しばらく時間が経ち、船はケテルブルク港に着いた。
船に降りる直前、レイノス達は船長さんと出会い、何度もお礼を言われた。
「船は急ピッチで直すからな、明日には終わらせる!あんたたちはケテルブルクのホテルでゆっくり休んでてくれ!」
そういって船長さんは、ホテルの代金まで持ってくれるのだという。
さすがに悪いと思いつつも、感謝とお詫びのしるしだと譲らなかった。
「リンディス様」
船から降りると、一人の女性がレイノス達の前に現れた。
歳は五十はありそうだが、まだまだ美人という言葉が通用する知的な印象の眼鏡の女性であった。
女性は、リンの姿を見ると彼女に声をかける。
リンの方も女性の正体に気づく。
「もしかして…ネフリーさん?」
「はい、お久しぶりです」
「こちらこそ!ジェイドさんにはいつもお世話になってます」
そう、女性の正体はケテルブルクの知事・ネフリーであった。
ネクロマンサーの異名を持つジェイド・カーティスの妹であり、リンとも面識があった。
「なるほど、スクルド様を助けるために旅を…」
「はい、どうしても妹を助けたいんです!」
「…分かったわ。グランコクマにいる兄さんに連絡を入れておくわ」
「ありがとうございます!」
ネフリーに礼を言うと、レイノス達はケテルブルクへと向かった。
「ウッハア♪おっきなホテルだねえ」
ケテルブルクのホテルに辿り着くと、クノンが歓声をあげる。
「こ、こんなところにタダで泊まるなんて、ほんとにいいんでしょうか?」
一方アルセリアの方は少し恐縮しているようだ。
「まあ、せっかくの船長さんの厚意だし、甘えさせてもらおうぜ」
そういうとレイノスはホテルの中へ入り、他もレイノスに続いて入って行った。
「ねえねえ坊ちゃん、雪合戦しようヨ♪」
部屋に荷物を置くと、クノンがレイノスに向けて言った。
「…お前、船の修理で疲れてたんじゃないのかよ。休めよ」
「まあまあ、もうすっかり元気百倍サ♪それとも、お坊ちゃんはボクに負けるのが怖いの?」
「な!そんなんじゃねえぞ!」
「アッハハ〜♪弱虫お坊ちゃん〜」
「おい!こら待てクノン!」
挑発しながら部屋を出るクノンを、レイノスが追いかけて言った。
「…子供か、あいつらは」
そんな二人の様子を、セネリオが呆れた様子で眺める。
窓から外を見てみれば、既にもう二人の雪合戦は開始されていた。
「街の外で素振りでもしてくる」
そういうとセネリオも部屋から出て行った。
「さあてと、俺はどうするかね」
「あら?ミステリアスさん、一人ですか?」
一人男部屋にとり残されたミステリアス。
そんな彼のところへ、アルセリアが現れた。
「セネリオは街の外で素振り、レイノスとクノンは向こうの方で雪合戦やってるいたいだぜ」
「わあ、雪合戦ですか。楽しそう」
「せっちゃんも混ざったらどうだ?」
「う〜ん…ミステリアスさんはどうするんですか?」
「そだなあ…雪国美女でもナンパするか」
「……そんな仮面で女の子に迫ったら、捕まりますよ。暇なら、いっしょに街を見て回りませんか?」
「お?せっちゃんの方からナンパか!?いわゆる逆ナン?おとなしそうな顔して結構アクティブ…」
「ち、違いますよ!ナンパなんてしてません!」
真っ赤になって否定するアルセリア。
初心な反応に笑いを漏らすミステリアス。
「ま、いいさ。行こうぜ」
「ふふ、子供たちが雪合戦してます。元気に走り回って、かわいいですね」
「こら待てー!クノンー!」
「にゃはははははは!お坊ちゃんの球なんてあったんないよ〜ダ!」
「…でっかい子供が混じってたな」
「あ、あはははは…」
目の前を通り過ぎて行った見覚えのある人影に、ミステリアスは呆れた表情となり、アルセリアはひきつった笑いを漏らすのであった。
「これがカマクラ…大きいですねぇ」
巨大な鎌倉に、アルセリアは見上げながら感心する。
「…………………………」
「ふふ、ミステリアスさんも驚きと感動のあまり声も出ないみたいです」
「…なあ、セリア」
「どうしたんです?ミステリアスさん」
「…こんだけ立派な出来だと、銃弾でもぶち込んで崩してやりてえと思わねえ?」
「だ、駄目ですよ!中に人だっているんですから!」
「手が冷てえ…」
「アウー…」
一方その頃、レイノスとクノンはホテルへ戻ろうとしていた。
「もう、二人とも雪合戦するなら手袋くらいしなさいよ」
二人の様子を呆れたように見つめるリン。
そう、手袋もせずに雪合戦をしていた二人の手は、すっかり冷たくなってしまっていた。
そのため、ホテルのストーブで暖を取ろうとしているのだ。
ちなみにリンは途中から二人の雪合戦に混じったのだが、しっかり手袋を装備していた。
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