とある世界の、さまざまな町のシステムがあるコンピュータールームの奥。かつて、賢者の名を語った弟子によって作られたハートレスが製造されていた場所。
その中央に、足元まである長い銀髪に銀色の目をした少女が立っていた。
「――近づいておるの」
白と銀の装束を揺らしながら、天井を見上げ目を閉じる。
そうして、脳裏に世界を巡る彼らを思い浮かべる。
「準備も終わったし、後はあやつらに賭けるしか我は出来ぬ…」
この世界では勇者と呼ばれる人物。あちらの世界では自分を守ると誓ってくれた者。そんな彼らについて行くと決めた人。例え世界が違っても、その心は一緒だった。
と、ここで少女の脳裏に一人の女性の姿が浮かび上がる。
捕まえられる自分をこの世界へ逃がし、単身で彼に立ち向かい―――負けてしまったであろう彼女の事を。
「スピカ…お主は無事なのか?」
風に揺れて囀る木々の中にある、色取り取りの花畑。
その中央に、金髪の女性が座り込んでいた。
「――これも、あの人の優しさかしら…?」
何処か寂しげに呟くと、青く澄み渡っている空を見上げる。
この空も、周りの風景も、記憶にある昔の光景と同じ。でも、今いるこの場所が幻の世界なのは分かっていた。
そんな時、背後に一つの気配を感じ、ゆっくりと立ち上がると振り返った。
自分を“閉じ込めて”いる、銀髪の少年に。
「こんにちは…それとも、こんばんはがいいかしら?」
女性―――スピカが笑いかけると、少年―――ルキルは困惑しながら辺りを見回した。
「この夢…――俺、寝てるのか?」
「ええ。放課後にあなたのお友達に振り回されて、家に帰ってすぐに寝ちゃったじゃない」
「ハハ…そうだった。あいつらに無理やり商店街に連れていかれて、シオンのお見舞いの品探し回ったんだっけ…」
ルキルが笑みを浮かべるが、心から笑っていない事は手に取る様に分かっていた。
彼の身体を借りてあの男に戦いを挑んで負け、しばらく経った頃に起こった事件。それが、彼から―――周りの人達から笑顔を奪ってしまった。
全ては、彼の友達―――いや、今では大切だと思っている少女と私達が原因。何年も前に犯した私達の罪が、少し前に少女の中で目覚め―――まるで浸食するように、二人の友達を生命の危機に追いやった。
少女が生きれば、二人は記憶も生命力も奪われ人形となって死んでしまう。しかし、二人を助けるには少女を消すしかない。そんな未来許せなくて、皆が方法を探した。
その甲斐あって、どうにか三人が存続出来る未来は手に入れたものの、少女は眠りについてしまった。そう…“彼”の手によって。
「大丈夫。あの子は強いから…きっと、目を覚ますわ」
「そう、だといいけど…」
両手で肩を叩いて励ましの言葉をかけるものの、ルキルの表情は冴えない。
少女が消えるか、生き残るか。彼らが見つけたのは、本当に一か八かの方法だった。ルキルだって分かってはいるが、納得はしたくないのだろう。
スピカもこれ以上の言葉が思いつかずに沈黙が過っていると、ルキルが話しかけてきた。
「あの…これって、夢なんだよな?」
「ええ、これは夢よ。どうしたの、急に?」
「いや…こうして何度も話していると、どうもここが夢に思えなくて…」
ルキルが顔を逸らすと、スピカは思わずクスクスと笑ってしまう。
ここは自身の過去の記憶で作られた世界だが、自分自身まで幻ではないのだ。
だが、その事を説明すると他の知識まで教えなければならない。なので、話を進める事にした。
「でも、これは紛れもない夢の世界よ。時が来るまで覚める事を許されない、深淵の眠りで見ている私の夢…」
「まるで、眠り姫みたいな話だな」
「そうね。魔法にかけられて、目覚める事なく眠らされてる…――でも、一つだけ違う所があるわよ」
「それって?」
ルキルが聞くと、スピカの脳裏に白い服を着た男性を思い浮かべる。
契約を交わした少女を助ける為に、レプリカである彼に乗り移った。この世界で何年も前に死を迎え、霊体となった自分には誰かの身体を借りないと接触すら出来ないからだ。
そうして男性と戦うが最後は敗れ、死んでいる自分の魂を乗り移ったルキルの中に完全に閉じ込めた。優しい眠りの魔法と共に。
「眠りの魔法をかけたのは、王子様なの。だから目覚めるのに、王子様は必要ない。言ったでしょ、時が来れば目を覚ませるって…そんな魔法、白い王子にかけられたから」
「でも、その時はまだ先なんだろ? 辛くないのか…?」
心配してくれるルキルに、スピカの中でちょっとした悪戯心が芽生え出した。
「そうねぇ……じゃあ、あなたとキスしてみようかしら? そしたら目覚めるかも」
「キッ!? キ、キキキキスゥ
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