「やぁ、休暇は楽しんだかい?」
「まぁね。クロウは分からないけど。」
「そうか。」
統括室の自動ドアをくぐるとすぐにとんできたラザードの声にロゼは微笑みながら応答した。その背後で部屋の壁にもたれかかりながら腕を組むクロウは相も変わらず無愛想な態度で光景を見詰める。
この兄弟、兄は温厚な性格、その美貌で常日頃から笑顔を絶やさないでいるのに対し、弟の方は真逆。睨むような鋭い目つきに冷たい物言い、偉そうな態度と相手から嫌われる一方の振る舞いしかしない。
「―――――グズグズ喋るな。呼んだからには何か用があるんだろう?さっさと言え。」
因みに補足すると、この兄弟は共に頭が切れる。
「手厳しいな。まぁ確かに君達を呼んだのには要件があるからだが・・・。」
ラザードは腰かけている椅子を背後のパソコンへと向けマウスを動かした。そうして室内が暗くなるのと同時に、統括室の奥にぶら下がっているスクリーンにある映像が映し出される。映っているのは一人の男。その男を見た途端、兄弟の顔色が変わる。クロウは目を見開きはしたもののそれ以外態度に大して変化はなかったが、ロゼは額から汗を流し、態度が先程とは別、動揺を隠しきれないほどその体がわなわなと震えていた。
先の補足でも言ったが、頭が切れるということは事態の把握が早いということ。この先自分が何を告げるのか―――――それをいち早く察したということだ。酷な話になることは十分承知していたつもりだったが、よもやここまで動揺するとは・・・。
ロゼの状態にラザードは眉をひそめるが、少々間を取った後に、彼はことのいきさつを兄弟に話す決意を固める。そうして紡がれた言葉は、閑散とした部屋の空気に重々しさを加えた。
「―――――悪いが早速本題に入らせていただこう。・・・“彼”の紹介はいいね?これはまだ上層部しか知らない話なんだが・・・
―――――ということだ。君達二人には“彼”の捕縛に行ってもらいたい。」
束の間の休息から帰還した直後、ラザードから告げられた言葉は兄弟―――――特にロゼにとってはとてつもなく重たいものだった。未だ震えの止まらない兄に横目を配らせると、クロウは口を開く。
「却下する。見てわかるだろう?“英雄”に次ぐ実力者がこのザマなのに任務なんかやってられるか。」
「しかし“彼”を捕まえられる人材はそう・・・。」
「1stは俺達だけじゃない。酷な話かもしれんがな。―――結局は誰かが行かなければならないんだろう?こんな状態のソルジャーを派遣したところで失敗することは火を見るより明らかだ。俺は殺す自信はあっても捕縛する自信はないしな。それに、兄さんには前々から我々と均衡状態にあった組織を壊滅させる任務があった筈だ。敵もそろそろしびれを切らし攻めて来るだろうからな、そちらに行かせる方が任務成功率は良い筈だ。」
その意見に対しラザードは反対意思を示すが、この無愛想且つ冷酷人間には効かない、というよりは聞く耳を持ってはいないようだ。ラザードが何を言ってもクロウは自身の意見は曲げなかった。果たしてこれは私情によるものか、それとも逆か―――――。言い合いの最中ふとそんな言葉が脳内に浮かび上がったラザードは、聞き分けの悪い子どもに向けていた目をふと横で佇む人物へと向けた。
あまり広いとは言えない室内でこのような口論が繰り広げられていても、どうやらロゼの焦りや動揺は消えてはいなかったらしい。統括がその姿を捉えても尚この男の息遣いは酷く荒かった。
同様に言い合いの最中にいくらか視線を配らせていたクロウは、ロゼの様子に一向に変化が見られないのに溜息をつくと、腕を引き彼を壁に無理やりもたれかけさせ、その反動で自分は一歩前へ進み出て言った。
「・・・とにかくだ、こういうのにはアンジールの方が適任だ。奴は幼少時からの仲なんだろう、なら尚更だ。」
ラザードは反論を試みたがきつい口調に本気で食い殺されるような視線を受けたのに体全身がすくんでしまい、何も言えなかった。
部屋を出た後、クロウはほぼ放心状態に近い兄を担がされたわけだが、140cmの小柄な少年に182cmの長身を背負うのには光景的にかなり問題があった。―――が、彼はそんなことは微塵も気にせずロゼを背に背負い、というよりは引きずり、彼の部屋まで足を進ませた。
やっとのことでロゼの部屋まで来ると、彼は強引にも部屋のドアを足で蹴飛ばし、室内のベッドにロゼを横たえる。
「―――――じゃあな。」
それだけ言い残して部屋を後にしようとしたクロウの背後から、ロゼの声が聞こえた。弱々しいが、それでもその声がはっきりと自身の名を呼んだのに対し、クロウは歩みを止める。しかし彼は決して振り返ろうとは
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