第78話『さぶくえすとinスールズ』
粗方体力も回復したヴェイグ達はそろそろ出発するために次の目的地をどこにするか相談していた。
「まだ会っていないのはジルバだけか……」
宿屋で円を描くように座っている中でカインがおもむろに呟く。
「これまでの傾向から考えると……」
ブライトは円陣の中心に広げたワールドマップの中心にある孤島を指差す。
「バルカだが、そこはサレとトーマが担当だったみてぇだし、それ以外だとどこだ?」
これまでの傾向というのはこれまで6芒星は各々の縁のある場所に出現しているということである。
その法則が正しいのならばジルバが出現するのはバルカということになるが、そこは既にサレとトーマが撃破されている。
「同じ場所を今度はジルバが担当するっていう可能性は?」
カイトが質問するとマオが首を横に振った。
「ジルバはかなり計算高いから効率が悪いことはしないと思う。思念も一度発生させたヒト達よりもまったく違うヒト達をターゲットにしたほうが効率良さそうじゃない?」
「そうか?」
ジークがいまいち納得できず見渡すとヴェイグ達は一理あると言わんばかりに頷いた。
「もしくはユリスと共にいることも考えられる。ヤツの、最後の最後まで安全圏で静観する性格を考えるとユリスの側がヤツにとっての最たる安全圏といえるだろう」
ユージーンが腕を組みながら言うと、ジルバと面識のあるヴェイグ達6人はえらく納得した。
「でもユリスどこにいんの?」
ジンが全員を見渡しながら質問するが、全員難しい顔をしてワールドマップを睨みつける。
すると、ワールドマップを見つめることに飽きたマオが腕を頭の後ろで組んだ。
「ワールドマップを見てても分からないんだから適当にあちこちの街を巡って探してみようヨ!レグナントでどこへでもひとっ飛びなんだからさ!」
「それもそうだな!」
ブライトも腕を天井に向かって上げて伸びをしながら賛成する。
「いつでも飛べるようにしておくから準備ができたら声をかけてよ!」
こうしてヴェイグ達は出発する準備をすませると村から少し離れたところにとめてあるレグナントへ向かう。
* * *
「行き先はどこでも良いんだったな?」
レグナントに乗り込もうとするが、先頭を歩いていたヴェイグが歩みを止め振り返ると全員の足が止まる。
「なんだヴェイグ?家が恋しくなっちまったか?」
ティトレイが茶化すように言うが、ヴェイグは肯定も否定もしなかった。
それが逆にティトレイに堪えたのか急に冷や汗をかき始めた。
「わ、悪かったって!確かに、ヴェイグの故郷であるスールズが狙われない保障なんてないもんな」
「どうせあちこち周るのだし、良いんじゃない?」
ヒルダの場合、フォローや気遣いではなく、本当にどこでも良いようだった。
「じゃあスールズに向かって出発するよ!」
全員が席につくと、行き先を聞いたカイトが最終確認をしてからアクセルを踏む。
レグナントはエンジンの回転数を上げながら進み始め一定の速度まで加速すると大空へと飛び立った。
* * *
ジークは機内の窓から下を見下ろす。
すると調度山脈の真上を飛んでおり、ジークの背中部分にある窓からはバルカ側の海がのぞめた。
その山脈と海の間に大陸が広がっている部分にさしかかると、一つの街が見えた。
その街は川を跨いで一つの街となっているようで、その街の周囲を赤い色の線が囲んでいるように見えた。
「そろそろベルサスの真上ぐらいか?」
ヴェイグがそわそわした様子で訪ねる。
ジークは窓からヴェイグへ視線を移してみると、一見落ち着いているように見えるが目が泳いでいた。
よっぽど心配なのだろう。
「ベルサスなら今通過したところだよ」
前方のコックピッドから声が飛んでくる。
「そうか、今のがベルサスだったのか……」
ジークは再び窓の外に視線を戻す。
しかし既に山脈の影になって見えなくなっていた。
以前ヤコからベルサスで薔薇を養殖していると聞いたが、先程の赤いラインがそうだったのかもしれない。
(スールズの次はベルサスに行くように言ってみるか)
「そういえばマオ、さっきナイラと何を話してたの?」
外の景色に飽きたのかルルが訪ねるとマオも視線を窓の外からルルへ移行する。
「早急にボクのサインが必要な書類があったんだって」
「じゃあスールズに行った後バルカに行くの?」
「ううん、さっきサインしたからその必要はないみたい」
「ナイラがその書類とやらを持ってきていたのか?」
気になったのかマオとルルの会話にブライトが介入した。
「うん、よっぽど早くサインが必要だったみたいだヨ?」
「どんな内容のものだ?」
「それが……さっさとサインするように急かされてちゃんと確認してないんだよね……」
マオは苦笑いしながら言うが何故かユージーンは咎めようとしない。
「そろそろスールズに着くよ!」
カイトの声と同時に機体の高度が下がり、着陸態勢に入ったことが分かった。
* * *
「さ、さぶい……」
アニカマルで最後に乗ったルルが今度は最初にレグナントから降りると、突き刺さるような冷たい空気が小さな身体を通り抜けルルは自分の身体を抱きしめた。
「さっきまでクソ暑いところにいたからな。風邪引くなよ?」
急激な寒暖の差にジークでなくとも嫌になりそうだったが、ユージーンやブライトといったガジュマは毛皮があるため平然としていた。
「僕はエンジンを温めておくから、皆だけで行ってきてよ」
「悪いな、カイト」
ジークがカイトに礼を言うと、最後にヴェイグが外に出た。
「こっちだ」
ガジュマ以外にもう1人、ヒューマでありながら平気な顔をしているヴェイグが全員を誘導するように先頭をきって村の入り口へと向かう。
「これが本来のスールズなのね……」
スールズに一歩入った所でフィオナは足を止めた。
以前来た時はサレとギュナルスに壊滅状態にされていたため満足に眺めることはできなかったが、今は完全に復元された姿がそこにあった。
広大な牧草地が広がる中に牛や馬などの家畜が放牧されており、トンガリ帽子のような屋根をした家屋がまばらに建っている。
そしてその村を山脈が砦のように囲んでいるため冷気の逃げ場がない。
それでも日差しが差し込んでいるためノルゼン程の寒さはない。
「本当に元通りだな……」
フィオナの隣でジークもまた突っ立って景色を眺めていた。
「誰かと思ったらヴェイグじゃねぇか。帰ってたのか?」
ジークとフィオナが景色を眺めている一方でヴェイグは犬のようなガジュマに放しかけられていた。
だがそのおじさんは何故か不機嫌そうに見える。
「たった今帰ってきたところです」
「ほう、お前が帰ってきたって俺は嬉しくともなんともないんだがな」
「……」
おじさんは言うだけ言うと宿屋らしき家屋に入って行き、それをヴェイグは無言で見送った。
「まさか思念の影響か?」
ティトレイはおじさんが入って行った宿屋を睨みながらヴェイグに歩み寄る。
すると宿屋の中から今度は羊のようなガジュマのおばさんが慌てた様子で出てきた。
「おやおや本当にヴェイグじゃないか!ウチのが変なこと言わなかったかい!?」
さっきのおじさんとは対照的にヴェイグのことを気遣うおばさんを見てティトレイの目が点になる。
「ごめんよ〜、最近雇った従業員が急に居なくなっちまったからあのヒト気が立ってんのさ。突然やってきて働かせてくれって言うもんだから働かせたんだけどさ、これが飲み込みが早くて主人もあたしも気に入ってたんだ。でも昨日になって突然居なくなちゃって、あのヒトもショックを隠しきれないのさ。だから許してやってくれないかい?そもそも……」
おばさんの長話に捕まったヴェイグは可哀想だったが、思念の影響によるものではないことが分かって一同は胸を撫で下ろした。
村人が何時もと変わらぬ様子で生活をしているところを見る限り、ユリスの手もここには伸びていないことも分かった。
「……ヴェイグ?」
そこへ聞き覚えのある声が飛んできた。
声のした方向を見てみると買い物籠を腕に下げたクレアが立っていた。
調度今買い物するために家から出てきたクレアの籠の中からザピィが飛び出すとヴェイグの肩にスルスルとよじ登った。
「キキッ!」
「あらあら、邪魔者は退散しようかね」
おばさんはクレアとヴェイグを交互に見てから微笑みながら宿屋へ戻って行った。
「お帰り、ヴェイグ」
「ただいま」
クレアはヴェイグに歩み寄り微笑むとヴェイグも微笑み返した。
「なんか思ってたよりあっさりしてるのね」
「あんた……あの2人に何を期待してたの?」
フィオナが呆気にとられているとヒルダはやれやれといった感じで肩をすくめた。
「ヴェイグ寒そうな顔してるわ。さっさと買い物を済ませるから先に家に帰っててくれる?」
((寒そうな顔をしてたのか!?))
全員の心の声がハモった瞬間だった。
大分ヴェイグも表情を出すようになり、読めるようになったつもりでいたが、やはりクレアには遠く及ばない。
「いや、俺も手伝おう。みんなは先に行っててくれ」
「もう、ヴェイグだけ居ないんじゃお母さん達心配しちゃうでしょ?」
「だが……」
「だ、だったら私達も手伝います!」
ニノンが提案すると、クレアは目を丸くしてニノンを見た。
「あら?新しいお仲間?」
クレアに改めて見つめられニノンは縮こまるが何とか自己紹介をすませ、結局無駄に大勢でクレアの買い物を手伝うことで落ち着いた。
大所帯で買い物をするその様は村人からしてみれば今夜は久し振りにピーチパイパーティでも開催するのかと勘違いしても可笑しくは無かった。
「ただいま〜。お父さん、お母さん、ヴェイグが帰ってきたわよ」
家に入るとキッチンで下ごしらえをしていた母親のラキアとテーブルでくつろいでいたマルコが振り返った。
「お帰り、ヴェイグ」
「ただいま、父さん、母さん」
その光景を見たユージーン達5人は感慨深く頷いていたが、ジーク達からしてみれば普通の光景なため何故ティトレイが瞳に涙を溜めているのか分からなかった。
「しっかしヴェイグは帰ってくる度に友達を増やしてくるなぁ!」
父親のマルコはジーク達を見渡しながら笑う。
さすがにこの人数全員が座る場所は確保できず、寿司詰め状態になっていた。
そのため下の階にあるヴェイグの部屋に分散する。
「皆お昼ご飯はまだなんでしょ?今作るからちょっと待ってて!」
クレアが言うとマオとティトレイが大歓喜した。
「クレア、ピーチパイも忘れんなよ!」
「はいはい♪」
ティトレイのリクエストにクレアは笑顔で答える。
「……俺も手伝って良いか?」
「えっ?」
ジークからの突然の申し出にさすがのクレアも戸惑う。
「お客さんに手伝ってもらうだんて、そんなの悪いわ?」
「俺が手伝いたいだけだ」
流石にピーチパイの秘伝のレシピを盗むためとは人見知りのジークには言う勇気がなかった。
結局、大勢の料理をラキアとクレアの2人で作るのは大変だからとラキア本人からの助け舟によってジークも台所に立つ権利を獲得した。
台所は主婦にとっての戦場、そこに一歩踏み入れれば戦士の一員として扱われる。
この後、ジークは戦場の厳しさ、そして過酷さを思い知ることとなる。
〜続く〜
「まだ会っていないのはジルバだけか……」
宿屋で円を描くように座っている中でカインがおもむろに呟く。
「これまでの傾向から考えると……」
ブライトは円陣の中心に広げたワールドマップの中心にある孤島を指差す。
「バルカだが、そこはサレとトーマが担当だったみてぇだし、それ以外だとどこだ?」
これまでの傾向というのはこれまで6芒星は各々の縁のある場所に出現しているということである。
その法則が正しいのならばジルバが出現するのはバルカということになるが、そこは既にサレとトーマが撃破されている。
「同じ場所を今度はジルバが担当するっていう可能性は?」
カイトが質問するとマオが首を横に振った。
「ジルバはかなり計算高いから効率が悪いことはしないと思う。思念も一度発生させたヒト達よりもまったく違うヒト達をターゲットにしたほうが効率良さそうじゃない?」
「そうか?」
ジークがいまいち納得できず見渡すとヴェイグ達は一理あると言わんばかりに頷いた。
「もしくはユリスと共にいることも考えられる。ヤツの、最後の最後まで安全圏で静観する性格を考えるとユリスの側がヤツにとっての最たる安全圏といえるだろう」
ユージーンが腕を組みながら言うと、ジルバと面識のあるヴェイグ達6人はえらく納得した。
「でもユリスどこにいんの?」
ジンが全員を見渡しながら質問するが、全員難しい顔をしてワールドマップを睨みつける。
すると、ワールドマップを見つめることに飽きたマオが腕を頭の後ろで組んだ。
「ワールドマップを見てても分からないんだから適当にあちこちの街を巡って探してみようヨ!レグナントでどこへでもひとっ飛びなんだからさ!」
「それもそうだな!」
ブライトも腕を天井に向かって上げて伸びをしながら賛成する。
「いつでも飛べるようにしておくから準備ができたら声をかけてよ!」
こうしてヴェイグ達は出発する準備をすませると村から少し離れたところにとめてあるレグナントへ向かう。
* * *
「行き先はどこでも良いんだったな?」
レグナントに乗り込もうとするが、先頭を歩いていたヴェイグが歩みを止め振り返ると全員の足が止まる。
「なんだヴェイグ?家が恋しくなっちまったか?」
ティトレイが茶化すように言うが、ヴェイグは肯定も否定もしなかった。
それが逆にティトレイに堪えたのか急に冷や汗をかき始めた。
「わ、悪かったって!確かに、ヴェイグの故郷であるスールズが狙われない保障なんてないもんな」
「どうせあちこち周るのだし、良いんじゃない?」
ヒルダの場合、フォローや気遣いではなく、本当にどこでも良いようだった。
「じゃあスールズに向かって出発するよ!」
全員が席につくと、行き先を聞いたカイトが最終確認をしてからアクセルを踏む。
レグナントはエンジンの回転数を上げながら進み始め一定の速度まで加速すると大空へと飛び立った。
* * *
ジークは機内の窓から下を見下ろす。
すると調度山脈の真上を飛んでおり、ジークの背中部分にある窓からはバルカ側の海がのぞめた。
その山脈と海の間に大陸が広がっている部分にさしかかると、一つの街が見えた。
その街は川を跨いで一つの街となっているようで、その街の周囲を赤い色の線が囲んでいるように見えた。
「そろそろベルサスの真上ぐらいか?」
ヴェイグがそわそわした様子で訪ねる。
ジークは窓からヴェイグへ視線を移してみると、一見落ち着いているように見えるが目が泳いでいた。
よっぽど心配なのだろう。
「ベルサスなら今通過したところだよ」
前方のコックピッドから声が飛んでくる。
「そうか、今のがベルサスだったのか……」
ジークは再び窓の外に視線を戻す。
しかし既に山脈の影になって見えなくなっていた。
以前ヤコからベルサスで薔薇を養殖していると聞いたが、先程の赤いラインがそうだったのかもしれない。
(スールズの次はベルサスに行くように言ってみるか)
「そういえばマオ、さっきナイラと何を話してたの?」
外の景色に飽きたのかルルが訪ねるとマオも視線を窓の外からルルへ移行する。
「早急にボクのサインが必要な書類があったんだって」
「じゃあスールズに行った後バルカに行くの?」
「ううん、さっきサインしたからその必要はないみたい」
「ナイラがその書類とやらを持ってきていたのか?」
気になったのかマオとルルの会話にブライトが介入した。
「うん、よっぽど早くサインが必要だったみたいだヨ?」
「どんな内容のものだ?」
「それが……さっさとサインするように急かされてちゃんと確認してないんだよね……」
マオは苦笑いしながら言うが何故かユージーンは咎めようとしない。
「そろそろスールズに着くよ!」
カイトの声と同時に機体の高度が下がり、着陸態勢に入ったことが分かった。
* * *
「さ、さぶい……」
アニカマルで最後に乗ったルルが今度は最初にレグナントから降りると、突き刺さるような冷たい空気が小さな身体を通り抜けルルは自分の身体を抱きしめた。
「さっきまでクソ暑いところにいたからな。風邪引くなよ?」
急激な寒暖の差にジークでなくとも嫌になりそうだったが、ユージーンやブライトといったガジュマは毛皮があるため平然としていた。
「僕はエンジンを温めておくから、皆だけで行ってきてよ」
「悪いな、カイト」
ジークがカイトに礼を言うと、最後にヴェイグが外に出た。
「こっちだ」
ガジュマ以外にもう1人、ヒューマでありながら平気な顔をしているヴェイグが全員を誘導するように先頭をきって村の入り口へと向かう。
「これが本来のスールズなのね……」
スールズに一歩入った所でフィオナは足を止めた。
以前来た時はサレとギュナルスに壊滅状態にされていたため満足に眺めることはできなかったが、今は完全に復元された姿がそこにあった。
広大な牧草地が広がる中に牛や馬などの家畜が放牧されており、トンガリ帽子のような屋根をした家屋がまばらに建っている。
そしてその村を山脈が砦のように囲んでいるため冷気の逃げ場がない。
それでも日差しが差し込んでいるためノルゼン程の寒さはない。
「本当に元通りだな……」
フィオナの隣でジークもまた突っ立って景色を眺めていた。
「誰かと思ったらヴェイグじゃねぇか。帰ってたのか?」
ジークとフィオナが景色を眺めている一方でヴェイグは犬のようなガジュマに放しかけられていた。
だがそのおじさんは何故か不機嫌そうに見える。
「たった今帰ってきたところです」
「ほう、お前が帰ってきたって俺は嬉しくともなんともないんだがな」
「……」
おじさんは言うだけ言うと宿屋らしき家屋に入って行き、それをヴェイグは無言で見送った。
「まさか思念の影響か?」
ティトレイはおじさんが入って行った宿屋を睨みながらヴェイグに歩み寄る。
すると宿屋の中から今度は羊のようなガジュマのおばさんが慌てた様子で出てきた。
「おやおや本当にヴェイグじゃないか!ウチのが変なこと言わなかったかい!?」
さっきのおじさんとは対照的にヴェイグのことを気遣うおばさんを見てティトレイの目が点になる。
「ごめんよ〜、最近雇った従業員が急に居なくなっちまったからあのヒト気が立ってんのさ。突然やってきて働かせてくれって言うもんだから働かせたんだけどさ、これが飲み込みが早くて主人もあたしも気に入ってたんだ。でも昨日になって突然居なくなちゃって、あのヒトもショックを隠しきれないのさ。だから許してやってくれないかい?そもそも……」
おばさんの長話に捕まったヴェイグは可哀想だったが、思念の影響によるものではないことが分かって一同は胸を撫で下ろした。
村人が何時もと変わらぬ様子で生活をしているところを見る限り、ユリスの手もここには伸びていないことも分かった。
「……ヴェイグ?」
そこへ聞き覚えのある声が飛んできた。
声のした方向を見てみると買い物籠を腕に下げたクレアが立っていた。
調度今買い物するために家から出てきたクレアの籠の中からザピィが飛び出すとヴェイグの肩にスルスルとよじ登った。
「キキッ!」
「あらあら、邪魔者は退散しようかね」
おばさんはクレアとヴェイグを交互に見てから微笑みながら宿屋へ戻って行った。
「お帰り、ヴェイグ」
「ただいま」
クレアはヴェイグに歩み寄り微笑むとヴェイグも微笑み返した。
「なんか思ってたよりあっさりしてるのね」
「あんた……あの2人に何を期待してたの?」
フィオナが呆気にとられているとヒルダはやれやれといった感じで肩をすくめた。
「ヴェイグ寒そうな顔してるわ。さっさと買い物を済ませるから先に家に帰っててくれる?」
((寒そうな顔をしてたのか!?))
全員の心の声がハモった瞬間だった。
大分ヴェイグも表情を出すようになり、読めるようになったつもりでいたが、やはりクレアには遠く及ばない。
「いや、俺も手伝おう。みんなは先に行っててくれ」
「もう、ヴェイグだけ居ないんじゃお母さん達心配しちゃうでしょ?」
「だが……」
「だ、だったら私達も手伝います!」
ニノンが提案すると、クレアは目を丸くしてニノンを見た。
「あら?新しいお仲間?」
クレアに改めて見つめられニノンは縮こまるが何とか自己紹介をすませ、結局無駄に大勢でクレアの買い物を手伝うことで落ち着いた。
大所帯で買い物をするその様は村人からしてみれば今夜は久し振りにピーチパイパーティでも開催するのかと勘違いしても可笑しくは無かった。
「ただいま〜。お父さん、お母さん、ヴェイグが帰ってきたわよ」
家に入るとキッチンで下ごしらえをしていた母親のラキアとテーブルでくつろいでいたマルコが振り返った。
「お帰り、ヴェイグ」
「ただいま、父さん、母さん」
その光景を見たユージーン達5人は感慨深く頷いていたが、ジーク達からしてみれば普通の光景なため何故ティトレイが瞳に涙を溜めているのか分からなかった。
「しっかしヴェイグは帰ってくる度に友達を増やしてくるなぁ!」
父親のマルコはジーク達を見渡しながら笑う。
さすがにこの人数全員が座る場所は確保できず、寿司詰め状態になっていた。
そのため下の階にあるヴェイグの部屋に分散する。
「皆お昼ご飯はまだなんでしょ?今作るからちょっと待ってて!」
クレアが言うとマオとティトレイが大歓喜した。
「クレア、ピーチパイも忘れんなよ!」
「はいはい♪」
ティトレイのリクエストにクレアは笑顔で答える。
「……俺も手伝って良いか?」
「えっ?」
ジークからの突然の申し出にさすがのクレアも戸惑う。
「お客さんに手伝ってもらうだんて、そんなの悪いわ?」
「俺が手伝いたいだけだ」
流石にピーチパイの秘伝のレシピを盗むためとは人見知りのジークには言う勇気がなかった。
結局、大勢の料理をラキアとクレアの2人で作るのは大変だからとラキア本人からの助け舟によってジークも台所に立つ権利を獲得した。
台所は主婦にとっての戦場、そこに一歩踏み入れれば戦士の一員として扱われる。
この後、ジークは戦場の厳しさ、そして過酷さを思い知ることとなる。
〜続く〜
■作者メッセージ
【楽談パート58】
takeshi「ども〜!サブクエスト突入のtakeshiです」
チャリティ「何?お遣いでも頼まれたの?」
takeshi「私ではなく、本編がサブクエストに突入したんです!」
チャリティ「そうなの?」
takeshi「ちなみに今までも何度かジークの選んだ選択肢によってサブクエストは発生してるんですよ?」
チャリティ「例えば?」
takeshi「例えばクインシェルで夜中家の外に出た時、マティアスと会う前に家に入ってたらフィオナとの秘密の特訓イベントは発生しませんでした」
チャリティ「フィオナとの特訓はサブイベントだったのね」
takeshi「逆にフィオナがバルカでジークを探してバルコニーに来なければ過去編というサブイベントは発生していません」
チャリティ「あれは確かにサブイベントと呼ぶに相応しい蛇足だったわね」
takeshi「で、今回はヴェイグの選択によりスールズになりましたが、もしティトレイが選択していればペトナジャンカで姉貴とイベントでしたし、ヒルダだったらモクラド村、アニーだったらミナールでキュリア先生とイベント、ユージーンもしくはマオの場合はバルカという風にルートが分岐して歴史も少し変わったかもしれないのです」
チャリティ「じゃあもしジークがベルサスに行きたいって言ってたら、また違う未来があったってこと?」
takeshi「ちょっとどころか大きく変わりますよ!今回の連続更新と、次回の更新で私の言ってる意味が分かると思うのですが、ベルサスに行こうと提案するか、ユージーン達がバルカへ行きたいって提案していれば今後の展開が大きく変わっていたんです!」
チャリティ「じゃ、じゃあジーク達は選択肢を間違ったってこと?」
takeshi「ぶっちゃけジークなんて最初から選択肢間違えまくりですよ!間違え祭りですよ!でも人生は選択の連続ですからね。リアルの世界で正解の選択肢を選べている人の数を考えればジークはある意味最も人間臭いのかもしれません」
チャリティ「あんた達の言葉を借りれば私だって人間なんだけど?」
takeshi「チャリティさん、嘘はよくない」
チャリティ「どういう意味だコラ」
takeshi「そういえばスールズに着いた途端、従業員に逃げられたおじさんに会ったじゃないですか?」
チャリティ「あぁ、居たわね。宿屋のおやじね。ていうかあんた宿屋好きね」
takeshi「宿屋は冒険者にとっての安息地ですからね。いや、そういう話をしたいのではなく、逃げた従業員、本編ではなく今後行う外伝の伏線なので覚えててください」
チャリティ「無理」
takeshi「あきらめんなよ!!」
チャリティ「ていうか外伝やるの?」
takeshi「今言った伏線の物とは関係ありませんが、次の章に行く前に必ず一つは外伝やります」
チャリティ「難儀なことね」
takeshi「難儀なこともまた雅なりですよ」
チャリティ「え?今なんて?」
takeshi「で、ではまた〜」
takeshi「ども〜!サブクエスト突入のtakeshiです」
チャリティ「何?お遣いでも頼まれたの?」
takeshi「私ではなく、本編がサブクエストに突入したんです!」
チャリティ「そうなの?」
takeshi「ちなみに今までも何度かジークの選んだ選択肢によってサブクエストは発生してるんですよ?」
チャリティ「例えば?」
takeshi「例えばクインシェルで夜中家の外に出た時、マティアスと会う前に家に入ってたらフィオナとの秘密の特訓イベントは発生しませんでした」
チャリティ「フィオナとの特訓はサブイベントだったのね」
takeshi「逆にフィオナがバルカでジークを探してバルコニーに来なければ過去編というサブイベントは発生していません」
チャリティ「あれは確かにサブイベントと呼ぶに相応しい蛇足だったわね」
takeshi「で、今回はヴェイグの選択によりスールズになりましたが、もしティトレイが選択していればペトナジャンカで姉貴とイベントでしたし、ヒルダだったらモクラド村、アニーだったらミナールでキュリア先生とイベント、ユージーンもしくはマオの場合はバルカという風にルートが分岐して歴史も少し変わったかもしれないのです」
チャリティ「じゃあもしジークがベルサスに行きたいって言ってたら、また違う未来があったってこと?」
takeshi「ちょっとどころか大きく変わりますよ!今回の連続更新と、次回の更新で私の言ってる意味が分かると思うのですが、ベルサスに行こうと提案するか、ユージーン達がバルカへ行きたいって提案していれば今後の展開が大きく変わっていたんです!」
チャリティ「じゃ、じゃあジーク達は選択肢を間違ったってこと?」
takeshi「ぶっちゃけジークなんて最初から選択肢間違えまくりですよ!間違え祭りですよ!でも人生は選択の連続ですからね。リアルの世界で正解の選択肢を選べている人の数を考えればジークはある意味最も人間臭いのかもしれません」
チャリティ「あんた達の言葉を借りれば私だって人間なんだけど?」
takeshi「チャリティさん、嘘はよくない」
チャリティ「どういう意味だコラ」
takeshi「そういえばスールズに着いた途端、従業員に逃げられたおじさんに会ったじゃないですか?」
チャリティ「あぁ、居たわね。宿屋のおやじね。ていうかあんた宿屋好きね」
takeshi「宿屋は冒険者にとっての安息地ですからね。いや、そういう話をしたいのではなく、逃げた従業員、本編ではなく今後行う外伝の伏線なので覚えててください」
チャリティ「無理」
takeshi「あきらめんなよ!!」
チャリティ「ていうか外伝やるの?」
takeshi「今言った伏線の物とは関係ありませんが、次の章に行く前に必ず一つは外伝やります」
チャリティ「難儀なことね」
takeshi「難儀なこともまた雅なりですよ」
チャリティ「え?今なんて?」
takeshi「で、ではまた〜」