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第十三話 「エアリス」




 目を開けた自分を見るなり、少女は嬉しそうに笑った。
 それと同時に今いる空間の景色もぼんやりと目に映ってきて。所々崩れた天井から差し込む光は、石柱やステンドグラスと相まって神聖な雰囲気を醸し出している。

「天国?」

思わずこぼれた言葉に少女は笑いながら首を横に振ると、ここがスラムの教会だと教えてくれた。上体を起こし、辺りを見回す自分を見下ろしてくる少女は、如何にも楽し気な笑みを浮かべている。珍しいものでも見たかのような反応だ。実際珍しい光景には変わりないだろうが。
 改めて少女の姿を捉えると、明るい声色とは打って変わって清廉な印象を受ける。茶色の長く豊かな髪を結った上で後ろで一つに束ね、身に纏うは教会の守り人たるに相応しい清廉潔白な純白のワンピース。その白の衣装の左肩のラインには色鮮やかな花が散りばめられており、少女が少女たる所以を醸し出しているかのように思えた。

「―――天使?」

そんな少女の姿に何を受けたのか、再び口をついて出たとんでもない言葉に少女はまたも首を横に振ると、澄んだ瞳でザックスを見詰めながら、

「私、エアリス。」

と嬉しそうに答えた。





 エアリスによると、自分は教会の天井の崩れた部分から落ちてきたのだという。おそらくはアンジールが放った衝撃波で足場が崩れ、そのまま落下した先がこの教会だったのだろう。
 何はともあれ助けてくれたお礼をと思い、少女にデート1回を申し出てみると、あっさり一刀両断された。良く笑う清廉な彼女からばっかみたいと返された時は流石の自分も少々言葉に詰まった。
 その後は何とはなしにエアリスに同行する形で上への行道を辿っていたが、中途スラム街の一角に小さく店を構えていたアクセサリーショップが目に入ったので、そこで足を止めた。デート1回は馬鹿にされて終わってしまったが、何と言っても助けてもらったのだ、矢張りお礼はしておきたい。その旨を伝え、彼女に好きなものを選ぶよう促すと、エアリスは少々遠慮しがちにピンクのリボンを手に取った。お安い御用だと言わんばかりに得意げな顔で会計を済ませ、早速彼女の頭につけてやる。良く似合っていた。

「ザックス、ありがとう!」

照れくさそうに笑うエアリスにつられて自分にも自然に笑顔が移る。そんな感じがした。
 しばらく二人で歩いていると、小さな公園に差し掛かった。いや、公園というには遊具らしきそれは神羅の施設から廃棄されたであろうゴミを集めて作ったもののようだったが、それでもその高台の上から左手を高々と上げ声を張る子ども達にとっては良い遊び場のようだった。左手を上げていた男児はどうやらセフィロスの真似事をしているらしい。他にも子どもが数人、男の子に女の子が混じっていて、それぞれ好きなソルジャーになりきって遊んでいる様子には、何となく儚げな笑みしか零れなかった。

「ソルジャーって、会ったことある?」

 そんな中ふと耳に届いたエアリスの質問に、ザックスは意識を引き戻される。彼女はゆっくりと歩を進めながら、自分は会ったことがあるのだと言った。ソルジャーに知り合いがいるのだと。しかし、傍で遊ぶ子どもと比べてその声色に喜色の気はない。

「・・・幸せなのかな。」

何とはなしに呟いたのか、それとも彼女が長年抱いていた疑問か。そのどちらであったとしても、この少女の口から出た言葉は今の自分自身にもかかってくる問題なのだと、そう思った。

「子ども達の憧れ、世界を守るヒーロー。でも、普通じゃない。良く知らないけど、特別な手術、受けるんでしょ?」

 振り返ったエアリスの表情は、笑顔を張り付かせていたものから一変してどこか怯えたような、不安そうな色を醸し出していた。

「・・・らしいな。」

「普通が一番幸せ、私、そう思う。・・・ソルジャーって、なんか、変・・。それに――――――怖い―――・・・。」

戦うこと、大好きなんだよ?そう続いた言葉に、ザックスは何も言えなかった。彼女の表情や、言葉を聞いていれば分かる。明らかにソルジャーに畏怖の念を抱いているということ。壁を作っているということ。それは、彼女の言う知り合いと何か関係があるのだろうか―――。ふとそんな疑問が頭に浮かんだ時には、思考よりも口が動くのが速かった。

「・・・それってさ、その知り合いと何か関係あんの?」

「少し、ね。その人、ソルジャーになって、変わっちゃったから・・・。」

まずかった。触れてはいけない過去というやつだ、とザックスは直感した。気まずかった雰囲気が余計に気まずくなった。どうしたものか。
 そもそも自分が少女が恐怖してやまないソルジャーであるという事実をどうするのか。言ってしまえば怖がるだろうか。隠している方が良いのか。いや隠し事なんて出来るような器用な性格をしていれば仔
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