第80話『塔と決戦』
ナイラは眼鏡のブリッジを人差し指で上げる。
「ユリスはネレグの塔にいる」
「ネレグの塔っていやぁ、ノルゼンの北にある塔じゃねぇか!」
ティトレイの言うとおり、ネレグの塔とはノルゼン地方の最北端に位置する塔の名前である。
「妙だな、レンパオ空中庭園に上がる際にネレグの塔も見えたが、あの時は別段変化はなかった」
ユージーンは腕を組みながら、先日のことを思い出す。
「ユリスは特殊な結界を張ってたから視認できなくて当たり前」
「それなのによく見つけることができましたね……」
アニーが感心したように言うとナイラは胸を張った。
「それはなんと言っても私だから。それに、今日は新月だからフォルスが弱まっているのもあると思う」
ヴェイグは腰に着けている月の満ち欠けによって光が変わるアクセサリーを見た。
すると、確かに光は一切ない。
「それってナイラの力のおかげじゃなくて、たまたま新月だったから見つけられただけじゃないの?」
マオが軽い調子で言うと案の定ナイラに睨まれた。
「フォルスって、月に左右されるものなの?」
クレアはヴェイグに訪ねるが、彼は分からないという代わりに首を横に振った。
「まだ実証はされてないし、実感できるほどパワーが落ちることもない。ただ不安定になる」
ナイラはテーブルの下を指差す。
「私も本当ならテーブルの下なんかに出てくるつもりじゃなかった。おかげで頭痛いしつまらないものを見せられた」
「あんたねぇ〜……!!」
フィオナの怒りのボルテージが上がっていき、ニノンがアニーの背中に隠れる。
「要するにユリスを討つなら今日しかない。明日になって移動されると視認できないから追えなくなる」
ナイラの言葉に、全員が生唾を飲む。
「私達は城の警護とかで手が離せない。だから援護とかは期待しないで」
確かにユリス討伐のために戦力を注ぎすぎると今度は逆に城や他の街の護りが手薄になってしまい伏兵がいた場合対処ができない。
「それじゃ、世界の命運は頼んだから」
それだけ言ってナイラはそそくさと影の中に潜って行った。
「タイムリミットはあと半日か……時間がねぇな」
ブライトは苦虫を噛み潰したような顔で言うと、ラキアとマルコが不安そうな顔をしてヴェイグを見る。
「ヴェイグなら大丈夫よね!夕飯の準備をして待ってるわ!」
不穏な空気を打ち消すかのようにクレアの声が家中に響き渡る。
「あぁ、心強い仲間もいる」
ヴェイグは1年前より2倍に増えた仲間を見渡す。
「俺達は絶対に負けない。だから、父さん、母さん、安心して待っててくれ」
それを聞いてマルコとラキアは苦笑いをしながら溜息を吐く。
「ヴェイグ、それに皆さん、無理は禁物ですよ」
「危なくなったら逃げても良いんだ。新月はまた来るんだしな」
マルコとラキアの言葉に全員が頷く。
そして、ヴェイグがクレアから大剣を受け取り、外へと向かう。
「行ってきます」
ヴェイグ達13人は最終決戦の舞台へと向かう。
* * *
「もう良いのかい?」
レグナントに乗り込むとカインがコックピッドから訪ねてくる。
「そういえばカイト、お昼はどうしたの?」
調度乗り込んだフィオナが訪ねるとカイトは後部席に身を乗り出した。
「ジークが持ってきてくれたよ」
「お前が集会所でクレアと話している時にな」
ジークがフィオナとコックピッドの隙間を縫いながら座席へ向かう。
「ジークあんた……」
フィオナはジークの背中を見つめる。
「カイトのことが好きなの?」
直後、不意を突かれて驚いたジークとカイト、そしてフィオナがレグナントの天上に頭を強打した。
一方確信犯のヒルダは悠然と座席に座る。
「あ、あんた!随分とカイトに気を回すと思ったらそういうことだったの!?」
「んなわけねぇだろ!!」
フィオナは頭頂部を片手でおさえながらジークの背中を追うとジークも頭頂部をおさえながら否定する。
「カイン君頑張らないと!!」
一方でルルがカインに向かって胸の前でガッツポーズをする。
「なんていうか、村を出ても出なくてもジーク君はジーク君なんだね……」
「どういうことですか?」
カインの言葉にアニーが首を傾げる。
「クインシェルにも居た……いや、居るんだよ、ジーク君の熱狂的すぎるファンが1人だけ」
「熱狂的っていうか病気でしょアレは。好き過ぎて近付くこともできないって言うんだから」
相変わらず言い争っているジークとフィオナを他所にジンも座席へ着く。
「ジ、ジークさんも隅におけませんね!」
「そいつ、カインの双子の姉なんだけどな」
いつのまに聞いていたのかブライトが口を挟む。
「ほう?カイン、お前にも姉がいたのか」
「いや、あっちが妹だから」
「どっちでも変わらねぇだろ」
ブライトが大口を開けて笑う。
最終決戦の前だというのに全員緊張している様子はない。
それを見てヴェイグは安心する。
「カイト、出発してくれ。目指すはノルゼンの北にあるネレグの塔だ」
「了解!」
カイトはレバーを強く握りしめる。
そして、銀色の機体が太陽の光を反射して飛び立つ。
* * *
レグナントは海を横断し、空の色が青色から薄暗いグレーへと変わる。
曇天に覆われた大陸が見えてくると旋回し北へと向かう。
ノルゼンの上空を通過し、大陸の最北端へと進むとまるで灯台のように聳え立つ建造物が見えてきた。
その塔の付近へとレグナントは着陸する。
「みんな、気を付けてね!」
「み、皆さんの帰りをお待ちしてます!」
カイトとニノンをレグナントに残しヴェイグ達は再び雪原に降り立つ。
「これが本当にネレグの塔なのか?」
ヴェイグは疑問を口にしながら塔を見上げる。
ベースはファンタジー世界にありがちなレンガや石を積み重ねた塔だが、そこかしこからパイプのような物が飛び出していた。
そのパイプは極僅かではあるが黒い霧を吸い込んでおり、恐らく今まではこの何十本というパイプから大量の思念を吸収していたことが推測できる。
「リフォームしたにしてはセンス悪すぎね」
ヒルダが冷めた表情で言う傍らでティトレイは何か引っかかるのか腕を組んでいた。
「しっかしユリスも何でこんな所に拠点を構えたんだろうな?」
そもそもこのネレグの塔はティトレイ達も聖獣ウォンティガが住まう塔を探している時にサレの策略にはまり間違えて訪れただけだ。
その時は同じくサレの口車に乗せられた漆黒の翼と戦闘になったが、それ以上のことはなく、この塔に関する特別な文献や伝説も残っていない。
まさしく何のために建造されたのか分からない塔なのである。
「それはあんた、また獣王山の真上に拠点作ったら即座にばれるからに決まってんでしょ」
ヒルダがティトレイの疑問をバッサリ切ったところでヴェイグが一歩踏み出す。
「行こう」
ヴェイグはネレグの塔の鉄製扉を開くと金属が擦れあう不気味な重低音が木霊する。
* * *
塔の中は細い通路が一本伸びているたけだった。
それは以前来た時と変わらない。
唯一変わった所と言えば天井付近を巨大なパイプが通っており、その先端は上へ向かっていた。
外に突き抜けていたパイプが吸収した物を主に運ぶための物だろう。
「つまりユリスは上にいるってことか」
ジークが天井を見上げているとティトレイが掌に拳をぶつける。
「分かりやすくて良いじゃねぇか!」
ヴェイグ達は一本しかない通路を進む。
途中分岐点があったが間違えてもすぐに行き止まりへと当たり、即座に引き返す。
そうやって進んでいくと青色の円の形をした装置が足場になっている空間に出た。
その装置に全員乗ると、景色が一瞬真っ白になる。
すぐに景色が元に戻ると部屋の雰囲気が少し変わっていた。
「今何が起きたの?」
「1階から2階にワープしたんだヨ」
ルルの質問にマオが答えると、ジークとブライトは物珍しそうに足元の装置を叩いたり踏んだりした。
「妙ですね、ここまで6芒星どころかバイラス一匹出てこないなんて……」
アニーはそれでも念のため周囲を警戒する。
ジンも耳をピクピク動かし気配を探る。
「本当に何も気配を感じない……」
「6芒星は私達が与えたダメージが残ってて出てこられないのだとしても、バイラスも居ないのはさすがに気味が悪いわね」
流石のヒルダも気を張り詰めており、目つきが一層鋭くなっていた。
「もしかして……罠?」
フィオナが恐る恐る言うとユージーンは頷いた。
「可能性はある。だが最上階まで行ってみなければ何も分からない。たとえ罠であろうと俺達は進むしかない」
ユージーンの言うとおり、他にユリスの居場所について情報が無いのだから進むしかない。
ヴェイグ達はフロアが変わっても相変わらず細い通路だけの道程を歩き、再び青い装置の空間に出るとワープする。
その工程を3回程繰り返し通路を歩いていると今まで天井にあったパイプが無いことに気付いた。
そして、しばらく歩くと天井の無い吹き抜けの通路に出た。
「ここが最上階か」
ジークは空ではなく足元を見た。
最後のワープ装置を使ってからパイプが無くなったということは足元を通っているということになり、どうしても気になってしまう。
吹き抜けの通路の先には足元に何かの模様が描かれた少し広い空間があった。
そこで先頭を歩いていたヴェイグは立ち止まる。
「この先の階段を上ればネレグの塔の本当の最上階だ。みんな、覚悟は良いか?」
ヴェイグが振り向くと、全員頷いた。
覚悟はできてる。
そんな仲間の意図をくみとったヴェイグは再び前を向く。
そして、階段を駆け上がる。
* * *
階段を上りきった先には屋根も通路もなくまるで屋上のような空間が広がっていた。
そして、その中央にはパイプを束ねてまるで玉座のように座っているユリスがいた。
その横にはジルバも立っていた。
「よぉ遅かったな。パーティに間に合わないんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ?」
白髪の髪が全て逆立った少年のような容姿をしたユリスが頬杖を突きながら気味の悪い笑みを浮かべる。
「御託(ごたく)は十分だ!世界を元に戻させてもらうぜ!?」
「元に……ねぇ」
ティトレイの言葉を聞いてもユリスは相変わらず体勢を変えようとしない。
「お前は種族が永遠と争う世界に戻したいんだな?」
「何ィ!?」
ユリスは嘲け笑うように両手を広げる。
「元に戻すってことはそういうことだろ?」
「それは違う」
ヴェイグは首を横に振る。
「俺達はお前を封印してから新たな一歩を歩みだそうとしていた。それを邪魔し、再び争いを産んだのはお前だユリス」
「クッ…カハッ!ハッハッハッハッハッハ!!」
ヴェイグの言葉を聞くなりユリスは突然腹を抱えながら笑い始める。
そして落ち着かせると涙を拭きながらヴェイグを見る。
「ヴェイグ、今のお前が言っても茶番にしか聞こえねぇんだよ!」
「やはり言葉は無意味のようだな」
ユージーンは槍を構える。
「そっちのほうが俺様も助かるぜ。これ以上お前達と会話してたらうっかり笑い死にしちまいそうだからなぁ!」
ユリスは玉座から立ち上がると関節をほぐすように回す。
「ジルバ、時間まであとどれくらいだ?」
「もうすぐだ」
「曖昧だな。まぁ良い、時間まで殺さないようにしろよ?」
「了解した」
ジルバは鞭を腰から取り出す。
「何か企んでやがるのか……注意しろよ!」
ブライトは促しながら武器を構えると全員も武器を構える。
まだ陽も傾いていないため日付が変わるまでは十分すぎる時間がある。
ならば何の時間を気にしているのか。
「はぁあああああ!!!」
「遊んでやるよ!」
一抹の疑問を抱えながら、ヴェイグとユリスが交錯する
〜続く〜
「ユリスはネレグの塔にいる」
「ネレグの塔っていやぁ、ノルゼンの北にある塔じゃねぇか!」
ティトレイの言うとおり、ネレグの塔とはノルゼン地方の最北端に位置する塔の名前である。
「妙だな、レンパオ空中庭園に上がる際にネレグの塔も見えたが、あの時は別段変化はなかった」
ユージーンは腕を組みながら、先日のことを思い出す。
「ユリスは特殊な結界を張ってたから視認できなくて当たり前」
「それなのによく見つけることができましたね……」
アニーが感心したように言うとナイラは胸を張った。
「それはなんと言っても私だから。それに、今日は新月だからフォルスが弱まっているのもあると思う」
ヴェイグは腰に着けている月の満ち欠けによって光が変わるアクセサリーを見た。
すると、確かに光は一切ない。
「それってナイラの力のおかげじゃなくて、たまたま新月だったから見つけられただけじゃないの?」
マオが軽い調子で言うと案の定ナイラに睨まれた。
「フォルスって、月に左右されるものなの?」
クレアはヴェイグに訪ねるが、彼は分からないという代わりに首を横に振った。
「まだ実証はされてないし、実感できるほどパワーが落ちることもない。ただ不安定になる」
ナイラはテーブルの下を指差す。
「私も本当ならテーブルの下なんかに出てくるつもりじゃなかった。おかげで頭痛いしつまらないものを見せられた」
「あんたねぇ〜……!!」
フィオナの怒りのボルテージが上がっていき、ニノンがアニーの背中に隠れる。
「要するにユリスを討つなら今日しかない。明日になって移動されると視認できないから追えなくなる」
ナイラの言葉に、全員が生唾を飲む。
「私達は城の警護とかで手が離せない。だから援護とかは期待しないで」
確かにユリス討伐のために戦力を注ぎすぎると今度は逆に城や他の街の護りが手薄になってしまい伏兵がいた場合対処ができない。
「それじゃ、世界の命運は頼んだから」
それだけ言ってナイラはそそくさと影の中に潜って行った。
「タイムリミットはあと半日か……時間がねぇな」
ブライトは苦虫を噛み潰したような顔で言うと、ラキアとマルコが不安そうな顔をしてヴェイグを見る。
「ヴェイグなら大丈夫よね!夕飯の準備をして待ってるわ!」
不穏な空気を打ち消すかのようにクレアの声が家中に響き渡る。
「あぁ、心強い仲間もいる」
ヴェイグは1年前より2倍に増えた仲間を見渡す。
「俺達は絶対に負けない。だから、父さん、母さん、安心して待っててくれ」
それを聞いてマルコとラキアは苦笑いをしながら溜息を吐く。
「ヴェイグ、それに皆さん、無理は禁物ですよ」
「危なくなったら逃げても良いんだ。新月はまた来るんだしな」
マルコとラキアの言葉に全員が頷く。
そして、ヴェイグがクレアから大剣を受け取り、外へと向かう。
「行ってきます」
ヴェイグ達13人は最終決戦の舞台へと向かう。
* * *
「もう良いのかい?」
レグナントに乗り込むとカインがコックピッドから訪ねてくる。
「そういえばカイト、お昼はどうしたの?」
調度乗り込んだフィオナが訪ねるとカイトは後部席に身を乗り出した。
「ジークが持ってきてくれたよ」
「お前が集会所でクレアと話している時にな」
ジークがフィオナとコックピッドの隙間を縫いながら座席へ向かう。
「ジークあんた……」
フィオナはジークの背中を見つめる。
「カイトのことが好きなの?」
直後、不意を突かれて驚いたジークとカイト、そしてフィオナがレグナントの天上に頭を強打した。
一方確信犯のヒルダは悠然と座席に座る。
「あ、あんた!随分とカイトに気を回すと思ったらそういうことだったの!?」
「んなわけねぇだろ!!」
フィオナは頭頂部を片手でおさえながらジークの背中を追うとジークも頭頂部をおさえながら否定する。
「カイン君頑張らないと!!」
一方でルルがカインに向かって胸の前でガッツポーズをする。
「なんていうか、村を出ても出なくてもジーク君はジーク君なんだね……」
「どういうことですか?」
カインの言葉にアニーが首を傾げる。
「クインシェルにも居た……いや、居るんだよ、ジーク君の熱狂的すぎるファンが1人だけ」
「熱狂的っていうか病気でしょアレは。好き過ぎて近付くこともできないって言うんだから」
相変わらず言い争っているジークとフィオナを他所にジンも座席へ着く。
「ジ、ジークさんも隅におけませんね!」
「そいつ、カインの双子の姉なんだけどな」
いつのまに聞いていたのかブライトが口を挟む。
「ほう?カイン、お前にも姉がいたのか」
「いや、あっちが妹だから」
「どっちでも変わらねぇだろ」
ブライトが大口を開けて笑う。
最終決戦の前だというのに全員緊張している様子はない。
それを見てヴェイグは安心する。
「カイト、出発してくれ。目指すはノルゼンの北にあるネレグの塔だ」
「了解!」
カイトはレバーを強く握りしめる。
そして、銀色の機体が太陽の光を反射して飛び立つ。
* * *
レグナントは海を横断し、空の色が青色から薄暗いグレーへと変わる。
曇天に覆われた大陸が見えてくると旋回し北へと向かう。
ノルゼンの上空を通過し、大陸の最北端へと進むとまるで灯台のように聳え立つ建造物が見えてきた。
その塔の付近へとレグナントは着陸する。
「みんな、気を付けてね!」
「み、皆さんの帰りをお待ちしてます!」
カイトとニノンをレグナントに残しヴェイグ達は再び雪原に降り立つ。
「これが本当にネレグの塔なのか?」
ヴェイグは疑問を口にしながら塔を見上げる。
ベースはファンタジー世界にありがちなレンガや石を積み重ねた塔だが、そこかしこからパイプのような物が飛び出していた。
そのパイプは極僅かではあるが黒い霧を吸い込んでおり、恐らく今まではこの何十本というパイプから大量の思念を吸収していたことが推測できる。
「リフォームしたにしてはセンス悪すぎね」
ヒルダが冷めた表情で言う傍らでティトレイは何か引っかかるのか腕を組んでいた。
「しっかしユリスも何でこんな所に拠点を構えたんだろうな?」
そもそもこのネレグの塔はティトレイ達も聖獣ウォンティガが住まう塔を探している時にサレの策略にはまり間違えて訪れただけだ。
その時は同じくサレの口車に乗せられた漆黒の翼と戦闘になったが、それ以上のことはなく、この塔に関する特別な文献や伝説も残っていない。
まさしく何のために建造されたのか分からない塔なのである。
「それはあんた、また獣王山の真上に拠点作ったら即座にばれるからに決まってんでしょ」
ヒルダがティトレイの疑問をバッサリ切ったところでヴェイグが一歩踏み出す。
「行こう」
ヴェイグはネレグの塔の鉄製扉を開くと金属が擦れあう不気味な重低音が木霊する。
* * *
塔の中は細い通路が一本伸びているたけだった。
それは以前来た時と変わらない。
唯一変わった所と言えば天井付近を巨大なパイプが通っており、その先端は上へ向かっていた。
外に突き抜けていたパイプが吸収した物を主に運ぶための物だろう。
「つまりユリスは上にいるってことか」
ジークが天井を見上げているとティトレイが掌に拳をぶつける。
「分かりやすくて良いじゃねぇか!」
ヴェイグ達は一本しかない通路を進む。
途中分岐点があったが間違えてもすぐに行き止まりへと当たり、即座に引き返す。
そうやって進んでいくと青色の円の形をした装置が足場になっている空間に出た。
その装置に全員乗ると、景色が一瞬真っ白になる。
すぐに景色が元に戻ると部屋の雰囲気が少し変わっていた。
「今何が起きたの?」
「1階から2階にワープしたんだヨ」
ルルの質問にマオが答えると、ジークとブライトは物珍しそうに足元の装置を叩いたり踏んだりした。
「妙ですね、ここまで6芒星どころかバイラス一匹出てこないなんて……」
アニーはそれでも念のため周囲を警戒する。
ジンも耳をピクピク動かし気配を探る。
「本当に何も気配を感じない……」
「6芒星は私達が与えたダメージが残ってて出てこられないのだとしても、バイラスも居ないのはさすがに気味が悪いわね」
流石のヒルダも気を張り詰めており、目つきが一層鋭くなっていた。
「もしかして……罠?」
フィオナが恐る恐る言うとユージーンは頷いた。
「可能性はある。だが最上階まで行ってみなければ何も分からない。たとえ罠であろうと俺達は進むしかない」
ユージーンの言うとおり、他にユリスの居場所について情報が無いのだから進むしかない。
ヴェイグ達はフロアが変わっても相変わらず細い通路だけの道程を歩き、再び青い装置の空間に出るとワープする。
その工程を3回程繰り返し通路を歩いていると今まで天井にあったパイプが無いことに気付いた。
そして、しばらく歩くと天井の無い吹き抜けの通路に出た。
「ここが最上階か」
ジークは空ではなく足元を見た。
最後のワープ装置を使ってからパイプが無くなったということは足元を通っているということになり、どうしても気になってしまう。
吹き抜けの通路の先には足元に何かの模様が描かれた少し広い空間があった。
そこで先頭を歩いていたヴェイグは立ち止まる。
「この先の階段を上ればネレグの塔の本当の最上階だ。みんな、覚悟は良いか?」
ヴェイグが振り向くと、全員頷いた。
覚悟はできてる。
そんな仲間の意図をくみとったヴェイグは再び前を向く。
そして、階段を駆け上がる。
* * *
階段を上りきった先には屋根も通路もなくまるで屋上のような空間が広がっていた。
そして、その中央にはパイプを束ねてまるで玉座のように座っているユリスがいた。
その横にはジルバも立っていた。
「よぉ遅かったな。パーティに間に合わないんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ?」
白髪の髪が全て逆立った少年のような容姿をしたユリスが頬杖を突きながら気味の悪い笑みを浮かべる。
「御託(ごたく)は十分だ!世界を元に戻させてもらうぜ!?」
「元に……ねぇ」
ティトレイの言葉を聞いてもユリスは相変わらず体勢を変えようとしない。
「お前は種族が永遠と争う世界に戻したいんだな?」
「何ィ!?」
ユリスは嘲け笑うように両手を広げる。
「元に戻すってことはそういうことだろ?」
「それは違う」
ヴェイグは首を横に振る。
「俺達はお前を封印してから新たな一歩を歩みだそうとしていた。それを邪魔し、再び争いを産んだのはお前だユリス」
「クッ…カハッ!ハッハッハッハッハッハ!!」
ヴェイグの言葉を聞くなりユリスは突然腹を抱えながら笑い始める。
そして落ち着かせると涙を拭きながらヴェイグを見る。
「ヴェイグ、今のお前が言っても茶番にしか聞こえねぇんだよ!」
「やはり言葉は無意味のようだな」
ユージーンは槍を構える。
「そっちのほうが俺様も助かるぜ。これ以上お前達と会話してたらうっかり笑い死にしちまいそうだからなぁ!」
ユリスは玉座から立ち上がると関節をほぐすように回す。
「ジルバ、時間まであとどれくらいだ?」
「もうすぐだ」
「曖昧だな。まぁ良い、時間まで殺さないようにしろよ?」
「了解した」
ジルバは鞭を腰から取り出す。
「何か企んでやがるのか……注意しろよ!」
ブライトは促しながら武器を構えると全員も武器を構える。
まだ陽も傾いていないため日付が変わるまでは十分すぎる時間がある。
ならば何の時間を気にしているのか。
「はぁあああああ!!!」
「遊んでやるよ!」
一抹の疑問を抱えながら、ヴェイグとユリスが交錯する
〜続く〜
■作者メッセージ
【楽談パート60】
takeshi「ども〜!ファイナルバトル!イエェァアア!なtakeshiです!」
チャリティ「今回の連続更新はここまでってことを考えると、確かにファイナルバトルで合ってるわね」
takeshi「どこかおかしいですか?」
チャリティ「だって本編で最終決戦っぽく煽ってるけど、第3部があるんでしょ?」
takeshi「……」
チャリティ「あるわよね?あなたさんざんまだ序盤とかようやく中盤とか言ってたものね?」
takeshi「……第2部デオワリデスヨ」
チャリティ「部分けしないのだとしたら、後何話くらい続くのかしら?」
takeshi「最低50話……」
チャリティ「だったら絶対に今回が最終じゃないじゃない!なのに何突然最終決戦っぽくしてんの?」
takeshi「んなもんしょうがないじゃないですか!ここで散々まだまだ終わらないって言ってた所為で私も油断してたんですから!一応ラスボス戦ですよ!?決着がつくかもしれないじゃないですか!第2部で終了かもしれないじゃないですか!そんな可能性と臭いを漂わせるのを忘れてたんですよ!」
チャリティ「それで急いで雰囲気を作った結果があのざまというわけね」
takeshi「くそぅ!どうせ決着つきませんよ!だからのんびり読めば良いじゃないですか!そして唐突な当たり前の衝撃に慄(おのの)くが良い!」
チャリティ「慄くわ〜」
takeshi「感嘆詞みたいに使わないでくれます?どこかの漢字読めない人じゃないんですから」
チャリティ「でも第2部はこれでラストバトルなんでしょ?」
takeshi「はい!ここ2、3話で第3部に移行するための最終準備とかすませたつもりですが、忘れ物があるような気がして仕方ありません!」
チャリティ「取りに帰ってこれないのが厄介ね」
takeshi「後はユリス戦で20話とか使って100話越えないことを祈るのみ!」
チャリティ「でもやっぱり新月だからか体が重いわね……」
takeshi「大丈夫ですか?」
チャリティ「大丈夫に決まってんでしょ!私を誰だと思ってんの!」
takeshi「……チャリティさんですよね?」
チャリティ「……そうね」
takeshi「ではまた〜」
takeshi「ども〜!ファイナルバトル!イエェァアア!なtakeshiです!」
チャリティ「今回の連続更新はここまでってことを考えると、確かにファイナルバトルで合ってるわね」
takeshi「どこかおかしいですか?」
チャリティ「だって本編で最終決戦っぽく煽ってるけど、第3部があるんでしょ?」
takeshi「……」
チャリティ「あるわよね?あなたさんざんまだ序盤とかようやく中盤とか言ってたものね?」
takeshi「……第2部デオワリデスヨ」
チャリティ「部分けしないのだとしたら、後何話くらい続くのかしら?」
takeshi「最低50話……」
チャリティ「だったら絶対に今回が最終じゃないじゃない!なのに何突然最終決戦っぽくしてんの?」
takeshi「んなもんしょうがないじゃないですか!ここで散々まだまだ終わらないって言ってた所為で私も油断してたんですから!一応ラスボス戦ですよ!?決着がつくかもしれないじゃないですか!第2部で終了かもしれないじゃないですか!そんな可能性と臭いを漂わせるのを忘れてたんですよ!」
チャリティ「それで急いで雰囲気を作った結果があのざまというわけね」
takeshi「くそぅ!どうせ決着つきませんよ!だからのんびり読めば良いじゃないですか!そして唐突な当たり前の衝撃に慄(おのの)くが良い!」
チャリティ「慄くわ〜」
takeshi「感嘆詞みたいに使わないでくれます?どこかの漢字読めない人じゃないんですから」
チャリティ「でも第2部はこれでラストバトルなんでしょ?」
takeshi「はい!ここ2、3話で第3部に移行するための最終準備とかすませたつもりですが、忘れ物があるような気がして仕方ありません!」
チャリティ「取りに帰ってこれないのが厄介ね」
takeshi「後はユリス戦で20話とか使って100話越えないことを祈るのみ!」
チャリティ「でもやっぱり新月だからか体が重いわね……」
takeshi「大丈夫ですか?」
チャリティ「大丈夫に決まってんでしょ!私を誰だと思ってんの!」
takeshi「……チャリティさんですよね?」
チャリティ「……そうね」
takeshi「ではまた〜」