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TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

ちよ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第1話 〜初陣〜
  • 02 第2話 〜騒がしい日常〜
  • 03 第3話 〜エアルと魔導器と〜
  • 04 第4話 〜軍師〜
  • 05 第5話 〜騎士とギルド〜
  • 06 第6話 〜少年の因縁〜
  • 07 第7話 〜黄昏に流れ来る暗雲〜
  • 08 第8話 〜守るべき命、討つべき命〜
  • 09 第9話 〜闇の姿をとらえし者〜
  • 10 第10話 〜心の傷に染みる雨〜
  • 11 第11話 〜交錯する意思〜
  • 12 第12話 〜フレンの迷い〜
  • 13 第13話 〜出陣〜
  • 14 第14話 〜滅びの紅葉の森へ〜
  • 15 第15話 〜覚悟と迷いと〜
  • 16 第16話 〜魔導兵器との死闘〜
  • 17 第17話 〜赤き異変の中枢〜
  • 18 第18話 〜そして、託されしもの〜
  • 19 第19話 〜託された正義〜
  • 20 第20話 〜決着〜
  • 21 第21話 〜出発〜
  • 22 第22話 〜重なる3本目の道〜
  • 23 おまけ 〜親の心子知らず〜
  • 第15話 〜覚悟と迷いと〜




    深く霧のかかる、目の前の遺跡へとかかる橋の前。ナイレン隊はそこまで来て、足を止めた。

    「さっきの沼の化け物は、動く物や音に反応してるようだった。ここから先は、隊を二つに分ける。橋を渡り遺跡内に行く班と、援護班だ。橋の向こう、遺跡の入り口まで援護。その場で待機。帰路を確保しろ。突入班の帰りを待て。」
    「隊長。」

    部下達の方に身体を向け、ナイレンはそう指示した。彼の言葉が終わるのと入れ替わるように、静かにナイレンを呼ぶ声が聞こえた。その場の全員が声の主へと視線を向ければ、そこにはナイレンを真っすぐに見つめる、黒い瞳に固い決意を宿したユーリがいた。

    「ランバートの弔いをさせてくれ。」
    「当てにしてるぜ。ユルギス、分けてくれ。」
    「はっ。ボウガン使用者は援護に回る。突入班は剣、アックス、防御魔法使用者。援護班、隊長からもらった術式を使う。」

    ユーリの言葉を、ナイレンは笑みを浮かべながら受け入れた。そして彼の指示により、ユルギスが隊の面々へ素早く指示を出して行く。それぞれが二つのグループに分かれて準備を進める中、ただ一人、フレンだけがその場から動かず立ちつくしていた。

    「フレン!」

    そんな彼をナイレンが呼んだ。それに答えるようにフレンが静かに面を上げれば、ナイレンは彼の顔をまっすぐ、だが一瞬だけ見つめると力強く、たった一言の指示を告げた。

    「来い!」

    フレンはその一言に、わずかに目を見開いた。だがすぐに、「了解した」というように引き締めた表情をみせた。

    「フレン、こっちだ。」
    「納得してないんじゃないのか?」
    「任務だからな。」

    同じ班のエルヴィンに呼ばれてフレンが向かえば、ユーリが憎まれ口を叩いて出迎えた。だが、ナイレンは「納得してない」フレンを突入班に指名したのだ。その時点で、彼はもう覚悟を決めていた。ユーリの発言をフレンはそう答えることで受け流し、ちらりとナイレンへと目を向けた。ボウガンを装備している援護班の中で、ナイレンと彼に呼ばれたユルギスの二人だけが手をとめ、何かを話していた。フレンの立つ位置からは、彼らが何を話しているのかは耳に入って来ない。だが直後、黙ってナイレンの言葉を聞いていたユルギスが驚愕し、ナイレンへと顔を向けた。ナイレンが彼の肩を軽く叩いて離れていったところを見ると、そこで話は終わったのだろう。だがすっきりしないユルギスの表情だけがその場に残されていたのを、フレンはただ静かに見ていた。



    「準備いいか?」

    湖面はエアルの影響なのか、赤く色づき、揺れている。援護班は術式を使い、ボウガンの発射準備を終えた。ナイレンの確認に頷き、一行は突入班を先頭に橋の上を渡り始めた。すると、橋の中央まで来ないうちから、沼で遭遇したのと同じクリーチャーが複数、彼らを追いかけるように湖面から姿を現し始めた。

    「来たぞ!急げ!」
    「お前の相手はこっちだよ!」

    突入班の最後尾を走るナイレンが叫び、その後ろを駆けるユルギスらが魔導器やボウガンでクリーチャーへ攻撃していく。放たれたのは氷の矢で、それが命中したクリーチャーは氷漬けになって次々と崩れて沈んで行く。

    「行くぞ!」

    橋の上までやってきたクリーチャーの動きを止め、援護班の5人は先を進み続ける突入班の後に続いた。先に橋を渡り終えた突入班9人は、今度はナイレンを先頭に遺跡の中へと足を踏み入れた。門のようになっているところをくぐり抜けると、見上げるほどに巨大な建築物が目の前に現れる。

    「これからが本番だ。気ぃ抜くなよ!」

    ナイレンが言い、一行はその建物の内部へと足を踏み入れた。ところどころ長い年月のせいか崩れていた外にくらべ、中は比較的しっかりと残っており、赤いエアルの粒子が漂っているのがよく見えた。

    「隊長。」

    階下を覗きこんだフレンがナイレンを呼ぶ。彼がフレンと同じ場所を覗き込むと、奥へと続く回廊から、赤い粒子がこちらに流れている様子が目に入った。

    「流れてますね。」
    「エアルの流れをたどろう。」

    そう言って一行は階段を下りてゆき、回廊の前であたりの様子を窺った。そしてエアル大量発生の元凶へと近づく緊張の中、ヒスカの目に奇妙なものが映った。石。石造りであるこの遺跡のどこかが欠けたような、石の欠片。それが数メートル先で、ヒスカの目線より少し下の空中に浮いていた。しばらくそれをじっと観察していた刹那、その石は何かにつるされていたように、天上へと一気に飛んでいった。

    「どうした?」

    ゆっくりと後ずさりながら、ヒスカは術式を魔導器にとり込ませる。近くにいたユーリはその様子に気付き、緊張した面持ちで彼女に声をかけた。直後だった。さきほど彼らが下りてきた階段から響く、小さな乾いた規則的な音。それに他の隊員達も気がつき注意を向ければ、先ほどヒスカが目にした欠片が、不釣り合いなほど高く跳ね上がりながら階段を下りてきていた。そして一番下まで降りてくると、跳ね上がった時の頂点の高さを維持したまま、一行の目の前へとひゅんと飛んでくる。そして今度は、警戒を続ける彼らの前で、床から伸びてきた赤く細い触手のようなものに捕らわれて床下へと呑みこまれていった。それを合図に、そこから回廊へと向かって、波が押し寄せるように足場が盛り上がり一行を襲った。ユーリらが慌てて回廊の奥へと飛び込めば、今度は床に転がった大量の欠片が一点に向かって転がり始めたのだ。その異変に気がつき、急いで回廊の先へと駆け出せば、欠片たちはいつのまにか巨大な岩となって、侵入者に向けられたトラップの如く、ユーリ達を押しつぶそうと向かってくる。一行は全力で回廊を駆け抜けた。そして角を曲がった時、最後尾を走るユーリの後ろで、岩が正面の壁に激突し、崩れた音がした。それでも足を止めずに駆け続けた彼の目に、出口らしい外の光が漏れるのが映った。

    「うわっ!?」

    だが、勢いよくそこへ身を投げ出せば、そこにあったのは数メートルぶんの幅しかない足場と、その下へと続く断崖絶壁だった。それに気付くのが少し遅れたユーリは、すでに空中へと片足を踏み出してしまっていた。なんとかバランスをとって戻ろうとした矢先、彼の努力を嘲笑うように足場が崩れた。

    「くっ!」

    彼の右手に持っていた盾が、遥か下の足場へと姿を消して行く。だが、彼の身が崖下に落ちることはなかった。すんでのところで彼の手をつかんだのは、フレンだった。クレイもその手助けに入り、自身も壁をよじ登るようにしてユーリは引き上げられた。助かった直後、2人の少年は少しの間、地面に手をつき肩で息をしていた。一方、両者の目は、どこか意外なものを見たようにお互いの顔を捉えていた。そして、それはクレイも同様のようだった。ついさっきまで常に険悪なコミュニケーションしかなされていなかった者が、咄嗟にとれる行動だと思うことが難しかったからだ。

    (何かが、変わり始める…。)

    まだはっきりと目に映ることはない何かを感じ、息を整えて立ち上がる2人を見つめながらクレイは思った。そして藍色の隻眼は、正面先にそびえ立つ赤い稲妻を発している塔へと静かに向けられた。

    11/06/06 20:09 ちよ   

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