私はランニング中よ。本当の強さを得るためには日々の鍛錬は欠かせないわ!」
「そう……なのか」
相変わらず自信に満ちた顔で言うマティアスだったが、この時ばかりはジークもえらく納得したように頷いた。
「やけに素直ね、逆に気持ち悪いわ……。ていうか、今夜は随分とお喋りなのね。人見知りは治ったのかしら?」
「そんなに簡単に治ったら苦労しねぇよ。ただ、良い機会だからお前にお礼を言おうと思ってな」
「お礼?」
「船の上でルルを助けてくれただろ?あの後ずっと礼を言いたいと思ってたんだ」
「あぁ、あの時ね。可愛い子は国の宝だもの、護るのは当然よ!だからお礼なんていらないわ」
「そうか……」
初対面は殺されそうになった所為もあり、印象は最悪なものだったがこうして話してみると案外良いヒトなのかもしれない。
そうジークには思えた。
「そうね、どうしてもお礼を言いたいっていうのなら貴方の今後のために一つ忠告をしてあげるわ」
マティアスはジークの家を一瞥してから表情を真剣な物へと変えた。
「私が船の上で貴方達付き合ってるのかと聞いた時、否定したわよね?別にあの言葉が嘘だったと思ってる訳ではないけども、一つだけ言わせてもらうわ」
ジークの胸が少し痛んだ。
確かにあの時のジークの言葉は嘘ではなかったが、今は本当の気持ちに気付いてしまっている。
今再び同じ質問をされても同じ返答はできなだいろう。
「これから先、有り得ない話しだとは思うけど仮に貴方がフィオナを好きになったとするわ」
ジークはこれ以上嘘を大きくさせまいと、自分の気持ちを伝える決心をした。
そして口を開こうとしたその時だ。
「もし好きになっても、その瞬間に諦めなさい」
冷酷な夜風が、ジークの胸を抉(えぐ)る。
〜続く〜
■作者メッセージ
ども〜!大分間隔が空いてしまったtakeshiです。
今回もまた5000文字ジャストのため追記できませんでしたが、今回マティアスのフォルスが明かされたためキャラクター名鑑が更新されました。
まぁ、龍のハーフで龍のフォルスって何だそれ?って話しですけどね!
さてさて、次回からなのですがこのメッセージ欄を本編のキャラ達に任せようと思います。
それと外伝的なモノもこの欄を利用して執筆していきたいと思います。
これからますますメッセージ欄から目を離せないんだZE☆
冗談はともかく、感想の件なのですがやはりお返事もこの欄を利用しようと思います。
そして書きにも行きまくります!
感想ランキングで何かと揉めることにもなると思いますが、まだ未完成のこの掲示板を作っていくのは私達ですので、ぶつかりながらでも作っていければ良いんじゃないかな?かな?
というかオマケが一行に進まない・・・。
てな訳で!相変わらずグダグダですが今回はこのへんで!
ではまた〜
今回もまた5000文字ジャストのため追記できませんでしたが、今回マティアスのフォルスが明かされたためキャラクター名鑑が更新されました。
まぁ、龍のハーフで龍のフォルスって何だそれ?って話しですけどね!
さてさて、次回からなのですがこのメッセージ欄を本編のキャラ達に任せようと思います。
それと外伝的なモノもこの欄を利用して執筆していきたいと思います。
これからますますメッセージ欄から目を離せないんだZE☆
冗談はともかく、感想の件なのですがやはりお返事もこの欄を利用しようと思います。
そして書きにも行きまくります!
感想ランキングで何かと揉めることにもなると思いますが、まだ未完成のこの掲示板を作っていくのは私達ですので、ぶつかりながらでも作っていければ良いんじゃないかな?かな?
というかオマケが一行に進まない・・・。
てな訳で!相変わらずグダグダですが今回はこのへんで!
ではまた〜