Atonement Requiem another T
いったいどうしてこんなことになったのだろうか。
確か、ティーダが島で鬼ごっこをやろうと言い出して、そして・・・
目の前の光景。涙目でかわいそうなほど震えているティーダ、ワッカ、セルフィー、カイリの四人を見て、ソラとリクは冷たい汗が背中を流れ落ちるのを感じていた。
鬼が、あいつになって、そして・・・
「・・・・見つけた」
淡々とした声が背後から聞こえてきたと思った瞬間。
島は、悲鳴に包まれた。
AnotherTCatch Me If You Can
「鬼ごっこをするっスー!!」
島に着くなりいきなり大声で提案するティーダに、彼以外のメンツは怪訝そうに首をかしげた。
「なんなんだよ、藪から棒に」
「いや。折角俺たちにあたらしい友達ができたんだから、みんなで楽しめる遊びをしようと思って」
「それで鬼ごっこってわけか。そりゃあいいな!」
そう言ってソラはうれしそうに笑うと隣に立っているサクヤを見つめた。
サクヤはきょとんとした表情でソラの顔を見つめ返す。
「あ、鬼ごっこってわかるか?じゃんけんで鬼を決めて、鬼が数を数えている間にみんなが逃げて、制限時間内に鬼が皆を捕まえれば鬼の勝ち。逆にみんなが逃げ切れればみんなの勝ちっている遊びだ」
ソラがサクヤにそう説明すると、理解したのかサクヤは頷いた。
「じゃあルールを説明しまーす!逃げる場所はこの島のどこでもOK。鬼は10数えた後追いかけること。早速鬼を決めよう。誰が鬼でも恨みっこなしっスよ!」
みんな側になり、じゃんけんの構えを取った。
「最初はグー、じゃんけん、ポン!!!」
ティーダの号令で、全員が一斉に手を差し出す。
結果は・・・
皆がごぞってパーを出す中、サクヤは一人だけグーを出していた。
「サクヤの一人負け・・・ってことは」
「サクヤが鬼ってことか」
「気にしないで。鬼が一番最初に捕まえた相手を、次にやるときに鬼にすればいいんだから」
カイリがやさしく言うと、サクヤは彼女の目を見て頷いた。
「じゃあ早速始めよ!サクヤはちゃんと10数えるんやで!」
サクヤはセルフィーに促され、ソラに教えられたとおり後ろを向いて、ゆっくりと数を数え始めた。
「いーち、にーい、さーん・・・」
サクヤが数え始めると同時に、ソラたちはいっせいに彼女から離れるように逃げ出した。
「しーい、ごーお、ろーく・・・」
中でも足に自信があるソラ、リクはあっという間に見えなくなってしまう。
「なーな、はーち、きゅーう、じゅう!」
そうこうしている間にサクヤは数を数え終え、くるりと後ろを振り返った。
そばには誰もいなかったが、一人だけ。
「鬼さんこちら、手のなる方へ!」
ティーダが手を叩きながら、後ろ向きでサクヤの前の方を走っている。
サクヤは彼に狙いを定めると、一歩。
目を見開き、踏み出した。
正直なところ。
ティーダは鬼ごっこではほぼ負け知らずだったため、サクヤが鬼になった時少しかわいそうに思った。
もしも本気を出してしまい、結局誰も捕まらずに終わってしまったら。
そんなことを考え、彼女が見えるギリギリの位置で止まって、少し遊んでやろうかと思った。
サクヤが数を数え終わり、振り向いたとき。
「鬼さんこちら、手のなる方へ!」
ティーダはサクヤに向かって声を張り上げ、手を打ち鳴らしながら走った。
サクヤはこちらに気づき、視線を向ける。
だが、これが悪夢の始まりになるとは、このときは誰も知らなかった。
サクヤはティーダに狙いを定め、一歩踏み出した、その瞬間。
凄まじい速さで、サクヤがこちらに向かって走ってきた。
「っ!?」
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、ただならぬ恐怖を感じたティーダは一目散に逃げ出す。
しかし、必死で逃げているのにもかかわらず差が一向に開かない。
むしろ、縮められている。
いったい何がどうなっているんだ。
混乱する頭の中、ティーダは状況を確認するために振り返った。その瞬間。
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」
島中に、彼の断末魔の叫びがこだました。
「えっ!?」
「な、なに?なんやの!?」
遠くで身を隠していたカイリとセルフィーは、ティーダのただならぬ悲鳴に肩を震わせた。
とても、鬼ごっこを楽しむ人間の物ではない。
「今の、ティーダ、だよね?何かあったのかな?」
「巨人でも進撃してきたのかな?」
「・・・セルフィー。危ないネタはやめてくれない?」
危うく世界観を破壊しそうなセルフィーの発言を、カイリはうんざりした声で窘める。
しかし、それは次の瞬間。
「うぎゃあああああああああああああ!!!!!」
ティーダと同じような悲鳴が聞こえてきたことで、考えは中断した。
「い、今のは・・・」
「ワッカ!?何で、何があったん!?」
リクに次いで年長者であるワッカは、仲間内でもわりと落ち着いた性格の少年であった。
そんな彼が、あんな恐ろしいものに遭遇したような悲鳴を上げるとは、ただ事ではない。
セルフィーは思わず隠れていた茂みから飛び出した。
そして、目の前の光景に絶句する。
「ティーダ・・・ワッカ・・・」
そこには涙目で震えているティーダと、気を失っているのかうつろな目をしたワッカが座り込んでいる。
そしてその前に立っているのは、鬼となっているサクヤ。
「見つけた」
くるりと振り返るサクヤの顔を見て、セルフィーはまるで足が縫い付けられてしまったように動けなくなってしまった。
そんな彼女にサクヤは一歩、一歩と近づき。
「セルフィー、捕まえた」
囁くようにそう言って肩を叩くと、彼女はずるずると崩れ落ちるように座り込んだ。
その光景を見ていたカイリは、息をすることも忘れてただ目の前の光景を凝視していた。
彼女のに気づいたのか、サクヤがゆっくりと振り返る。
「カイリ、見つけた」
再びゆっくりと近づいてくるサクヤに、カイリは慌てて茂みから飛び出す。
「ま、待ってサクヤ!降参、降参だから!!」
両手を上げ抵抗する意志がないことを示しながら、カイリはそう大声で叫ぶ。
ワッカはともかくあのティーダが逃げ切れなかった相手だ。逃げ切れるはずがなかった。
サクヤは不思議そうに首を傾げたものの、カイリのそばにより「カイリ、捕まえた」と言って肩を叩いた。
「あとはソラと・・・リク」
小さくつぶやいてあたりを見回すと、何かを見つけたのか、その方へ走り出した。
緊張の糸が切れたのか、カイリも崩れ落ちるように座り込んでしまった。
一方。そのころ
ティーダとワッカの恐ろしい悲鳴は、サクヤからかなり離れた場所に潜伏していたソラとリクの耳にも届いた。
「今の悲鳴って、ティーダとワッカだよな。あいつらに何かあったのか?」
「甲冑を着た女の子にでも遭遇したのかな?」
「それもそれで怖いけど・・・でも今の絶対何かあったって」
気にはなるものの、もし出て行ってしまって鬼、サクヤに見つかってしまったら。
その時は逃げてしまえばいいか。
そう考えたソラは、リクの制止を振り切って走り出した。
リクは、警戒しつつもソラの後を追った。
そして、目の前の光景を見て絶句する。
目の前の光景。涙目でかわいそうなほど震えているティーダ、ワッカ、セルフィー、カイリの四人を見て、ソラとリクは冷たい汗が背中を流れ落ちるのを感じていた。
いったい何があった?何が起こった?
混乱する頭で必死に考えていると。
「・・・・見つけた」
淡々とした声が背後から聞こえた。
二人が振り向いたその瞬間。
「「ぎぃやあああああああああああああああああああああああ!!!!」」
サクヤの手が触れる瞬間をかわし、二人は悲鳴を上げていっせいに逃げ出した。
「逃がさない」
そうつぶやくとサクヤは逃げる二人の後を追った。
目を見開いたまま、無表情で。それも凄まじい速度で。砂煙をあげながら。
「なんなんだよあれ!なんなんだよあれえええ!!」
後ろから迫ってくるサクヤから逃げようと必死に足を動かすソラは、泣きそうな声を上げた。
「俺が知るか!お前の家族だろ!何とかしろ!!」
「無理に決まってるだろ!!しかもなんか、どんどん差が縮まってきてないか!?」
ソラの言う通り、二人はかなり速度を上げて走っているはずなのにサクヤとの距離がだんだん縮んでいく。
いくら彼らが体力があるとは言っても、全力疾走がそう長く続くはずもない。
「だ、だめだ・・・もう、体力が・・・!」
「あきらめるなソラ!あきらめたらそこで終わりだぞ!」
くじけそうなソラを必死に励ます陸の前に、ヤシの木が飛び込んできた。
二人は最後の力を振り絞って木に飛びつくと、一目散に上へ這い上がる。
それを見たサクヤは、彼らの上った木の下にたどり着くと二人を見上げた。
その顔は相も変わらず能面のような無表情だったが、心なしか眉間にしわが寄ったような気がする。
だが、それも一瞬のこと。
サクヤは二、三歩離れると。
突然木に向かって左足を叩き込んだ。
「!?」
その刹那、二人の頭上からヤシの実が一つ、二つと降ってきた。
そのうちの一つは、危うく二人の頭を直撃しそうになった。
このままじゃ拙いと感じた二人は、とっさにヤシの木から飛び降りると、二手に分かれて逃げ出した。
こうしてサクヤを巻こうという作戦だ。
サクヤはそんな二人の背中を見ると、左に逃げたソラに狙いを定めて足を進めた。
(狙いは、俺か。よし!!)
サクヤが自分を追ってきたのを見て、ソラは内心ほっとしていた。
ソラとリク。足の速さはほぼ互角なものの、リクの方が体力はある。
どこまで時間稼ぎができるかわからないが、リクなら制限時間内に逃げ切ってくれるだろう。
そう信じて、ソラは迫ってくる追ってから必死に逃げた。
それを別方向に走っていくリクも確認していた。
(ソラ、すまない。お前に損な役割をさせて・・・)
だが、ソラの犠牲は無駄にはしない。皆の涙を無駄にはしない。
必ず、必ず逃げ切ってやる!!
そう心に硬く誓い、逃げ出そうとした瞬間。
「・・・・リク、捕まえた」
残酷な現実を告げるような淡々とした声が、リクの耳元で聞こえた。
瞬時に硬直する身体。噴出してくる冷たい汗。そして、足元には。
「・・・ソラ?」
まるで何億匹の黒い虫の中に投げ込まれたような、恐怖の表情を浮かべた彼が、無慈悲にも転がっていた。
そして、肩に置かれている白い小さな手。
「ち・・・違う・・・」
信じられない。先ほどまで彼女はソラを追っていたのではなかったか?
その距離はかなり離れていたはずでは?
「あり得ない・・・」
そう小さくつぶやくリクの後ろで、小さな手の主であるサクヤは。
「捕まえた」
再びそうつぶやいて、見開いた目をリクに向けた。
「・・・・ちくしょう・・・」
それが、彼が発した最期の言葉になった。
結局。
サクヤの一人勝ちにみんなは完全に意気消沈し、その日はそれで解散になった。
そして、彼らの中に暗黙の了解が生まれた。
―――鬼ごっこをするときは、絶対にサクヤを鬼にしてはいけない
と。
完
確か、ティーダが島で鬼ごっこをやろうと言い出して、そして・・・
目の前の光景。涙目でかわいそうなほど震えているティーダ、ワッカ、セルフィー、カイリの四人を見て、ソラとリクは冷たい汗が背中を流れ落ちるのを感じていた。
鬼が、あいつになって、そして・・・
「・・・・見つけた」
淡々とした声が背後から聞こえてきたと思った瞬間。
島は、悲鳴に包まれた。
AnotherTCatch Me If You Can
「鬼ごっこをするっスー!!」
島に着くなりいきなり大声で提案するティーダに、彼以外のメンツは怪訝そうに首をかしげた。
「なんなんだよ、藪から棒に」
「いや。折角俺たちにあたらしい友達ができたんだから、みんなで楽しめる遊びをしようと思って」
「それで鬼ごっこってわけか。そりゃあいいな!」
そう言ってソラはうれしそうに笑うと隣に立っているサクヤを見つめた。
サクヤはきょとんとした表情でソラの顔を見つめ返す。
「あ、鬼ごっこってわかるか?じゃんけんで鬼を決めて、鬼が数を数えている間にみんなが逃げて、制限時間内に鬼が皆を捕まえれば鬼の勝ち。逆にみんなが逃げ切れればみんなの勝ちっている遊びだ」
ソラがサクヤにそう説明すると、理解したのかサクヤは頷いた。
「じゃあルールを説明しまーす!逃げる場所はこの島のどこでもOK。鬼は10数えた後追いかけること。早速鬼を決めよう。誰が鬼でも恨みっこなしっスよ!」
みんな側になり、じゃんけんの構えを取った。
「最初はグー、じゃんけん、ポン!!!」
ティーダの号令で、全員が一斉に手を差し出す。
結果は・・・
皆がごぞってパーを出す中、サクヤは一人だけグーを出していた。
「サクヤの一人負け・・・ってことは」
「サクヤが鬼ってことか」
「気にしないで。鬼が一番最初に捕まえた相手を、次にやるときに鬼にすればいいんだから」
カイリがやさしく言うと、サクヤは彼女の目を見て頷いた。
「じゃあ早速始めよ!サクヤはちゃんと10数えるんやで!」
サクヤはセルフィーに促され、ソラに教えられたとおり後ろを向いて、ゆっくりと数を数え始めた。
「いーち、にーい、さーん・・・」
サクヤが数え始めると同時に、ソラたちはいっせいに彼女から離れるように逃げ出した。
「しーい、ごーお、ろーく・・・」
中でも足に自信があるソラ、リクはあっという間に見えなくなってしまう。
「なーな、はーち、きゅーう、じゅう!」
そうこうしている間にサクヤは数を数え終え、くるりと後ろを振り返った。
そばには誰もいなかったが、一人だけ。
「鬼さんこちら、手のなる方へ!」
ティーダが手を叩きながら、後ろ向きでサクヤの前の方を走っている。
サクヤは彼に狙いを定めると、一歩。
目を見開き、踏み出した。
正直なところ。
ティーダは鬼ごっこではほぼ負け知らずだったため、サクヤが鬼になった時少しかわいそうに思った。
もしも本気を出してしまい、結局誰も捕まらずに終わってしまったら。
そんなことを考え、彼女が見えるギリギリの位置で止まって、少し遊んでやろうかと思った。
サクヤが数を数え終わり、振り向いたとき。
「鬼さんこちら、手のなる方へ!」
ティーダはサクヤに向かって声を張り上げ、手を打ち鳴らしながら走った。
サクヤはこちらに気づき、視線を向ける。
だが、これが悪夢の始まりになるとは、このときは誰も知らなかった。
サクヤはティーダに狙いを定め、一歩踏み出した、その瞬間。
凄まじい速さで、サクヤがこちらに向かって走ってきた。
「っ!?」
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、ただならぬ恐怖を感じたティーダは一目散に逃げ出す。
しかし、必死で逃げているのにもかかわらず差が一向に開かない。
むしろ、縮められている。
いったい何がどうなっているんだ。
混乱する頭の中、ティーダは状況を確認するために振り返った。その瞬間。
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」
島中に、彼の断末魔の叫びがこだました。
「えっ!?」
「な、なに?なんやの!?」
遠くで身を隠していたカイリとセルフィーは、ティーダのただならぬ悲鳴に肩を震わせた。
とても、鬼ごっこを楽しむ人間の物ではない。
「今の、ティーダ、だよね?何かあったのかな?」
「巨人でも進撃してきたのかな?」
「・・・セルフィー。危ないネタはやめてくれない?」
危うく世界観を破壊しそうなセルフィーの発言を、カイリはうんざりした声で窘める。
しかし、それは次の瞬間。
「うぎゃあああああああああああああ!!!!!」
ティーダと同じような悲鳴が聞こえてきたことで、考えは中断した。
「い、今のは・・・」
「ワッカ!?何で、何があったん!?」
リクに次いで年長者であるワッカは、仲間内でもわりと落ち着いた性格の少年であった。
そんな彼が、あんな恐ろしいものに遭遇したような悲鳴を上げるとは、ただ事ではない。
セルフィーは思わず隠れていた茂みから飛び出した。
そして、目の前の光景に絶句する。
「ティーダ・・・ワッカ・・・」
そこには涙目で震えているティーダと、気を失っているのかうつろな目をしたワッカが座り込んでいる。
そしてその前に立っているのは、鬼となっているサクヤ。
「見つけた」
くるりと振り返るサクヤの顔を見て、セルフィーはまるで足が縫い付けられてしまったように動けなくなってしまった。
そんな彼女にサクヤは一歩、一歩と近づき。
「セルフィー、捕まえた」
囁くようにそう言って肩を叩くと、彼女はずるずると崩れ落ちるように座り込んだ。
その光景を見ていたカイリは、息をすることも忘れてただ目の前の光景を凝視していた。
彼女のに気づいたのか、サクヤがゆっくりと振り返る。
「カイリ、見つけた」
再びゆっくりと近づいてくるサクヤに、カイリは慌てて茂みから飛び出す。
「ま、待ってサクヤ!降参、降参だから!!」
両手を上げ抵抗する意志がないことを示しながら、カイリはそう大声で叫ぶ。
ワッカはともかくあのティーダが逃げ切れなかった相手だ。逃げ切れるはずがなかった。
サクヤは不思議そうに首を傾げたものの、カイリのそばにより「カイリ、捕まえた」と言って肩を叩いた。
「あとはソラと・・・リク」
小さくつぶやいてあたりを見回すと、何かを見つけたのか、その方へ走り出した。
緊張の糸が切れたのか、カイリも崩れ落ちるように座り込んでしまった。
一方。そのころ
ティーダとワッカの恐ろしい悲鳴は、サクヤからかなり離れた場所に潜伏していたソラとリクの耳にも届いた。
「今の悲鳴って、ティーダとワッカだよな。あいつらに何かあったのか?」
「甲冑を着た女の子にでも遭遇したのかな?」
「それもそれで怖いけど・・・でも今の絶対何かあったって」
気にはなるものの、もし出て行ってしまって鬼、サクヤに見つかってしまったら。
その時は逃げてしまえばいいか。
そう考えたソラは、リクの制止を振り切って走り出した。
リクは、警戒しつつもソラの後を追った。
そして、目の前の光景を見て絶句する。
目の前の光景。涙目でかわいそうなほど震えているティーダ、ワッカ、セルフィー、カイリの四人を見て、ソラとリクは冷たい汗が背中を流れ落ちるのを感じていた。
いったい何があった?何が起こった?
混乱する頭で必死に考えていると。
「・・・・見つけた」
淡々とした声が背後から聞こえた。
二人が振り向いたその瞬間。
「「ぎぃやあああああああああああああああああああああああ!!!!」」
サクヤの手が触れる瞬間をかわし、二人は悲鳴を上げていっせいに逃げ出した。
「逃がさない」
そうつぶやくとサクヤは逃げる二人の後を追った。
目を見開いたまま、無表情で。それも凄まじい速度で。砂煙をあげながら。
「なんなんだよあれ!なんなんだよあれえええ!!」
後ろから迫ってくるサクヤから逃げようと必死に足を動かすソラは、泣きそうな声を上げた。
「俺が知るか!お前の家族だろ!何とかしろ!!」
「無理に決まってるだろ!!しかもなんか、どんどん差が縮まってきてないか!?」
ソラの言う通り、二人はかなり速度を上げて走っているはずなのにサクヤとの距離がだんだん縮んでいく。
いくら彼らが体力があるとは言っても、全力疾走がそう長く続くはずもない。
「だ、だめだ・・・もう、体力が・・・!」
「あきらめるなソラ!あきらめたらそこで終わりだぞ!」
くじけそうなソラを必死に励ます陸の前に、ヤシの木が飛び込んできた。
二人は最後の力を振り絞って木に飛びつくと、一目散に上へ這い上がる。
それを見たサクヤは、彼らの上った木の下にたどり着くと二人を見上げた。
その顔は相も変わらず能面のような無表情だったが、心なしか眉間にしわが寄ったような気がする。
だが、それも一瞬のこと。
サクヤは二、三歩離れると。
突然木に向かって左足を叩き込んだ。
「!?」
その刹那、二人の頭上からヤシの実が一つ、二つと降ってきた。
そのうちの一つは、危うく二人の頭を直撃しそうになった。
このままじゃ拙いと感じた二人は、とっさにヤシの木から飛び降りると、二手に分かれて逃げ出した。
こうしてサクヤを巻こうという作戦だ。
サクヤはそんな二人の背中を見ると、左に逃げたソラに狙いを定めて足を進めた。
(狙いは、俺か。よし!!)
サクヤが自分を追ってきたのを見て、ソラは内心ほっとしていた。
ソラとリク。足の速さはほぼ互角なものの、リクの方が体力はある。
どこまで時間稼ぎができるかわからないが、リクなら制限時間内に逃げ切ってくれるだろう。
そう信じて、ソラは迫ってくる追ってから必死に逃げた。
それを別方向に走っていくリクも確認していた。
(ソラ、すまない。お前に損な役割をさせて・・・)
だが、ソラの犠牲は無駄にはしない。皆の涙を無駄にはしない。
必ず、必ず逃げ切ってやる!!
そう心に硬く誓い、逃げ出そうとした瞬間。
「・・・・リク、捕まえた」
残酷な現実を告げるような淡々とした声が、リクの耳元で聞こえた。
瞬時に硬直する身体。噴出してくる冷たい汗。そして、足元には。
「・・・ソラ?」
まるで何億匹の黒い虫の中に投げ込まれたような、恐怖の表情を浮かべた彼が、無慈悲にも転がっていた。
そして、肩に置かれている白い小さな手。
「ち・・・違う・・・」
信じられない。先ほどまで彼女はソラを追っていたのではなかったか?
その距離はかなり離れていたはずでは?
「あり得ない・・・」
そう小さくつぶやくリクの後ろで、小さな手の主であるサクヤは。
「捕まえた」
再びそうつぶやいて、見開いた目をリクに向けた。
「・・・・ちくしょう・・・」
それが、彼が発した最期の言葉になった。
結局。
サクヤの一人勝ちにみんなは完全に意気消沈し、その日はそれで解散になった。
そして、彼らの中に暗黙の了解が生まれた。
―――鬼ごっこをするときは、絶対にサクヤを鬼にしてはいけない
と。
完