それは事件が起きる僅かな前の事である。
塔からイリアドゥスの力で修練場の広間に降り立った無轟はクウを肩に抱えたまま、広間の広さに感嘆の一息を上げる。
「…随分とデカイのだな」
「此処は皆の修練の場として作られた。多少、暴れても問題ないだろう」
移動させた張本人イリアドゥスは淡々と言い、言い終えるや二人から距離をとった。
彼女は見定める為に、無轟の協力を応じたのだから。
その期待に小さく苦笑の笑みを作った無轟は抱えている意識を失っている彼を、
「起きろ、クウ」
軽く放り捨てるように地面に落とす。その痛みに呻きを洩らしながらクウの意識は復活する。
「うっ………ってめ、なにを―――ッ!?」
先の不意討ちなど言いたいことがある起きかけた彼へと問答無用に茜色の刃が突きつけられた。
突然の行為に、当惑するクウへ無表情な無轟は静かな、しかし、気迫を帯びた声で問いただす。
「もう一度、聞こう。―――クウ、お前は全てを諦めたのか?」
「ッ……」
塔で本音をぶちまけた事で妙な平静がクウにはあった。だからこそ、冷静に状況を見ることが出来た。
目の前には無轟、少し離れたところに、イリアドゥスと名乗った女性がいた。
そして、無轟は今、自分へ切っ先を突きつけている。非情にまずい状態ということが、理解できた。
「それとも、塔でぶちまけた弱音が本心か?」
「俺は―――!」
彼へと言い返す刹那、一気に燃え上がった刀が迫っていた。
その一撃を、クウは―――。
爆発音が轟いた修練場へ大急ぎで向かっている者達、それは神無や、神月、毘羯羅やミュロスたちであった。
下層に居た彼らは修練場に居たシムルグの連絡を聞きつけて、駆け出したのだった。
位置的にも近い為、眼と鼻の先であった。
「ああ、クソ! なんで、凛那の奴もなに手ェ貸していやがるんだ!!」
神無は駆けながら、事件に協力しているだろう所有者思いの強すぎる刀に怒声を上げる。
凛那の様子は神無の眼から見ても瞭然な様子だった。異なる世界の無轟に戸惑いながらもどう接するか解らない。
だからこそ、彼女が無轟に一緒に行動すると言った時、その戸惑いを晴らした期待と『このような事になる』危険性を見据えてもいたのだった。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早く止めに行かないと…!」
ミュロスはやや焦る様子で、神無を一喝する。そんな中、毘羯羅が神妙な雰囲気を和らげるように別の話題へ変えた。
聳えて見える修練場の神殿に対して、言う。
「直ぐに近くに建てていて正解だったな」
「入って真っ直ぐ行けばすぐだ! 行くぞ!」
そうして、彼らは修練場の入り口、続いて真っ直ぐに突き進むと中央にある修練場の広間へと辿り着いた。
一面広がる光景は茜色の炎が壁のように遮り、煌々と照らす奇異な光景であった。
一つはその炎の壁の向こう側に『明王・凛那』を手に持つ無轟、クウがいた。
更に、炎の壁の前には真っ直ぐ二人の様子を見据えた端然とあるイリアドゥス。
彼女へ必死な様子で話しかけている半神たち…シムルグとブレイズがいたのであった。
神無ら一向はまず炎の壁の前にいる彼らへと近づき、まずは神無が神妙な声をかけた。
先ほど吐露した怒りはミュロスの一喝で冷め、冷静にイリアドゥスへと問いかける。
「おい、イリアドゥス。色々と言いてぇことはあるが……今は、後回しだ。
答えろ。無轟に協力して此処にクウと一緒に連れてきたのか?」
「神無、今はそれどころじゃ――!」
「…ええ。無轟に頼まれたからな」
母への言動にブレイズが遮りかけたが、淡々と返した彼女にますます困った表情でブレイズは変わらず視線をイリアドゥスを見て問いかける。
「な、何故なのです!」
「見定めるため。もし、二人を止めるというなら、容赦はしない」
淡々と同じ答えを返し、漸く視線を神無らへと向けて、瞳に覇気を宿して、怜悧な警告を告げる。
警告の相手は神無らでブレイズは視野に入ってなかった。続けて無視されたブレイズは涙目になり、シムルグの後ろに回りこんで小さく身を縮めこんだ。
シムルグは落ち込む妹を宥めるため、会話に割り込むことはなしかった。神無はそんな様子へ嘆息のため息を吐きだし、了承せざるを得なかった。
「……ただ、アイツがヤバくなったら問答無用で割り込むからな?」
「そうだな。そうなったらそれでいい」
見定める間も無く、果敢無く散るというのなら追随する事も無駄になる。淡々と斬り捨てる姿勢をとるイリアドゥスは端然と了承する。
言い合う合間も、炎の壁は聳え、その向こう側ではクウと無轟が戦っている…否、一方的に襲われているのであった。
しかし、クウは反撃よりも攻撃を回
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