第70話『アニカマルとテント』
ヴェイグ達がアニカマルに駆け付けると、村のあちこちから黒煙が上がっていた。
「こいつはひでぇ……」
思わず口に出したティトレイの前にはヒューマやガジュマがまばらにうずくまって倒れている光景が広がっていた。
ピピスタで聞いた噂では喧嘩が起きていたとのことだったが、もしそれが真実なら勝った方が立っていなければおかしい。
だが今は両種族ともうめき声を上げながら横たわっている。
所詮噂は噂、伝言ゲームとはやはりどこかで歪曲してしまうものだろう。
ならば一体ここで何が起きたというのか。
容易に想像がついたヴェイグは拳をギリギリと強く握り締めた。
「ファルブのしわざか……!!」
「一刻も早く手当てを!」
幸い、今はファルブの姿は無い。
アニーは倒れているヒューマの元へと駆け寄るとカインも羊のガジュマの元へと駆け寄った。
カインは膝を突いて至近距離でガジュマの容体を観察すると、角が片方折れ、出血も激しく貧血状態になっていた。
早く治療をしなければ命にかかわるがアニーが診ているヒューマも同じような容体らしく陣を描いている。
ならば、とカインは決心してガジュマに両手をかざす。
「おい!」
近くの宿屋の中を調べるため入ろうとしたジークが止めに入ろうとするがカインは躊躇することなくフォルスを発動させた。
「大丈夫だよジーク君。ここまで来るのに僕も結構成長したみたいでさ、これぐらいなら寿命を代価にしなくても治せそうなんだ」
カインは声を潜めてなるべく周囲に聞こえないように言いながら極限まで一点に濃縮したフォルスを流し続ける。
「ジーク、ここはカイン達に任せて俺達はファルブを探そう」
肩を後ろから叩かれ肩越しに振り返ると、そこには眉間に皺を寄せたヴェイグとティトレイが立っていた。
「ここは俺達が探すからよ、ジーク達は他のところを頼むぜ?」
既にマオとブライトが宿屋や近くの民家の中等の捜索を始めていた。
ニノンとカイトもアニーの指示に従って軽傷者を宿屋の中に誘導しており、ここでのやることはなそうだった。
「ジーク、俺達は村の西側へ行くぞ」
ヴェイグの提案によりジーク、ヴェイグ、ユージーン、ヒルダ、フィオナ、ジン、ルルの7人は村の西側へ向かうことにした。
* * *
西側には小さなレンガ造りの家が並んでおり、広場を挟んで反対側には小さな池があった。
その池には鯉が泳いでいるが、一匹泳ぐのが精一杯の狭さだ。
「ここにも居ないようね……」
普段ならここで小さな子供が遊んでいたり兄弟が変わった体操をしているのだが、ファルブどころか1人も外に出ていなかった。
「家の中に誰かいるかもしれん。一件ずつ回って話しを聞くことができればいいのだが……」
僅かな希望を抱きつつ、ユージーンは一件の民家のドアをノックする。
手分けしようとヴェイグやフィオナ、それにジンやルルもそれぞれ一件ずつドアをノックしに向かった。
(よく知らない人の家のドアを平気でノックできるよな……)
人見知りのジークはそんな彼らを池の近くから見守っていた。
見知らぬお宅へ訪問し、初対面のヒトと会話するなど、ジークにとってはユリスに世界を破滅させるなんてやめようぜと言って止めるのと同格である。
(それにしてもファルブのやつ、本当にどこ行きやがった……。俺達が来たことに勘付いたとしたって逃げも隠れる必要もないはずだ)
ジークはふと、西側に伸びる細い道を見た。
ジーク達が今いる広場がこの村の一番端だと思い込んでいたが、どうやらまだ先があるらしい。
「行ってみて損はなさそうだな」
ヴェイグ達はそれぞれ民家に入り、今広場にはジークしかいない。
ジークは独断で細道へと足を踏み入れる。
* * *
背の高い木や腰の高さまである草が生い茂っていたがヒトが1人分通れるくらいには道が開いていた。
もしかしたら今ジークが歩いている道だと思っている所はもともと道ではなく誰かが何度も草むらを往復することで草が倒れ、道のようになっただけなのかもしれない。
そんな懸念を抱きつつ、ジークは進み続けると尖った屋根のような物が見えてきた。
よくみるとその屋根の中央にジッパーが付いておりヒトが出入りできるような入り口になっていた。
「これは……テントか」
そう、ジークが見つけたのは草むらの中にぽっかりと空いた空間に設営された野営用のテントだった。
それも小さい物で高さはジークの身長に届くギリギリの高さだった。
恐らく一人用の簡易テント、特に冒険者が愛用するものだろう。
(まさかファルブが住民の反撃にあってここに隠れてたりすんのか……?)
ジークは足音を立てないようそっとテントに近付き、しゃがんでジッパーのツマミを掴む。
このジッパーのツマミを上に滑らせればテントを開くことができる。
しかし開いた瞬間にファルブからの攻撃がくるかもしれない。
ジークは生唾を飲み、ツマミを持つ指先に精神を集中させる。
意識はテントの中へ。
(勝負!!)
ジークは一気にジッパーを滑らせる。
* * *
ジークは大前提から思い違いをしていた。
そもそも、このテントの中にファルブがいるのならば彼の大鎌はどこにあるのか。
ジークの身長にも及ばないテントの中にジークより大きい鎌を収容するのは物理的に無理がある。
だがジークは今、銀色に光る切っ先を向けられている。
噛み締めた歯を剥き出しにして、こちらに敵意と警戒を向ける少女に。
「お、お嬢……逃げてください……」
同じテントの中に男の声が響く。
少女はずっとこちらを睨んだまま唇一つ動かしていないため彼女ではない。
彼女の後ろ、背の低い小柄な身体で隠している彼女の背後には腕にギブスを付け、頭には包帯を巻かれた満身創痍の男性が倒れていた。
「バカ言わないで!子分を置いて私だけ逃げられるわけないでしょ!?」
少女はジークから視線を外すことなく声だけ後ろに飛ばす。
「あなた、さっきからちっとも動かないけどどういうつもり?言っとくけど、今の私は無防備のヒトだってためらわずに切るわよ?」
ジークは拳を握り締める。
まずは彼女達の警戒を解くためにも質問しなければならなことがある。
だからジークは善意でもって問いかける。
「お前……その片目はどうしたんだ?」
「…………」
少女は一瞬思考停止したのか、それとも拘泥したからこそなのか確実に彼女の周りだけ時が止まったが、ゆっくりと右目に手を添える。
「これは眼帯だ!」
そう、少女は右目に眼帯をしていた。
「目を怪我したのか!?だったら早く治療を……」
「バカにするな!!」
少女はジークの言葉を遮るように吼える。
「別に怪我したから付けてるんじゃない!」
そう言って少女が眼帯をめくると可愛らしい大きな丸い瞳と目が合った。
少女は眼帯を元に戻す。
一方で、ジークの頭の中が混乱し始めた。
(眼帯に子分だ?一体どうなってやがる!)
ジークは額に手を当て、冷静に分析するよう努める。
まず第一に、何故この少女は目を負傷していないのにもかかわらず眼帯を付けているのか。
そしてお嬢、子分と呼び合う2人の関係は一体何なのか。
一見少女のお遊びに男性が付き合っているようにも見えるが、瀕死の状況下で男が少女の遊びに付き合う理由はないはずだ。
考えようとすればするほどドツボにはまっていくような感覚だ。
「あなた……もしかして追っ手じゃないの?」
眼帯の少女は切っ先を向けたままだが、希望にすがるような目でこちらを見てくる。
ナイフを向けているというのに武器を構えるどころか眉間に皺を寄せて難しい顔するジークを見て心を開きかけているのかもしれない。
「俺はお前の言う追っ手とかじゃない。そもそも追っ手ってどういうことだ?ファルブに狙われているのか?」
「ファルブ?」
少女は首を傾げながら呟く。
「詳しいことは話せないけど、少なくともそのファルブとかいうヤツは知らないわ」
どうも話が噛み合わない。
だがしかし、この村の住人ならばこの村を襲ったファルブを知らないというのはおかしい。
「ゴリラみたいなガジュマだぞ?本当に知らないのか?」
ジークの言葉を聞いて、少女の細い眉がピクっと反応した。
「そのガジュマなら知ってるわ。追っ手から私達を助けてくれた恩人だもの」
「助けただと!?」
余計にジークの頭が混乱してくる。
もしかしたらこの2人はファルブと繋がっているのかもしれない。
「お願い!!あたが敵なのか味方なのか分からないけど今だけは見逃して!そうすれば私もあなたに危害を加えないと約束するから!」
よく見るとナイフを握る少女の手は震えていた。
だがファルブと繋がっている可能性がある以上見過ごすことはできない。
危険な芽は早目に摘んでおくことに越したことはない。
「君、最近悩んでばっかだね」
突如、ジークの背後から女性の声がした。
この突拍子もなく出現してくるこの感じには覚えがある。
「や」
振り向くとそこには金の髪と九本の尻尾をなびかせたヤコがこちらに小さく手を挙げていた。
「新手!?」
少女はヤコを見てナイフを握る手に力を込める。
が、少女が瞬きをした一瞬、ヤコはいつのまにか少女とジークの間に移動しており、少女がナイフを握る手の上に中腰になったヤコの手が添えられていた。
「大丈夫、私達はあなた達の敵じゃないから」
「え……」
少女が呆気にとられている傍らでヤコは次にジークに目を向ける。
「君も、この子は私達の敵じゃないよ?それに何時になったらベルサスに行ってくれるの?」
「わ、悪い……」
「うん、まぁしょうがないかな」
ヤコは微笑みながら立ち上がると、ジークに顔を寄せた。
「本当はいろいろ言いたいことがあったんだけどな……。忘れないで?どんなことがあっても私は君のそばにいるから」
「お、おう……」
「分かればよろしい」
ヤコは満足そうに笑うとジークから離れ、そのまま姿を消してしまった。
「今の……何?」
眼帯の少女はナイフの切っ先を彷徨わせながら虚空を見つめた。
「ったく、仕方ねぇ」
ジークは腰のアイテムポーチに手を伸ばすとその中からピーチグミを取り出し少女に投げた。
「っとと!」
突然投げられたグミを少女は慌てて両手でキャッチすると、不思議そうな顔でジークを見る。
「追われてたってことは、お前達この村の住人じゃないんだろ?だったらそれをお前の子分とやらに食べさせてさっさと遠くへ逃げろ。ここもそのうち安全ではなくなる」
「……いいの?」
少女は尚もグミとジークを交互に見る。
すると、少女の背後で倒れている男性がうめき声を上げながら上体を起こした。
「わ、我々は……カタギからの施しは受けない……」
「そんな意地張ってる場合!?四の五の言わずに食べなさい!」
眼帯の少女は満身創痍の男の口に無理矢理グミを突っ込むと、男は窒息しそうになりながらなんとか喉を通した。
「あなた良いヒトね、さっきはナイフを向けてしまってごめんなさい」
眼帯の少女が謝罪する後ろで、少し回復した男が立ち上がった。
「申し訳ございませんお嬢。これなら動けそうです」
少女は肩越しに男性を見据えると腰に手を当て頷いた。
「それならダージリン、退路と合流地点の確認をお願い」
少女に命令されると男は即座にマップを広げコンパスで線を引き始める。
「あなたには私からお礼をしたいんだけど、生憎今は何も持ってないの。だから代わりにこれを渡しておくわ」
ジークは一枚のカードを受け取った。
「……これは?」
「それは海賊証っていって、そのカードから出る僅かな磁気で仲間かそうでないか判別できるものなの。それを持っていれば海賊と会っても襲われることはないわ」
ジークはカードを眺める。
「何でそんなものを俺に?」
「今度会ったらお礼をしたいから、その目印みたいなものよ。どうせ襲われないし、直接会いに来てくれると手っ取り早く御礼を渡せるんだけど……」
ジークは更にカードを眺める。
「分かった、考えとく」
「お嬢、準備完了しました」
気付けば男は荷物をまとめ終わっていた。
「オッケー。それじゃ、またね」
「こっちです」
眼帯の少女は男に誘導されるまま、草むらの中へと消えていった。
一方ジークは海賊証を眺め続ける。
そして、ようやく気付く。
「あいつ……海賊だったのか」
〜続く〜
「こいつはひでぇ……」
思わず口に出したティトレイの前にはヒューマやガジュマがまばらにうずくまって倒れている光景が広がっていた。
ピピスタで聞いた噂では喧嘩が起きていたとのことだったが、もしそれが真実なら勝った方が立っていなければおかしい。
だが今は両種族ともうめき声を上げながら横たわっている。
所詮噂は噂、伝言ゲームとはやはりどこかで歪曲してしまうものだろう。
ならば一体ここで何が起きたというのか。
容易に想像がついたヴェイグは拳をギリギリと強く握り締めた。
「ファルブのしわざか……!!」
「一刻も早く手当てを!」
幸い、今はファルブの姿は無い。
アニーは倒れているヒューマの元へと駆け寄るとカインも羊のガジュマの元へと駆け寄った。
カインは膝を突いて至近距離でガジュマの容体を観察すると、角が片方折れ、出血も激しく貧血状態になっていた。
早く治療をしなければ命にかかわるがアニーが診ているヒューマも同じような容体らしく陣を描いている。
ならば、とカインは決心してガジュマに両手をかざす。
「おい!」
近くの宿屋の中を調べるため入ろうとしたジークが止めに入ろうとするがカインは躊躇することなくフォルスを発動させた。
「大丈夫だよジーク君。ここまで来るのに僕も結構成長したみたいでさ、これぐらいなら寿命を代価にしなくても治せそうなんだ」
カインは声を潜めてなるべく周囲に聞こえないように言いながら極限まで一点に濃縮したフォルスを流し続ける。
「ジーク、ここはカイン達に任せて俺達はファルブを探そう」
肩を後ろから叩かれ肩越しに振り返ると、そこには眉間に皺を寄せたヴェイグとティトレイが立っていた。
「ここは俺達が探すからよ、ジーク達は他のところを頼むぜ?」
既にマオとブライトが宿屋や近くの民家の中等の捜索を始めていた。
ニノンとカイトもアニーの指示に従って軽傷者を宿屋の中に誘導しており、ここでのやることはなそうだった。
「ジーク、俺達は村の西側へ行くぞ」
ヴェイグの提案によりジーク、ヴェイグ、ユージーン、ヒルダ、フィオナ、ジン、ルルの7人は村の西側へ向かうことにした。
* * *
西側には小さなレンガ造りの家が並んでおり、広場を挟んで反対側には小さな池があった。
その池には鯉が泳いでいるが、一匹泳ぐのが精一杯の狭さだ。
「ここにも居ないようね……」
普段ならここで小さな子供が遊んでいたり兄弟が変わった体操をしているのだが、ファルブどころか1人も外に出ていなかった。
「家の中に誰かいるかもしれん。一件ずつ回って話しを聞くことができればいいのだが……」
僅かな希望を抱きつつ、ユージーンは一件の民家のドアをノックする。
手分けしようとヴェイグやフィオナ、それにジンやルルもそれぞれ一件ずつドアをノックしに向かった。
(よく知らない人の家のドアを平気でノックできるよな……)
人見知りのジークはそんな彼らを池の近くから見守っていた。
見知らぬお宅へ訪問し、初対面のヒトと会話するなど、ジークにとってはユリスに世界を破滅させるなんてやめようぜと言って止めるのと同格である。
(それにしてもファルブのやつ、本当にどこ行きやがった……。俺達が来たことに勘付いたとしたって逃げも隠れる必要もないはずだ)
ジークはふと、西側に伸びる細い道を見た。
ジーク達が今いる広場がこの村の一番端だと思い込んでいたが、どうやらまだ先があるらしい。
「行ってみて損はなさそうだな」
ヴェイグ達はそれぞれ民家に入り、今広場にはジークしかいない。
ジークは独断で細道へと足を踏み入れる。
* * *
背の高い木や腰の高さまである草が生い茂っていたがヒトが1人分通れるくらいには道が開いていた。
もしかしたら今ジークが歩いている道だと思っている所はもともと道ではなく誰かが何度も草むらを往復することで草が倒れ、道のようになっただけなのかもしれない。
そんな懸念を抱きつつ、ジークは進み続けると尖った屋根のような物が見えてきた。
よくみるとその屋根の中央にジッパーが付いておりヒトが出入りできるような入り口になっていた。
「これは……テントか」
そう、ジークが見つけたのは草むらの中にぽっかりと空いた空間に設営された野営用のテントだった。
それも小さい物で高さはジークの身長に届くギリギリの高さだった。
恐らく一人用の簡易テント、特に冒険者が愛用するものだろう。
(まさかファルブが住民の反撃にあってここに隠れてたりすんのか……?)
ジークは足音を立てないようそっとテントに近付き、しゃがんでジッパーのツマミを掴む。
このジッパーのツマミを上に滑らせればテントを開くことができる。
しかし開いた瞬間にファルブからの攻撃がくるかもしれない。
ジークは生唾を飲み、ツマミを持つ指先に精神を集中させる。
意識はテントの中へ。
(勝負!!)
ジークは一気にジッパーを滑らせる。
* * *
ジークは大前提から思い違いをしていた。
そもそも、このテントの中にファルブがいるのならば彼の大鎌はどこにあるのか。
ジークの身長にも及ばないテントの中にジークより大きい鎌を収容するのは物理的に無理がある。
だがジークは今、銀色に光る切っ先を向けられている。
噛み締めた歯を剥き出しにして、こちらに敵意と警戒を向ける少女に。
「お、お嬢……逃げてください……」
同じテントの中に男の声が響く。
少女はずっとこちらを睨んだまま唇一つ動かしていないため彼女ではない。
彼女の後ろ、背の低い小柄な身体で隠している彼女の背後には腕にギブスを付け、頭には包帯を巻かれた満身創痍の男性が倒れていた。
「バカ言わないで!子分を置いて私だけ逃げられるわけないでしょ!?」
少女はジークから視線を外すことなく声だけ後ろに飛ばす。
「あなた、さっきからちっとも動かないけどどういうつもり?言っとくけど、今の私は無防備のヒトだってためらわずに切るわよ?」
ジークは拳を握り締める。
まずは彼女達の警戒を解くためにも質問しなければならなことがある。
だからジークは善意でもって問いかける。
「お前……その片目はどうしたんだ?」
「…………」
少女は一瞬思考停止したのか、それとも拘泥したからこそなのか確実に彼女の周りだけ時が止まったが、ゆっくりと右目に手を添える。
「これは眼帯だ!」
そう、少女は右目に眼帯をしていた。
「目を怪我したのか!?だったら早く治療を……」
「バカにするな!!」
少女はジークの言葉を遮るように吼える。
「別に怪我したから付けてるんじゃない!」
そう言って少女が眼帯をめくると可愛らしい大きな丸い瞳と目が合った。
少女は眼帯を元に戻す。
一方で、ジークの頭の中が混乱し始めた。
(眼帯に子分だ?一体どうなってやがる!)
ジークは額に手を当て、冷静に分析するよう努める。
まず第一に、何故この少女は目を負傷していないのにもかかわらず眼帯を付けているのか。
そしてお嬢、子分と呼び合う2人の関係は一体何なのか。
一見少女のお遊びに男性が付き合っているようにも見えるが、瀕死の状況下で男が少女の遊びに付き合う理由はないはずだ。
考えようとすればするほどドツボにはまっていくような感覚だ。
「あなた……もしかして追っ手じゃないの?」
眼帯の少女は切っ先を向けたままだが、希望にすがるような目でこちらを見てくる。
ナイフを向けているというのに武器を構えるどころか眉間に皺を寄せて難しい顔するジークを見て心を開きかけているのかもしれない。
「俺はお前の言う追っ手とかじゃない。そもそも追っ手ってどういうことだ?ファルブに狙われているのか?」
「ファルブ?」
少女は首を傾げながら呟く。
「詳しいことは話せないけど、少なくともそのファルブとかいうヤツは知らないわ」
どうも話が噛み合わない。
だがしかし、この村の住人ならばこの村を襲ったファルブを知らないというのはおかしい。
「ゴリラみたいなガジュマだぞ?本当に知らないのか?」
ジークの言葉を聞いて、少女の細い眉がピクっと反応した。
「そのガジュマなら知ってるわ。追っ手から私達を助けてくれた恩人だもの」
「助けただと!?」
余計にジークの頭が混乱してくる。
もしかしたらこの2人はファルブと繋がっているのかもしれない。
「お願い!!あたが敵なのか味方なのか分からないけど今だけは見逃して!そうすれば私もあなたに危害を加えないと約束するから!」
よく見るとナイフを握る少女の手は震えていた。
だがファルブと繋がっている可能性がある以上見過ごすことはできない。
危険な芽は早目に摘んでおくことに越したことはない。
「君、最近悩んでばっかだね」
突如、ジークの背後から女性の声がした。
この突拍子もなく出現してくるこの感じには覚えがある。
「や」
振り向くとそこには金の髪と九本の尻尾をなびかせたヤコがこちらに小さく手を挙げていた。
「新手!?」
少女はヤコを見てナイフを握る手に力を込める。
が、少女が瞬きをした一瞬、ヤコはいつのまにか少女とジークの間に移動しており、少女がナイフを握る手の上に中腰になったヤコの手が添えられていた。
「大丈夫、私達はあなた達の敵じゃないから」
「え……」
少女が呆気にとられている傍らでヤコは次にジークに目を向ける。
「君も、この子は私達の敵じゃないよ?それに何時になったらベルサスに行ってくれるの?」
「わ、悪い……」
「うん、まぁしょうがないかな」
ヤコは微笑みながら立ち上がると、ジークに顔を寄せた。
「本当はいろいろ言いたいことがあったんだけどな……。忘れないで?どんなことがあっても私は君のそばにいるから」
「お、おう……」
「分かればよろしい」
ヤコは満足そうに笑うとジークから離れ、そのまま姿を消してしまった。
「今の……何?」
眼帯の少女はナイフの切っ先を彷徨わせながら虚空を見つめた。
「ったく、仕方ねぇ」
ジークは腰のアイテムポーチに手を伸ばすとその中からピーチグミを取り出し少女に投げた。
「っとと!」
突然投げられたグミを少女は慌てて両手でキャッチすると、不思議そうな顔でジークを見る。
「追われてたってことは、お前達この村の住人じゃないんだろ?だったらそれをお前の子分とやらに食べさせてさっさと遠くへ逃げろ。ここもそのうち安全ではなくなる」
「……いいの?」
少女は尚もグミとジークを交互に見る。
すると、少女の背後で倒れている男性がうめき声を上げながら上体を起こした。
「わ、我々は……カタギからの施しは受けない……」
「そんな意地張ってる場合!?四の五の言わずに食べなさい!」
眼帯の少女は満身創痍の男の口に無理矢理グミを突っ込むと、男は窒息しそうになりながらなんとか喉を通した。
「あなた良いヒトね、さっきはナイフを向けてしまってごめんなさい」
眼帯の少女が謝罪する後ろで、少し回復した男が立ち上がった。
「申し訳ございませんお嬢。これなら動けそうです」
少女は肩越しに男性を見据えると腰に手を当て頷いた。
「それならダージリン、退路と合流地点の確認をお願い」
少女に命令されると男は即座にマップを広げコンパスで線を引き始める。
「あなたには私からお礼をしたいんだけど、生憎今は何も持ってないの。だから代わりにこれを渡しておくわ」
ジークは一枚のカードを受け取った。
「……これは?」
「それは海賊証っていって、そのカードから出る僅かな磁気で仲間かそうでないか判別できるものなの。それを持っていれば海賊と会っても襲われることはないわ」
ジークはカードを眺める。
「何でそんなものを俺に?」
「今度会ったらお礼をしたいから、その目印みたいなものよ。どうせ襲われないし、直接会いに来てくれると手っ取り早く御礼を渡せるんだけど……」
ジークは更にカードを眺める。
「分かった、考えとく」
「お嬢、準備完了しました」
気付けば男は荷物をまとめ終わっていた。
「オッケー。それじゃ、またね」
「こっちです」
眼帯の少女は男に誘導されるまま、草むらの中へと消えていった。
一方ジークは海賊証を眺め続ける。
そして、ようやく気付く。
「あいつ……海賊だったのか」
〜続く〜
■作者メッセージ
【楽談パート52】
takeshi「ども〜!8月も終わりが近付いてきた今日この頃、皆様どうお過ごしでしょうか?takeshiです」
マリア「いつもと出だしが少し違うわね。マリアよ」
チャリティ「結局今年も海行かなかったわね〜」
アガーテ「お姉様?水着選びでしたら私もお供しますわ♪」
takeshi「こんな惨状になってしまうとですね、そりゃ挨拶の仕方も変えたくなりますよ……」
マリア「この状況をミルハウスト君がみたらどう思うのかしら?」
アガーテ「ミルハウスト?……うっ!頭が!!」
takeshi「なに?洗脳でもかけれているんですか?」
チャリティ「よ〜しよしよしよしよし。あんたは何も思い出さなくて良いのよ〜」
アガーテ「はい〜」
マリア「あれはもうダメね。それより、今回本編に出てきたテントって本当にある物なのかしら?」
takeshi「ありますよ?アニカマルの端っこの方までエリアチェンジをしていくと、一人称が小生の冒険家のおっさんが放置していったテントが今も何故か立っているんです。今ジークがいるのはそこですよ」
チャリティ「変な体操をしている兄弟っていうのは?」
takeshi「テントの前のエリアの広場っぽい所にいる兄弟のことですね?なんか両手を挙げたり下げたりしている謎の兄弟がいるのですが、実はこれ記憶が曖昧でもしかしたら別の街かもしれません……」
アガーテ「眼帯の少女というまた名前の無いキャラクターが出てきましたが、彼女は俗に言う厨二病さんなのでしょうか?」
takeshi「本編の最後で明らかになったのでここでも言ってしまいますが、彼女は海賊の一味なのでまずは形からということで眼帯をしているだけです。ちなみに声も「シュバルツシルト!」とか言うような声ではありませんので。どちらかと言うとモーレツの方なので」
マリア「猛烈?マリリンモンローさんか何かなのかしら?」
チャリティ(古……)
アガーテ(えぇっと、どなたなのでしょう……)
マリア「チャリティちゃん?久し振りにご本を読んであげましょうか?」
チャリティ「え?なによ突然。べつにこの年になって絵本なんて読んで欲しいとは思わないわよ」
マリア「絵本じゃなくて本よチャリティちゃん。じゃあ読むわね?」
『Hey World!世界はこんなに広いのに、何で私の世界はこんなに狭いの?私は湖よりも海になりたかった。でも知っているの。海じゃ生きられない子のために湖があるってことを。私はそんな誰かの湖でいられたら、それだけで幸せ。でも信じてる。いつか誰かが虹の橋を渡って海の向こうへと連れて行ってくれるって。だから消えないで、私のHappy Rainbow』
チャリティ「ィィイイイヤアアアアアぁああああああ!!!!!」
takeshi「すごっ!ブルースリー顔負けの叫び声ですね」
アガーテ「お姉様!?突然どうしましたの!?お姉様!?それにこの恥ずかしいポエムは一体……?」
チャリティ「何で!?湖に捨てたはずなのに!!」
マリア「海に捨てるべきだったわね、ハッピーレインボーさん♪」
チャリティ「ぐはっ!!」
アガーテ「お姉様!!」
takeshi「虹の橋ってつまりレインボーブリッジですよね?お台場に行けばいくらでも連れてってくれますよ?」
チャリティ「いつまで読んでのよあんたは!!さっさと返せ!!」
アガーテ「……え?まさか今のってお姉様が書いたんですか?」
チャリティ「な、何よ!?女の子なら一度は書くでしょ!?」
アガーテ「ごめんなさい……私ちょっとそういうの分からないです。でも、ヒトの趣味はそれぞれだと思うので安心してくださいね?チャリティさん♪」
takeshi「安心しろとか言って心の距離が開いてる……」
マリア「そうそう、郵便物を送る時って必ず宛先を書くでしょ?私、その宛先ってとっても重要だと思うの」
チャリティ「こ、今度は何!?もう怖いんだけど!」
アガーテ「確かに宛先は大切ですよね。間違えて書いてしまった場合、他の誰かのもとへ届いてしまうこともありますし」
マリア「そうなの。それでね、私のところにもたっくさん間違えて送られてきたお手紙がきてるの」
チャリティ「て、手紙!?手紙なんてこのかた書いたことさえないわよっ!?」
takeshi「それはそれでどうかと……」
マリア「今からその中の一枚を読むわね?」
『拝啓、金髪の似合う貴公子様へ
貴方を前にすると胸が苦しくなります
本当はもっとお話がしたい……
でもいざ貴方と向き合うと緊張してしまい、千の言葉も意味を持ちません
素直になれない私をお許しください
せめて……攻め手せめて!
私のこの気持ちだけでもお伝えできたらと筆をとりました
返事は結構です
貴方を敬愛する姫より』
アガーテ「……」
takeshi「なんか途中にすっごい誤字が……」
アガーテ「何故マリアさんがこのような物を持っているのですか!!?」
マリア「だから言ったでしょう?宛先は重要だって」
アガーテ「だ、ダウトです!!封筒にさえ入れずに何時も断念しているのですからそもそも配達されるはずがありませんわ!!」
チャリティ「千の言葉って、あんた言葉攻めでもする気?」
アガーテ「物の例えです!ヘイワールド!とか言って世界に話しかけるヒトに言われたくありません!」
チャリティ「そそっ、それは今は関係無いでしょ!?」
takeshi「本当はお盆にかこつけて既にリタイアしているキャラをパート毎にいろいろと呼ぶ予定だったのですが、チャリティさんとアガーテさんが以外と良いコンビだったので結局このまま来ちゃいました……」
マリア「2人とも似た物同士なのね〜♪」
チャリティ「良いわ、来年決着を着けてやるから絶対来なさいよ!」
アガーテ「望むところです!王家に伝わる四十八手で今度はチャリティさんに私のことをお姉様と呼ばせてみせますわ♪」
マリア「それでは皆さん、隙があればまた来ますね?」
takeshi「来年じゃないんですか!?で、ではまた〜」
―――オマケ―――
『救いの塔・最上階』
レイヴン「ぜぇ……ぜぇ……お、おっさん、もう無理……もう歩けない……」
フレン「ほら頑張ってください?もう階段は終わりましたよ?ゆっくりと歩けば大丈夫ですから」
ジュディス「おじさま、介護老人みたいね」
レイヴン「ジュディスちゃん介護して〜」
ジュディス「イヤよ♪」
レイヴン「うおおおおお!今ので元気みなぎってきたぁああああ!!ヒャッフー!」
カロル「レイヴン……」
エル「ちょっとあんた達!ここに何の用?」
リタ「何あのチビッ子。無駄に偉そうね」
エル「エルちびっ子じゃないし!」
リタ「ムキになるところがますますお子様ね♪」
エル「エルは立派なレディだし!あんたなんかぺったんこじゃない!」
リタ「それはあんたもでしょ!?それにあたしはこれから成長すんの!」
エル「その人みたいに?」
ジュディス「ん?」
リタ「ぐっ……こ、こっちなら何とか……」
エステリーゼ「リタ?何で私を指差すんです?」
ユーリ「そろそろ話進めて良いか?」
フレン「ユーリ、隊長の顔色が優れない。もう少し話を引き伸ばせないだろうか?」
ユーリ「別におっさんのために尺稼ぎしてんじゃねぇんだよ」
ルドガー「……」
エル「ルドガーが、よくここまで辿り着いたな、だって」
ユーリ「ちょっと待て。何で直接喋らねぇんだ?」
ルドガー「……」
エル「いちいち選択肢作るのが面倒なんだって」
レイヴン「気をつけな青年。青年達が探してるヒロインを連れてったのはあいつだぜ?」
ルドガー「……」
エル「ふっふっふ、バレてしまっては仕方無い、だって」
エステリーゼ「伝言ゲームみたいで可愛いです♪」
リタ「あいつ今笑ってたの?ポーカーフェイスだからいまいち分からないんだけど」
ジュディス「なるほど、ポーカーにはポーカーで対抗するしかないわね。リタ、通訳をお願い」
リタ「対抗する必要無いから!!つうか、何であんたの中ではあたしとあんたが以心伝心できるようになってんのよ!?」
ジュディス「……」
リタ「あ〜、え〜っと?ヒロインをどこに隠したの?さっさと出したほうが身のためよ?って言ってるわ」
カロル「リタできてるよ!!」
リタ「な、何でかしら?よく分からないけど自然と分かる気がすんのよね……」
ルドガー「……」
エル「お前達が探しているのはこいつのことか?だって」
ジュード「あれ?ここはどこ?」
ユーリ「ん?あいつは確かどっかの主人公だったよな?」
ジュディス「……」
リタ「私達が探しているのはその人ではないわ、だって」
ルドガー「……」
エル「え?嘘、違うの?じゃあこっち?だって」
カロル「なんか急に軽くなったね……表情が変わらないから分からないけど」
ソフィ「トゥットゥル〜」
フレン「あの子をヒロインと呼ぶには幼すぎるんじゃないか?」
ユーリ「だな。テイルズはまだロリコンゲームにはなってねぇはずだ」
レイヴン「そうだったら幸せよね……」
ジュディス「……」
リタ「その子でもないわ、だって」
ルドガー「……」
エル「ルドガー、両方とも違うって」
カロル「あ、今のは本当に沈黙してたんだ」
ルドガー「……」
エル「分かりました、正直者のあなたには両方のヒロインを返しましょう、って、良いのルドガー!?」
ルドガー「コクリ」
リタ「あいつどこの泉の精霊気取りなのかしら?」
レイヴン「おっ!リタッチもメルヘンチックなツッコミをするようになったじゃないの〜」
リタ「ち、違うわよ!今のもこいつの台詞を代弁しただけだから!!金の斧とか銀の斧とか知らないし!!」
アスベル「ソフィ助けに来たぞ!」
ローエン「ジュードさん、応援を連れてきましたよ!」
ソフィ「アスベル遅い」
ミラ「なんだ、もう助かっているではないか」
ジュード「ミラ!ローエンも!」
アスベル「だから言ったろ?助けるんじゃない、勝手に助かるのさ」
ユーリ「よく分からねぇが、あいつら本当にヒロインだったのかよ……」
ミラ「ルドガー!なぜジュードをさらった!?」
ルドガー「……」
エル「タイムファクターをおびき出すため、だって」
ミラ「タイムファクターだと?」
フレン「何のことか分かるかい?リタ」
リタ「悔しいけどさっぱり分からないわ。ブックオフの文献には載っていなかった言葉だわ」
レイヴン「それ当然じゃない?」
ルドガー「……」
エル「作戦は上手くいった。あとは倒すだけ、だって」
ローエン「まさかこの場にタイムファクターがいるというのですか!?」
ユーリ「おいじいさん、さっきからあんたらが言ってるタイムファクターって何のことだ?」
ローエン「簡単に言えばその世界に存在するはずのない異分子のことです」
リタ「つまり異世界人みたいなもんね!」
ミラ「多少認識はズレているが、概ねその通りだ」
エステリーゼ「ということは私達がタイムファクターということになりませんか?」
ユーリ「世界を飛び越えて来ちまったからな。そういうことになるかもな」
カロル「何落ち着いてんのユーリ!?あの人すっごい目でこっち見てるよ!」
ルドガー「……」
エル「分史世界は全て破壊する!だって」
エステリーゼ「こ、こっちだって迫力なら負けません!」
ジュディス「……」
リタ「訳の分からないことに巻き込まれてやられるほど、私達は甘くないわよ?だって」
カロル「要するに戦う気満々なんだね……」
ジュード「みんな気を付けて。ルドガーは変身を二回残してるよ?」
ユーリ「ラスボスみてぇだな……」
〜続く〜
takeshi「ども〜!8月も終わりが近付いてきた今日この頃、皆様どうお過ごしでしょうか?takeshiです」
マリア「いつもと出だしが少し違うわね。マリアよ」
チャリティ「結局今年も海行かなかったわね〜」
アガーテ「お姉様?水着選びでしたら私もお供しますわ♪」
takeshi「こんな惨状になってしまうとですね、そりゃ挨拶の仕方も変えたくなりますよ……」
マリア「この状況をミルハウスト君がみたらどう思うのかしら?」
アガーテ「ミルハウスト?……うっ!頭が!!」
takeshi「なに?洗脳でもかけれているんですか?」
チャリティ「よ〜しよしよしよしよし。あんたは何も思い出さなくて良いのよ〜」
アガーテ「はい〜」
マリア「あれはもうダメね。それより、今回本編に出てきたテントって本当にある物なのかしら?」
takeshi「ありますよ?アニカマルの端っこの方までエリアチェンジをしていくと、一人称が小生の冒険家のおっさんが放置していったテントが今も何故か立っているんです。今ジークがいるのはそこですよ」
チャリティ「変な体操をしている兄弟っていうのは?」
takeshi「テントの前のエリアの広場っぽい所にいる兄弟のことですね?なんか両手を挙げたり下げたりしている謎の兄弟がいるのですが、実はこれ記憶が曖昧でもしかしたら別の街かもしれません……」
アガーテ「眼帯の少女というまた名前の無いキャラクターが出てきましたが、彼女は俗に言う厨二病さんなのでしょうか?」
takeshi「本編の最後で明らかになったのでここでも言ってしまいますが、彼女は海賊の一味なのでまずは形からということで眼帯をしているだけです。ちなみに声も「シュバルツシルト!」とか言うような声ではありませんので。どちらかと言うとモーレツの方なので」
マリア「猛烈?マリリンモンローさんか何かなのかしら?」
チャリティ(古……)
アガーテ(えぇっと、どなたなのでしょう……)
マリア「チャリティちゃん?久し振りにご本を読んであげましょうか?」
チャリティ「え?なによ突然。べつにこの年になって絵本なんて読んで欲しいとは思わないわよ」
マリア「絵本じゃなくて本よチャリティちゃん。じゃあ読むわね?」
『Hey World!世界はこんなに広いのに、何で私の世界はこんなに狭いの?私は湖よりも海になりたかった。でも知っているの。海じゃ生きられない子のために湖があるってことを。私はそんな誰かの湖でいられたら、それだけで幸せ。でも信じてる。いつか誰かが虹の橋を渡って海の向こうへと連れて行ってくれるって。だから消えないで、私のHappy Rainbow』
チャリティ「ィィイイイヤアアアアアぁああああああ!!!!!」
takeshi「すごっ!ブルースリー顔負けの叫び声ですね」
アガーテ「お姉様!?突然どうしましたの!?お姉様!?それにこの恥ずかしいポエムは一体……?」
チャリティ「何で!?湖に捨てたはずなのに!!」
マリア「海に捨てるべきだったわね、ハッピーレインボーさん♪」
チャリティ「ぐはっ!!」
アガーテ「お姉様!!」
takeshi「虹の橋ってつまりレインボーブリッジですよね?お台場に行けばいくらでも連れてってくれますよ?」
チャリティ「いつまで読んでのよあんたは!!さっさと返せ!!」
アガーテ「……え?まさか今のってお姉様が書いたんですか?」
チャリティ「な、何よ!?女の子なら一度は書くでしょ!?」
アガーテ「ごめんなさい……私ちょっとそういうの分からないです。でも、ヒトの趣味はそれぞれだと思うので安心してくださいね?チャリティさん♪」
takeshi「安心しろとか言って心の距離が開いてる……」
マリア「そうそう、郵便物を送る時って必ず宛先を書くでしょ?私、その宛先ってとっても重要だと思うの」
チャリティ「こ、今度は何!?もう怖いんだけど!」
アガーテ「確かに宛先は大切ですよね。間違えて書いてしまった場合、他の誰かのもとへ届いてしまうこともありますし」
マリア「そうなの。それでね、私のところにもたっくさん間違えて送られてきたお手紙がきてるの」
チャリティ「て、手紙!?手紙なんてこのかた書いたことさえないわよっ!?」
takeshi「それはそれでどうかと……」
マリア「今からその中の一枚を読むわね?」
『拝啓、金髪の似合う貴公子様へ
貴方を前にすると胸が苦しくなります
本当はもっとお話がしたい……
でもいざ貴方と向き合うと緊張してしまい、千の言葉も意味を持ちません
素直になれない私をお許しください
せめて……攻め手せめて!
私のこの気持ちだけでもお伝えできたらと筆をとりました
返事は結構です
貴方を敬愛する姫より』
アガーテ「……」
takeshi「なんか途中にすっごい誤字が……」
アガーテ「何故マリアさんがこのような物を持っているのですか!!?」
マリア「だから言ったでしょう?宛先は重要だって」
アガーテ「だ、ダウトです!!封筒にさえ入れずに何時も断念しているのですからそもそも配達されるはずがありませんわ!!」
チャリティ「千の言葉って、あんた言葉攻めでもする気?」
アガーテ「物の例えです!ヘイワールド!とか言って世界に話しかけるヒトに言われたくありません!」
チャリティ「そそっ、それは今は関係無いでしょ!?」
takeshi「本当はお盆にかこつけて既にリタイアしているキャラをパート毎にいろいろと呼ぶ予定だったのですが、チャリティさんとアガーテさんが以外と良いコンビだったので結局このまま来ちゃいました……」
マリア「2人とも似た物同士なのね〜♪」
チャリティ「良いわ、来年決着を着けてやるから絶対来なさいよ!」
アガーテ「望むところです!王家に伝わる四十八手で今度はチャリティさんに私のことをお姉様と呼ばせてみせますわ♪」
マリア「それでは皆さん、隙があればまた来ますね?」
takeshi「来年じゃないんですか!?で、ではまた〜」
―――オマケ―――
『救いの塔・最上階』
レイヴン「ぜぇ……ぜぇ……お、おっさん、もう無理……もう歩けない……」
フレン「ほら頑張ってください?もう階段は終わりましたよ?ゆっくりと歩けば大丈夫ですから」
ジュディス「おじさま、介護老人みたいね」
レイヴン「ジュディスちゃん介護して〜」
ジュディス「イヤよ♪」
レイヴン「うおおおおお!今ので元気みなぎってきたぁああああ!!ヒャッフー!」
カロル「レイヴン……」
エル「ちょっとあんた達!ここに何の用?」
リタ「何あのチビッ子。無駄に偉そうね」
エル「エルちびっ子じゃないし!」
リタ「ムキになるところがますますお子様ね♪」
エル「エルは立派なレディだし!あんたなんかぺったんこじゃない!」
リタ「それはあんたもでしょ!?それにあたしはこれから成長すんの!」
エル「その人みたいに?」
ジュディス「ん?」
リタ「ぐっ……こ、こっちなら何とか……」
エステリーゼ「リタ?何で私を指差すんです?」
ユーリ「そろそろ話進めて良いか?」
フレン「ユーリ、隊長の顔色が優れない。もう少し話を引き伸ばせないだろうか?」
ユーリ「別におっさんのために尺稼ぎしてんじゃねぇんだよ」
ルドガー「……」
エル「ルドガーが、よくここまで辿り着いたな、だって」
ユーリ「ちょっと待て。何で直接喋らねぇんだ?」
ルドガー「……」
エル「いちいち選択肢作るのが面倒なんだって」
レイヴン「気をつけな青年。青年達が探してるヒロインを連れてったのはあいつだぜ?」
ルドガー「……」
エル「ふっふっふ、バレてしまっては仕方無い、だって」
エステリーゼ「伝言ゲームみたいで可愛いです♪」
リタ「あいつ今笑ってたの?ポーカーフェイスだからいまいち分からないんだけど」
ジュディス「なるほど、ポーカーにはポーカーで対抗するしかないわね。リタ、通訳をお願い」
リタ「対抗する必要無いから!!つうか、何であんたの中ではあたしとあんたが以心伝心できるようになってんのよ!?」
ジュディス「……」
リタ「あ〜、え〜っと?ヒロインをどこに隠したの?さっさと出したほうが身のためよ?って言ってるわ」
カロル「リタできてるよ!!」
リタ「な、何でかしら?よく分からないけど自然と分かる気がすんのよね……」
ルドガー「……」
エル「お前達が探しているのはこいつのことか?だって」
ジュード「あれ?ここはどこ?」
ユーリ「ん?あいつは確かどっかの主人公だったよな?」
ジュディス「……」
リタ「私達が探しているのはその人ではないわ、だって」
ルドガー「……」
エル「え?嘘、違うの?じゃあこっち?だって」
カロル「なんか急に軽くなったね……表情が変わらないから分からないけど」
ソフィ「トゥットゥル〜」
フレン「あの子をヒロインと呼ぶには幼すぎるんじゃないか?」
ユーリ「だな。テイルズはまだロリコンゲームにはなってねぇはずだ」
レイヴン「そうだったら幸せよね……」
ジュディス「……」
リタ「その子でもないわ、だって」
ルドガー「……」
エル「ルドガー、両方とも違うって」
カロル「あ、今のは本当に沈黙してたんだ」
ルドガー「……」
エル「分かりました、正直者のあなたには両方のヒロインを返しましょう、って、良いのルドガー!?」
ルドガー「コクリ」
リタ「あいつどこの泉の精霊気取りなのかしら?」
レイヴン「おっ!リタッチもメルヘンチックなツッコミをするようになったじゃないの〜」
リタ「ち、違うわよ!今のもこいつの台詞を代弁しただけだから!!金の斧とか銀の斧とか知らないし!!」
アスベル「ソフィ助けに来たぞ!」
ローエン「ジュードさん、応援を連れてきましたよ!」
ソフィ「アスベル遅い」
ミラ「なんだ、もう助かっているではないか」
ジュード「ミラ!ローエンも!」
アスベル「だから言ったろ?助けるんじゃない、勝手に助かるのさ」
ユーリ「よく分からねぇが、あいつら本当にヒロインだったのかよ……」
ミラ「ルドガー!なぜジュードをさらった!?」
ルドガー「……」
エル「タイムファクターをおびき出すため、だって」
ミラ「タイムファクターだと?」
フレン「何のことか分かるかい?リタ」
リタ「悔しいけどさっぱり分からないわ。ブックオフの文献には載っていなかった言葉だわ」
レイヴン「それ当然じゃない?」
ルドガー「……」
エル「作戦は上手くいった。あとは倒すだけ、だって」
ローエン「まさかこの場にタイムファクターがいるというのですか!?」
ユーリ「おいじいさん、さっきからあんたらが言ってるタイムファクターって何のことだ?」
ローエン「簡単に言えばその世界に存在するはずのない異分子のことです」
リタ「つまり異世界人みたいなもんね!」
ミラ「多少認識はズレているが、概ねその通りだ」
エステリーゼ「ということは私達がタイムファクターということになりませんか?」
ユーリ「世界を飛び越えて来ちまったからな。そういうことになるかもな」
カロル「何落ち着いてんのユーリ!?あの人すっごい目でこっち見てるよ!」
ルドガー「……」
エル「分史世界は全て破壊する!だって」
エステリーゼ「こ、こっちだって迫力なら負けません!」
ジュディス「……」
リタ「訳の分からないことに巻き込まれてやられるほど、私達は甘くないわよ?だって」
カロル「要するに戦う気満々なんだね……」
ジュード「みんな気を付けて。ルドガーは変身を二回残してるよ?」
ユーリ「ラスボスみてぇだな……」
〜続く〜