丁度壁際の所にあった崖の下に向かう緩やかな坂を、オパールは急ぐように駆け下りる。
全力で走り血の巡りが活性化するだけでなく、何とも言えない嫌な予感も合わさって心臓が激しくなる。
そうしていると、ようやく坂が緩やかになり二人のいる地点に辿り着いた。
「リクっ!!!」
大声で叫びながら丁度壁の向こう側を見る。
だが、オパールはその状態で息を呑んで固まってしまった。
「――だれ…?」
立ちながらこちらに振り返るリリスの足元には、全身を覆う黒いコートを着た長い銀髪に褐色の肌をしたの男が横たわっている。そして、リクの姿はどこにもない。
予想外の事に茫然とするオパールに、リリスは冷たい笑みを浮かべた。
「知ってる。あなたは、こいつが誰か知ってる。そうでしょう?」
リリスに言われるまま、オパールは横たわっている男をじっと見つめる。
何故だか分からないが、感じる。姿は違うのに、確かに感じる彼の心を。
「リク、なんだよね…? でも…」
思わず戸惑っていると、リリスが冷たく笑いながらオパールに話し出した。
「今のこいつは、あなたの故郷を闇に沈めた男。アンセムと呼ばれていた賢者を語った偽善者―――ゼアノート」
リリスの語りに、オパールの心臓が跳ね上がる。
そうして湧き上がってくる怒りのまま、肩を震わせながらリリスを睨みつけた。
「あんた…あんたが、リクをこんな姿にぃ!!?」
「心外ね。これが彼の本当の姿よ?」
「そんなハッタリ、あたしには効かないわよ!! いいからリクを元に戻しなさいよ!!」
ナイフの柄を握り、何時でも引き抜く体制に入る。
今にも攻撃を仕掛けようとするオパールに、リリスは平然と説明した。
「言ったでしょ、これが彼の姿…――いいえ、残っている部分って言った方がいいわね。それを私が前に中途半端の状態で施した『呪い』を完全にさせて具現化させたの」
「残ってる…!?」
「あなたは知らないから、教えてあげる。彼はね、ゼアノートの心を持ってるの。かつて、あなたの世界を闇に染め上げた勢力と共に行動した際にね」
そう説明するリリスの言葉に、オパールは何かを堪える様に歯噛みする。
信じられる訳がない。好きになった人が、故郷や世界を闇に沈めようとした彼らと手を取り合っていた事など。
「嘘よっ!! リクが、そんな事する訳…!!」
「ええ、彼は関わっていない。でも、共に行動していたのは事実。実際、ゼアノートに身体を明け渡してからは沢山の世界を闇に陥れた」
「あんた…何で、そんなの知ってるのよ?」
まるで全てを見ていたかのように話すリリスに、オパールは思わず疑惑の眼差しを向ける。
すると、リリスは薄く笑みを浮かべ胸に手を当てた。
「――私は全ての世界の海の意思。さまざまな世界の海や水から、全てを見通す事なんて造作もない事」
そこで言葉を切ると、茫然とするオパールに何処か優しげに目を向けた。
「だから知ってる。あなたが『器』と同じように彼に恋をしている事も…――でも、残念。彼はあなたが思っている綺麗な人じゃない。闇と罪に塗れた罪人よ」
「罪、人…」
冷めた目でリクを見るリリスの言葉が、オパールの心に染み渡っていく。
あれだけあった反抗の感情が、どんどんと冷めていく。何も言えなくなったオパールに、リリスは更に追い打ちをかけた。
「そう。彼はあなたの世界を闇に染めた勢力に荷担した。それどころか、原因を作った奴の心を宿している…これは、全て事実よ」
「そ、んな…そんな、事って…!!」
とうとう耐えきれなくなったのか、オパールはその場に座り込む。
その状態で未だに倒れているリクを見ていると、リリスが近づいて肩に手を置いた。
「出来るなら、私が直々に手を下したかったんだけど…――折角だから、あなたに譲るわ。私と同じように、あなたの故郷を闇に沈めた奴だしね」
「あたし、が…手を…?」
焦点の合わない目でリリスを見ると、ニッコリと笑って頷く。
顔を俯かせて少しだけ考えると、震えながらオパールはゆっくりと立ち上がり、リクに近づきながらポーチに手を伸ばす。
そうしてあと数歩の所で立ち止まると、透き通った白い結晶を取り出し…手の中で壊した。
―――直後、リリスの真上に光が集約した。
「えっ…!?」
予想もしなかった事にリリスが目を見張っていると、光がレーザーとなってリリスを押し潰すように襲い掛かった。
やがて光のレーザーが消えると、リリスが腕を押さえて蹲りながらオパールを睨んだ。
「うぐっ…!! なん、で…!?」
そんなリリスに、『シャイニングレイ』を使ったオパールは背を向けたまま言い放った。
「――憎いなんて、思ってないから」
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