神無はまばゆい光が視界から失せた事を理解してやっと瞼を開き、周囲を見回す。己がたっている場所は先ほどの天地が侵食された回廊ではなく、真っ白い造詣のある広場だった。
「どこだ……此処?」
見回した中ではチェルたちの姿が無い。広場には障害物と呼べるようなものは何も無く、人がいればすぐに見つける事は出来る。
だが、この場には誰も居ないのだ。神無を除いて、そして、『もう一人』を除いて。
「―――」
神無の眼前から轟音と共に茜に染まった炎が立ち上る。驚愕する中、火柱が散り失せ、中に一人の男が佇んでいた。
黒く染め抜かれた長い髪、幾百の戦いを斬り抜け、乗り越えた屈強かつ流麗な体躯、その身を包む着流しに似た衣装、その手に持つ茜色の刀身を持つ刀。
神無は知っている。この男の風貌、存在―――何もかも。
「親……父……?」
名は無轟。明王・凛那の持ち主であり、神無の父である―――『最強』を謳われる男。
貌は限りなく今の己と相違ない容貌をしている。眼前に現れた父の出現に神無は言葉を失って、手に持つ愛用の心剣『魔剣バハムート』を持ち上げず、構えずにいた。
無轟は紫の双眸を神無へと向け、気づくようにわずかに瞠目する。一方の神無は驚愕のあまりに瞠目したままだ。
「―――久しいな、神無よ」
「ッ」
本当に久しい無轟の第一声を聞いた時、神無の頭にノイズが走ったような途方も無い『違和感』が駆け巡った。
眼前で立つ男、それは真の無轟なのか。己の父たる無轟なのか。今、己の中には『再会した筈なのに、何故か何も沸きあがらない』のであった。
「……」
言葉を詰まらせ、呼吸を、頭の中の煩雑とした思考を整える。そうして神無は真っ直ぐとした凜のある顔で無轟へ問いかけた。
「誰だ、お前。『無轟(おやじ)』じゃねえだろ」
「―――」
彼の言葉に投げかけられた無轟は驚いた表情を作り、そして、笑みを浮かべた。
「然り」
笑みを収め、無表情となる。
彼から溢れ出す闘気はまったくの別物だ。贋物でもなく、別物。
「私はお前の記憶より作られた無轟―――の形を持つ虚像」
「俺の記憶……アバタールってやつの力か」
神無をはじめとしたものたちはビフロンスで、モノマキアで情報を手に入れていた。アバタールという半神の権能、すなわち能力は『記憶』であった。
記憶を読み取り、吸収する。眼前に居る無轟は神無の記憶を『基盤』とした別人、神無が記憶した無轟の情報を基に姿をしていたのであった。
「アバタールはお前たちの記憶を読み取り、その中から記憶が認識する上で『最強の敵』と《想起》して作り上げた。お前にとっては父である無轟が、ほかの者は『誰か』であろう」
「……」
巻き込まれた者は自分を含めた、チェル、シンク、ヘカテー、アダムの5人。最悪5人分の『最強の敵』が現れてしまう。何処かへと転移された事で半神たちとの連絡も儘ならない。
しかし、突破するには眼前に立つ男を―――無轟の姿をした虚像を討ち果たす必要があった。躊躇は仕無い。戦うまでだった。
「――いいぜ、俺の敵として現れたんだ。倒すまでだ」
「ふっ……そうでなくては困る」
無轟はにやりと笑みを浮かべて、凛那を構える。構えの動作、表情の作りも偽りは無い。構えて、すぐ――彼は斬りこんだ。茜の刀身に爆炎を渦巻かせ、渾身の一振りを伴って。
その必殺の奥義を神無は知っている。恐らく自分の記憶から作り出された無轟の技なら『これしか繰り出せない』事も。
「だがっ、退かねえっっ!!」
振り下ろされた爆炎纏う一刀を彼の力を具現化した黒い風を纏い、臆せず踏み込み、斬りつける。爆炎と爆風が混じりあい、剣と剣は唾迫り火花を散らす。
「うおぉおおおお――――ッ!!」
「ぬぅん!」
初手から放たれた一刀は双方相殺され、すかさず第二撃へと剣戟を打ち合う。
神無の剣術は無轟より受け継いだ『もの』ではない。父たる彼が息子へと学ばせたのは剣を振る所作、斬る覚悟と斬られる覚悟くらいだ。それらを除いて神無の我流として編み出した。
だが、この無轟は父と違う。自分の記憶から生まれた虚像。神無が培ってきた剣術の殆どを読まれている、と神無は判断した。
「ぅらああ!!」
しかし、剣を振るわなければこの虚像を斬り捨てる事が出来ない。父の姿を読み取った虚像を。けれども戦いにおいては刹那的な変化も生じた。魔剣バハムートから白い霊剣『アマツミカヅチ』を抜き取り、瞬速より穿たれる刃はまさに光の槍が如く。
「―――『滅光龍槍』ゥ!」
「ぬ、ぐうぁ……!!」
無轟の胸郭へと一直線へアマツミカヅチの刃が刺し貫いた。短い呻きに似た悲鳴をあげるも牽制の炎産霊神を振り払って爆炎の障壁と化した。
わずか
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