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第十七話 「胎動」



 クロウが元の姿に戻って数分―――――鳩が豆鉄砲を食らったような顔でセフィロスが彼女から視線を外せないでいると、肉親の悶絶している状況を全て赤の他人に放り出し自分は事を見越してかせっせと衣類の調達に出向いたロゼが場に戻ってきた。その手にはレースのきいた真紅のドレスともう一着、これは使用人用だろうか、赤いドレスと比べると質素な印象が拭えない黒のワンピースがおさまっている。ロゼの帰還で何とか意識を逸らすことは出来たが、如何せんこの状況は色々マズイ。

「・・・何素っ頓狂な顔してんのさ。ほら、年齢差があるからってそうまじまじ見るもんじゃないよ。男は退出退出!」

そう言うとロゼは手にしていた二着を妹の前に置くとセフィロスの背中を押しながら玉座の間をあとにした。



「―――――お前からの話で頭では認識したつもりでいたんだが・・・。ああして元の姿を見るとそれが突然現実として襲い掛かってきたような感覚に襲われた。」

「まあ、いつも見ていたのが10歳そこらの子どもの姿じゃねぇ。無理はないけど。」

玉座の間を退出した二人はそのまま扉を抜けてすぐの所で立ち止まり、どこともなしの方向に目を遣りながらそんな言葉を交わしていた。実兄故にロゼはかの姿を何度も見てきているのだろう、動揺する仕草などは一切見当たらない一方で、その隣で自らの足元の方へ視線を向けるセフィロスは、一見普段の淡々とした冷静沈着な表情を貼り付かせてはいるが、その実言葉では形容し難い感覚に見舞われていた。自覚しているのか、はたまた無自覚かは知らないが、セフィロスは物思いに耽る時は決まって視線が下を向く。長く連れ添った所為か、今の彼が何を考えているのかがロゼには手に取るように分かった。

「・・・あれを見てどう思った?目の前でその変化を見たんだろう?変化前後で抱く印象が変わった筈だ。」

長く続く廊下の先―――――壁の隙間からの光で幾分か明るいとはいえ、それでも先を覆うには十分な陰の方から顔を其方へ向けるでもなく問うてきたロゼの言葉に対し、セフィロスは少しの沈黙を挟んだ。その静かな空間では、退出先から微かに聞こえる衣擦れの音以外何も耳に入ってこない。静寂という一呼吸を置いた英雄の口から零れ出た答えは、先程素っ頓狂と評された表情と寸分の違いもない、極めて素直なものであった。

「あいつのことを初めて“女”という認識で見たような、そんな感覚だ。以前の姿からは想像し難かったが・・・身体の曲線だったり艶やかな髪だったり・・・・・・、どう・・・言えばいいんだろうな・・・。例えるなら―――――神秘的な美を目の前にしたような感じ、か・・・。」

自身の感情に思考を巡らせる哲学者めいた口調でそう口にした言葉に、ロゼは動じるでもなくそのまま―――――。


―――それが、あいつの“隠したかった”ものだよ、セフィロス。


「幼少からいる君は勿論知ってることだけど、神羅の軍事部門における女性兵士の割合なんて一割にも満たない。一般兵でさえごく稀なのにそれがソルジャーの、それもクラス1stにいたとなれば社会の認知度から変わってくる。あいつは自分を女として見て欲しくないんだよ。身体的構造からしてもそうだけど、如何せん男と比べると“弱い”という偏見は未だに根強く残っているからね。まぁ素行が男の子っぽいから周りには勘違いされるわ、それを逆手にとって宝条に細胞後退の薬を依頼するわ、好き勝手やってたのは事実なんだけど。」

最後に若干の苦笑を含みながら、その後ロゼはこう付け加えた。性別を理由に力から逃げることをしなかった、妹はそんな強い心を持った人間なのだと。

「―――――いらんことをベラベラと・・・。付け加えお前は何故ここにいる?」

間髪入れずに背後から聞こえてきた声に振り向けば、背にしていた扉を開け中からこちらに鋭い眼差しを向ける一人の少女の姿があった。その身は先程ロゼが手渡したうちの真紅のドレスの方を身に纏っており、髪を結い上げ多少の化粧と装飾品を身に付ければ立派な貴族の令嬢として見えそうな様相だ。

「あれ、そっち着たんだ?」

「もう一方はサイズが合わなかった。」

「あらま。」

さして反省する様子もなくロゼは不快感を露わにするクロウと言葉を交わすが、突如その意識がセフィロスの方へ向けられ、様子を見ていた英雄は勢いに圧されたか少々驚いた表情を見せる。無言のままにこちらを睨み付ける双眸には先程見た神々しさなど宿っておらず、むしろ城内に入ってから嫌というほど体感した殺気にも似た冷たさしか見て取れない。このふてぶてしさを通り越した可愛げの欠片もない冷淡な態度を見ると、幾ばくかの変化があったとしてもこれは矢張りクロウ本人なのだと実感させられる。

「・・・・・・連れ戻しに来た。」

「また余計なことを
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