第73話『闇と無』
ほんの少しの間、ヴェイグは何が起きたのか理解できず呆然と立ち尽くしていた。
視界は闇に閉ざされており自分が本当に眼を開けているのか、本当に意識があるのかさえ疑問に思えてくる。
まさか一瞬の間に死んでしまったのではないだろうかという考えまで浮かんできた。
立ち尽くしていると思っていたが、そもそも立っているという感覚さえもない。
だが足も腕も動く。
なのでヴェイグは左手を自分の頬に持ってくる。
(感触はある。ということはまだ生きてはいるということか)
ヴェイグが安堵した束の間の出来事だった。
突如、背中に焼けるような痛みが走った。
(ぐあっ!!……!?)
何も見えないため確認しようがないが、刃物で斬られたような痛みだった。
だがそんなことよりもヴェイグは別のことに気をとられていた。
(声が……出ない……)
口を大きく開き、言葉を発しようとするが声帯は震えているというのに、音にならない。
そんなことをしている間にも今度はヴェイグの右足に斬撃が入ったのか激痛が走る。
(くっ!!)
ヴェイグは膝を突きながらも大剣を振るが、空を斬るだけだった。
(これならどうだ!)
ヴェイグは膝を突いた状態のまま、地面と思われる今ヴェイグが膝をついてる空間に右手を押し当てる。
そして、見えざる敵の足を氷で縫いとめるためにフォルスを流す。
(……どういうことだ?)
ヴェイグの右腕から掌にかけて青白く発光するはずだが、今はそれさえも見えない。
だがそれ以前に、フォルスを発動することで体力が消費していく感覚はあるというのに、ヴェイグの足元はまったく冷たくならない。
(まさか……)
ヴェイグは試しに掌に氷を出現させようと試みる。
しかし、いくらやっても固体が掌に乗る感覚が来ない。
(フォルスが使えなくなっているのか……)
なるべくダメージを減らすため、ジークは膝を突いたまま大剣を盾のように斜めに突き刺す。
(他のみんなは無事だろうか……)
『ちょっ、どうなってんのよこれ!?』
声が飛ばないはずの空間にもかかわらず、聞き慣れた『声』がヴェイグの耳に届いた。
いや、これは脳内に響いていると表現したほうが正しいのもかもしれない。
(この『声』はフィオナか!)
どうやらフィオナはフォルスを使えるらしい。
(じゃあ何故俺はフォルスを使えないんだ……?)
ヴェイグは再びフォルスを使い掌に氷を作ろうと試みる。
しかし体力を消費する一方で氷が生成される気配は全く無い。
代わりに、盾代わりに突き刺していた大剣が弾き飛ぶのと同時に、ヴェイグの腹部にプレートのようなものが激突してきた感覚が襲う。
ヴェイグの体はくの字に曲がり、吹き飛ばされるが寸前に大剣を掴んでいたため何とか武器は見失わずにすんだ。
だが腹部を圧迫され、肺から強制的に酸素が放出されヴェイグは咳き込みながら酸素を取り込む。
しかし、息がなかなか整わず、頭がぼーっとしてくる。
(まさか酸素が薄くなっているのか……まずはこの空間を出る方法を考えなくては)
ヴェイグは肩を上下させながら打開策を考える。
『きゃあ!!』
その間にもフィオナも攻撃を受けたのか悲鳴が聞こえた。
(あまり長いこと考えてる時間さえ無いか)
長時間考えればその分だけ仲間が危険にさらされてしまう。
ヴェイグは焦るが、急ごうとすればするほど頭は真っ白になる。
『ん?この感触は……樹?ということは近くにティトレイいるの?』
(ティトレイもフォルスを使えるのか?)
ヴェイグはフィオナの言葉に耳を傾ける。
『このぼさぼさ頭は間違いなくティトレイね!でも随分と細い樹だけど、どうしたの?今にも枯れそうじゃない』
(いや、あいつも本来の力を出せていないのか)
ティトレイならば遊びでフォルスを使う時でさえも、枯れそう木は出さず、青々として瑞々しい植物を出す。
それが今は枯れ木を出しているということは、それが今のティトレイの精一杯なのだとヴェイグは推測した。
『あっ!この身長と耳はルルね!』
(そうか、みんなフィオナの『声』を頼りに集まろうとしているのか)
ヴェイグは朦朧(もうろう)とし始める意識の中で痛む体に鞭を打って立ち上がり、『声』が飛んできた方角を向く。
それが西なのか東なのか、北なのか南なのか分からないが兎に角この先に仲間達がいると信じて見えない光を追い求めるかのように歩き始める。
『えっと……これは誰の背中かしら……っもしかして胸!?てことはアニーでしょ!!』
ヴェイグは大剣を引き摺りながらも前に進み続ける。
『いたっ!今殴られた!?今殴られたわよ!!みんな気を付けて!アイツまだ近くにいるかも!!』
この『声』を聞いてるだけで体が軽くなるような気がした。
当然錯覚だろうが、悪くないとヴェイグは思った。
(ジークはいつもこの『声』を聞いていたのか)
コツンと、ヴェイグの額になにかぶつかる感触がした。
触ってみるとふさふさしており、それでいて艶やかな毛並みだった。
(これはユージーンで間違いないな)
鎧を触ってみると酷く損傷しているようでヒビだらけだった。
ここまで辿り着く間にユージーンも見えない敵からの攻撃を受けたのだろう。
そんなふうにヴェイグがユージーンの鎧をペタペタ触っていると、突然三つ編みの髪をユージーンがいる方向へ引っ張られた。
(な、何をする!?)
『この艶々の三つ編みはユージーンね。で、もう一つの三つ編みがあるってことはヴェイグもいるのね』
どうやらフィオナにヴェイグもいることを知らせるためにユージーンが引っ張ったらしい。
そしてヴェイグはここでようやく安堵した。
(着いた……のか)
『でも何でみんな喋らないの?見えないんだから私が触るより喋ってくれた方が分かりやすいんだけど……。もしかして作戦?』
どうやらフィオナには他の全員が声を出しても届かないことが認識されていないらしい。
だが教えたくとも教えることができない。
更に酸素も刻一刻と薄くなってくる。
(このままでは……)
ヴェイグの呼吸が荒くなる。
そんな時、ユージーンと思われる手に肩を軽く叩かれた。
(何だ……意識をしっかり持てということか?)
それにしてはユージーンは何度も何度も肩を叩いてくる。
それも一定のリズムではない。
(俺に何かを伝えようとしているのか?)
ヴェイグは意図を汲み取ろうと、肩に意識を集中する。
すると次の瞬間、足元に何かうねった物が通った感触がしたのと同時にヴェイグの周囲一体が炎に包まれた。
* * *
ブライトはずっと考えていた。
自分の考えを声が出せない状況でどうやって伝えるかを。
まずこの空間はファルブが作り出した物で、理屈は分からないがフォルスを無効化させる効果があるということは最初にフォルスを使ってみて理解していた。
しかしフィオナやティトレイのフォルスは使えることがどうしても引っかかっていた。
そこでブライトは一つの仮説を立てた。
もしも元素や質量といったものをこの『闇』の空間が吸収しているのだとしたら。
だとしたら質量や元素の関係無いフィオナのフォルスが使える理由にはなる。
また、先程から斬撃が飛んでくるが、それはファルブが空間内を走り回り切り刻んでいることは間違いない。
だが致命傷を受けていないことから向こうもこちらは目視できていないことが分かる。
だからと言って安心することはできず、ここに長居していればいずれファルブが必要な分だけしか酸素が残らず、最悪その前にファルブに斬られてしまう。
従って早急にこの空間を抜け出す方法を考えなくてはならない。
(闇を払うならやっぱ光だよな……。だがこの空間でどうやって光を生み出せば良い?光属性の導術を詠唱すれば一発なんだろうが、確か火と雷の要素が必要だったな……)
炎を使うのに酸素が必要なように、光を生み出すためには大気中に炎を生み出すための酸素と、電気を生み出しそれを活かすための水素が必要となる。
だが酸素は少なく、水素は存在していないのが現状である。
おかげで眼や口の中が乾燥し、ヴェイグが氷を生成できないのもこれが要因であった。
(しょうがねぇ、無いなら作るしかねぇよな。問題はどうやって作戦を伝えるか……か)
ブライトは苦笑いしながら腕を組み考える。
(……一か八か、俺達の国の軍隊の力量を信じてみるか!)
ブライトはさっそく腕を伸ばし近場をまさぐる。
すると、ブライトの腰の高さの辺りで誰かの頭を触った感触がした。
(この身長はマオか!……いや、耳があるからルルか)
もし見えていれば突然背後から頭を鷲掴みにされたルルが戸惑ってるのだが、ブライトはルルを避けつつゆっくりと前進する。
(できればユージーンにぶつかりたいんだが……)
ブライトは手探りながらも前進していると、今度は腰の右側に誰かの肩がぶつかった感触がした。
(この身長で残ってるのはマオぐらいか)
ブライトはマオと分かると通過しようとはしなかった。
彼は祈るような気持ちでマオの肩を数回叩いた。
それも一定のリズムではなく、ばらばらのリズムで。
(……どうだ!?)
ブライトはマオの肩を掴んだままだ。
すると、マオから5回軽く叩き返された。
しかも4回目と5回目の間が少し空いていた。
(よっしゃ!!)
ブライトは暗闇の中でガッツポーズをした。
それから待つこと数分、ブライトの視界は炎で包まれた。
* * *
ブライトのモールス信号により作戦を理解したマオはそれをヒルダに伝え、ヒルダはユージーンへと伝えていった。
各々、他のメンバーにもモールス信号で伝えたが一体何人のメンバーが理解できたかは定かではない。
それでもユージーンは樹木を切り裂く。
すると、樹木が葉に届けようとしていたなけなしの水分が霧散し、水素が発生する。
それとほぼ同時に、残りが限られている酸素を消費してマオが炎のフォルスで樹木を燃やすと、ティトレイが周囲一体をバリアの代わりなるようにと鳥篭のように張り巡らせた木や枝に引火し燃え盛った。
炎の灯りに燈(とも)されて仲間達の姿が見えるようになる。
(今だヴェイグ!)
相変わらず声が飛ばないためユージーンは突然の光に目を眩ませているヴェイグの背中を叩く。
(俺のフォルスで炎を消せということか!?だが今の俺はフォルスを使えないぞ?)
ヴェイグは半信半疑で、地面と思われる場所にヘビのように這う燃え盛る根と根の間に手を突く。
(はぁあああああ!!!!)
ヴェイグは右手に精神を集中させると、仲間達全員を囲うように足元に薄い氷が張られた。
(今度は使えただと……!?だがこれでは薄すぎる!)
ヴェイグが普段通りに力を使えれば自分達を覆っている木をまるごと凍らせることができるはずだった。
しかし、今は湖に張った薄い氷のようなものしか作れないことにヴェイグは歯痒さを感じ舌打ちをした。
ヴェイグの氷は炎の熱によりすぐに溶け始める。
一方でユージーンは樹木が灰になった物をかきあつめ山にし、そこへ槍を突き刺しフォルスを流した。
もともとユージーンは素材を硬化させるフォルスなため、素材がなければ鋼は作れずフォルスを使えずにいた。
しかし木々の灰を集めることによって土とし、そこへフォルスを流すことによって土壌へと変貌させた。
本来の土ならば鋼になるのだが、土の成分が不十分なため中途半端な形になってしまったが、栄養分を含んだ土壌になる分にはかえって好都合であった。
ヒルダがティトレイを引っ張り土壌の所まで連れてくると、足払いをしてティトレイを正面から転ばす。
(何しやがる!?)
ティトレイが両手で土壌に手を突きながら振り替えると、その土壌から栄養分を十分に吸った青々しい樹木が成長した。
(な、なんだこりゃあ!?)
ティトレイが口を開けて見上げている間にも炎によって溶かされた氷の水分を吸い取りぐんぐん成長を続ける。
〜続く〜
視界は闇に閉ざされており自分が本当に眼を開けているのか、本当に意識があるのかさえ疑問に思えてくる。
まさか一瞬の間に死んでしまったのではないだろうかという考えまで浮かんできた。
立ち尽くしていると思っていたが、そもそも立っているという感覚さえもない。
だが足も腕も動く。
なのでヴェイグは左手を自分の頬に持ってくる。
(感触はある。ということはまだ生きてはいるということか)
ヴェイグが安堵した束の間の出来事だった。
突如、背中に焼けるような痛みが走った。
(ぐあっ!!……!?)
何も見えないため確認しようがないが、刃物で斬られたような痛みだった。
だがそんなことよりもヴェイグは別のことに気をとられていた。
(声が……出ない……)
口を大きく開き、言葉を発しようとするが声帯は震えているというのに、音にならない。
そんなことをしている間にも今度はヴェイグの右足に斬撃が入ったのか激痛が走る。
(くっ!!)
ヴェイグは膝を突きながらも大剣を振るが、空を斬るだけだった。
(これならどうだ!)
ヴェイグは膝を突いた状態のまま、地面と思われる今ヴェイグが膝をついてる空間に右手を押し当てる。
そして、見えざる敵の足を氷で縫いとめるためにフォルスを流す。
(……どういうことだ?)
ヴェイグの右腕から掌にかけて青白く発光するはずだが、今はそれさえも見えない。
だがそれ以前に、フォルスを発動することで体力が消費していく感覚はあるというのに、ヴェイグの足元はまったく冷たくならない。
(まさか……)
ヴェイグは試しに掌に氷を出現させようと試みる。
しかし、いくらやっても固体が掌に乗る感覚が来ない。
(フォルスが使えなくなっているのか……)
なるべくダメージを減らすため、ジークは膝を突いたまま大剣を盾のように斜めに突き刺す。
(他のみんなは無事だろうか……)
『ちょっ、どうなってんのよこれ!?』
声が飛ばないはずの空間にもかかわらず、聞き慣れた『声』がヴェイグの耳に届いた。
いや、これは脳内に響いていると表現したほうが正しいのもかもしれない。
(この『声』はフィオナか!)
どうやらフィオナはフォルスを使えるらしい。
(じゃあ何故俺はフォルスを使えないんだ……?)
ヴェイグは再びフォルスを使い掌に氷を作ろうと試みる。
しかし体力を消費する一方で氷が生成される気配は全く無い。
代わりに、盾代わりに突き刺していた大剣が弾き飛ぶのと同時に、ヴェイグの腹部にプレートのようなものが激突してきた感覚が襲う。
ヴェイグの体はくの字に曲がり、吹き飛ばされるが寸前に大剣を掴んでいたため何とか武器は見失わずにすんだ。
だが腹部を圧迫され、肺から強制的に酸素が放出されヴェイグは咳き込みながら酸素を取り込む。
しかし、息がなかなか整わず、頭がぼーっとしてくる。
(まさか酸素が薄くなっているのか……まずはこの空間を出る方法を考えなくては)
ヴェイグは肩を上下させながら打開策を考える。
『きゃあ!!』
その間にもフィオナも攻撃を受けたのか悲鳴が聞こえた。
(あまり長いこと考えてる時間さえ無いか)
長時間考えればその分だけ仲間が危険にさらされてしまう。
ヴェイグは焦るが、急ごうとすればするほど頭は真っ白になる。
『ん?この感触は……樹?ということは近くにティトレイいるの?』
(ティトレイもフォルスを使えるのか?)
ヴェイグはフィオナの言葉に耳を傾ける。
『このぼさぼさ頭は間違いなくティトレイね!でも随分と細い樹だけど、どうしたの?今にも枯れそうじゃない』
(いや、あいつも本来の力を出せていないのか)
ティトレイならば遊びでフォルスを使う時でさえも、枯れそう木は出さず、青々として瑞々しい植物を出す。
それが今は枯れ木を出しているということは、それが今のティトレイの精一杯なのだとヴェイグは推測した。
『あっ!この身長と耳はルルね!』
(そうか、みんなフィオナの『声』を頼りに集まろうとしているのか)
ヴェイグは朦朧(もうろう)とし始める意識の中で痛む体に鞭を打って立ち上がり、『声』が飛んできた方角を向く。
それが西なのか東なのか、北なのか南なのか分からないが兎に角この先に仲間達がいると信じて見えない光を追い求めるかのように歩き始める。
『えっと……これは誰の背中かしら……っもしかして胸!?てことはアニーでしょ!!』
ヴェイグは大剣を引き摺りながらも前に進み続ける。
『いたっ!今殴られた!?今殴られたわよ!!みんな気を付けて!アイツまだ近くにいるかも!!』
この『声』を聞いてるだけで体が軽くなるような気がした。
当然錯覚だろうが、悪くないとヴェイグは思った。
(ジークはいつもこの『声』を聞いていたのか)
コツンと、ヴェイグの額になにかぶつかる感触がした。
触ってみるとふさふさしており、それでいて艶やかな毛並みだった。
(これはユージーンで間違いないな)
鎧を触ってみると酷く損傷しているようでヒビだらけだった。
ここまで辿り着く間にユージーンも見えない敵からの攻撃を受けたのだろう。
そんなふうにヴェイグがユージーンの鎧をペタペタ触っていると、突然三つ編みの髪をユージーンがいる方向へ引っ張られた。
(な、何をする!?)
『この艶々の三つ編みはユージーンね。で、もう一つの三つ編みがあるってことはヴェイグもいるのね』
どうやらフィオナにヴェイグもいることを知らせるためにユージーンが引っ張ったらしい。
そしてヴェイグはここでようやく安堵した。
(着いた……のか)
『でも何でみんな喋らないの?見えないんだから私が触るより喋ってくれた方が分かりやすいんだけど……。もしかして作戦?』
どうやらフィオナには他の全員が声を出しても届かないことが認識されていないらしい。
だが教えたくとも教えることができない。
更に酸素も刻一刻と薄くなってくる。
(このままでは……)
ヴェイグの呼吸が荒くなる。
そんな時、ユージーンと思われる手に肩を軽く叩かれた。
(何だ……意識をしっかり持てということか?)
それにしてはユージーンは何度も何度も肩を叩いてくる。
それも一定のリズムではない。
(俺に何かを伝えようとしているのか?)
ヴェイグは意図を汲み取ろうと、肩に意識を集中する。
すると次の瞬間、足元に何かうねった物が通った感触がしたのと同時にヴェイグの周囲一体が炎に包まれた。
* * *
ブライトはずっと考えていた。
自分の考えを声が出せない状況でどうやって伝えるかを。
まずこの空間はファルブが作り出した物で、理屈は分からないがフォルスを無効化させる効果があるということは最初にフォルスを使ってみて理解していた。
しかしフィオナやティトレイのフォルスは使えることがどうしても引っかかっていた。
そこでブライトは一つの仮説を立てた。
もしも元素や質量といったものをこの『闇』の空間が吸収しているのだとしたら。
だとしたら質量や元素の関係無いフィオナのフォルスが使える理由にはなる。
また、先程から斬撃が飛んでくるが、それはファルブが空間内を走り回り切り刻んでいることは間違いない。
だが致命傷を受けていないことから向こうもこちらは目視できていないことが分かる。
だからと言って安心することはできず、ここに長居していればいずれファルブが必要な分だけしか酸素が残らず、最悪その前にファルブに斬られてしまう。
従って早急にこの空間を抜け出す方法を考えなくてはならない。
(闇を払うならやっぱ光だよな……。だがこの空間でどうやって光を生み出せば良い?光属性の導術を詠唱すれば一発なんだろうが、確か火と雷の要素が必要だったな……)
炎を使うのに酸素が必要なように、光を生み出すためには大気中に炎を生み出すための酸素と、電気を生み出しそれを活かすための水素が必要となる。
だが酸素は少なく、水素は存在していないのが現状である。
おかげで眼や口の中が乾燥し、ヴェイグが氷を生成できないのもこれが要因であった。
(しょうがねぇ、無いなら作るしかねぇよな。問題はどうやって作戦を伝えるか……か)
ブライトは苦笑いしながら腕を組み考える。
(……一か八か、俺達の国の軍隊の力量を信じてみるか!)
ブライトはさっそく腕を伸ばし近場をまさぐる。
すると、ブライトの腰の高さの辺りで誰かの頭を触った感触がした。
(この身長はマオか!……いや、耳があるからルルか)
もし見えていれば突然背後から頭を鷲掴みにされたルルが戸惑ってるのだが、ブライトはルルを避けつつゆっくりと前進する。
(できればユージーンにぶつかりたいんだが……)
ブライトは手探りながらも前進していると、今度は腰の右側に誰かの肩がぶつかった感触がした。
(この身長で残ってるのはマオぐらいか)
ブライトはマオと分かると通過しようとはしなかった。
彼は祈るような気持ちでマオの肩を数回叩いた。
それも一定のリズムではなく、ばらばらのリズムで。
(……どうだ!?)
ブライトはマオの肩を掴んだままだ。
すると、マオから5回軽く叩き返された。
しかも4回目と5回目の間が少し空いていた。
(よっしゃ!!)
ブライトは暗闇の中でガッツポーズをした。
それから待つこと数分、ブライトの視界は炎で包まれた。
* * *
ブライトのモールス信号により作戦を理解したマオはそれをヒルダに伝え、ヒルダはユージーンへと伝えていった。
各々、他のメンバーにもモールス信号で伝えたが一体何人のメンバーが理解できたかは定かではない。
それでもユージーンは樹木を切り裂く。
すると、樹木が葉に届けようとしていたなけなしの水分が霧散し、水素が発生する。
それとほぼ同時に、残りが限られている酸素を消費してマオが炎のフォルスで樹木を燃やすと、ティトレイが周囲一体をバリアの代わりなるようにと鳥篭のように張り巡らせた木や枝に引火し燃え盛った。
炎の灯りに燈(とも)されて仲間達の姿が見えるようになる。
(今だヴェイグ!)
相変わらず声が飛ばないためユージーンは突然の光に目を眩ませているヴェイグの背中を叩く。
(俺のフォルスで炎を消せということか!?だが今の俺はフォルスを使えないぞ?)
ヴェイグは半信半疑で、地面と思われる場所にヘビのように這う燃え盛る根と根の間に手を突く。
(はぁあああああ!!!!)
ヴェイグは右手に精神を集中させると、仲間達全員を囲うように足元に薄い氷が張られた。
(今度は使えただと……!?だがこれでは薄すぎる!)
ヴェイグが普段通りに力を使えれば自分達を覆っている木をまるごと凍らせることができるはずだった。
しかし、今は湖に張った薄い氷のようなものしか作れないことにヴェイグは歯痒さを感じ舌打ちをした。
ヴェイグの氷は炎の熱によりすぐに溶け始める。
一方でユージーンは樹木が灰になった物をかきあつめ山にし、そこへ槍を突き刺しフォルスを流した。
もともとユージーンは素材を硬化させるフォルスなため、素材がなければ鋼は作れずフォルスを使えずにいた。
しかし木々の灰を集めることによって土とし、そこへフォルスを流すことによって土壌へと変貌させた。
本来の土ならば鋼になるのだが、土の成分が不十分なため中途半端な形になってしまったが、栄養分を含んだ土壌になる分にはかえって好都合であった。
ヒルダがティトレイを引っ張り土壌の所まで連れてくると、足払いをしてティトレイを正面から転ばす。
(何しやがる!?)
ティトレイが両手で土壌に手を突きながら振り替えると、その土壌から栄養分を十分に吸った青々しい樹木が成長した。
(な、なんだこりゃあ!?)
ティトレイが口を開けて見上げている間にも炎によって溶かされた氷の水分を吸い取りぐんぐん成長を続ける。
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