「……」
天からは雪のように青K、茜の火の粉が振り散り、地は双方の繰り出した炎が燻る中で倒れているのは無轟であった。
神無の一刀により体は無残に大きく裂かれており、体内にあった勾玉が青Kの炎に呑まれて散った。これで彼は再生も出来ず、果てるのを幾許としていた。
起き上がる事も無く倒れたまま、無轟は天を仰ぐ無轟の顔に苦悶も一切が無かった。そう、彼は清々しいまでに安らいだ顔だった。神無はその顔を不愉快そうに見下ろしている。
「……」
この顔を見たのは『二度目』。一度目は言うまでも無く、本人の死に際に浮かべていた表情だった。
終ぞ父と戦うという道を選ばず、乗り越える事も出来なかった彼の心に刻まれた想い、記憶の海の奥に息吹いていた一種の悲願を今、かなえてしまった。この無轟は自分の記憶から生み出された『神無の視点』で再現された父。否定もできず、かなえてしまったという現実を不愉快に顔を顰めながらに息をこぼした。
「―――……胸糞悪い」
アバタールの力で再現された存在として、選ばれてしまったのが無轟という父親。しかし、それを父と許容するには理が異なる。紛れも無くこの無轟は幻そのものであった。全くもって、息子が見て模写した贋物に過ぎない。
そして、空間の崩壊を感じ入る。大よその決着を果たすと空間はもとの回廊へと転送される。その兆しの音と共に神無は今一度、無轟を見下ろした。
「見事、だ」
倒れている男はあくまで、無轟として、無轟たらんと安らいだ表情を崩さず、微笑を作った。
「お前は……己の記憶に、己が懐く『最強の敵』に―――…打ち勝った」
「……」
既に神無に刻まれた険しさは無く、有耶無耶な顔でいた。
かける言葉が紡げずに、神無はじっと無轟を見下ろしている。それに気づいたのは神無の記憶を懐いているこの偽りの無轟だった。
「何も言えないのは……無理も……」
「―――今の俺に言えるのは一言だけだ」
「?」
不思議そうに神無を見つめる無轟に神無はゆっくりと言葉を紡ぎ、表情を浮かべた。
「『おやすみ』」
笑顔では朗らかさに遠く、微笑ではいささか足りない。そんな半端な笑みを向けて、無轟はすっと息を零して頷き返した。
「――――ッ――――……ああ……」
偽りの無轟はこの一言に覚えがある。この一言は、無轟が死して間もなく神無が紡いだ弔いの言葉であった。理解したと同じくして全身の姿が薄らぎ、やがて消えさった。
神無は再び、元の第一島にある神殿内の回廊に立っていた。足元には円陣が刻まれているが、機能は止まっているように見える。
同じく、周囲にはチェル、シンク、ヘカテー、そして、アダムが同じように立っており、元の場所に戻った事を気づく。
「あ、神無さん、アダムさん。無事でしたか?」
「おうよ。――厄介な罠だったぜ」
「全くですよ。悪趣味にもほどがある」
「だな」
記憶から再編された敵と戦った神無、アダム、チェルはそれぞれ苦々しい顔で納得した。
シンクとヘカテーはその様子に苦笑を含ませながら、周囲の状況を見る。
既に半神たちの居る気配が無い。恐らく先に進んでいったのだろうと思った。無理も無い、この先に彼らの母が囚われているのだろうから、救い出さなければならないという思いに駆られる事は誰にでもある。
焦燥のあまりにアバタールの罠に嵌まっていないことを願い、神無たちは奥へと進んだであろう半神たちと合流のために進もうとした。
だが、新たな気配の出現に神無たちは動きを止める。強大な力を秘めた気配に剣呑として、身構える。彼らの前に幽玄と現れたのは白で統一された衣装と隠すように巻きつけた包帯で素顔を隠した――体格からして、男性であった。
「……誰だ、お前」
「――」
男は神無の問いかけを無視するように黙し、その視線は彼らを見据えるようにじっくりと見ていた。そして、白い布の下から口を開いた。
「いや、失礼。私は……エンと申します。お見知りおきを」
「……」
己をエンと名乗った白服の男を神無は鋭い眼差しで見据える。強かな含みのある丁寧な言動はなお不審を煽る。
だが、神無はふと思う。この男には仮面が無い。素顔を白い布で隠しているが、その下が仮面ではないことはすぐ理解した。問題は彼はカルマの仲間なのか、あるいは別なのか。
「問いに答えろ、お前は―――『カルマの仲間か?』」
「……お互いに協力関係を結んだ者同士――盟友、と思えばいいですよ」
「そうか。なら、今此処で撃つ」
簡素な一声と同時にチェルはイザナギの引き金を引き、装填した魔弾が火を噴く。視界全体を覆うように迫る黒い渦の塊にエンは失笑気味に息を零し――、
「『リフレクトウォール』」
その言葉を発したと共に
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