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Names 〜Atonement Requiem〜

星三輪サナ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序章:決意の園
  • 02 第一章:望月の歌姫T
  • 03 第一章:望月の歌姫U
  • 04 第一章:望月の歌姫V
  • 05 第一章:望月の歌姫W
  • 06 第二章:与えられた存在T
  • 07 第二章:与えられた存在U
  • 08 第二章:与えられた存在V
  • 09 第二章:与えられた存在W
  • 10 第二章:与えられた存在X
  • 11 第二章:与えられた存在Y
  • 12 第二章:与えられた存在Z
  • 13 第二章:与えられた存在[
  • 14 オリキャラ設定
  • 15 第三章:旅立ちの序曲T(前編)
  • 16 第三章:旅立ちの序曲U(前編)
  • 17 第三章:旅立ちの序曲V(前編)
  • 18 第三章:旅立ちの序曲W(前編)
  • 19 第三章:旅立ちの序曲X(前編)
  • 20 第三章:旅立ちの序曲Y(前編)
  • 21 第四章:旅立ちの序曲T(後編)
  • 22 第四章:旅立ちの序曲U(後編)
  • 23 第四章:旅立ちの序曲V(後編)
  • 24 第四章:旅立ちの序曲W(後編)
  • 25 第四章:旅立ちの序曲X(後編)
  • 26 第四:旅立ちの序曲Y(後編)
  • 27 第四章:旅立ちの序曲Z(後編)
  • 28 第四章:旅立ちの序曲[(後編)
  • 29 第五章:再会T
  • 30 第五章:再会U
  • 31 第五章:再会V
  • 32 第五章:再会W
  • 33 第五章:再会X
  • 34 第五章:再会Y
  • 35 第五章:再会Z
  • 36 第五章:再会[
  • 37 第五章:再会\
  • 38 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)T
  • 39 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)U
  • 40 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)V
  • 41 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)W
  • 42 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)X
  • 43 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)Y
  • 44 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)Z
  • 45 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)[
  • 第一章:望月の歌姫W

    「こんな時間までどこに行ってたの!!」

    本島に戻ってきたソラたちを出迎えたのは、彼らの両親を含めた村人たちの怒号だった。
    皆怒りと心配が入り混じった顔でこちらをにらんでいる。

    3人はびくりと体を震わせると黙ってうなだれた。
    子供が出歩くには遅すぎる時間であり、ましてや親に内緒で海へ出ていたのだ。怒られるのも無理はない。

    仁王立ちしている自分の母親を前にして、ソラはまるで叱られている子犬のようだった。

    「まあまあ」

    そんな大人たちに優しく声をかけたのが、カイリの親代わりをしている村長だった。

    「皆無事で戻ってきたんだ。それでいいじゃないか。それ伝える言葉をまだ私たちは聞いていないぞ?」
    「ですが・・・」

    親たちは何か言いたげに村長を見たが、彼の優しげな笑顔に先ほどの怒りも萎えてしまった。

    「とにかく・・・無事でよかった。だけど、もうこんなことは二度としないように」

    「「「はぁい・・・ごめんなさい」」」

    ソラたちが心からの謝罪を口にすると、皆の顔に笑顔が戻った。

    「ところで。君たちの後ろにいるお嬢さんは、新しい友達かい?」

    村長は3人の後ろに立っていた見慣れない少女に目を移すと、ソラに優しく問いかけた。
    それを聞いて、ソラはあっと思い出したように言った。

    「そうだ。島にいたから連れてきたんだけど、きおく・・・なんだっけ?」
    「記憶喪失、だ」
    「あ、そうそう。それ。きおくそうしつなんだよ、この子」

    ソラとリクがそう説明すると、村人がざわめき始めた。
    中にはわざわざ顔を見に来る者までいる始末だ。

    「なんと!それは大変だ。誰か、このお嬢さんを知っているものはいないか?」
    村長は村人たちに向き合い声をかけてみるものの、皆顔を見合わせるばかりで誰一人名乗り上げようとはしない。

    少女の方も、何も思い出せないのかただ首をかしげている。

    「ううむ、困ったな。ソラたちはほかに何か知っているかい?」

    「う〜ん・・・俺たちが知っているのは・・・歌がすごくうまいってことだけだよ。名前も覚えていないって言ってたし」

    その言葉を聞いて、村長はますます頭を抱えた。まさか、名前まで分からないとは思わなかったのだ。

    だが、もう夜も遅く風も冷たくなってきている。このまま黙って時間が過ぎていくのはいただけない。
    このまま居心地の悪い沈黙が続くかと思われた、その時だった。

    「だったら、俺がこの子の面倒を見る!!」

    沈黙を切り裂いた声に、皆の視線が一斉に注がれる。
    その声を発したのは、天に向かってめいっぱいに腕を上げたソラだった。

    「な、何を言っているのソラ!」

    ソラの母親が驚きと呆れを含んだ顔で彼をにらんだ。

    犬や猫などの動物ならまだしも、面倒を見るといっているのは人間の少女だ。
    余りにも軽率すぎるソラの言動に怒るのも当然だ。

    「これはあなたが簡単に決められることじゃないのよ。第一、あなたはまだ子供でしょ?人の面倒を見るってとても大変なことなのよ!?」

    「そんなの分かってるよ!だけど・・・だけど放ってなんか置けないよ。それに、やって見なくちゃわからないだろ!?」

    「いいえ、いけません。ここは村長さんに任せましょう。きっとすぐに御両親やお家を探してくれるわ。あなたも、その方がいいでしょう?」

    ソラの母親はそう言って少女の方に顔を向けた。
    少女はしばらく彼女を見ていたが、突然首を横に振った。

    「私、ソラといる。ソラと一緒がいい」
    「ええっ!?」

    少女の思わぬ言葉に、周りがたちまちどよめいた。
    中でも、一番驚いた顔をしていたのは、あろうことかソラだった。

    「行きたくないのか?」
    「・・・私は、ソラといる・・・どうしてかはわからないけど、そうしたい」

    少女の口調はたどたどしい。だが、その言葉には迷いの類は見られない。

    彼女のかたくなな態度に、村長は小さくため息を吐いた。

    「やれやれ。本人がこう言っているようでは、我々も無理強いはできませんな。どうでしょう。せめて今日一日だけでも・・・」
    「・・・そうですね。いくらなんでも、こんな夜の島に迷子を放り出すわけにもいかないですしね」
    「・・!じゃあ!」

    ソラが母親を見上げると、彼女は小さくため息をついてまいったというように両腕を広げた。

    自分の申し出が通ったことを知り、ソラは大きくガッツポーズをする。
    それを見たリクとカイリも、安心したように胸をなでおろした。

    ソラの家に案内された少女は、その後ソラの家族と共に夕飯を済ませ、今日の寝床をどうするか相談した。

    少女はソラの一緒がいいと申し出たのだが、さすがにそれはまずいというのことで、今夜はソラの母親の部屋で寝ることになった。

    その夜。

    ベッドの中でソラは少女の事を考えていた。

    彼女はいったい何者なのか。どこから来たのか。
    何故記憶をなくしてしまったのか。

    それは、ソラのあくなき好奇心を刺激するのに十分だった。

    明日になったら、あの子の身元を探しに行こう。

    リクとカイリと。お弁当を持って。お菓子をもって。

    であった島に行けば、何か手がかりが見つかるかな。

    そんなことを考えながら、ソラは眠りについたのだった。




    しかし、彼らは知る由もなかった。

    時が流れ、彼らを待ち受ける大きな運命の波にのまれることになろうとは・・・


    月は、雲に隠れようとしていた。

    14/11/03 20:15 星三輪サナ   

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