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第二話 「ウータイ」






 現地へと到着したザックスはアンジールと共に林道を進んでいた。ここウータイは結構な自然に囲まれていて道も1本道なので地理が単純明快で分かりやすく、本部はその自然に囲まれるようにして設立されてある。隠れようと思えばこの林を利用すれば問題は無いのだが、以上のような利点とは裏腹に、戦闘には少々窮屈な土地でもあった。
 2人が現地に到着したのは夜で、先々進んでいくアンジールの後をザックスは慌てて付いて行っていた。何をするにもそうだが、ザックスはとにかく声がでかい。

「アンジール!バカリンゴって何だよ!」

移動最中にふとアンジールが語り出した話の中に、彼にとっては聞いたことのない単語が混じっていたらしい。全てを聞き終える前にヘリがウータイへと到着した為、アンジールは話を中断し任務を優先させた。知識面では少々不自由があるザックスにとって、分からないと思ったらすぐに理解したがるのは、美点でもあるが同時にどうしようもない癖だとも言える。そこでアンジールは振り返ると、此方も何故か面白そうな表情で説明し出す。

「正式名称バノーラ・ホワイト。1年中好き勝手な季節に実を付ける。」

そう語るアンジールの表情には面白さに付け加えどこか過去を懐かしむような、そんな表情も雑じっていた。彼の背後では物静かに光を発しながら蛍が飛んでいる。

「村の連中は親しみを込めてバカリンゴと呼んでいる。」

成程“バカリンゴ”とはアンジールの故郷に生るリンゴの事らしい。彼が懐かしさ漂う表情をちらつかせていたのもその為だ。
 そうして彼は自身の過去について少々語り出した。中途ザックスが絡んで来たところもあったが、聞いていると思わず微笑んでしまいそうになる、田舎っ気の混じった過去だった。話にあったが、アンジールはその頃から誇りにうるさかったらしい。そうして全てを聞き終えたザックスは再度アンジール向かって尋ねる。

「―――――で、1st昇進とどういう関係が?」

よくよく考えてみれば、この男ほど1stという餌に食いつく者はいない。恐らくアンジールはヘリの中でこの話をしたいが為に、わざと1stと関係があるような思わせぶりな口調で何かを言ったのだろう。しかしその期待とは裏腹に、アンジールは腕を組みながら自慢げに、

「知っておいて損は無い!」

とだけ言うと、笑いながら再び足を進ませ始める。やはりアンジールはこれを狙っていたのだろう。一方でザックスは鈍感さが入り混じっている為反応が少し遅れたが、ようやくそれがただの引っ掛けだということに気が付くと、夜の林の中、

「関係ないんだな!?」

とこれまた大きな声で叫んだ。その声の背景にアンジールの笑い声がしてやったというふうに響いている。

「笑い事じゃないぞ!」

そうしてまた声を張り上げながらザックスは走ってアンジールの後を追った。
月夜と蛍だけが、静かに騒がしい2人の道中を見舞う。





 次の日、彼は昨日の不調が嘘だったかのように、いつもの変わらない明るい笑みと共に姿を現した。今日―――――もといザックスとアンジールがウータイへと旅立つ当日、ラザードから衝撃の事実を告げられ突如体調を崩したロゼは、恐らく1人トレーニングルームにいるであろう兄弟の元を訪ねる。

「おはよう、クロウ!昨日は世話掛けちゃったね、ごめんよ、ありがとう。俺はこの通りもう平気だから、心配しなくていいよ。」

 案の定トレーニングルームにはクロウ1人だけだった。現在の時刻は早朝の6時。特別早い時間帯でもないが、クロウの場合は朝5時起床、最低限の用意を済ませたらそこから7時まではトレーニングルームにこもりっきりだ。トレーニングルームは設備の関係上窓が一つもない為に日の光が差し込まない為、闇を好むクロウにとっては最適の場所なのだろう。そのクロウはトレーニング用のゴーグルをクイと上に上げると、汗を傍らに置いてあったタオルで拭いながら兄の姿を確認した。

「―――――本当に平気か・・・?」

「言った通り―――――・・・。」

「無理するな。」

ロゼの言葉を遮る形でクロウの静かな声が割って入る。タオルとゴーグルの隙間から覗く彼の鋭い双眸は兄を疑視していた。生まれてからずっと見てきた兄の様相。それと照らし合わせて、今自分に対し笑みを投げかけているこの状態は彼なりに弟を思って作った無理あるものだと判断したのだろう。

「大丈夫なわけないだろう。俺とは違い、アンタは仲間を持つことを選んだんだ。」

その真っ直ぐな視線に、ロゼの笑いが綻ぶ。彼は困ったように笑うと、

「敵わないなぁ・・・。」

と一言口からこぼした。
 友が裏切ったかもしれないという疑惑付きの情報を聞いただけで気が動転し、体調を崩すような人間が、たった数時間眠っただけでまるで何事もなか
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