目の前に居るアナタはあなたではない
同じようで異なるアナタを
それを許容する暇を運命は間を与えはしない
交代で神無と神月は共に近くの別室で休息し(また負傷者が暴れ出す可能性を考慮して)、一抹の想いに耽る。
その懐く感情を父も同じように懐いている筈だった。少なくとも今の父の顔にはその色が伺えた。
「お爺……」
「どうかしたの、お兄ちゃん」
二人の休息のタイミングを窺って、妹のヴァイ、母のツヴァイ、恋人の紗那が部屋へやって来ていた。
思い悩む父と兄へジュースを手渡し、質問する。ジュースを受け取った神月は、確認するように呟く。
「お爺は俺とヴァイが子供の頃に亡くなってる。……憶えてるか」
「ま、まあーちょっとだけ……」
ヴァイは自信なさ気に頷き返す。幼い頃に死別した祖父を微かには憶えているが、今あの部屋に居る彼は異なる世界の無轟であった。
同一と見るには見れない、ある種の他人であるが、それでも思うところは在る。ツヴァイも神無もそうであった。
「私もお義父さんの顔を久しく見たわ」
懐かしむようにツヴァイが柔らかに笑んだ。旅の後、神無と共に彼の両親の無轟と鏡華に出会い、一緒に過ごした日々を。
「まあ、といっても三人とも俺と違って老いた時の顔しか知らないけど、俺は……アイツは違う」
もう一人、この部屋に居座る者が居た。
明王凛那。彼女は無轟の刀として長く振るわれてきた。しかし、今の彼女は自分を落ち着かせている様子でずっと黙りこくっている。
燃えるような瞳も今は冷め切って燻るように怜悧にしている。神無が視線をツヴァイへ向け、
「俺はあの頃の親父を知ってる。間違いないさ。それに……イリアドゥスの言葉通りなんだろう」
それは倒れた彼らを発見し、城へと向かっていく中の出来事。
そんな中で、神無はイリアドゥスへ問い質していた。
あの時の心中、かなり慌てていたのだろう。やや怒声混じりに問うていたのは憶えていた。
「どういうことだ、異なるセカイの親父だと? どういうことだ…!」
「落ち着け、神無」
掴みかかった神無の手をそっと掴み、その強い問いかけにもイリアドゥスは無氷の表情、凜然とした姿勢で神無を諌める。
その双眸の冷静さに思考を熱していた彼も落ち着き、それを察して彼女は話を切り出す。
「これに関しては私もうまく説明できるか自信は無い。そも、このセカイと世界の違いはわかるか?」
「…1回だけ言ってたな。セカイは世界を収める器。世界はセカイを満たす水だって」
「そう。つまり、セカイは樹でもあり、世界は種子や実でもある。
なら、その樹は『一つだけ』なのか? そうじゃない。樹(セカイ)は何本もあり、同じように種子、実を為す」
建物で例えるなら、マンションである。一緒に並んだ部屋一つ一つが『セカイ』、その部屋の中にあるもの全てが種子、実たる世界だ。
同じようなものも在れば、無いものもある、似たようなものもあるし、非なるものもある。
しかし、隣り合う部屋は簡単に行き来はできない。次元の壁といえるで隣り合っているだけだから。
「……」
「異なるセカイの無轟と無轟の共通は多く、異なるも多い。年の差もそうだろう」
「……折れた、凛那もか」
沈黙から出た言葉、倒れていた彼が尚も強く握っていた愛刀の無残な姿を神無は瞳に刻んでいた。
それはこちらの凛那と違って死んでしまっているのかと不安を懐くほどに。
しかし、身震いを許すほどイリアドゥスは優しくない。彼女は淡々と、今すべきことを告げる。
「神無、今は彼らの救助を優先だ。詳しい話は彼らの治療と回復の後ですればいい」
「ああ……そうだったぜ」
不甲斐無い己の失念を謝し、神無は救助の手助けへ駆けていった。
そうして、今へと至っていく。
「―――……今は親父たちの回復が大事だ。今、どう思うが関係ないんだ。確りとただ受け止めるさ」
自分に言い聞かせるように、神無は強く言い切った。その言葉に神月も意を決し、同感の想いにいたる。
すると、ヴァイは話題の切り替えに明るく話を持ち出す。
「そういえば、お爺ちゃん。やっぱりお父さんに似てるよね! そう想わない? 母さん!」
「ええ…昔を思い出すわ……鏡華さんもあちらでは元気なのでしょうか」
「さあな。夫婦なのかも聞いていないしね。夫婦だったら、今頃親父が出来てるだろうし」
「俺より若い親父に俺より幼い俺………はあ、頭が痛くなってきたぞ」
和気藹々に笑いあう家族に凛那は傍から小さく笑みを零し、直ぐに収める。
凛那も一度、あの無轟に出会っている。最初は心が躍るというに相応しい高揚だった。もう逢えない。そう心に決め、神無らの助力に応じたのだから。
しか
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