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Another chapter10 Aqua side‐4


「――っ!?」

 あの人形と同じ声に、ルキルは目を見開いて耳を疑う。
 それと同時に、頭痛のようなものが頭に過る。
 頭を押さえている間に、視界がだんだん黒に塗り潰される。まるで闇に意識を持って行かれるような錯覚に、ルキルは必死で片膝で立つように起き上った。

「誰、だ…っ!?」

 どうにか声を上げると、痛みが嘘のように引いていく。
 そして、周りを見ると何故か辺りは夕日の町ではなく真っ暗な闇の中。
 あの人形も、時計台も、夕日も見えない世界を見回すと再び声が聞こえた。

 ―――お願い、あたしを…人形のあたしを、倒して

「人形…?」

 膝を付いたまま疑問の言葉をかけると、姿の無い声の持ち主が頷いた気がした。

 ―――あれは、機関の装置―――記憶の欠片を集めて力を増幅させる装置で、あたしじゃなくなった本来のあたしなの

「機関…」

 少女の説明に、ルキルの心に何とも言えない感情が湧き上がる。
 自分を作り出し、ナミネまでも利用した集団。きっと、彼女も自分と同じレプリカだから利用されたのだろう。
 そんなルキルの心情を察したのか、少女は説明を続けた。

 ―――本当は、あたしは皆の記憶と共に消えたの。だけど、僅かだけどあたしじゃないあたしの記憶がここに残ってた

 少女の説明と共に、あの人形の会話を思い出す。
 『No.i』は本来のコピー元だけでなくさまざなま人の記憶を吸収する事で、初めて繋がりが出来て姿を映す。だから、人形が消えれば記憶は解け誰にも残らない。
 しかし、忘れたからと言って無かった事にはならない。だから、人形として刻まれた記憶は最後に消えた場所に残っていた。
 それを目覚めさせたのは、自分だ。この身体に刻まれたレプリカとしての記憶が、人形としての彼女と繋がりを持ってしまったのだから。

 ―――あれは大事な親友を取り込もうとした、あたし。それが具現化して―――今度は、あなたを取り込もうとしてる。ううん、もう取り込む作業を行ってる

 取り込む作業。それが何なのか、もうルキルは分かってる。
 ここに来るまでの知らない記憶、人形が変化する度に刻まれていく記憶。その度に、自分自身の記憶は失っていく。
 現に、自分を拾ってくれた人物、一緒に旅をしている人達、それ以前に何の為に旅をしていたのか記憶から消えてしまっている。
 改めて今の自分の状況を理解し、心に恐怖が湧き上がる。しかし、どうにかルキルは恐怖を押し込むと話を続けた。

「完全に取り込まれたら…俺は、どうなるんだ?」

 ―――あなたは、あたしじゃないあたしに変わる。そして…――命令通り、ロクサスを…ううん、ソラも取り込む事になる

 ロクサスと言う人物はよく分からない。だが、ソラについての記憶はまだ残っている。
 ナミネの大事な人。親友の姿なのに、俺を俺として見てくれ…そして、改めて友達になってくれた。
 だからこそ、守らなければいけない。記憶を完全に失う前に。

「…そうか。一つ、いいか?」

 そこで言葉を切ると、見えない人物に向かって顔を上げた。

「君は、誰なんだ?」

 闇の中にいる、見えない少女に語りかける。
 一瞬沈黙が過るが、少女がゆっくりと口を開いたのを感じた。

 ―――あたしは…人形に残っていた本当のあたしの思い。願いや思いは、記憶に関係なく残るものだから

「その…願いって…?」

 ―――それは…

「それは…――っ?」

 聞き返すなり、ルキルに記憶が刷り込まれる。
 時計台、甘くてしょっぱいアイス、笑い合う赤い髪と金髪の二人、遠くで自分達を照らす夕日…。
 とても楽しそうな記憶なのに、何故か切なく感じてしまう。悲しみが伝わり、知らぬ内に一筋の涙が零れルキルの頬を伝った。

 ―――本当のあたしは、こんな事望んでない。だから、お願い…

 闇の中で、少女はルキルにハッキリと告げた。

 ―――あたしを、倒して

 その言葉と共に、何処からか光が現れて闇が瞬く間に消える。
 気づいた時には、すでにあの人形が蹲る自分に向かって剣を振り上げていた。

「…分かった」

 そう呟くと共に、無情にも四つの剣がルキルに振り下ろされる。
 しかし、それよりも早くルキルは一瞬で人形の懐に入り込み、手に持っていたソウルイーターで横に振るった。

「うぉああああああっ!!!」

 力の限り剣を振るい、人形を大きく人形を薙ぎ払う。
 吹き飛ばされた人形は地滑りで着地するが、ルキルは構う事なく全身に闇を纏わせた。

「これは、俺の…――あいつの力。もう、使わないと決めた力」

 人形を睨みながら、胸に手を当てまだ残る記憶を巡らせる。
 ホンモノと同じ闇の力をずっと宿していたのに、リクにもソラすらも勝てなかった。
 だから恩人であるあの人に拾われ
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