アウルムが笑いながら、コツコツと足音を鳴らしながら二人に近づく。
しかし、シルビアは前のように逃げる事はせずに腕を組みながらその場で堂々と立つ。
この様子にアウルムの笑みが濃くなり、すぐ傍で立ち止まると嬉しそうに話しかけた。
「ようやく心を決めたようだな、シルビア」
「こうなった以上、潔く認めるぞ。お主と一つになる事を」
覚悟を決めたのか、目を合わせるようにアウルムを見上げるシルビア。
そんなシルビアに、アウルムは満足そうに頷いて先程までクウ達がいた場所を見回す。
「かつてこの世界を救ったとは言え、お前の選んだ勇者達はさほど役には立たなかったな。これだけの行動を起こしたと言うのに、結局はこの有様だ…」
「勝手に負けた事にするでない」
急に言葉を遮るシルビアに、思わずアウルムは振り返る。
そこには不安も恐れも感じさせない表情を浮かべるシルビアが、腕を組んだままアウルムを見ていた。
「あ奴らがいる限り、“物語”はまだ続いておる。それなのに勝った気になるとはとんだお気楽者じゃ」
「未だに信じているんですか、光を失った彼らを?」
意外だと言わんばかりにエンが目を見開くと、シルビアは顔を俯かせて話し出す。
「…この世界は、お前を陥れた男の力の干渉を受けている。言っていれば、用意されたレールの敷かれた道を歩くような物じゃ。それでも、彼らは屈せずに歩いてきた。計画通りに足を運んでも、その度に予想外の出来事を起こしてきた。我は“あ奴ら”と旅をして、それを幾度となく見てきた」
ある事件をきっかけに、本来の世界のウィドはある人物と共に異世界を駆け巡った時期があった。
大昔に起きた戦争を再現させ、年老いた身体を捨て若い身体を手に入れる。その計画の為に、ゼアノートは一度敗れても己の肉体を捨てて時間に干渉していた。
ハートレスを使い世界の心を闇に集め、キーブレード使いを集める為に記憶を操り、抜け殻と人形を手中に納めたり、さまざまな手を使いハートレスを倒させて人の心を集め…――それの野望を、勇者と呼ばれる者達の心が阻止してきた。
それでもこの世界の近い未来、夢の世界を使ってχブレードのピースを手に入れようとするだろう。時間に干渉し、自らの分身を作ったゼアノート達によって。
シルビアが本体である剣に宿った状態で見てきた記憶を巡らせていると、エンも納得するように頷いた。
「それは私も認めますよ。だから、こんな大規模な計画立てたんです。こうでもしないと、彼らの絆は壊れませんからね…」
本来なら、この世界に逃げ込んだシルビアを奪うつもりだった。
だが、その前にシルビア自らが行動を起こした。過去に干渉してテラ達を呼び寄せ、ウィドに剣を拾わせ、更に“ある事”を行い、ソラ達を集める様に仕向けた。
こうなってしまえば、もはや衝突する事は避けられない。そんな状態で、カルマの世界の勢力と組んでしまったらどうなるか分からない。
だから、彼らの心に傷を負わせて無力化させる計画を立てた。例え失敗してもカルマに『Sin化』させれば良かった。結局はシルビアが何処かの世界に逃がしたが、もう彼らには戦うだけの精神もないだろう。
「壊れぬわ、そう簡単にの」
エンがそんな事を思っていると、シルビアが首を振って否定する。
自信ありげのシルビアが滑稽に見えたのか、アウルムは堪えきれずに笑い出す。
「フッ…ハハハハ!! 愚かだな、シルビア!! どうしてそう自信満々に…!!」
「勇者達と彼らと行動する者、未来から送られた使者……そして、クウがいるからの」
最後の言葉を言った途端、シルビアの前に風が吹く。
目の前には、自分の力で作られた剣の切っ先が顔に触れるか触れないかの所で止まっている。
そうして剣を握るエンは、怒りの篭った瞳で睨みつけている。
「奴は全てを闇に染める…!! そんな奴にどうして希望を寄せるっ!!?」
「ああ、そうじゃな。奴は馬鹿で、何事からも逃げて、その癖甘くて、物事を割り切れなくて、人の気持ちなど考えず……本当に口に出したらキリがない」
本人が聞いたら傷つくか不貞腐れるかの言葉を平然と言うシルビアだが、何かを思い出す様に目を閉じると穏やかに笑う。
「けれどな、奴はある《約束》をしてくれた…――我が酷い事をしたのにも関わらずの」
本来の世界で交わしたクウとの記憶は、今も鮮明に残っている。
泣いてる自分を抱きしめてくれた温もり。恐怖と罪悪感に縛られた心の鎖を解いた優しさ。例え本人が忘れても…自分の胸の中に覚えている。
心を穏やかに語るシルビアに対して、エンの表情が強張っていく。
「止めろ…!!」
「そこを考えれば、クウはお主が消したあの子供に本当に似ておる。お人好しで、困ってる奴に
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