あかし
あの日、空が赤かった。
夕日でも朝焼けでもなく、ただ色濃く染まっていた。
頑丈な鉄火面の人形が平たい刀剣を
振りかざし、振り回し、振り落とし、数多くの人をなぎ払うように斬った。
街の復興に力を尽くしていた人々も
アギトになるために日々鍛錬を積んでいた子供達へも、平等に無慈悲に
鉄槌を下した。
地面もまた赤に塗りたくられた。
今日の空は、とっても青いです。
雲一つありません。快晴です。
お洗濯日和でうれしく思います。
それに今、私の真上を朱雀の飛空挺が空を飛んでいるんです。
それも蒼龍の龍が引っ張って。
最初はなんだか滑稽に見えました。
朱雀の文明の発達の証の一つである飛空挺の動力が生き物だなんて。
でも、もうだいぶ慣れました。
こうなったのもいつからか飛空挺を動かしていた力はもちろん、そして人々が今まで持っていた魔力の源であったクリスタルの力が弱まり、現在完全に無くなったからです。
私も魔導院の生徒でしたから魔法のもたらしてくれる恩恵の深さは身にしみて感じていました。
多少の不便はありましたが無くなってしまった今、もう関係ありません。
あの頃、私は世界を救う「アギト」その候補生になりたいと思っていました。
今は思い出せませんがたくさんの人に混じって少しでもそこに近づこうと魔法の勉強はもちろん、武器の使い方を学び成長しようと日々努力していたように思います。
でも私は不器用で自分の思うようにことを運べませんでした。
たくさん泣きました。
悔しさ以外にも何かの理由でも涙を流しました。
昔のことなので思い出せません。
それから少しずつですが私の手の平から放たれた魔法は真っ直ぐ飛ぶようになり、的確に敵を捕らえることができるようになりました。
私も微力ながら朱雀の戦力になれたことは誇らしかったです。
魔導院の闘技場で練習を積み重ねたのです。誰かと一緒に。
でも、もう分かりません。
あの審判の日の後から、人は死んでも忘れられない世界になりました。
それが良いのか、悪いのか私には判断がつきません。
私は元魔導院の生徒として街の復興を手伝っています。
朱雀の街でこの前小さな女の子が亡くなりました。
病気だったようです。
みんな、泣いていました。
私も泣きました。
幼いのに気の毒で可哀想で泣きました。
会えない、寂しさから泣きました。
彼女の死に顔はまるで眠っているようでした。
私は訓練生でしたので戦時中はたくさんの死に出会ったはずなのに。
嗚咽を漏らし、頬を濡らし、声を上げたのは初めてでした。
私には姉が居たそうです。
書類上の無機質な文字で綴られているのは、名前とクラス、そして功績のみ。
それが彼女が生きていたこと、この世に居ないことの唯一のあかしです。
もし、彼女が死んだとき今のように
人が死んでも忘れなかったのなら私はどうなっていたのでしょうか。
涙を流せたのでしょうか。
彼女の名を呼ぶことができたのでしょうか。
数多の思い出を心に留め、前に進むことができたでしょうか。死に対してなにか意思表示できたでしょうか。
私は考えられません。忘れてしまったのですから。
少女の葬式が終わって、ひどく簡素な私の家に戻りました。
ふとした拍子に頬になま暖かいものが伝ったのです。
空虚であることを悲しく思いました。
思い出せないことを悔しく、情けなく、残念に思いました。
そして、今まで思い出されなかった人々のことを考えると、もし自分がその立場であったならと恐ろしく、身震いしました。そして、名前だけの姉を哀れに思い、ただ泣いたことを覚えています。
タンポポの綿毛のように記憶はふわふわと飛んでいきます。私はそれを押さえつけて、閉じこめて、篭からでていかないようにしていきます。
姉の名前である「アキ・ミナハラ」を。
私、フユはオリエンスの地で生きています。
あのとき、何が起こったのか知るものは少ない。
たくさんの瓦礫と、血の臭いが残った。
機械は動かなくなった。
龍は牙を剥かなくなった。
剣は振るわれなくなった。
魔力は枯れ果てた。
そして、歴史は変わった。
夕日でも朝焼けでもなく、ただ色濃く染まっていた。
頑丈な鉄火面の人形が平たい刀剣を
振りかざし、振り回し、振り落とし、数多くの人をなぎ払うように斬った。
街の復興に力を尽くしていた人々も
アギトになるために日々鍛錬を積んでいた子供達へも、平等に無慈悲に
鉄槌を下した。
地面もまた赤に塗りたくられた。
今日の空は、とっても青いです。
雲一つありません。快晴です。
お洗濯日和でうれしく思います。
それに今、私の真上を朱雀の飛空挺が空を飛んでいるんです。
それも蒼龍の龍が引っ張って。
最初はなんだか滑稽に見えました。
朱雀の文明の発達の証の一つである飛空挺の動力が生き物だなんて。
でも、もうだいぶ慣れました。
こうなったのもいつからか飛空挺を動かしていた力はもちろん、そして人々が今まで持っていた魔力の源であったクリスタルの力が弱まり、現在完全に無くなったからです。
私も魔導院の生徒でしたから魔法のもたらしてくれる恩恵の深さは身にしみて感じていました。
多少の不便はありましたが無くなってしまった今、もう関係ありません。
あの頃、私は世界を救う「アギト」その候補生になりたいと思っていました。
今は思い出せませんがたくさんの人に混じって少しでもそこに近づこうと魔法の勉強はもちろん、武器の使い方を学び成長しようと日々努力していたように思います。
でも私は不器用で自分の思うようにことを運べませんでした。
たくさん泣きました。
悔しさ以外にも何かの理由でも涙を流しました。
昔のことなので思い出せません。
それから少しずつですが私の手の平から放たれた魔法は真っ直ぐ飛ぶようになり、的確に敵を捕らえることができるようになりました。
私も微力ながら朱雀の戦力になれたことは誇らしかったです。
魔導院の闘技場で練習を積み重ねたのです。誰かと一緒に。
でも、もう分かりません。
あの審判の日の後から、人は死んでも忘れられない世界になりました。
それが良いのか、悪いのか私には判断がつきません。
私は元魔導院の生徒として街の復興を手伝っています。
朱雀の街でこの前小さな女の子が亡くなりました。
病気だったようです。
みんな、泣いていました。
私も泣きました。
幼いのに気の毒で可哀想で泣きました。
会えない、寂しさから泣きました。
彼女の死に顔はまるで眠っているようでした。
私は訓練生でしたので戦時中はたくさんの死に出会ったはずなのに。
嗚咽を漏らし、頬を濡らし、声を上げたのは初めてでした。
私には姉が居たそうです。
書類上の無機質な文字で綴られているのは、名前とクラス、そして功績のみ。
それが彼女が生きていたこと、この世に居ないことの唯一のあかしです。
もし、彼女が死んだとき今のように
人が死んでも忘れなかったのなら私はどうなっていたのでしょうか。
涙を流せたのでしょうか。
彼女の名を呼ぶことができたのでしょうか。
数多の思い出を心に留め、前に進むことができたでしょうか。死に対してなにか意思表示できたでしょうか。
私は考えられません。忘れてしまったのですから。
少女の葬式が終わって、ひどく簡素な私の家に戻りました。
ふとした拍子に頬になま暖かいものが伝ったのです。
空虚であることを悲しく思いました。
思い出せないことを悔しく、情けなく、残念に思いました。
そして、今まで思い出されなかった人々のことを考えると、もし自分がその立場であったならと恐ろしく、身震いしました。そして、名前だけの姉を哀れに思い、ただ泣いたことを覚えています。
タンポポの綿毛のように記憶はふわふわと飛んでいきます。私はそれを押さえつけて、閉じこめて、篭からでていかないようにしていきます。
姉の名前である「アキ・ミナハラ」を。
私、フユはオリエンスの地で生きています。
あのとき、何が起こったのか知るものは少ない。
たくさんの瓦礫と、血の臭いが残った。
機械は動かなくなった。
龍は牙を剥かなくなった。
剣は振るわれなくなった。
魔力は枯れ果てた。
そして、歴史は変わった。