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第十話 「四人」

 クロウが突然何かを追ってどこかへ行ってしまったということは、ジェネシスコピーを倒し終えた後にシスネから聞いた。あのクロウが動くくらいだから、怪しい奴には違いないんだろうけど、何にしても無言で勝手に先々行ってしまうのだから、追うにも追えない。辺りの敵は粗方倒したので、これといってここでのやることは無いように思える。―――と、ザックスがそう考えていた矢先だった。
 彼の携帯がコールし、それに応答すると、電話相手は別れ際に社長室へと向かったはずのセフィロスだった。電話の向こうの金属音の混じった彼の足音からは彼が何かしらの工場か、施設にいることが伺える。
 話を聞くとどうやら彼は伍番魔晄炉にいるらしく、そこでアンジールの目撃情報が入り、自分も現場へとの要請を受けたようだ。神羅の為にソルジャーが動くのは仕方のないことだが、それがアンジールの抹殺に繋がっている今回の招集に関しては、ザックスには未だに踏み切れない何かがあった。

「・・・見つけて抹殺、か?」

 少々苛立たしい声色で英雄に対しそう返したザックスに、セフィロスは少し口元を笑わせると淡々とした口調で言葉を返してきた。最初は携帯越しに聞こえる澄ました声に苛立ちを覚えていたザックスだったが、その表情は眉間にしわの寄ったあからさまな怒りから一変、例のあだ名の通り『仔犬』全開の、明るいいつものザックスのものへと変わった。

「まじ?!」

『ああ、まじ、だ。』

「最高!!かもしんない!!」

終いにはガッツポーズまで取ってみせるのだから、この新米1stの気分屋はまったくどう扱えばよいのか、とシスネは思う。
 しかし、英雄と称されその実力は数いる1stの中でも最高峰のあのセフィロスの口から抹殺失敗の言葉が出るとは、ザックス自身思ってもみなかった。統括室でのクロウの発言が印象的過ぎて、というよりも衝撃的過ぎて、1stの人間はみんな任務と私情とを割り切ることの出来るものとばかり思っていたが、案外そうではないらしい。特に皆の憧れの的であるセフィロスが、アンジールのことを切るに切り離せないでいたことは、ザックスにとっては大きな嬉しい誤算であった。
 そんなことから、電話を終えたあとのザックスの行動の速さときたら、まるで投げたボールを一直線に追いかけていく仔犬のようで、一部始終を見ていたシスネはただ茫然と立ち尽くすしかなかった。






 ―――――が、その期待とは相対して、事はそう単純なものではなかった。
 向かった先の伍番魔晄炉にはモンスターが行く先々で出現し、ザックス、セフィロスの行く手を阻んできた。どの種類もそう苦戦するようなものではなかったが、問題なのはそこではなかった。倒したうちの一体の鼻の部分に何やらセフィロスが注目したのにザックスもつられて視線を向ける―――――と、そこにはあろうことか二人の親友、ザックスにとっては憧れの先輩でもある、アンジールの顔が付いていた。

「アンジールの顔が付いてる!?」

「・・・ジェネシス以外のコピーも可能になったというわけだ。」

 そう言ってセフィロスはそのモンスターから視線を外し、ザックスの横を数歩先横切ってからその歩みを止める。
 錆びれた鉄の足場を進む足音以外は、ここは静かなものだった。そんな無言の空気の中、自身の発言から少し間を置き、セフィロスは何かを思い出すような、そんな表情で口を開き出した。

「―――――本社ビルのトレーニングルームに・・・。」

「・・・ん?」

「2nd達の留守に忍び込んでは、よくふざけていた。ジェネシス、アンジール、ロゼ、俺。」

 珍しく自身を語りだす英雄のその表情は、まるで楽しかった頃の思い出を懐かしむような、そんな優しい目で、口元には少しの笑みが浮かんでいる。普段の無表情、というよりも、どんな事態にも歪まない端正な顔立ちのことを思い返せば、この男にもやはり人間味的なものが存在するのだという証拠を目の当たりにしたような気がして、ザックスは微笑ましい笑みをおくる。

「本当に仲がいいんだ。」

その言葉をセフィロスは鼻で笑った。が、やはり英雄のその表情は歪むことなく、ただ少し物憂げにも見えるような笑みを浮かべたままだった。

「ふん、どうだか―――――。」






 思い出される、あの日の光景―――――
 四人でよくやる、あのおふざけが、亀裂へと変わったあの日―――――・・・





16/06/09 20:00更新 / 960
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