荒廃した土地を吹き抜ける風が一層その強さを増し、少年の脱ぎ棄てた黒のマントをどこか遠くへと飛ばしていく。先程までは何事もなかった空も、場の雰囲気に同調するかのように曇りはじめ、周辺の壊れた機器類はその子どもの『殺気』に呼応するかのごとく、いや、それにあてられてカタカタと音を立て震えだした。
1stはそこに属する全てが常人では考えられないほどの何かを有しているとは言われているが、この子どもの持つそれは果たして大気をも支配してしまう程の精神エネルギーか、はたまたこの現象はただの偶然か―――・・・。その異変を感じ取ったルシアは、横目でちらとそれを確認すると、何を思ったのか不気味に笑いながら『殺気』の送り主の方を向き直った。
「いやぁ、その歳でここまで出来るのは流石天才ってな。でもこれじゃまだ属性も何もあったもんじゃない。一族としてはまだまだ、だ・・。」
言葉の終わりに金属音が鳴り響いた。
先程の踏み込みとは段違いの速度・威力で切りかかってきたクロウの斬撃を、まるでこのタイミングでそれが来ると確信していたかのようなそんな速さで、ルシアは手にしていた銃で防ぎ、更にその大刀を力一杯弾き返した。―――が、クロウは怯むことなく、とばされたその体制を立て直すべく空中で一回転すると、今度は手中のレイブレードを一振りの大刀から白と黒の双剣へと換装させ、再びルシア向かって切りかかった。一本の時の単調な攻撃とは一変、両手から繰り出される斬撃にはまるで規則性などなく、隙あらばルシアの胸を貫きにかかる、そんな風に踊る、二匹の蛇のようである。しかし敵もさる者、兄弟の一族を惨殺した張本人であるからして、このレベルの斬撃なら余裕で防いで見せる。実力の程は分からないが、少なくとも最年少記録保持者の息も吐く間もないような攻撃を防いでいるだけでも、十分1stクラスの力は持っていると言えよう。
金属音が幾度にも渡って響き合うが、この攻防はいつまでたっても平行線、クロウの攻めも、ルシアの防御も、一向に事の転機を見せることはなく、次第にただの体力の消耗戦へとなりつつなっていた。
「・・・まぁ、少しは落ち着きな、よ――――――ッッッ!!!」
意味がないと判断したのか、ルシアはクロウの腹部に強烈な蹴りを食らわせ、激しい攻防を一旦収束させる。吹っ飛ばされたクロウは右手の白剣を地に突き刺し衝撃を相殺し、ザックスらに見せていたものとは段違いに冷めた表情でルシアを見詰めた。その瞳はいつもの深みを帯びた蒼ではなく、目の前の仇同様、血に染まった禍々しい鮮血のような色へと変化している。
「えらく嫌われてるね〜、俺。そんなに殺したかったんだ?」
「―――――殺す為に神羅に入った。」
ルシアの余裕そうな表情は相変わらず消えない。それが何だか自分の方が上だと言われているようで、クロウの怒りは限界に達していた。
目の前の仇を殺す。それが、クロウ・ボルフィードという人間の最大且つ最終目標。復讐さえ遂げられれば―――――こいつさえ殺せれば、あとはどうなったって構わない。そんな覚悟の上、ここにいるのに―――・・・。
「想われてるのはすっっっごい嬉しいけど・・・、お前、その殺意の裏ちょっとは気付いてるんじゃないの?今のままじゃ殺られるのは自分だってコト・・・。」
言葉の瞬間、憎しみに染まった紅が、その深みを増した。
ああ、これは挑発か・・・?
そうして俺の気を乱そうとしているとか、そんな類のものか?
俺がお前に敵わない?このままじゃ殺られるのは俺の方だと―――?
だからその表情なのか?
必死な俺なんか嘲笑うかのような、そんな余裕な面なのか?
「分かってんだろ?さっきの攻防も、お前の攻撃は全て、完璧に防いで見せた。おまけに銃はぶっ放すこともなく、ぜぇ〜んぶ斬撃を防ぐために使っただけ。これ以上やったとして、俺がお前に本気になることは有り得ない。その証拠に、格下の相手の攻撃を防ぐなんて朝飯前、だからこその魅惑のスマイルなの。」
「・・・・・・っ・・!」
ああ、殺したい・・・。
殺してやりたい・・・。
何が格下だ。何が朝飯前だ。何が魅惑のスマイルだ。
こんな・・・っ・・、こんなふざけた奴に・・・っ・・。
常に冷静・無表情を纏っていたクロウの表情が、どうしようもなくやるせない、そんなものへと変わっていく。今ので全てを出し切ったとは到底言えないが、精神エネルギーを限界値まで高め実力値の過半数を攻撃に乗せたクロウと、その攻撃を全て防ぎ切り、銃を本来の用途ではなくただの壁として使い、実力的にはまだ余裕のあるルシアとでは、実力そのものが桁違いだった。底が測り知れない。今まで積み上げてきたもの全てを壊されたような、そんな気分がクロウの全てを覆った。
一族――――
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