時同じくして、アバタールの罠を越え、最奥の入口へとたどり着いた神無たちも彼女の慟哭に気づいた。
「……神無」
「ああ…、入るぞ」
神無とアダムは目いっぱいに扉を押すが動き出す気配はなかった。アダムはすぐにこの扉に術が施され、外界からの侵入を阻んでいることに気づいた。
「皆さん、この扉――強行突破しましょう!」
神無らはうなずき返し、武器を取り出して一斉に各々の技を繰り出した。だが、扉を守るように障壁がそれを無効化した。
「父さん! まるで効いてないよ…!?」
「言われんでも解る。それでも撃って撃って撃つんだ! 障壁の限界をぶち抜く!」
「くそ…中で、何が起きてやがる!!」
神無たちの尽力とともに、最奥の広間へ話は戻る。
アバタールに刺し貫かれたディザイアだが、両手で刃を掴んで動きを封じた。同時に背より魔神が現れ、アバタールを殴り飛ばした。
翡翠の刀剣――クサナギを手放したが、彼の不定形の肉体は剣となって再び、ディザイアへと迫った。
「……」
一方のディザイアは掴んだ刃の感触、溢れ出る深紅の血の温もりに思考が戦いから遠のいていた。母を守るためにならこの命に躊躇いはないと己で言った。
なのに、どうしてか急に、『怖い』と思い始めた。魂が悟っている。ディザイアの命の刻限がすぐそこまで来ている。このままでは、母を護れない。
「――――ぉお」
それでもこのわずかな命を、今は総て―――。
「おおおおおおぁああああああああアアアアアアア――――――――!!!!!!」
―――母の為に!!
ディザイアは自分を刺していた宝剣を無理やり、魔神の剛腕で引き抜く。溢れんばかりの血が噴き出るも構わない。迫るアバタールの攻撃を己の鉄拳で粉々に打ち破る。
剣だった腕を破壊され、身動きが止まった瞬間だった。魔神の片腕が伸び、彼の頭部を掴みとる。骨が軋み上げる音、苦しげな呻き声にディザイアは無情の眼光で見据えた。
「―――終わりだ、アバタール」
「ぁ――――がっ―――やめっ――――!!」
無情の一刀が振り下ろされた。魔神は残った片手で持ったクサナギで切り裂いたのだ。アバタールは断末魔も上がることなく事途切れ、魔神は彼を地へと投げ捨てた。
地へ打ち捨てられたアバタール。その身を纏っていた漆黒の鎧は崩れ、本来の少年の姿が露わになった。その虚空の瞳にはもはや誰も見ていない。唖然と口をあけ、端から血が爛れ、無残な一刀の傷跡が体に残っていた。
「………ん」
レプキアを封じていた術式は大きく二つ。一つはカルマのSin化による従属と洗脳だが、これは微塵も彼女にとっては無意味であった。問題だったのはアバタールの勾玉による術で深い眠りをついていたのだった。
そしてアバタールの支配を失った勾玉の術は効力を失い、彼女は意識を取り戻すことができた。かすれた視界を開くと、目の前に大きな黒い影が立っていた。
「え―――?」
明確な意識とともに影の視認が早くなり、理解した。目の前にいる影は、血塗れの我が子ディザイアであった。
ハッと理解したことで、愕然とし、言葉を詰まっている彼女にディザイアは抱き寄せるように身を倒れこんだ。もはや、これ以上の気力で動くことはできなかった。
辛うじて抱き留めたレプキアだったが、やはり理解が回らない。なぜ、こうなってしまったのか。誰がこんなことをしたのか。パニックを起こしている彼女へディザイアの澄んだ声が入る。
「大丈夫……か? 母さん……っ」
ボロボロの彼が浮かべた安堵の顔、けれども今の彼の状態を見てもそんな余裕はなかった。レプキアは確りと言葉を発した。
「ええ―――……ディザイア、何があったの」
「悪い。…後でアルカナたちに聞いてくれ―――俺は、もう限界のようだ」
霞みかかる視界に精一杯、母の顔を見つめる彼の微笑みはとても物悲しいものだ。彼女もその最後を理解し、それでも可能性を捨てたくなかった。
「まだ、間に合うはず――」
「いや、俺は………死ぬ」
掠れつつある声に、レプキアは首を振った。いやだ、とボロボロ涙を流しながら。最初、己の理不尽な決断で彼を世界の果てへ追いやり、その恨みを買った。しかし、ゼツたちのお蔭で蟠りはなくなり、お互いに分かり合えると思った矢先。
「……母さん。この先、守れなくて―――ごめん……ここで俺は命を懸けて護る事が、怖かった………けど、守れて良かった! ―――――っ」
「あ……ああ……!!!」
彼女の胸元へ蹲るように彼の躰は完全に力を失い、事切れた。レプキアは亡き息子の躯を抱き留めながら、涙と嗚咽を噎ぶ。
同時に、広間の入口だった扉が粉々に吹き飛ぶ。土煙から神無たちが姿を現し、周囲を確認した。
「大丈夫か、アルカナ!?」
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