―――魚から鰭がなくなったように
―――鳥から翼がなくなったように
―――私も何かがなくなった…
暗闇から意識が目覚めると、最初に感じたのは固くて冷たい感触だった。
そおっと瞼を開けると、視界に映ったのは石造りの地面。私はそこに倒れていた。
地面に手をつけてゆっくりと上半身を起こす。青の瞳に金色の前髪がかかって視界を塞ぐ。
しかし、邪魔になった髪を払おうとはせずにゆっくりと自分の両手を見つめた。
『わたし…?』
首を傾げていると、不意に記憶が蘇る。
突然現れた黒い生き物。必死に逃げていたが、後ろから『何か』を取られた感覚がして…。
そこから先は覚えていない。覚えているのは、家族や友達に住んでいた場所。過去の事もちゃんと覚えているし、もちろん名前も忘れていない。
なのに、それが《私》とは思えなかった。
『だれ…? わたしは、だれ…?』
記憶にある自分の名前が言えないもどかしさ。
記憶にある自分と同じなのに、何かが違う。
私は、誰なのか。
『誰でもない』
突然聞こえた低い男の声に、顔を上げる。
そこには、長い黒髪を後ろで幾つも編んで結んでいる黒のコートを来た男が立っていた。
『お前は心を持たぬ抜け殻…――そして、我らと同じ存在【ノーバディ】だ』
『ノーバ、ディ…』
聞き返す様に呟くと、男は縦に頷く。
そして、理解した。私の中に無い『何か』の正体。
この男が言った“心”だ。自分の中にポッカリと空いた空白。それなら納得がいく。
思わず自分の胸を押さえていると、男が手を差し伸べてきた。
『存在が、心が欲しいか?』
その問いに、私はすぐに返事が出来なかった。
自分の中で警報が鳴っているのだ。この人の所に行ったら駄目だと。
だけど、それ以上に“心”が欲しかった。どうしてか分からないが、それでも欲しいと思ってしまった。
私は小さく縦に頷く。すると、男は言った。
『ならば、我らと共に来るがいい』
そして私はゆっくりと、男の手を、握――。
『言葉巧みに使って少女を誘拐とは、最近のオッサンも怖いねぇ』
突然、別の男性の人の声が後ろから投げつけられる。
手を差し伸べた男が、顔を歪めて自分の後ろを睨んでいる。これを見て、ゆっくりと私も振り返った。
『天、使…?』
大きな黒い双翼を纏ったとても美しい黒い天使が、そこにいた…。
懐かしい記憶の夢が消え、意識が現実へと浮上し始める。
「――ん、うぅん…」
身体に異様な気怠さと鈍い痛みを感じ、ゆっくりと目を開ける。
ぼやける視界の中、長い金髪に紫の瞳をした女性―――ミュロスが本を持ってこちらを見ていた。
「気が付いた?」
「…私は…?」
「ミュロスさん、どうかしましたか?」
頭が働かず少女が呟いていると、プラチナの髪に白い瞳をした少女―――王羅も近づいてくる。
そのままミュロスのように少女の顔を覗くと、嬉しそうに笑った。
「良かった、気が付いたんだね! 気分はどう?」
王羅が声をかけると、少女の意識も少しずつハッキリしてくる。
今の状況に対していろいろと思う事があるのに、少女の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは一人の人物だった。
「――クウさんっ!」
名前を叫びながら、少女は勢いよくベットから起き上る。
直後、少女の全身に鋭い激痛が走った。
「っ…!」
思わず身体を抱き締める様に縮ませていると、ミュロスが肩を掴んで叫ぶ。
「動かないで! まだ治療してからそんなに経っては――」
「でも…クウ、さんが…!」
痛みを堪えながら、少女は辺りを見回してクウを探す。
しかし、この部屋にはベットの上であちこちに包帯を巻いたカイリとオパールとアクアの姿しかない。よく見れば、自分にも腕や足に包帯が巻かれている。
他の人がいない事に少女が一抹の不安を覚えていると、王羅が屈み込んで視線を合わせた。
「ねえ、君の名前は?」
優しく質問をする王羅に、少女は幾分気分を落ち着かせてゆっくりと答えた。
「レイア…です」
「レイア。何があったのか、聞かせてくれるかな?」
更に王羅が優しく問いかけると、少女―――レイアは複雑な表情を浮かべて顔を俯かせた。
「あの…本当に、いろんな事があったんです――…話しきれないくらい、悲しい事…」
ポツリポツリと言葉を呟きながら、レイアはその情景を頭に過らせる。
大切な人が敵になってしまった事、その人の弟が自分達を信じてくれなくなった事、もう一人の彼との戦い、目の前で仲間が消えてしまった事、そして…自ら犠牲にして逃がしてくれた人物の事。
同時に最後に見せた彼の悲しい表情と叫び声が脳裏に浮かび、レイアは下唇を噛んだ。
「私達の
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