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TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

ちよ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第1話 〜初陣〜
  • 02 第2話 〜騒がしい日常〜
  • 03 第3話 〜エアルと魔導器と〜
  • 04 第4話 〜軍師〜
  • 05 第5話 〜騎士とギルド〜
  • 06 第6話 〜少年の因縁〜
  • 07 第7話 〜黄昏に流れ来る暗雲〜
  • 08 第8話 〜守るべき命、討つべき命〜
  • 09 第9話 〜闇の姿をとらえし者〜
  • 10 第10話 〜心の傷に染みる雨〜
  • 11 第11話 〜交錯する意思〜
  • 12 第12話 〜フレンの迷い〜
  • 13 第13話 〜出陣〜
  • 14 第14話 〜滅びの紅葉の森へ〜
  • 15 第15話 〜覚悟と迷いと〜
  • 16 第16話 〜魔導兵器との死闘〜
  • 17 第17話 〜赤き異変の中枢〜
  • 18 第18話 〜そして、託されしもの〜
  • 19 第19話 〜託された正義〜
  • 20 第20話 〜決着〜
  • 21 第21話 〜出発〜
  • 22 第22話 〜重なる3本目の道〜
  • 23 おまけ 〜親の心子知らず〜
  • おまけ 〜親の心子知らず〜



    「なぁ。お前ら、やっぱ付き合ってんのか?」
    「はぁ!?」

    ある日の夜。パブで飲んでいたナイレンは、隣に座る2人―――クレイとユルギスに突然尋ねた。おかげで、クレイは口にしていたお酒を気管に流し込んでしまって咳き込んでいるし、ユルギスは赤みを帯びていた顔が真っ赤になった。

    「だって、そうだろ?表向きは副隊長に隊長補佐だなんて間柄だが、それにしてはプライベートでこうやって飲みに誘う仲なんだしよう。」

    ナイレンは若者2人の反応などお構いなしに、そう言いながら笑ってワインを一口飲んだ。確かに彼の言うとおり、ユルギスとクレイは隊の中でも特に仲が良かった。だが、それは傍から見れば男友達のような付き合い―――クレイを男だと思い込んでいる隊員がほとんであるからなおさら―――で、ナイレンが思うような関係には到底見えない。面白がっての発言だろう。ユルギスはそう思い、ため息を吐いた。

    「そんなわけないじゃないですか…。」
    「そうかぁ?もしそうだったら、クレイの親としてガツンと言っとこうかと思ったんだがなぁ。」
    (親父!!)

    いたずらっ子のような笑みを浮かべるナイレンに、クレイは手にしていたグラスを強くテーブルに叩きつけて抗議した。冗談はそれくらいにしてくれというように、藍色の隻眼がナイレンを睨みつけている。ナイレンはそれを見て、面白くねぇなと呟きながら残りのワインをぐぐっと飲み干した。

    「…ったく。いい年だっていうのに、少しはそういう話ねえのか?ちっとはシャスティルとヒスカを見習ったらどうだ?」

    ナイレンは言いながら、ウェイトレスに空になったグラスのお代わりを頼んだ。彼の言う赤毛の双子騎士は、与えられた任務はきちんとこなしながらも、年頃の女の子らしく恋愛にも興味を示している。休憩の時に理想の男性像について語っていたところを見かけたこともあった。

    「クレイがそういうことに夢中になってる姿なんて、想像できませんよ…痛っ!」

    そんな双子に交じって恋愛トークをしているクレイを想像したのか、ユルギスは小さく身震いしてグラスを口にした。途端、後頭部から強烈な一撃が飛んできて、ユルギスはテーブルに向かって頭から突撃しそうになった。慌てて顔を上げようとすれば、強い殺気を隣から感じた。

    (…おい。それ、どういう意味だ?)

    声は出ていない。だが、普段から言葉なくして彼女の意思を理解することができない者でもわかるほど、クレイの顔にはそうはっきりと言葉が刻まれていた。それくらい、クレイの瞳はひどく冷たかったのだ。

    (ちょっと表に出ろ。そして説明してもらおうじゃないの。)
    「クレイ、落ち着けって!隊長、止めて下さいよぉ!」

    何が気に入らなかったのか、複雑な乙女心を瞬時に理解する術を、ユルギスはあいにく持っていない。そして愉快そうに笑って手を振るナイレンに見送られながら、彼はクレイに店の外へと連れ出されていった。

    「相変わらずだな。クレイの嬢ちゃんはよう。」

    そして一人残ったナイレンのもとへ、豪快な笑い声をあげながら近づく男がいた。シゾンタニアのギルドを仕切るメルゾムだ。彼はついさっきまでクレイが座っていた席につくと、頬杖をついて店の出入り口へと視線を向けた。

    「まったく。どうしてあんなに色気なく育っちまったかねぇ。」
    「ははは!育てた本人が言うかねえ。」

    わざとらしくため息を吐くナイレンに、メルゾムは笑って言った。すると、ナイレンは新しいワインが注がれたグラスを見つめ、そして独り言のように口を開いた。

    「…俺はよう、あいつには幸せに生きて欲しいんだ。俺に恩を感じたからかどうかは知らんが、騎士になって、わざわざ危険と隣り合わせな生き方を選んで…。」
    「ナイレン…。」
    「あいつの両親に怒られちまうかな?娘にこんな危険な道を歩かせるなんて。」

    そう言って、ナイレンは何もない天井に視線を向けた。メルゾムはそんなナイレンを一瞥し、自分のグラスに入った酒をあおった。そしてひとつ息を吐き、静かに口を開いた。

    「けど、それはクレイ自身が選んだ道だ。誰も否定なんかできねぇよ。」
    「まぁ、そうなんだがな…。」
    「どうした?」
    「…あいつの花嫁姿、見てみたいんだよ。父親として。」

    感慨深げに口にしたナイレン。そんな彼の発言に、メルゾムは愉快そうに笑い声をあげた。クレイがあの調子では、当分ナイレンの希望は叶いそうにない。一瞬困ったように顔をしかめたナイレンの様子から、ハードルの高さがうかがえる。

    「さっさとしてもらわねぇと、俺も年だからな。」
    「ははっ。安心しろ。おめぇが先に逝っちまった時は、俺が代わりに見届けてやるよ。」
    「フッ。そうさせねぇよう、長生きしなくちゃな。」

    そう言って互いににやりとした笑みを浮かべ、直後、吹き出したように笑い声をあげ、酒を口にした。



    「ユルギス、どうしたの?その顔。」
    「ボロボロじゃない。」
    「…ほっといてくれ。」

    翌日。顔中を腫らして現れたユルギスに、シャスティルとヒスカが驚いたのは別の話。

    11/09/06 01:34 ちよ   

    ■作者メッセージ
    一度妻娘を失っているナイレンだからこその想いもあるのかな、とか思いながら書きました。

    そんなことなど露知らず、クレイはたくましく生きています(笑)
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