「クソッタレがぁあ！！」

ファルブが怒鳴るとその覇気により周囲に突風が吹き荒れ、ヴェイグ達の足が止まった。

「おらぁあ！！」

ファルブは地面を蹴り飛ばすと飛ぶように一瞬でヴェイグ達との距離を詰め大鎌を横凪に振るう。

「させるかよ！」

そこへティトレイがスライディングしながらヴェイグ達の前に出るとその低姿勢のまま大鎌の刃の部分を蹴り上げた。

「コザカシイんだよ！！」

ファルブは刃が上を向いたままスイカ割りをする要領で鎌を振り下ろしティトレイの脳天を直撃する。

「ガハッ」

あまりの衝撃にティトレイの体は地面に沈んだ後少し跳ね上がった。

「ふんぬっ！！」

続いてファルブが闇を纏った左手を横に振るうと、闇の波動が飛び出しヴェイグとユージーンをなぎ払った。

「気をつけて！今のファルブは……」

マオがフォルスキューブを取り出しながら言いかけるが正面からジンとルル、反対側からジークとカインが武器を振りかぶっている。

「沈んでろォ！！」

「フォルスが暴走してるよ！！」

ファルブが地面に足を叩きつけると地割れが起き、その衝撃波に４人は巻き込まれた。

「バカな……フォルスが暴走している状態で正気を保っているというのか……」

ユージーンが槍を杖代わりにして起き上がる。

「ガッハッハ！！！ガッハッハッハッハッハ！！！」

「こいつ本当にまだ自我あるの！？」

フィオナが突風を送り、ブライトが銃弾の嵐をばら撒くがファルブはびくともしない。
ファルブは血走った眼でユージーンの姿を捉えると一瞬にしてその差を詰める。

「ユーじーン・ガラるドォオおオオ」

「瞬迅槍！」

ファルブの横凪の大鎌をユージーンは槍で下へ弾き受け流しながらファルブの背後へと回る。
そして、槍を地面に渾身の力で突き刺した。

「轟爆天翔撃！！」

ユージーンの奥義により地面から太い棘のような鋼がユージーンを中心に幾重にも飛び出す。

「邪魔ダ！！魔人滅殺闇！！」

ファルブは右上から黒いオーラを纏った鎌を振り降ろし、続いて左上から鎌を振り下ろし鋼の針山をまるで飴細工を砕くかのように切り裂いた。
ユージーンの砦ともなっていた鋼の針山が切り裂かれると、ファルブが振り下ろした鎌の余波がユージーンの鎧をも切り裂いた。

「っ！！」

ただでさえヒビの入っていた鎧に斬撃が加わったことによりついに鎧は粉々に砕け散る。
と同時にユージーンの足元に陣が浮かび上がる。
アニーの物とは違う、漆黒の陣が。

「オワリだ」

ファルブが一言呟く。
その瞬間、闇の炎がユージーンの全身を包み込んだ。

「むおあああああ！！！！」

「「ユージーン！！！」」

アニーとマオが悲痛な叫びを上げる。

「うるあああああ！！！」

対してファルブもユージーンが崩れ落ちる傍らで咆哮を上げた。

「マジかよ……」

ブライトは呆気にとられたようにファルブを見つめる。
緊張の糸が切れたのか、咆哮をあげ続けるファルブの身体から黒い物体が溢れ出す。
その物体は果たして物体とよべる程質量があるのか、はたまた液体なのか、まるで絵の具のようにファルブを起点として周囲の景色を黒く塗りつぶしていく。

「あれは……何！？」

ヒルダは眼を見開き慄（おのの）きつつ問う。

「分かんないよ！！」

マオもヤケになって怒鳴る。
ファルブのフォルスの暴走が関係していることは分かる。
だがそれ以上は分からない。

「またあの空間に引き摺りこまれたらもう戻ってこれねぇぞ！！」

ブライトはファルブの真上に重力震を発生させながら忠告する。
しかし闇に吸収されてしまい、やはり意味が無い。
そうこうしている間にも景色はどんどん黒く塗り潰されていき、先程ファルブの波動に飲み込まれた前衛の足元まで侵食していた。

「俺のフォルスで中和できるかもしれねぇ……」

ジークは痛む体に鞭を打ってゆっくりと立ち上がると、目の前に両腕を伸ばす。
そして精神を集中させる。
確かにジークの『破壊』のフォルスならファルブの闇も破壊できるかもしれない。
ヴェイグ達はジークの可能性に祈りを託した。

（頼む！発動してくれ！）

ジークは眉間に皺を寄せ、歯を噛み締める。
だがフォルスが発動する気配はなく、手が闇に飲み込まれ始める。

「何でだ！？何で発動しねぇ！！ここで使えなきゃ意味ねぇだろう！！」

ジークは自分の無力さに怒りを感じ吠える。
だがそれでもフォルスは発動せず、仲間達は闇に飲まれていく。

「おいヤコ！どうせ近くで聞いてんだろ！？何とかしろよ！おい！！」

ジークの身体も闇に包まれ、声が飛んでいるのかさえも分からない。

「ヤコォオオオオ！！！」

ファルブから発生した闇はジークの雄叫びさえも飲み込み、アニカマルを着々と黒に染めていく。

　　　＊　　　＊　　　＊

眼を開くとそこには光があった。
風がありヒトの声が聞こえた。

「じゃあ行ってくるぜ」

パンダのようなガジュマの青年がこちらに向かって語りかけてくる。

「そんな心配そうな顔すんなって！全然似合わねぇぞ？お前はいつもみたいに笑ってるぐらいが調度良いんだよ！」

パンダの青年が笑いながら肩をバンバン叩いてくる。

「もう少しで俺達は勝てそうなんだ……だから軍の奴等も交渉を持ち掛けてきたんだろ？それに交渉相手は四星のワルトゥだぜ？知略家で有名なやつが話し合いの場で下手なことはしねぇって。あのユージーン隊長率いる部隊相手に俺達はよくやったよホント！」

パンダの青年は手荷物を肩にぶら下げるなりこちらに背を向け、手を振りながら立ち去る。

「土産を楽しみにしてな、ファルブ」

そこでブラウンカンテレビの砂嵐のように雑音が入る。
その砂嵐が消えると、今度は先程立ち去ったはずのパンダの青年が目の前に座っていた。
場所も先程は外だったのに対して今は野営テントの中に移っており、簡易性のイスを突き合わせて大勢のヒトが集まっていた。

「これ……土産……」

何故かパンダの男性は片言になりながらもカバンサイズの皮袋を中央に置いた。
それを開いてみる。
開くと小さな円柱がいくつも並んだ物が中央のタルに巻きついた物が姿を現し、周囲の人々は突然慌て始めテントの出口へ走り出す。
が、そのタルに巻き付いた円柱の列を見た瞬間にはテントは光に包まれ、爆風と爆炎が猛威をふるった。
辺りは炎と黒煙が立ち込め、立ち上がろうとするが下半身に力が入らない。

「う……うぅ……」

近くで声が聞こえたため周囲を見渡してみると、斜め前方にパンダの青年が仰向けに倒れていた。
事情は分からないが裏切り者に自らトドメをさすために匍匐（ほふく）前進しながら近付く。

「ファルブ……そこにいるのか……」

前進していた動きが止まる。

「な、何が……起きた……？分からねぇんだ……記憶がすっぽり抜けててよぉ……」

パンダの青年は仰向けになったまま涙を流していた。

「土産……持って帰ってこれなくて悪かったな」

パンダの男性は涙をながしつつも微笑むと、直後に火薬庫に引火した炎が誘爆を起こしパンダの青年は炎に包まれた。

「全滅か……」

意識が遠のく中、新しい声が耳に届く。

「この爆発です。生き残れる者などいないでしょう」

ぼやける視界の中で見たのは四星のワルトゥと隊長のユージーンの姿だった。

「念のため暗示を解きに来たが、これでは探しようがないな」

「爆音をきっかけにしておいたので解けているのは間違いないかと。しかしこれ以上ここにいるのは我々も危険です。離脱しましょう」

そこまで聞いて意識は途切れ、目の前に闇の世界が広がった。
右も左も、どっちが上でどっちが下なのかも分からない虚無の世界が。
どれだけ時間が経ったのか、そもそも時間という概念があるのか。
それさえもあやふやな世界に１人浮かんでいる。

そんな中、彗星のような一筋の光が流れ星のように流れ落ちる。
その閃光は黒のカーテンを破るように引き裂きながら落下すると地上に落下した。

　　　＊　　　＊　　　＊

ヴェイグが気付くとそこには灯台と同じくらいの太さをもつ青白い閃光にファルブが斜め上空から打ち抜かれていた。
いや、コレは最早包み込まれている。

その閃光がファルブを包み闇の地面を抉るように拡散していくと闇が絵の具で上塗りされるかのようにアニカマルの景色が戻って行った。
戻ってはいったが余剰のエネルギーが拡散することにより突風が吹き荒れ家屋の屋根や壁、住人等が空へと舞い上がって行った。
そんな中ファルブを貫いていた極太の閃光はエネルギーを収束させるかのように細くなり、次第に消えていく。

「ば……かな……」

ファルブは前のめりに倒れそうになるも、寸前で地面を踏みしめ踏ん張った。
ヴェイグは即座に周囲の状況を確認する。
今の閃光が何処から誰によるものなのかは分からないが、ユージーンは倒れたまま動く様子はなく、ティトレイも闇の空間において無の状態からフォルスを使い続けた所為で酷く疲労しているようだった。
そんな時、マオと目が合う。
その無垢な瞳は今は力強くヴェイグに語りかけていた。
それに対してヴェイグも力強く頷く。

「行くぞマオ！！」

「うん！」

ヴェイグの後に続くようにマオも走り出す。

「俺は……俺はもう……負け……負けられ……」

ヴェイグとマオが距離を縮めている間にも再びファルブの身体から黒い霧が煙のように少しずつ上がり始める。

「負けられねぇんだ！！」

ファルブの怒号と共に黒い霧がファルブの身体にオーラのように纏わりつく。

「また暴走する前に片をつける！」

ヴェイグは大剣を下段に構えながら特攻するのに対してマオは詠唱に入る。

「闇の炎よ、切り刻み焼き尽くせ！」

ファルブは大鎌を乱雑に振ると、剣圧が闇の炎となってヴェイグに迫る。
それをヴェイグは凍気の込められた氷の大剣にて、上下左右へと弾き飛ばす。

「浄破滅焼闇！！」

ファルブは大鎌に闇の炎を纏わせ、それを横凪に振るう。
すると、ヴェイグの１０倍はあろうかという闇の炎の塊が飛来する。

「燃え盛れ、紅蓮の炎！」

マオがトンファーを天に掲げると、大質量の紅蓮の炎がトンファーから放出されヴェイグの頭上を越えた。
闇の炎と紅蓮の炎が衝突するも、紅蓮の炎はまるで生き物のように闇の炎を飲み込んでいき、まるで導火線を辿るかのように紅蓮の炎はファルブへ辿り着く。

「ぐあああああ！！！」

ファルブが炎に包まれている間にヴェイグがファルブの背後へと移動する。

「今楽にしてやる」

氷の大剣によってヴェイグはファルブを何回も切り裂く。
切り裂いている間にファルブの周囲の大気が凍っていき、いつしかファルブはクリスタル状の氷壁に閉じ込められた。
その間にマオがヴェイグと反対の位置に移動し終わると、２人は同時にクリスタルに突っ込む。

「「奥義！インブレイスエンド！！」」

ヴェイグとマオがクリスタルを砕きながら擦れ違うと、ファルブは断末魔を上げることさえなく、崩れ落ちた。

「はぁ……はぁ……」

ヴェイグは肩で息をしながら仰向けに倒れているファルブを見る。
彼の身体は凍傷、火傷、そして大量の切り傷と、見るに耐えない身体となっていた。

「また負けて無念だろうがお前の負けだ、ファルブ」

ヴェイグは動かなくなったファルブに語りかける。
だが次の瞬間、ファルブの身体が小刻みに震え始めた。

「ガッハ……ハ。俺が暴走した時……俺様の記憶でも見た……か？」

ファルブは薄っすらと瞳を開けるが焦点は合っていないかった。

「まだ生きてんのかよ！？」

ティトレイは驚愕するが、ファルブは起き上がろうとしなかった。

「てめぇらには……分からんだろ……負けたレジスタンスのボスがどんな扱いを受けるか……動かない身体が……どんな惨めなものか……」

「ファルブ……」

ヴェイグは未だに息が荒く、マオはトンファーを構えたまま彼の名前を呟く。

「ガッハッハ……」

ファルブは最後に笑うと、自分の身体を黒いスライムのような物に変形させ地中へ溶け込むように消えて行った。

〜続く〜