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第二十一話 「夢・記憶A」





  『何故だと?決まっている・・・。』



  『もう、何振りかまってはいられないからな―――――・・・。』



 確かにそう言っていた
 何振りかまっていられない、と―――――
 その言葉は、どこか夢見心地でいた俺の意識を一気に過去へと結び付けた
 仲間が出来、いつしかここにいる目的さえも忘れてしまいそうな心地良さに身を任せ・・・
 そんな中、記憶の奥底に眠っていたそれは、突如として目の前に浮かび上がってきた
 まるで夢から覚めたような、そんな感覚だった―――――・・・










「今日はもう終わりにしよう。」

 トレーニングルーム。バーチャルから現実世界へと戻った少年のうちの一人がもう一人の少年向かってそう言った。額の汗を拭い言葉を発した少年―――――セフィロスは、眼前で尻餅を付きながら息を切らすもう一人―――――ロゼを引っ張り起そうと左手を差し出すが、ロゼは首を横に振りそれを拒んだ。何か思い詰めたようなロゼの表情に、セフィロスは無言のまま部屋をあとにする。残されたロゼは一人、拳を思い切り地面に叩き付けた。

「何で勝てないッ!!何で―――――ッ!!」

 ここに来て早四か月。異例の速さで訓練兵からソルジャーへと昇格したロゼは、同期のセフィロスと共に日々研鑽を積んでいた。未だ十代半ばの子どもだと言うのに、彼らの突出した才能は神童と謳っても申し分ない程のもので、ソルジャー昇進後はめきめきと頭角を現していき、遂には異例の速さで2ndクラスにまで上り詰めた。これほどの逸材が同時期に二人も存在するといった事実に、ある者は羨望し、ある者は打ちひしがれ、又ある者は称賛の声を掛けた。
 そう、何もかもが順調―――――である筈なのに、どうしてもロゼはセフィロスには勝てなかった。ただの一度としてだ。常に周囲から持て囃されてはいても、戦えば必ず負ける。常に二位止まりだ。
 敗北を味わう度にロゼは強さの定義が分からなくなっていた。確実に強くはなっている筈なのに、埋まらない差が存在する。同期と言えどもセフィロスは自分より年上だ。勝てないのは生きた年数分の経験の差がものを言っているのだ、と何回も言い聞かせた。しかし、相手も自分同様まだ子どもであるという事実が、彼のそういった逃避を悉く打ち砕いていた。




「君の強さが羨ましいよ。全然勝てないしさ。同じだけ訓練してるつもりなのに、この差は何なんだろう・・・。」

ふと何気なく皮肉を口にしたことがあった。“全然勝てない”―――――という言葉を少し強めてみて。するとセフィロスはその緑眼でロゼの蒼眼を見詰めると、性差が原因では?と珍紛漢紛なことを言ってのけた。どんな反応をするか見てやろうと、自分の中に少しだけ芽生えた仕返しの感情など意にも介さず、それどころか予想の遙か斜め上を行く回答を連発してきたのだ。

「俺はむしろ、女の子なのにここまで昇格したお前の才能の方が凄いと思う。」

元々大きな目を更に大きく見開いて、その頓珍漢な返答に思わず呆気にとられてしまってからは、仕返ししてやろうといった気も失せてしまった。初めからそうだった。この少年が自分の斜め上を行ってしまうのは。交点を持とうとすればするほど、彼はそのベクトルを予想外の方向へと転換させてしまう。性別の誤解は後程嫌というほどの説明を経て無事に解かれたが、この時ロゼはセフィロスという男を量ることを諦めた。人格や強さ、全てが規格外なのだ。目の前に立ちはだかる高い壁であることに変わりはなかったが、セフィロスはあくまでも組織内においての目標であり、自身の見据えるべき存在は又別格の殺人鬼だ。必ず越えなければならない相手ではないし、何よりも目先の物事に囚われて自身がここに来た本質を見失うわけにはいかない。そう割り切った。
 この日からロゼの中でセフィロスはライバルではなく友という位置付けへと変わった。そうして2ndから1stへと昇格した時を最後に、ロゼはセフィロスとは戦わなくなった。



 そうしていつしかジェネシスやアンジールとも親交を深めるようになり、よく無人のトレーニングルームに忍び込んではふざけ合った。一番年下だったということもあり、アンジールには頭の上がらないこともしばしばだったが、ジェネシスとは対等に付き合っていた。セフィロスに関しては、あの日以来どこか自分の中で一線を引いてしまっていて、ジェネシスがセフィロスを猛烈に意識し始めた時でさえも、戦う気力が起きなかった。

  何でだろう―――――・・・
  この肌にピリピリ来る殺気は、以前の俺も同様の相手に放っていた筈なのに・・・
  数年前までは俺だって、あんな感じでギラギラした目つきをしていた筈なのに・・・
  いつからだろう―――――・・・
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