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FINAL FANTASY Z

960

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序章T 「その戦士、孤独」
  • 02 序章U 「その戦士、焦る」
  • 03  第一話 「ザックス」
  • 04 第二話 「ウータイ」
  • 05 第三話 「灯」
  • 06 第四話 「夢・記憶@」
  • 07 第五話 「曲者揃い」
  • 08 第六話 「対面」
  • 09 第七話 「シスネ」
  • 10 第八話 「黒の訪問者」
  • 11 第九話 「ルシア」
  • 12 第十話 「四人」
  • 13 第十一話 「戯れ」
  • 14 第十二話 「邂逅」
  • 15 第十三話 「エアリス」
  • 16 第十四話 「騒動」
  • 17 第十五話 「神の都市」
  • 18 第十六話 「少女」
  • 19 第十七話 「胎動」
  • 20 第十八話 「虚実」
  • 21 第十九話 「ペア@」
  • 22 第二十話 「ペアA」
  • 23 第二十一話 「夢・記憶A」
  • 24 第二十二話 「夢・記憶B」
  • 25 第二十三話 「宣告」
  • 26 第二十四話 「リバーシ」
  • 27 第二十五話 「接触」
  • 28 第二十六話 「見据える者」
  • 29 第二十七話 「ルーツ」
  • 第一話 「ザックス」






     少年の不満は日に日に募っていった。トレーニングルームでのシュミレーションを終えてから、彼の態度はずっとこの調子だ。
     “英雄になりたければ夢を持て”―――――そう言われてもうだいぶ経つが、与えられるミッションは今の自分の階級である2ndに見合ったそれ相応のものばかりで、どんなに活躍したって上は自分を1stに上げようとする気配など一向に見せない。
     得意のスクワットは毎日欠かさずやるが、その分鍛えられるのは足の筋肉だけだったりする。

    「統括・・・ッ・・・いつになったら・・上げてくれんのかなッ・・。」

     不貞腐れた態度が言葉にまで表れるようになったのはごく最近のことだ。
     英雄になるにはまず実力を認められなければならない。過去に積み上げた様々な経験がものを言うのは確かだが、それにはハードなミッションのクリア経験だって必要になる。無論1stが常日頃から常人離れした任務を行っているわけではない。時には街の治安を守るなどの聞いた感じ地味そうな任務だって回ってくる。だが世間から受ける印象や称賛の声は、組織内でも地位が高ければ高いほど美味なのだ。
     ミッドガルに住む人々は神羅に対し敬意を払っているし、公園で遊ぶ子供たちも名の知れたソルジャーの真似事をして遊んだりするご時世だ。因みに余計な情報を付け加えると、街に住む年頃の女性は1stのソルジャーを対象にファンクラブを形成し、女性人口のおよそ6割は誰かの追っかけをしている。
     そのソルジャークラス1stだが、現在そのクラスには5人の猛者共が存在する。1人1人が驚異的な身体能力の持ち主で、下手をすれば組織一つをまるまる潰せるほどの力を持った者だっている。中でも一番名の知れているのは言うまでもなく『英雄』と称される男―――――“セフィロス”であるわけだが、自分と親しい間柄にある1stの男は見た目の割に夢やら希望やらにうるさい。女と間違える程の美貌の、通称『女王』と呼ばれる者や、神羅としては異例の飛び級で1stに昇進、尚且つその史上最年少記録は未だに破られていないという者だって現役で存在する。あと1人については詳しくは知らないが、懇意にしているその男の話によれば、そいつも案外曲者だという。

    「ザックス、随分イラついてんのな。」

     そう言って背後から声をかけてきたのは同じ2ndのカンセル。同じクラスの中ではおそらく一番仲が良く、神羅内や世間のあらゆる情報を提供してくれる。ただし今現在スクワットにて溜まった不満を誤魔化そうとしている少年―――――ザックスと比較すると、その気性はずいぶん大らか、というよりは適当である。

    「当たり前だろ。訓練ばっかりで・・・ッ・・現場は・・・なしッ・・。俺、干されたのかって、話だ。」

     スクワットをしながらなので途切れ途切れの調子で話すザックスは、カンセルに対しても自身の抱える不満を口にする。
     さて少々話が逸れるが先程僅かながらに紹介したカンセルとは違って、彼は単純の度を通りこして馬鹿である。何かがふっと頭に浮かぶとすぐそれに走ってしまう癖があり、嫌な事があっても基本は根には持たずそこまで気にしない。付け加えて少々お調子者だが愛想は抜群にいい為、ついたあだ名は『子犬のザックス』。それについてこの間はこのカンセルに「一匹いかがですか」などとからかわれていた。
     ―――が、今回はそんな子犬でも不満を消化しきることに手を焼いているらしい。カンセルが聞いているかなどそっちのけで彼は話をどんどん前に進めていく。

    「最近忙しいんだろ?みんな留守だもんな―――。」

    「―――――留守って、お前知らないのか?ソルジャーの大量脱走事件。」

     そうやってザックスから切り出された話題の一つにカンセルが食い付く。彼の口にした言葉から読み取ると、どうやら今しがた切り出した話に何か問題があるようだ。驚いて思わず立ち上がったカンセルは、驚くほど世間遅れな言葉を選んでみせたザックスに視線をやると、呆然とした面持ちで彼を見詰める。対してザックスはそんな親友の態度を見てスクワットを止め、何かしら自身が知らない話がソルジャーの間で出回っていることを察知した。
     カンセル曰く、彼自身もそこまで詳しい事は分かっていないらしいが、事の内容はどうやら組織の上層部と一部のソルジャーにしか告げられていないようだ。

    「―――――大量脱走事件?みんないなくなってるのが、それだってのか?」

    「ああ。」

    興味がないからなのか視野が狭いのかは不明だが、概要だけならもう既にほとんどのソルジャーには社内メールが届いているであろうことを、やはりこの単純少年は各々の多忙と本気で思い込んでいたようだ。楽観的な態度にカンセルは肩を落とすが、そこに彼の憧れ―――――ザックスと親しいソルジャークラス1stのアンジールが姿を現す。面倒見がいい上1stの中では一番尊敬できる先輩としての風格を備えている男だ。そんな彼は一言ザックスに向かって「仕事だ」と言うと、そのまま統括のいる指令室へと消えて行ってしまう。

    「・・・仕事って・・。」

    ザックスはそれだけ呟くと勢いよく走りだす。訓練じゃない実践でのミッション。たとえ内容がしょぼくても、彼は待ちきれないといった風にその場を後にする。

    「いいなぁ。ほんとあいつ目かけてもらってるよな・・・。」

    その場に残されたカンセルはそれだけ呟くと自身もかの憧れの男に近付けるようトレーニングルームの方へと歩を進めた。





     グリーフィングルーム(統括室に同じ)にはソルジャー統括であるラザード、そしてアンジールとが既に席についていた。今から何が行われるのかは少年には全く予想が付かなかったが、ラザードが名乗り手を差し伸べてきたので彼はそれに誠意をもって答えた。
     そうして挨拶を済ませると、ラザードは自身のノートパソコンに向き直りマウスを操作して目の前にある巨大モニターにある1人の男を映し出した。赤い髪が特徴の、極めて端正な顔立ちの男だった。

    「―――――ソルジャークラス1st、ジェネシス。一月前、ウ―タイでの作戦行動中に行方不明となった。・・・何か知っているかな?」

    「ぜんっぜん!」

    「―――――フム。・・・我々の作戦は中断したままだ、君に行ってもらうことにする。」

    「って、ウータイ?」

    「ああ。この長すぎた戦争を終わらせる。」

     とんでもない任務だった。神羅が敵地ウータイと長く戦争をしているのは誰もが知る常識だ。今では神羅がウータイの部隊を殲滅する度に、神羅兵に扮装したウータイ兵がミッドガルに侵入してくる。やられたらやり返す、その繰り返しなのだ。
     派遣先は敵の本拠地―――――すなわちこの作戦の成功が今後の神羅やミッドガルに影響することは言うまでもあるまい。
     いきなりすぎる重大な任務を前に、ザックス当人は丸くなった目を元に戻すことが出来ずにいた。そうして更に追い打ちをかけるように、アンジールから衝撃の事実が告げられる。

    「―――――お前を1stに推薦しておいた。」

    「・・・・・・・・・・・」

     ザックスは自身の耳を疑う。1st?俺が?
     願ってもないことだった。彼の顔は先程とは一変して輝き、大きな声を上げ椅子に座るアンジールに抱きつく。

    「アー――――ンジー――――ルッ!!大好きだアンジー―――ル!うはッおわッ・・・。」

    「俺に恥をかかせるなよ。」

    「はッ!」

    まるで飼い主にじゃれつく子犬だ。突き放した後にアンジールはそう言うと少し笑った。ザックスの方はテンションが急上昇しいつものお調子者がさらに度を増す。
     そうしてアンジールは立ち上がると、

    「準備ができ次第、すぐ出発だ。」

    と言い残してその場を後にした。
     部屋に取り残されたザックスとラザードだが、突如ラザードがザックスの夢についての質問を繰り出した。何といってもソルジャー全てを取り仕切る立場にある人間からの質問だ。もしかすると、これも1st昇格の為の参考になるのかもしれない。

    「君の夢は『1stになる』、かな?」

    そこでザックスは格好付けて彼に背中を向け言い放つ。

    「英雄になることです!」

    「―――――そうか。叶いそうにない、いい夢だ。」

    予想外の返答にザックスはしてやられ、その後眉をしかめて一言「・・・もしもし?」と呟いた。






     叶いそうにない夢は今までに幾度となく聞いてきた。もちろん夢は人によって様々だが、ここに入社してくる人間はみんな口をそろえて“英雄になりたい”と言った―――――。私はその叶いそうにない夢を傍から見るだけの傍観者だったが、やはり叶いそうにないものは叶わない―――――実際に英雄になった者はただの1人としていなかった。


     力や富や名声を求めて入社してくる人間がいる。現に実在する英雄に憧れて入社する人間だっている。
     私が統括の座についてもうかなりになるが、“夢”について面白い事を言った子達がいた。まだ幼い子供達だった。



     “―――――夢、ですか?僕等は夢を見る為にここに来たんじゃないんですけど、そうだなぁ・・・。”





     “敢えて言うなら、『復讐』という名の夢を叶える為、です。”



    多くの社員同様、彼らの夢もまだ叶えられてはいない。ここには夢を持った若者が多く集まっている。ザックス、君はそのありきたりな夢を、叶えることができるのかな―――――?




    16/03/27 01:49 960   

    ■作者メッセージ
    どうもです!
    小説内の表現ですが、スクリーン→モニター
    へと変更致しました。

    因みにカンセルとの間にちょっとした独自のエピソードも組み込んであります、ご了承ください!

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