少年の不満は日に日に募っていった。トレーニングルームでのシュミレーションを終えてから、彼の態度はずっとこの調子だ。
“英雄になりたければ夢を持て”―――――そう言われてもうだいぶ経つが、与えられるミッションは今の自分の階級である2ndに見合ったそれ相応のものばかりで、どんなに活躍したって上は自分を1stに上げようとする気配など一向に見せない。
得意のスクワットは毎日欠かさずやるが、その分鍛えられるのは足の筋肉だけだったりする。
「統括・・・ッ・・・いつになったら・・上げてくれんのかなッ・・。」
不貞腐れた態度が言葉にまで表れるようになったのはごく最近のことだ。
英雄になるにはまず実力を認められなければならない。過去に積み上げた様々な経験がものを言うのは確かだが、それにはハードなミッションのクリア経験だって必要になる。無論1stが常日頃から常人離れした任務を行っているわけではない。時には街の治安を守るなどの聞いた感じ地味そうな任務だって回ってくる。だが世間から受ける印象や称賛の声は、組織内でも地位が高ければ高いほど美味なのだ。
ミッドガルに住む人々は神羅に対し敬意を払っているし、公園で遊ぶ子供たちも名の知れたソルジャーの真似事をして遊んだりするご時世だ。因みに余計な情報を付け加えると、街に住む年頃の女性は1stのソルジャーを対象にファンクラブを形成し、女性人口のおよそ6割は誰かの追っかけをしている。
そのソルジャークラス1stだが、現在そのクラスには5人の猛者共が存在する。1人1人が驚異的な身体能力の持ち主で、下手をすれば組織一つをまるまる潰せるほどの力を持った者だっている。中でも一番名の知れているのは言うまでもなく『英雄』と称される男―――――“セフィロス”であるわけだが、自分と親しい間柄にある1stの男は見た目の割に夢やら希望やらにうるさい。女と間違える程の美貌の、通称『女王』と呼ばれる者や、神羅としては異例の飛び級で1stに昇進、尚且つその史上最年少記録は未だに破られていないという者だって現役で存在する。あと1人については詳しくは知らないが、懇意にしているその男の話によれば、そいつも案外曲者だという。
「ザックス、随分イラついてんのな。」
そう言って背後から声をかけてきたのは同じ2ndのカンセル。同じクラスの中ではおそらく一番仲が良く、神羅内や世間のあらゆる情報を提供してくれる。ただし今現在スクワットにて溜まった不満を誤魔化そうとしている少年―――――ザックスと比較すると、その気性はずいぶん大らか、というよりは適当である。
「当たり前だろ。訓練ばっかりで・・・ッ・・現場は・・・なしッ・・。俺、干されたのかって、話だ。」
スクワットをしながらなので途切れ途切れの調子で話すザックスは、カンセルに対しても自身の抱える不満を口にする。
さて少々話が逸れるが先程僅かながらに紹介したカンセルとは違って、彼は単純の度を通りこして馬鹿である。何かがふっと頭に浮かぶとすぐそれに走ってしまう癖があり、嫌な事があっても基本は根には持たずそこまで気にしない。付け加えて少々お調子者だが愛想は抜群にいい為、ついたあだ名は『子犬のザックス』。それについてこの間はこのカンセルに「一匹いかがですか」などとからかわれていた。
―――が、今回はそんな子犬でも不満を消化しきることに手を焼いているらしい。カンセルが聞いているかなどそっちのけで彼は話をどんどん前に進めていく。
「最近忙しいんだろ?みんな留守だもんな―――。」
「―――――留守って、お前知らないのか?ソルジャーの大量脱走事件。」
そうやってザックスから切り出された話題の一つにカンセルが食い付く。彼の口にした言葉から読み取ると、どうやら今しがた切り出した話に何か問題があるようだ。驚いて思わず立ち上がったカンセルは、驚くほど世間遅れな言葉を選んでみせたザックスに視線をやると、呆然とした面持ちで彼を見詰める。対してザックスはそんな親友の態度を見てスクワットを止め、何かしら自身が知らない話がソルジャーの間で出回っていることを察知した。
カンセル曰く、彼自身もそこまで詳しい事は分かっていないらしいが、事の内容はどうやら組織の上層部と一部のソルジャーにしか告げられていないようだ。
「―――――大量脱走事件?みんないなくなってるのが、それだってのか?」
「ああ。」
興味がないからなのか視野が狭いのかは不明だが、概要だけならもう既にほとんどのソルジャーには社内メールが届いているであろうことを、やはりこの単純少年は各々の多忙と本気で思い込んでいたようだ。楽観的な態度にカンセルは肩を落とすが、そこに彼の憧れ―――――ザックスと親しいソルジャークラス1stのアンジ
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