ゲーノベ :: ゲーム小説掲示板 > ちよ > TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

ちよ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第1話 〜初陣〜
  • 02 第2話 〜騒がしい日常〜
  • 03 第3話 〜エアルと魔導器と〜
  • 04 第4話 〜軍師〜
  • 05 第5話 〜騎士とギルド〜
  • 06 第6話 〜少年の因縁〜
  • 07 第7話 〜黄昏に流れ来る暗雲〜
  • 08 第8話 〜守るべき命、討つべき命〜
  • 09 第9話 〜闇の姿をとらえし者〜
  • 10 第10話 〜心の傷に染みる雨〜
  • 11 第11話 〜交錯する意思〜
  • 12 第12話 〜フレンの迷い〜
  • 13 第13話 〜出陣〜
  • 14 第14話 〜滅びの紅葉の森へ〜
  • 15 第15話 〜覚悟と迷いと〜
  • 16 第16話 〜魔導兵器との死闘〜
  • 17 第17話 〜赤き異変の中枢〜
  • 18 第18話 〜そして、託されしもの〜
  • 19 第19話 〜託された正義〜
  • 20 第20話 〜決着〜
  • 21 第21話 〜出発〜
  • 22 第22話 〜重なる3本目の道〜
  • 23 おまけ 〜親の心子知らず〜
  • 第14話 〜滅びの紅葉の森へ〜




    町からだいぶ離れ、川沿いに紅葉の森の中を進んでいく。やがて、周囲のエアルは濃度が増してきたのだろうか、赤い粒子となって彼らの目に映るようになっていった。目的地まではまだ遠い。しかし、ナイレンはその足を突然止め、周囲を窺うようにキョロキョロと顔を動かした。

    「隊長?」
    「ユルギス、ちょっと魔導器発動させてみ?」
    「は?はい。」

    その様子に疑問符を浮かべたユルギス。ナイレンは首だけをそんな彼へと向け、のん気な口調で言った。わけがわからずも、ユルギスは指示通りに魔導器を発動させた。適当な術式を組み、技を発動させようとする彼の足元に魔法陣が浮かび上がる。だがその時、異変が起きた。それまで魔導器の魔核から発せられていた青色の輝きが、突如赤色へと変わった。それと同時に、周囲のエアルの流れが赤く浮かびあがり、足元に浮かぶ魔法陣も歪み始める。その異変にユルギスだけでなく、近くで様子を見守っていたシャスティルやヒスカら、それにユーリやフレンもが動揺し、警戒しながらもその異変に釘付けになっていた。だがその時、ナイレンが静かに、ユルギスの魔導器の魔核に一枚の透明な札のようなものをあてた。すると、その札に書かれていた術式が札から離れ、魔核へと吸い込まれるようにして消えていった。直後、光は元の色に戻り、魔導器は落ち着きを取り戻し、視覚化されていたエアルの赤い流れも見えなくなっていった。

    「エアルの影響だ。」
    「魔導器が使えないんですか!?」

    静かに告げたナイレンに、まだ驚いたままのユルギスが声を上げた。他の隊員らも、次々にナイレンへと戸惑った顔を向ける。

    「で、こいつを使う。エアルの過剰な反応を抑える術式だ。人数分は複製できた。ただし、長くはもたねぇ。いざという時に使え。」

    そう言ってナイレンが見せたのは、先ほどユルギスの魔導器に使ったのと同じ術式の書かれた透明な札たちだった。シャスティルはそれに見覚えがあった。それは、リタの研究所に行った時に彼がもらったものだった。それと同時に、彼女のめちゃくちゃとも言える人格が脳裏をよぎった。



    川上の遺跡で何らかの魔導器が作動し、それがエアルの大量発生を招いている可能性がある。天才魔導器研究家の言う事といえど、全ては仮説にすぎなかった。

    『ありがとう。』

    それでも、ナイレンは話してくれたリタに微笑みを向け、情報の対価としていた魔核のペンダントを渡すと、彼女はかなり満足そうに、魔核に頬ずりをして喜んだ。

    『この魔核探してたのよ〜!…ところで、なんでここ知ってるの?』

    と、その時、彼女は思い出したようにそんな事をナイレンに尋ねた。

    『部下のガリスタから聞いた。』
    『ああ、ああ。あたし、あいつ嫌いなの。』
    『親しいのか?』
    『止めてよ!前に帝都で会っただけ!嫌な奴よ!』
    『え〜?そうですか?』
    『あいつ、あたしが見つけた魔核を武器に転用したのよ!?帝国って、魔導器を戦う道具にすることばっかり考えてんだもん。』

    ナイレンが答えると、彼女は心底嫌そうに声を発したのだった。それにシャスティルが言葉を返すと、リタは突っかかるように彼女に言葉を投げ返したのだった。

    『ちょっと待って。』

    そう言ってリタは、ベッドに隣接されているガラクタで埋め尽くされた机の上をかき分け、タイプライターのような機械を引っ張りだした。それを起動させ、並べられた文字をいくつか打つと一枚の紙切れが発行された。

    『はい、これ。エアルの影響を受けずに魔導器を動かせる術式。』
    『エアルの影響を受けずに?』

    リタはそれを手に取ると、向き直ってナイレンにそれを渡した。

    『というか、過剰な反応しないようにするだけ。長くは持たないわ。』

    話している間に、その紙切れは透明な札になっていき、プリントされた術式が浮かび上がっていった。ナイレンとシャスティルがその術式を不思議そうに見つめている間も、リタは言葉を続けていた。

    『調べるなら急いだ方がいいんじゃない?魔導器が暴走したら、遺跡どころか町まで巻き込んじゃうかもよ?魔導器には町を守る力がある。だったらその逆も、あると思わない?』

    その物騒な発言に、2人は表情を変えた。

    『すまん。礼は改めて。』
    『あたしはこれで十分よ。』

    立ち上がりながら言うナイレンに、リタは魔核のペンダントを手に満足そうに返した。

    『ところで、こんなところに一人で住んでるのか?』

    椅子代わりに使っていた箱を元に戻したシャスティルと共に、ナイレンは建物を出ようとした。その直前、彼はベッドにへにゃりと倒れて目を閉じたリタに問いかけた。

    『ここはただの研究所。住まいは別にあるわ。ドア、閉めてってね。』

    彼女は寝返りを打ちながら、ただそう答えると再び眠りに落ちていった。だが、彼女の言うドアだったものは、自身が放った魔術のおかげで周囲の壁と共に半分が吹き飛び、もはやその役目を果たしていなかった。ナイレンが一応ドアノブに手をかけ外に出ようとすれば、それごと建物の外側へと、鈍い音を立てて倒れていった。

    『あ〜あ…。』

    それを目にしたシャスティルは、ただ呆れに似た声を発するしかなかった。



    「魔導器が暴走することを知っていたんですか?」
    「おう!だから急を要すると言った。町の結界魔導器を暴走させるわけにはいかん。進むぞ。」

    結界魔導器がある限り、シゾンタニアの町は安全だ。そんなフレンの―――他の隊員たちの考えが目の前で覆された。その片鱗、天才魔導器研究家のリタの仮説をナイレンと共に耳にしていたシャスティルも、ここまで予想はできていなかったようで、ヒスカと共に戦慄を覚えていた。だがその直後、双子の頭にふとある疑問が浮かびあがった。

    「てか、何でここで言う?」
    「出発前に準備させてよね!」

    シャスティル、ヒスカ、そして他の隊員の不満の目がナイレンへと向けられた。すると、ナイレンは立ち止り続けている彼らを置いて進めていた足を止め、首だけ後ろに振り返った。そして子どものようなにんまりとした笑みを浮かべ、彼らに短く一言放った。

    「悪ぃ、忘れてた。」
    「「・・・はぁーー!?」」

    呆れと怒りの混じった声が、双子の口から同時に出た。それを合図に「しっかりしろ!」「なんで事前に言ってくれないんですか!」「このエロ親父!」などという隊員たちの声が波のようにナイレンに押し寄せた。何も言わないのはクレイくらいだが、彼女もため息をついて顔を手で覆っており、彼らを止めようという気はまるでない。ナイレンも子供のように「うっせえ!行くぞ、コラッ!」などと叫び、彼らを静かにしようと騒いでいる。

    「大丈夫なのか?あんなおっさんに任せといて。」

    ユーリも呆れた顔でナイレンを見つめ、騒ぎが収まるのを黙って見守っていた。そしてフレンは、一悶着が終わって再び進み始める前に、無言で町の方角を見つめていた。



    「魔物が出てこねえと思ったらこんなことになってんのか……。」

    さらに森の奥へと進んだ先にあった沼を覗き込みながら、ナイレンは言った。ひどく濁った水の底には、いくつもの獣の骨があった。濃いエアルにより、モンスターすらも骨と化す死の森になっていたのだ。

    「ねぇ、これヤバいんじゃないの?」
    「あたしらも、ああなっちゃうの?」
    「用心しろ。何が起こるかわからん。」

    シャスティルとヒスカも、険しい顔つきで沼を覗き込み、怯えたように声を上げた。そんな2人を含めた全隊員に、ユルギスが警戒を促す。いつ何が起きても対処できるよう、各々が武器を構え直しながら先を再び歩き始めた。刹那、湖面があやしく、赤く波紋を描いた。

    「うわっ!?」

    ナイレン隊の面々が異変に気付いた時には、もう遅かった。褐色の肌をした一人の隊員が突然足元をすくわれ、高く空中に弧を描きながら沼へと引きずり込まれていった。先のモンスターの襲撃の際に見た、触手のような魔物・エアルクリーチャーだった。それが彼の片足に巻きつき、襲っていたのだ。だが、突然何が起きたのかわからないまま、彼は悲鳴をあげながら沼の中へと落ちていった。そしてなんとか浮上しようともがくも、エアルクリーチャーが身体に巻きついて動きを封じてしまう。ユルギスが反射的に魔導器を構え、発動させようとした。だが、クレイが魔導器を装備しているユルギスの腕をつかみ、ナイレンも彼らの前に出てそれを制止した。

    「フローズンアロー、構え!デヴィッドに当てるな!…てぇっ!!」

    代わりに、ナイレンが指示したのはボウガンを装備した3人の隊員たちだった。ナイレンの声に、彼らは的確に矢を放った。エアルクリーチャーに囚われた彼・デヴィッドを囲むように放たれた3つのフローズンアローは、それが当たった場所から円状に水を凍らせていく。そしてもがいている彼だけを残し、クリーチャーすらも凍らせていった。

    「引き上げろ!」

    氷漬けにされたことにより、デヴィッドに巻きついていたクリーチャーは完全に動きを止めた。ナイレンが再び指示を出すと、クレイらが武器を構えて警戒を続ける中、エルヴィン、ユーリ、フレンの3人が水の中へと入って行き、彼を氷の中から連れ出していく。その間、他の誰かが襲われはしないかと緊張が続いた。だが無事に4人が沼から上がり、その緊張は一瞬緩んだ。

    「沼から離れるぞ!急げ!」

    しかし、いつまでもそこには居られなかった。沼の中で、波打つようにクリーチャーが動き出したのが見えた。途端、ユーリ達はまだ十分に動けないデヴィッドの肩を担ぎ、剣やボウガンで警戒しながら沼から離れていった。

    11/06/03 20:59 ちよ   

    HOME
    Copyright ちよ All Rights Reserved.
    CGI by まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.34c