見知らぬ深緑の樹海の世界へ計画を実行する手前の暇としてやってきていた仮面の女性―――カルマは聳える樹に背中を預け、座り込んだ。
静けさの中には鳥の囀りや虫の蠢き、動物の足音のみで人の気配は無かった。そうして警戒を薄め、彼女は仮面の下、瞼を閉じた。
普段から眠気なんて起きない。基本的に数日は余裕で動けるが気がつけば自然と瞼を下ろして、「眠る」。元々、この体に「眠り」など不要であった筈。
血すら流れぬ冷たいもの――機械だ。
しかし、この身にあるのは偽りの心ではない、数え切れない何人もの心を『この中』に溶かし、『心』とした。そう、私を作り出した彼女は言った。
「―――」
それは遥か昔の記憶であった。どれほどの月日を遡るであろうか、遠い遠い過去は数える事すら無意味と想うほどに長い年月の起源へ。
『私』が目覚めた時、最初に眼にしたモノ―――それが彼女。長い銀色の髪、月の様な輝きをした金の双眸、黒い衣装を包んだ女性を。
「私がわかるかしら?」
不安の色を瞳に抑え、あくまで淡々とした声で女性が問いかけた。
目覚めた『私』は滑らかな口調で答えた。
「―――はい、マキア・ゼアノート」
そう答えを聞いた彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべ、ぎゅとカルマを抱きしめる。
『私』はまだ理解できなかった。心を埋め込まれても、未熟な精神ではとても。
だが、心のどこかから満ちる感情が、今はただ、彼女に抱きしめられていたいと想っていた。カルマは彼女が飽きるまで抱きしめられていた。
カルマが産まれた世界、そこは様々な世界を一つにしたような広大なる世界であった。様々な種族と異なる文明、色捲(いろめ)くほどに産まれたばかりの彼女には鮮烈、凄絶であった。
まだ平和だった頃、カルマは各地を廻っていたある女性と共に。そう、生みの親であるマキア・ゼアノートと呼ぶ女性と。
「―――やはり『資料』なんてものは存在しないわね」
各地を廻る、という冒険の実はマキアの研究の一環でもあった。しかし、カルマは気にせず彼女の助手として研究に加わっていた。
今、二人はある国で一番の図書館へとやって来ていた。そんな中、マキアが本棚を探す指先を止めて、ため息混じりに呟いた。古い歴史も一切が本となって残る訳ではない。紛失もあれば、人の手によっても改竄され、抹消される。
「マキア……此処にもなかったの?」
残念そうな顔をしながらカルマはマキアへと言い寄る。彼女は苦笑いを浮かべ、
「そんなものよ。…あったとしても、『参考』になれるかどうか……ああ、もうちょっとだけ探してみるわ。貴女も何か読んでいて。終わったらそっちにいくから」
。
「はい。わかったわ」
マキアへ微笑み返したカルマは、言いつけどおり本一冊を手にとり、椅子に腰掛けて読み始めた。
しかし、遠目で彼女を見据えながら、研究に関わる事で様々な知識を知り得たカルマは内心、彼女が探求している『モノ』の事を思い返した。
心
キーブレードとχブレード
キングダムハーツ
それらはマキア自身の探求、そして、『ゼアノート』の悲願でもあった。
マキア・ゼアノート。『ゼアノート』の名は受け継がれていくものであり、今に想えば、彼女は最後のゼアノートの名を受け継いだ女性だった。
『ゼアノート』。それは心を探求し、キーブレードとχブレードを探求し、キングダムハーツを探求する理(みち)を究めようとしたものたちの名であり、組織であり、刻印であった。
マキアの過去もまた各地を廻る中で教えてもらえた。彼女は元々、浮浪孤児で、生きる道すらなかった絶望の中で、奇跡的に『ゼアノート』を名乗る男に拾われた。
マキアの名もその『ゼアノート』により授かり、一心に『ゼアノート』の全てを学んでいった。そして、若くして『ゼアノート』の名を受け継ぐ儀式を経て、『マキア・ゼアノート』として生まれ変わったのであった。
これらは『血』で受け継ぐのではない。代々の『ゼアノート』が自分で弟子を、後継を見定めて、育て上げ、『ゼアノート』を受け継がせる。
彼女もその名を受け継ぎ、研究に探求し、没頭している。
「私にはこの理(みち)しかないもの」
―――それは過去を教えたマキア・ゼアノートはそこ果敢無くも諦観の色をした声と瞳でカルマに口走ったことがある。
全てを悲願果たせなかった先代の『ゼアノート』たちの為にと、カルマは思わず口にする。瞬間、彼女は噴出してケラケラと珍しいまでの高笑いを上げた。
驚き、戸惑うカルマにマキアは一息ついてから話を続けた。戸惑う彼女に対するマキアは母のように朗らかに見つめながら。
「まあ、貴女の言うとおり我が師である『ゼアノート』たちの悲願……弟子としては果たすべきであることは心の片隅にあ
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