「…………………………」
セネリオは憮然とした表情をしていた。
先ほどから、若い男性に声をかけられまくっている。
正体を隠すためとはいえ、何が嬉しくて男からナンパされなければならないのだろう。
というより、この変装では逆に目立つのではという気がしてくる。
「お嬢さん、お茶でもいかがですか?」
そしてまた、声をかけられる。
セネリオは渋々声の主の方へ振り返る。
「いっ!?」
ナンパの主の正体を知り、セネリオは仰天する。
銀髪のラフな格好。
全身からバカ臭漂うその男の正体は…
「トール…!?」
そう、その人物はかつてのセネリオの同僚。
神託の盾騎士団第一師団師団長トール・ソアン・ソールディアであった。
「おう!こんな美人に顔覚えてもらってるなんて、俺感激!」
セネリオは思わずめまいを覚えた。
ナンパされたのが知り合いの男で、しかもよりにもよってこいつとは…
おぞましすぎて吐き気がする。
「やめなさいよトール、困っているわ」
(なっ…シンシア!?)
聞き覚えのある女性の声にセネリオはギクッとする。
トールの隣にはもう一人知り合いがいたのだ。
赤い髪の可愛らしい顔立ちをした少女。
第五師団師団長シンシア・レビノーラスであった。
「ごめんなさい、トールが迷惑かけて」
「い、いえ…」
気遣いを見せるシンシアに声を抑えて応えるセネリオ。
セネリオは女装には不満であったが、とりあえずこれならそう簡単には正体が露見することはないだろうと思っていた。
ただ一人、目の前の女性を除けば。
「あら、あなた……」
案の定、シンシアはセネリオの顔を見ると、何かに気づいたようにじっとセネリオを見つめる。
「ど、どうかなさいましたか?」
「…へ?ああうんごめんなさい。どことなくセネリオに似てるなあと思ってね」
「き、気のせいですわ」
「そうよね、ごめんなさい変なこと言って」
やはりシンシアは変装を見破りかけていた。
セネリオは内心の動揺を隠しつつなんとかごまかす。
やがて、シンシアの方も納得し、セネリオから視線を外す。
どうにかばれずに済んだことに、セネリオはホッとする。
「おいシンシア、こんな美人がセネリオなわけねえだろうが!」
一方トールは全く気付いている様子はなかった。
やはりこいつはバカだ。
「で、では私はこれで…」
「ちょっと待って」
ひとまずぼろが出る前にこの場を退散しようとするセネリオ。
が、そんなセネリオをシンシアは呼び止める。
そして、再びセネリオの方をじっと真剣なまなざしで見つめる。
(まずい、ばれたか!?)
正体がばれてしまったのではと警戒するセネリオ。
やがて、シンシアが口を開いて言った。
「あなた、もしかして…」
「は、はい……」
喉をごくりと鳴らして、シンシアの言葉を待つ。
「その剣…エタルドじゃない!?」
「……え?」
「うん、間違いないわ。セネリオのラグネルとそっくりだもの」
どうやらシンシアが見ていたのはセネリオではなくセネリオの持つ剣の方だったらしい。
とりあえず正体がばれたわけではなかったことに、セネリオは再度ホッとする。
「ねえ、その剣譲ってもらえないかしら?その剣を必要としてる人がいるの」
「あ、その…この剣は本物に似せて作られたレプリカ……贋作なんです」
「そうだったの…残念」
セネリオはとりあえずこの剣は偽物であるといってごまかす。
セネリオの言葉にシンシアは無念そうにしゅんとする。
「ったく、シンシア。まだあいつが戻ってくるの待ってるのかよ」
シンシアの様子に、トールはあきれた様子でそう言った。
「信じてるわ。だってセネリオは私の大切な…」
そこまで行ったところで、シンシアは顔を紅潮させた。
「わ、私の……私たちの大切な仲間ですもの」
「あ、言い直した」
「そ、そんなことないわ!」
「大切な」の先を言いかけたところで、言い直すシンシア。
そんなシンシアにトールはからかうように突っ込むと、シンシアは再び顔を真っ赤にした。
「はぁ……たく、健気だねえ。アイツの剣…ラグネルだったか?あれもお前が預かってるんだろ?」
「ええ、セネリオが戻ってくるまで、私が責任を持って預かるわ」
「お熱いことで…。まあ、俺もあいつには戻ってきてほしいけどな。なんたってアイツは俺のライバルだからな!」
(シンシア、トール…)
どうやらラグネルはシンシアが持っているらしい。
程度の差こそあれ、自分に戻ってきてほしいと願う二人の姿に、セネリオの心が少し痛んだ。
「あ、引き止めちゃってごめんなさいね。さ、トール行くわよ」
そういうとシンシアはトールを引っ張ってその場を去って行った
「ああ、お嬢さん。俺とお茶を…」
シンシアに引っ張ら
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