後日、セフィロスが深手を負ったと社内が騒然となった。任務に行っているわけでもないのに何が原因なんだと道行く人間大騒ぎであったが、ザックスだけはその原因に心当たりがあった。その『変化』は必然たるものだと当人は語ったが、あまりにも突然の出来事だった為にセフィロスの攻撃回避が遅れたのだ。いや、自分ならば避けられただろうか。『アレ』は回避しようとしてそう簡単に避けられるものでもなかった。“そういう”規模だった。直径二十メートルはあったのではないか。その規模の巨大な雷が、セフィロスの正宗目掛けて落雷したのだ。
攻撃を仕掛けた本人でさえ事態には驚きを隠せないでいた。しかし、滅多に見ることが出来ないその驚嘆した表情は、見ている此方を驚愕させるような喜色を次第に帯び始める。鬼神とは誰が名付けたものか、これほど的確な別称もないであろう。仮にも今、自身の攻撃により一人の人間が重傷を負ったというのに、悪びれる様子もなければむしろその逆―――――これ以上に場に不釣り合いな表情もないであろう、不敵な笑みを浮かべて。クロウは光景をただじっと見詰めていた。
「そうか。奴が言っていた『属性』とはこのことか。」
何のことかもさっぱりな台詞を呟いては、驚くほど余裕の顔つきでクロウは此方に歩み寄ってきた。片膝を付き、倒れ伏す英雄の傷口の症状を暫く観察すると、回復魔法で取り敢えずといった感じの応急処置を施す。
「処置が済めばお前も手伝え。この巨躯を私一人で運ぶには絵面的に問題があろう。」
「わ、分かった!」
絵面如何こうの問題ではない気もするがザックスは黙っていた。そうしてものの五分で応急処置を終え、クロウはザックスに上半身に回るよう指示し自身はセフィロスの両足を抱えてトレーニングルームを出る。途中申し訳なさそうに視線で訴えるセフィロスと何度か視線がぶつかったがクロウは何も言わなかった。
そうして科学部門へと辿り着くと宝条に事の経緯を大雑把に説明し、セフィロスはそのまま治療ブースへと運ばれた。英雄のやられようにひどく興味を示した痩躯の男により、クロウは別室にて特殊実験を受けることとなり、アドバイザーに指導教官と同時に二人がいなくなってしまったザックスは、特にやることもないので久し振りの自主練へと戻ることにした。
噂は瞬く間に社内に広がった。未だ全快しないセフィロスの様子や、珍しく任務からの帰還が遅れているロゼのことを考慮してか、上層部は予想より早く二人を実践へと送り出す決断を下した。
「―――――ペアが解消されるということではないらしい。が、当分は任地へはお前一人で向かうことになる。」
「何で?」
「訓練兵の指導だ。付け加え、上二人のスケジュールとの兼ね合いになるが当分は私が一級任務へ赴くことになる。」
任地への道中そんな会話をした。誤算だったのだろう。神羅側も不本意ではあろうがそうする以外に任務効率を維持するのが難しくなっているようだ。
外傷は既に綺麗さっぱり回復しているにも関わらず、神経系に一部損傷が出ているのかセフィロスの調子は未だ良くない方向にあった。あの規模の落雷を受けたのだ、感電の際に伝達機能辺りがやられていてもおかしくはない。更にはもう一人の巨大戦力、ロゼも、先刻出向いた任務から未だ帰還が果たせないでいる。当人との連絡はつかないでいたが、作戦に同行している2ndやタークスからの情報によれば、どうやらジェネシスが一枚噛んでいるようだった。
実力的にはその次を張るクロウが二人の損失を当面補うのであろう。現状としては神羅と大きな抗争を繰り広げる組織はほぼ壊滅したと言ってもいいのであろうが、反抗的な勢力は幾つも存在するのが現実だ。大量脱走事件についても解決を得られていない。それどころか、ホランダーの研究が日に日に進んでいる所為か、それとも被験体の優秀さがものを言っているのか、兎角コピーのレベルが上がってきており2ndでも太刀打ち出来なくなってきているのだ。このままなだれ込んでペア解消、といきたいところだが、セフィロスを負傷させたなどクロウは何かと神羅の評判を下げる事案に関わってきた為その可能性はないだろう。とは言え、実践に出られるのは有難いことだと思う。
「さーて、暴れるぞー!」
ザックスはここ数日溜めていた鬱憤とトレーニングの成果を出すべく気合を入れた。
ロゼが帰還した。今回の任務の報告書をまとめて上へ提出しに行くところを見かけたが、ジェネシス絡みということもあってかその姿はかなりやつれて見えた。しかしやつれていてもその様相は風格を損なうことなく『女王』たり続けており、ここに彼の強さを垣間見たように思えた。
ロゼの出社はおよそ六日ぶり。彼の帰還により神羅に現状在籍する1stが全員揃ったことになるわけだが。ク
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