「盗人!」
空き地に入るなり飛び込んできたサイファーの取り巻きの1人、フウの声。
「許せないもんよ!」
続いて同じく取り巻きのライの声。不思議な言葉使いで喋る一見華奢で目つきの鋭い女の子、フウと、筋骨隆々でサイファーを尊敬してやまないライのコンビ。そしてもう一人。ほとんど無口で何も話さない内気な男の子、ビビ。この特徴的な三人がサイファーの取り巻きの三人だった。喧嘩っ早いハイネの事だから、フウとライのひどい言いようにまず反応しないわけがない。
「なんだと〜!」
そうして跳びかかろうとした瞬間、駅前通りの方から聞き慣れた嫌な声が聞こえた。
「頭の悪い会話だぜ。」
「・・・出た。」
ロクサス達一行の目は細まり、ライ達一行の目は光り輝く。何を思って着用しているのか分からない、というよりはあまり知りたいという気を起させないナルシストっぷり満載の『俺』という文字の入ったニット帽を被り、長い袖なしのコートを羽織る通称『町の風紀委員長』。
「・・・あれが・・・サイファー・・・?」
「何だ?そこの女、てめえらんとこの新人か?」
登場して早々にクローネの存在に気付いたサイファーが、オレットの後ろから自分を見詰めていた見ず知らずの金髪蒼眼の少女に尋ねた。さすがは町の風紀委員長、自身のシマで知らない事が起こるとそれを即座に見つけ出すのは大した洞察力だ。これで問題児でなければ大いに結構なのだが、誰もが想像できるように彼の問題はその性格にあった。
「クローネ・・・私の名前。―――サイファーがロクサス達を犯人だって言ってる理由、聞かせて。きっと訳もなくそんなこと言う筈ないだろうから。」
「・・・フン、ソイツと違ってまともに話できる奴もいるんだな。」
クローネの視線を傍目にサイファーが近寄ったのはロクサス。その前で立ち止まると、ハイネやクローネを相手にして話していた時とは全く別、眉間に寄った皺からは、彼がかなり怒っているであろうことがすぐさま伺えた。やはりサイファ。彼の周りの取り巻き連中とは違って、怒るとそれなりのプレッシャー、迫力がある。
「俺達の・・・・・・を返してもらおうか。」
―――――が、そんな彼の怒気にもロクサスは怯まない。
「―――――俺は盗んでない。」
負けず劣らずにサイファーを睨み返したロクサスに対し、その背後からライの騒がしい反論の声がとんでくる。
「犯人はお前しかいないんだもんよ!」
何を根拠にそこまで言われる必要があるのか。何故皆して疑うのはロクサスなのか。その理由が、サイファーの口から告げられた。
「・・・盗まれたのはお前の敗北の決定的な証拠だ。どうした?燃やしたか?まあ、なくなっても過去は変わらないけどな。」
「再現!」
「わはははは、それはいい!」
余裕たっぷりに言って、サイファーは彼がいつも愛用して使っている木剣を取り出した。どうやら今この場で勝負してロクサスの敗北を再現する気らしい。心配そうにオレットが光景を見詰める中、クローネは一人その後ろで何かをぶつぶつと呟いていた。
「・・・盗まれたのは過去の思い出の品・・・・・・決定的証拠・・・・・・燃やす・・・?」
このキーワードから連想できるものってそうないような・・・。
紙製の・・・・・・例えば日記とか・・・?
でも、サイファー達っていかにも日記とか書きそうにないし。
それに日記なら書きかえることは不可能じゃない。
なら盗まれたものって―――――・・・。
そうこうしてクローネが考えてるうちに、どうやらロクサスがサイファーを負かしてしまったようだ。フウとライが緊張が緩んだのかその場を後にするサイファーの後を追いかけながら叫んでいるのに気付く。そしてさらにその後をビビが追う。
「さっすがロクサス!」
ピンツがポケットからカメラを取り出し、ロクサス向かって構える。突然向けられたカメラにロクサスはガッツポーズをとって笑顔を浮かべて見せるが、シャッター音が鳴り響く前だったか後だったか、クローネが珍しく大声で叫んだ。
「ダメ―――――っ!!今写真なんかとったらっ!」
が、叫んだ声も虚しく、何も分からずに振り返ったピンツのカメラを、クローネが予想したとおりに何者かが奪っていった。
「うわッ!」
思わず尻もちも付いたピンツの横でカメラを手にしていたのは、銀色に輝きながらゆらめく見たこともない生き物だった。そこだけ視界が歪んでいるような錯覚を起こさせる奇妙な動き。今までに目にしたことのない光景を前に、5人は目を疑う。
「何だ・・・?」
「犯人!?」
声がした直後、生き物はカメラを持ったままするすると飛ぶように広場の方へと立ち去っていく。
「待てッ!」
誰もが唖然として動けずにいたその状況下で、真っ先に生き物を追
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