第22話 〜重なる3本目の道〜
「う、うわぁああ!」
「カロル!大丈夫です!?」
ゴーレムの巨腕に殴られ、カロル少年の小さな身体は大きな武器と共に吹き飛ばされた。桃色の髪の少女・エステルは、カロルに治癒術を施そうと急いで駆け寄って行く。
「円月!」
「何やってんのよ、ガキんちょ!…目覚めよ、無慈悲で名も無き茨の女王!アイヴィーラッシュ!!」
吹き飛ばされていったカロルと入れ替わるようにして、クリティア族の槍使い・ジュディスがゴーレムに向かっていった。それを後方から援護しようと、魔導少女・リタの魔術が発動する。棘をつけたツルがゴーレムに絡みつき、動きを止めている隙にジュディスの槍が華麗に決まった。だが、頑丈なゴーレムにあまりダメージを与えることはできず、彼女はその場から飛び退き、槍を持つ手に痺れを感じて小さく舌を打つ。
「やっぱり、見た目どおり固いのね。」
「ワンワンッ!」
その時、短剣をくわえ戦う一匹の成犬・ラピードの声が響いた。直後、ゴーレムはそれまでのドシンドシンというゆっくりした動きから、突如退避するのに精一杯というくらいまでスピードを上げ、その巨大な全身を回転させながら彼らに襲い掛かってきた。ジュディスやリタらは急いでその場を離れるが、治癒術を終えたばかりのエステルとカロルはまだその場から動けずにいた。
「エステリーゼ様!!」
その時、2人に駆け寄る2つの影があった。そしてそれぞれ仲間をその場から連れ出し、彼らは難を逃れた。
「エステリーゼ様、お怪我は?」
「フレン!ありがとうございます。」
「ふ〜、間一髪だったわね。」
「レイヴン!!」
カロルは自分を助けてくれたおっさん―――レイヴンをキラキラした目で見た。レイヴンはそれを微笑で返すと、気合を入れろよ、と少年の頭をポンと叩く。その頃、ゴーレムは再びゆっくりとした動作に戻っており、海賊のような格好をした少女・パティの銃撃を受けていた。だが、その頑丈なボディのためか、やはり効果は薄いようだ。
「むぅ、これでは埒が明かんのじゃ。」
可愛い顔をしかめて、パティはゴーレムを遠くから観察する。どこかに弱点はないかと探るが、ただゴーレムと睨めっこするだけで終わってしまう。
「ユーリ、どうする?」
フレンの目は幼馴染へと向けられた。黒髪をなびかせて鋭い瞳を敵へと向ける、左腕に金の腕輪―――かつて自分の上司の物だった武装魔導器を身につけた青年・ユーリ。その口元には笑みがあった。
「考えてもダメなら、力ずくで行くっきゃねぇだろ!」
言うが速いか、ユーリは一気にゴーレムと距離をつめていく。そんな彼に、仲間達は無茶だ、と声を上げるが、すでに彼の耳には届いていない。そんなユーリを見て、フレンは肩をすくめた。
「すみません、レイヴンさん。フォロー頼みます。」
フレンはレイヴンの返事を聞かずして、ユーリ同様に駆けて行った。おっさんは一瞬戸惑った表情になるが、すぐにエステルやカロル達と顔を見合わせ、ニッと口元を緩ませて青年2人のフォローの態勢に入った。
「戦迅狼破!」
「鳳凰天駆!」
それぞれの奥義をゴーレムへと叩きつける。その衝撃の強さに、初めて相手はよろめいた。だがその体勢を整えるように、先ほどの高速スピンで2人に襲い掛かってくる。2人はかわせず、直撃を受けることとなってしまう。
「ユーリ!フレン!」
「エステル、だめ!危ないわ!」
「うわあ!!こっち来た!!」
今にも彼らに駆け出していきそうなエステルの腕を引っ張って止めるリタ。直後、カロルの悲鳴が響き、同時にゴーレムがこちらにやってくる。ジュディスとラピードがなんとかその動きを止めようと前に出るが、それは甲斐なく終わり、無様にも吹き飛ばされてしまった。
「くそっ…さすがにやべえな…。」
ペッと口の中に溜まった血を吐き出し、ユーリはいつになっても倒せない敵に苛立ちを覚える。それだけではない。仲間達は次々に負傷していき、戦闘は不利になる一方だ。
「せめて、動きを止めることさえできたら…。」
フレンも歯がゆい思いで剣を握り締めている。そんな彼らに、更なる絶望が訪れようとしていた。ゴーレムから逃げ惑うカロル。しかし、その時何かにつまずいてしまい、そのまま転んでしまったのだ。
「カロル!」
ユーリの声が彼に届いたときには、ゴーレムはもうそこまで迫っていた。嫌な未来が彼らの脳裏をよぎった…刹那だった。
「水魔・覇迅剣!!」
突如轟いた凛とした声と凄まじい音の波。次いで彼らの目に映ったのは、大波を模したような巨大な衝撃波。それは、今まさにカロルに襲いかかろうとしていたゴーレムに直撃し、しかもそのまま数十メートルも吹き飛ばしたのだ。それまでどんなに強烈な攻撃を、術を食らわしていても、そんな光景には一度も出会えなかった。そのことに、今まで頭を抱えて防御の体勢をとっていたカロルが、いや、他の仲間達も驚愕する。そんな彼らに、再びあの声が放たれた。
「お前ら、こんなところで会うなんて奇遇じゃないか。」
「! その声…」
ユーリがまさか、という表情で声を漏らした。隣に居るフレンも、ユーリと同じ顔を声の主に向けていた。
「そんな…どうして貴女がここに?」
「この前親父の命日だったから、シゾンタニアに顔を出してたのさ。魔物だらけですごかったよ、まったく。…それにしても、何だ?その無様な格好は。」
コツコツと近づいてくるのは、細い剣を肩に担いだ1人の女性。山吹色の短髪に鮮やかな藍色の瞳を持ち、ジュディスほどではないにしろ、女性らしくも引き締められたその身体を魅せる服装をしている。その姿にラピードは嬉しそうな声を上げ、レイヴンは思い出したようにはっと目を見開いた。
「あんた、確かナイレンの…」
思わず呟いたレイヴンに目を向けた途端、彼女の瞳も大きく見開かれた。
「あれ?シュヴァーンさん!?またそんな格好して何やってんですか!?」
「いやぁ、ちっと事情があってさ…。」
「感動の再会を邪魔するようで申し訳ないのだけれど、まだ終わってないわよ?」
そう言って彼らの会話を遮ったのは傷ついたジュディスだった。だが彼女の言うとおり、ゴーレムは再び轟音を上げて彼らの前に立ちふさがったのだ。
「同じ方向から一気に攻撃を加えていきな!一度倒れたら、起き上がるまでに隙ができる!」
舌打ちをしながら剣を構えなおすユーリとフレン。そんな彼らの横に並び、例の女性は大声で指示を出した。ユーリ達は驚いた顔になるが、次の瞬間には笑みを浮かべていた。
「アドバイスありがとよ!」
「その減らず口、相変わらずみたいだな。」
「変わってませんよ、ユーリは。あの頃から何一つ。」
「そういうフレンも。…けど、立派な騎士になったな。」
「ワン!ワン!」
「ラピード、だね?すっかりアイツに似たな…。」
「無駄話はこれくらいにして、行くぜ?クレイ!!」
「ああ!!」
そう言って先にユーリとフレン、次いでラピードが駆けだした。そして成長した彼らの後ろを追うようにしてまた、クレイ・C・フェドロックも駆け出した。
■作者メッセージ
「TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜」
これにて完結です。
この小説は、GAYM掲示板リニューアルの記念作として考えていたものでした。
オリキャラのクレイは、映画と本編の間の矛盾点をつなげるために用意したキャラでしたが、一部空気化した時はその存在感をどうしようかと地味に悩みましたね(笑)
…今後の彼らについて、少しお話ししようと思います。
偶然再会したクレイは、その後、ユーリ達と共に世界を覆う災厄へと立ち向かっていきます。とは言っても、行動を彼らと共にするのではなく、世界中に溢れている魔物を討伐して回ることで彼らの正義を見守っていくのです。義父の遺志を継いでくれた2人に、テルカ・リュミレースの未来を託したのでした。
ユーリ達の旅にひとつ終止符が打たれる時には、彼女はまた、気ままに世界を旅して行くでしょう。そしてどこかで、彼女自身の正義を貫き生きていくのでした……
…こんな感じでしょうか。
クレイが上手く、TOVの世界の一員となれていることを願います。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!!
これにて完結です。
この小説は、GAYM掲示板リニューアルの記念作として考えていたものでした。
オリキャラのクレイは、映画と本編の間の矛盾点をつなげるために用意したキャラでしたが、一部空気化した時はその存在感をどうしようかと地味に悩みましたね(笑)
…今後の彼らについて、少しお話ししようと思います。
偶然再会したクレイは、その後、ユーリ達と共に世界を覆う災厄へと立ち向かっていきます。とは言っても、行動を彼らと共にするのではなく、世界中に溢れている魔物を討伐して回ることで彼らの正義を見守っていくのです。義父の遺志を継いでくれた2人に、テルカ・リュミレースの未来を託したのでした。
ユーリ達の旅にひとつ終止符が打たれる時には、彼女はまた、気ままに世界を旅して行くでしょう。そしてどこかで、彼女自身の正義を貫き生きていくのでした……
…こんな感じでしょうか。
クレイが上手く、TOVの世界の一員となれていることを願います。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!!