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第十一話 「戯れ」


「『深淵の謎―――――それは女神の贈り物。われらは求め、飛び立った。彷徨い続ける心の水面に、かすかなさざなみを立てて――――。』」

 吹き行く風が四人の男の髪を撫で、その風音以外には―――――そう、何度も耳にした、あの聞き慣れた声が、同じく飽きるほど聞いたあのフレーズを、飽きることなく発している。

「『LOVELESS』第一章。」

 ビル屋外の鉄塔の上で、海辺に向かうようにして立っている黒コートを着た銀の長髪の男は、自身の背で鉄の壁にもたれかかりながら朗読を続ける赤髪の男を振り返ると、そう口にした。男の横には首までの黒髪を綺麗に掻き上げたオールバックの髭面の男と、もう一人―――――髪色とその長さだけならば『英雄』と称される男と瓜二つ―――――通称『女王』と呼ばれる、女顔の男の二人。そのうちの一人、白銀の髪の男の方はこちらを振り返った我が社が誇る最高峰の頂に目を向けると、くすくすと微笑んだ。

「―――詳しいな。」

 そんな彼を脇目にして笑いながら、朗読を続けていた赤髪の男は手にしていた本を閉じ、脇へと避けると、彼の左横に立ち並んでいたオールバックの男と共に目の前の超人に視線を向けた。

「毎日聞かされれば、嫌でも覚える。」

そう言って自身の頭を突いて見せた英雄は、その左手に握りしめていた自身の愛刀―――――正宗を振りかざし、その双眼に映る英傑二人の姿を睨む様な鋭い目で見つめる。それに呼応するかのように二人―――――ジェネシスとアンジールはそれぞれの獲物を構える。ジェネシスはそのイメージを象徴するかのような真紅の長刀を。アンジールはソルジャーなら誰もが手にする訓練用の剣を。

「・・・ロゼは参加しないのか?」

 少し後ろを振り返り、ジェネシスは段差に腰かけたまま動こうとしない残る一人―――――ロゼにそう声をかけた。

「いいよ、俺は。連携とか得意じゃないし、何より弱いからね。」

 自身の直ぐ横に正宗ほどではないがそれなりの長さを誇った二ホン刀ともう一対、ジェネシスの持つものとはまた違った真紅の剣をしっかりと準備しているわりに、ロゼは今回の勝負にはあまり興味がなさそうな口振りでそう言った。彼の興味は別―――――その視線の先にあったのは先程ジェネシスが脇へと避けた古書『LOVELESS』。

「ねぇ、これ読んでても良いかな、ジェネシス?」

 あまりにもその視線が古書一直線だったので、ジェネシスは呆れ混じれに好きにしろ、と一言返し前を向き直った。


「アイツ、なめてるな。何が“弱い”だ・・・。」

「まぁいい。ロゼとはまた今度決着をつけるさ。」

 そうして二人はそれを合図にするかのように同時に跳躍しセフィロスへと斬りかかった。
 まずはアンジールが、そうしていとも簡単に受け止められた太刀を流された後はすかさずジェネシスが、交互に互いの攻撃を繰り出し、英雄に少しの間も与えない。しかしそこは流石英雄である。二人の鮮やかな連携をもってしても、彼のその涼しい表情は一向に崩れることはなく、繰り出される斬撃を止めるにも、まだまだ余裕が見える。

「ま、セフィロスがこのレベルのじゃれ合いに本気なんて出すわけないよね。」

 本の隙間から戦いにチラと視線を向けたロゼはそう言ってはまたそのまなざしを下へと下ろす。
 何故彼がこの戦いに参加しなかったのか―――――それはこの本の持ち主の、英雄に対する激しい憧憬の感情が、周囲に漏れ出すまでに高まっていたのを、何となくではあるが感じたからである。
 確かに二人の連携には目を見張るものがある。それは幼少の頃よりの付き合いが故か、お互いが培ってきた信頼の上成り立っているのは一目瞭然。しかしそれすらも余裕でかわして見せるセフィロスという男に追いつく為には、『仲良しごっこ』での連携では足りない―――――そこから更に踏み出す必要がある。
 ロゼがジェネシスらを差し置き神羅のbQを名乗れる所以は、彼がたとえセフィロスを相手にしたとしても、対峙する敵に殺意を抱くことを忘れないからである。故にこれと同種の雰囲気には異常に敏感なのである。

「まずアンジールは―――――少なくともその配布用の剣を仕舞わなくちゃね。」

 言葉が呼応するかのごとく、彼の前で繰り広げられる戦いはセフィロスとアンジールの一騎打ちになっていた。そうして感じることも同じか、セフィロスはつい先ほどロゼが呟いた言葉と同じものを口にすると、そのまま正宗を思い切り押し出してアンジールを弾き、後退させた。

「そうしてジェネシスは―――――いや、言うまでもない、か―――・・・。」

 そうして再び視線を眼前の英傑三人へと向けたロゼの眉間には、端正な面立ちには珍しい、しわが一つ寄っていた。まるで何かを懸念するような、そんな表情で彼が見詰める先に
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