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TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

ちよ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第1話 〜初陣〜
  • 02 第2話 〜騒がしい日常〜
  • 03 第3話 〜エアルと魔導器と〜
  • 04 第4話 〜軍師〜
  • 05 第5話 〜騎士とギルド〜
  • 06 第6話 〜少年の因縁〜
  • 07 第7話 〜黄昏に流れ来る暗雲〜
  • 08 第8話 〜守るべき命、討つべき命〜
  • 09 第9話 〜闇の姿をとらえし者〜
  • 10 第10話 〜心の傷に染みる雨〜
  • 11 第11話 〜交錯する意思〜
  • 12 第12話 〜フレンの迷い〜
  • 13 第13話 〜出陣〜
  • 14 第14話 〜滅びの紅葉の森へ〜
  • 15 第15話 〜覚悟と迷いと〜
  • 16 第16話 〜魔導兵器との死闘〜
  • 17 第17話 〜赤き異変の中枢〜
  • 18 第18話 〜そして、託されしもの〜
  • 19 第19話 〜託された正義〜
  • 20 第20話 〜決着〜
  • 21 第21話 〜出発〜
  • 22 第22話 〜重なる3本目の道〜
  • 23 おまけ 〜親の心子知らず〜
  • 第20話 〜決着〜




    2人の悲しみの全ての元凶。それに刃を向けることに、何ら抵抗はない。剣を抜き、フレンは怒りに任せてガリスタに斬りかかった。

    「どうやら、ここでも魔導器が暴発する必要がありそうですね。」

    だが、その攻撃は発動したガリスタの術によって簡単に防がれ、吹き飛ばされてしまった。ガリスタは高らかに言い、ゆっくりとユーリに歩み寄っていく。そして放たれる紫色の雷。ユーリはそれをかわしながらフレンの元へと走った。そしてその手をひき、再度放たれたそれから逃げ、狙いを定められないように本棚の隙間へと身を隠した。

    「ぬぉおおおお!」

    決して慌てることなく、じっくりと機会を窺う。そんなガリスタへ、今度はユーリが斬りかかって行った。その剣は防御魔法によって弾かれるが、入れ替わるように現れたフレンの剣を弾く準備はできていなかった。身体をひねらせ、その剣撃を回避しながら紫の雷を再び放ち、フレンを本棚の間の奥へと吹き飛ばしていく。

    「痛いな…。」

    だが、彼の剣はガリスタに届いていた。小さな傷だったが、額を斬られ、端正な顔の中央を鮮血が流れる。冷静な怒りを込めた呟きを漏らし、ガリスタは第二撃の用意をしながら、埃の舞う中、フレンへと迫って行く。だがそこに足を踏み入れた途端、本棚が彼目がけて倒れてくるではないか。それはユーリの仕業。隣の本棚によじ登り、両足を使って本棚を押し倒し、フレンは急いで本棚の間を通ってまわり、他の通路から脱出した。ドミノのように次々と倒れて行く大量の本を収めたそれに、ガリスタは生き埋めにされた。…ように思えた。ドンっと爆発が起き、彼は魔術で散らばった本を従えて2人の前に再び姿を現した。

    「ムカつく奴らだ!」

    低く、静かに吐き出される苛立ち。ガリスタは魔術で操った本の山を、ユーリとフレンに叩きつけた。それにより、2人の背後にあった大きな窓は柵ごと壊れ、襲いかかる強い衝撃に膝をついた。砕けた窓ガラスで切ったのか、フレンは頭から、ユーリは右頬から血を流し、本の山の中で呻いていた。そんな2人のもとへ、ガリスタはゆっくり迫り続ける。

    「ちっくしょう!」

    それを目にしたユーリは舌打ちをし、右手をズボンのポケットへと忍ばせた。

    「フレン、一か八かだ。隙を作ってくれ。」
    「わかった!」

    そこにあったあるモノを見せ、ユーリはフレンに、最後の作戦を伝える。フレンはその意図を理解すると、つみ上がった本の山の天辺で魔術を発動しようとしているガリスタへ向かっていき、剣ですくうようにして本を吹き飛ばした。

    「くだらんことを…っ!」

    その目くらまし程度にしかならない攻撃に、ガリスタは組み上げていた術式を台無しにされた。そして次の瞬間、本の雨がやんだ先で彼は思いもしなかったものを見た。ユーリの左腕に赤く輝く何か。それに2人は手を添え、構えていた。

    「「食らえ!!」」

    それは彼らがいつか見た、双子の力を合わせて発動させた魔術の真似だった。瞬時に組み上げられた術式は、ガリスタに向かってまばゆい光を放ち、その視界を一時的にでも奪い、動きを止めた。その一瞬だった。ユーリは彼の胸に、剣を突き立てた。

    「それは…!」

    苦痛に呻き、口から血が次々と零れ落ちる。ガリスタは自身を貫くその手に輝く、赤い輝きを放つ金色の腕輪に釘づけにされた。

    「…隊長の魔導器だよ。」

    ユーリはその言葉と共に、剣を引き抜こうとした。だが、その手を強く握りしめられ、身動きが取れなくなってしまう。驚く彼の目に、ガリスタの魔導器が光を、術式を組み上げていくのが映った。

    「くッ…このまま……ただではやられない…!」
    「ユーリ!!」

    2人の少年の顔に焦りが表れる。ユーリは必死に逃れようとするが、ガリスタはその手を放さない。術式が着々と組み上がり、ガリスタの口元がにんまりと歪んでいく。…その時だった。

    「洸魔・閃迅剣!」

    彼らの頭上から光の衝撃波が凄まじい速度で駆け下り、ガリスタの背を大きく切り裂いた。その衝撃で握られていたユーリの腕は解放され、急いでガリスタの傍から離れた。その直後、ガリスタは自身が組み上げた魔術の爆発に巻き込まれ、大量の血を流しながら本の山にその身を投げた。

    「ユーリ!大丈夫か?」
    「ああ、なんとか…。」

    駆け寄るフレンに、ユーリは緊張の糸が切れ放心に近い状態のままで返事をした。その目はガリスタに向けられており、彼がもう二度と動かない事を確認すると、大きな溜息を一つ吐いた。

    「隊長、終わったよ…。」

    左腕につけた魔導器に呟くと、赤い小さな光を放っていた魔核から光が静かに消えた。まるで、「そうか」と安心したように。

    「クレイさん!」

    その時、フレンが上を見上げながら驚いたように叫んだ。階段上の本棚に囲まれて現れたのは、抜き身の剣を手にしたクレイだった。

    「あんた、いつからそこに?」
    「お前たちが来る前からだ。」

    ユーリも命の恩人がそこにいたことに驚いており、頬から流れる血を拭いながら尋ねた。クレイは剣を収めながら、階段をゆっくりと下りてくる。

    「お前たちがコイツに問い詰めたのと同じタイミングで、問答無用に葬ろうと思ってた。」
    「それなら加勢してくれよ。」
    「加勢できる隙がなかった。お前らが好き勝手暴れまわったおかげで。」
    「クレイさん、ガリスタのこと気付いて…?」
    「ああ。今回の件にコイツが関わってたのは、遺跡に向かう前から知っていた。コイツはあのままエアルが濃くなり続ければ、魔導器が暴発する事を知っていた。それにも関わらず親父に言わねえってことは、シゾンタニアがどうなろうが、その元凶を片付ける気がなかったってことだろう?そういう男だってわかった時から、いずれランバート達の仇を討つつもりだった。…まさか、ファイナスさんまで、とは思わなかったけどな。」

    クレイは歯をギリッと鳴らしながら、本を真っ赤に染め上げていくガリスタを睨みつけた。その行為はもはや意味など成さないが、そうせずにはいられないほどの嫌悪感を抱いていた。

    「それより、フレン!」

    すると突然、クレイは怒鳴り声を出しながらフレンを睨みつけた。それには名を呼ばれた彼だけではなく、隣のユーリまでもが不意を突かれたためか驚き、肩をびくつかせた。彼女は構わず一歩大きく踏み出し、そのままの口調で続けた。

    「もう、二度とこんなことするな。親父はお前に帝国の、騎士団の未来を託したんだ。そんな男が私怨で動くな。悪を裁けぬ法なら、上に上りつめて法を正せ。」
    「…はい。」
    「ユーリ!」

    頭に血が上っていたとはいえ、突発的な行動を恥じたのか、フレンは静かに頭を下げた。それを見るとクレイは、今度はその隣へ視線を向けた。名を呼ばれた途端、柄にもなく背筋を伸ばしてしまったユーリだったが、そんな彼に向けられたのは、優しく肩に置かれた手のひらと悲しげな言葉だった。

    「お前は背負い過ぎるな。ランバートのことだけで十分だろ?この一件は背負うな。忘れろ。そして、前を見て生きろ。それが、死んでった奴らの供養になる。」
    「クレイ…。」
    「後始末はしてやる。お前らは、さっさとここから出て行きな。」

    それだけ言うと、クレイはもう用は済んだとばかりにしっしと手を振り、2人を書庫から追い出そうと背を向けた。しかし、2人の少年はそれに従おうとはしない。

    「あんた、大丈夫か?」
    「…何がだ?」
    「あんた、泣いてないだろ?隊長が死んだ時も、ずっと…」

    ユーリが口にした内容に、クレイは驚いたように振り返った。彼らは気付いていた。ナイレンとの別れの時も、他の隊員たちがナイレンの死を悼み、涙を流していた時も、ユーリやフレンが涙した時も、彼女だけはまだ、悲しみを面に出していなかった。声を取り戻した代わりに、涙を失ったわけではないだろうに。そう思っていたその時、それまで気丈だったクレイの肩がわずかに震えた。悲しみを塞き止めていたダムが、今何かのきっかけで壊れてしまったようだった。

    「ユーリ…ちょっと魔導器、貸してくれない?」
    「ああ。」

    かすかに震える彼女の声にユーリは頷き、左腕を差し出した。少年の腕で輝く赤い魔核。クレイはそこに、自身の魔導器の魔核をこつんと当てる。それはナイレンとの間で行っていた、2人の間の絆を確かめ合う挨拶のようなものだった。

    「2人が」

    それぞれの魔核をぶつけたまま、クレイはしばし俯き、沈黙した。そして静かに、顔を上げながら口を開き、ユーリとフレンは彼女の顔に視線を向けた。

    「2人がナイレン・フェドロックの遺志を継いでくれるなら、何も悲しむ必要はない。お前たちの中で親父が生き続けるんだから。そうだろう?」

    右の藍色の瞳から、一滴の涙が伝った。けど、その表情にあるのは悲しみではなく、希望を宿した笑みだった。クレイはそう言って、2人の顔を見つめ微笑んだ。そんな彼女の言葉に、ユーリとフレンは微笑み、頷いた。

    11/07/07 01:13 ちよ   

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