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TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

ちよ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第1話 〜初陣〜
  • 02 第2話 〜騒がしい日常〜
  • 03 第3話 〜エアルと魔導器と〜
  • 04 第4話 〜軍師〜
  • 05 第5話 〜騎士とギルド〜
  • 06 第6話 〜少年の因縁〜
  • 07 第7話 〜黄昏に流れ来る暗雲〜
  • 08 第8話 〜守るべき命、討つべき命〜
  • 09 第9話 〜闇の姿をとらえし者〜
  • 10 第10話 〜心の傷に染みる雨〜
  • 11 第11話 〜交錯する意思〜
  • 12 第12話 〜フレンの迷い〜
  • 13 第13話 〜出陣〜
  • 14 第14話 〜滅びの紅葉の森へ〜
  • 15 第15話 〜覚悟と迷いと〜
  • 16 第16話 〜魔導兵器との死闘〜
  • 17 第17話 〜赤き異変の中枢〜
  • 18 第18話 〜そして、託されしもの〜
  • 19 第19話 〜託された正義〜
  • 20 第20話 〜決着〜
  • 21 第21話 〜出発〜
  • 22 第22話 〜重なる3本目の道〜
  • 23 おまけ 〜親の心子知らず〜
  • 第3話 〜エアルと魔導器と〜



    先に町とその外を隔てる城門に辿りついていたクレイは、すでにクリス隊員と引き継ぎ作業を済ませていた。そこへ現れた覇気のない四人。何があったか知らないクレイだったが、なんとなく察しがついたのだろう、短いため息を吐いた後、ユーリらにとって予想外の行動に出た。

    「ん?なんだよ…って、おわっ!?」

    トントンと軽く肩をたたかれ、ユーリはその方向へ顔を向けた。すると、彼の目の前に青い影が至近距離で現れ、驚き半歩飛び退くことになった。その様子を見てクレイが笑っている。そして、その腕の中にいた青い影、軍用犬ランバートの息子である子犬・ラピードが、ゆっくりと地面に下ろされた。ラピードはそのままユーリの足元を駆け回って遊び、時折彼の足にすり寄っている。

    「てめっ、クレイ!よくも…って、邪魔だな、こいつ。」
    「ラピードの世話係なんだから、いいじゃん。」

    ユーリはクレイに食ってかかろうとするが、足元のラピードが気になって気を逸らされてしまう。それに対して突っ込むのは、やはり彼の教育係のヒスカだった。それに加わり、フレンとシャスティルも、うんうんと頷いている。一人不平を口にするユーリだが、それをまともに相手するのは、四人と一匹中誰もいない。ユーリは諦め、はあ、と短くため息をつくと、ふと何かを思い出したように顔を上げた。

    「な、魔術見せてくれよ」
    「はあ?今、必要ないでしょ?」
    「昨日、ひっくり返ってて見えなかったんだよ。新米じゃ、まだ支給してくんねぇし。」
    「あんたは一生無理かもよ。」

    ユーリは、まるで新しい玩具をせがむようにヒスカに言うが、それは軽くあしらわれるだけだった。ヒスカはまるで相手にしない。その隣で、シャスティルがその様子を見ながらフレンに目を向けた。

    「フレンはコネ使えば早いかもよ。お父様も騎士だったんでしょ?」
    「実力で手に入れますよ。」

    そう言って少し不機嫌になるフレン。シャスティルは真面目な彼らしいと思い、クスッと笑い声をあげた。

    「勉強のために見せてくれよ。」

    その一方で、ユーリはまだヒスカに頼みこんでいた。とは言ったものの、別に畏まる訳でもない、頭を下げているわけでもない、友達に軽い気持ちでも物事を頼むような態度で、だ。これでヒスカが頷くわけがない。

    「まず、その口の利き方直しなさいよ。」

    当然そう言って注意した。すると、ユーリはすぐさまその場で気を付けをし、ヒスカに向かって真っ直ぐ立った。やればできるじゃん、とヒスカが感心した、次の瞬間だった。

    「見・せ・て・く・れ・よ!」
    「馬鹿にしてんの!?」

    すかさず入るヒスカの突っ込み。苛立ちが募る彼女の右手には自然と力が入り、胸の前で怒りに震えていた。

    「ヒスカ、落ち着いて」
    「わかった!見せてあげようじゃないの!あたしらを馬鹿にしたこと、後悔させてあげるわ!」

    シャスティルが声をかけたのと、ヒスカがユーリに啖呵を切ったのはほぼ同時のことだった。握られていた右手の人差し指を生意気な後輩に向け、そしてズンズンと城門の外へ歩きだして行った。ユーリはヒスカの剣幕に一瞬たじろいだものの、すぐさま「やりぃ!」という表情で指を鳴らし、彼女のあとに続いた。

    「ヒスカ。それじゃ、ユーリの思う壺だって…。」

    そんな二人の背を見つめ、シャスティルは大きなため息をついた。そんな先輩を、フレンはどうフォローしようか思いつかず、ただ肩をすくめていた。クレイも髪を掻き、ユーリとヒスカに続いて城門へと足を運んだ。すると、すでにヒスカは魔導器を構え、魔術発射の体勢を整えていた。そして彼女の右腕に装着されている魔導器の魔核から発射されたひとつの魔術。それは空へゆるゆると上っていき、不発に終わった花火のように弾けて消えた。

    「しょぼっ!レベル低っ!」
    「あたしらは回復と防御系が得意なの!」

    もちろん、そんな魔術を見せられたユーリは別の意味で驚愕の声をあげた。もともと攻撃魔術が専門ではないとはいえ、あのようなへなちょこを見せられては開いた口が塞がらないというもの。

    「シャスティル!」

    このまま下がれない。ヒスカは先輩騎士としてのプライドのためか、荒い口調でシャスティルを呼んだ。すると、シャスティルはヒスカの意図を理解したのか、彼女のそばに立ち、魔導器の魔核に手を添えた。すると、先ほどのように魔導器は魔術発射の術式をくみ上げ始めたのだが、そこにはヒスカだけではなくシャスティルの力も加わりだしたのだ。

    「魔導器は、こういう使い方もできるのよ。」

    ヒスカがそう言った直後、彼女らが組み上げた魔術は空へと発射された。今度のは、先ほどとは別格の火炎弾だった。弾丸の如く勢いよく空へ飛び出し、彼方へと向かう途中で花火のように弾け散った。今度はユーリも称賛に値すると思ったらしく、手を叩いて感心していた。

    「何やってんだ。危ねぇな。」

    その時、低い呆れた声が彼らの正面から放たれた。町の外へと続く橋。その上を歩いてこちらに向かってくる、一匹の軍用犬を引き連れた人物に目が止まり、ヒスカは思わず声を裏返した。

    「隊長!…どうしたんですか?」
    「森の様子見てきた。ったく。クレイも何一緒になって見物してんだ。固まってないで巡回行って来い!」
    「はい…。」

    ナイレンの一喝で、ヒスカたちはしょぼんと頭を垂れた。が、すぐに気を取り直し、二人の後輩を引き連れて、クレイはナイレンとアイコンタクトをとると、並んで町の中へ戻って行った。

    「ああ、隊長さん。これ持ってって。」

    その時だった。町の中に戻ったユーリ達を、見慣れない光景が待ち受けていた。

    「森で狩りができないから、たいした物ないけどね。」
    「すまんな。なるべく早く森へ行けるようにすっから。」

    先に町に戻ったナイレンに声をかけ、一つの包みを手渡した男。彼はシゾンタニアの住民の一人だった。ナイレンは彼に対して笑顔で受け答え、まるで友人に話しかけるようにそう言った。

    「クレイとガリスタんところ行って来る。あと頼んだぞ。」

    そのナイレンはくるりとこちらを向き、ボーっと立っているユーリとフレンに大きな声で言った。突然声をかけられたことに戸惑いながらも、彼らは返事をした。

    「あ、はい…。」
    「ああ、隊長!ラピード連れてってくれよ。邪魔なんだよ。」

    そう言うユーリの足元では、まだあの子犬が尻尾を振って彼を見上げていた。すると、ナイレンは彼の隣をずっと歩いていた軍用犬・ランバートに声をかけ、ラピードを連れてくるよう指示を出した。ランバートは指示通り、自分の息子の首根っこを咥え、彼のもとへと戻ってくる。そして、ナイレンより先を行き、隊舎へと歩いて行った。それを確認すると、ナイレンは先ほどの男に別れのあいさつを述べ、クレイと共に歩きだした。

    「隊長!頼まれてたやつ出来たよ!」
    「おう!投げてくれ。」

    そうしてしばらく歩かないうちに、一軒の家のベランダから女性が顔を出し、気兼ねしない様子で声をかけてきた。彼女もまた、古い友人のようにナイレンと短いやり取りをかわしていた。

    「仲良くやってんな。帝都にいる騎士団じゃ考えられねぇ」

    その様子を目にし、ユーリは間抜けな顔でぽつりと呟いた。帝都の下町で育った彼は、そこに現れる騎士団が今のように住民と接している風景など見た記憶がなかったのだ。そんな彼に、先ほどナイレンに声をかけていた男性は笑って言った。

    「小さい町だからね。協力しないとやってけんのさ。ま、あの人が騎士団の隊長っぽくないってのがあるんだけどね。」

    彼はそう言って、小さくなるナイレンの背を眺めた。騎士団の隊長っぽくない。その発言に、確かに、とユーリは微笑んで納得した。言葉づかいも態度も、騎士団のような改まった雰囲気はどこにもない。あるとすれば、身につけている武具たちのみだろうか。そんなナイレンに呆れを感じることも時々あるが、頼りになる上司に変わりはなかった。しかし、そんなことを思うユーリとは対照的に、フレンはそのいい加減さについていけないと思うのだろう。

    「“早く森へ行けるように”なんて、安請け合いしすぎです!」

    彼はそう荒い口調で吐き捨て、シャスティルと共に巡回に消えていった。その様子に驚いたユーリと男は、互いに目を合わせ、肩をすくめて苦笑するだけだった。

    11/04/08 22:29 ちよ   

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