時同じくして、ビフロンスの城門前に何処からとも無く空間を裂いて現れた男が居た。
襤褸いコートに素顔を包帯で雑に隠した異様な風体をした男は城をおお、と感嘆混じりに仰ぎ見る。
「ほ〜〜王羅の奴、こんな所まで呼びつけて――何の用やら」
男は一息ついて、城の方へと歩き出し、城門に足を踏み入れた。
そこへ城内の方から自分へと駆け寄ってきた少女が声をかけてきた。
「伽藍さん!」
「よお、久しぶりだな」
見覚えの在る、駆け寄ってきた嘗ての旧友、王羅に伽藍は気さくに声をかける。
声をかけられた彼女は笑顔でそれに応じた。
「はい! 此処まできてくださって感謝します!」
「構わねえよ。――それにしても、こんな場所に何かあるのか?」
伽藍は巨大に聳える城を仰ぎながら呟いた。王羅は先の笑顔から真剣な表情で、彼に接する。
「はい。話は城の中で…」
「おう」
その真剣味な様子に伽藍も相応の声音で返してから、王羅の案内の元で入城する事にした。
朝故か、準備に急ぎ足な城に仕えている給仕たちを見かけながら、彼女の後をついていく。
「ああ、伽藍さん。朝食とか済ませているのですか?」
「ん? そういえば未だだったな」
「じゃあ、話は朝食と一緒に! こっちです」
そういわれ、方向転換して、通り過ぎかけた広間へと二人は入った。
既に給仕が朝食の用意を始めているが、同時に朝食をしている者らも見かける。
城に住んでいるとは言い難い、宿にしてもらっているような雰囲気のある者たちである。
「さ、どうぞ」
王羅が準備をしている給仕に話し掛け、少しのやり取りの後に笑顔で伽藍を席へと案内する。
案内された席には既に朝食を待っている数人の男女(親子だろうと伽藍は見た)が座っていたが、王羅は構わず進める。
伽藍はしぶしぶ座ると、先に座っていた者たちから不思議そうな視線を浴びる。
(……まあ、こんな格好だし怪しまれるのも承知の上だがよお……王羅、せめてはずれの席で座らせろよ…!!)
等と心の声で王羅に言葉をたたきつけた一方、当の彼女は先に座っている者らに自分の説明をしていた。
「――ということで、伽藍さんです。早く来てくれて助かりました」
説明を聞き終えた男女らの中で一番の壮年の男性、何処か懐かしい顔によく似ているが伽藍へと話し掛ける。
「アンタが伽藍か。こうして会って話すのは2度目か」
「? 二度目だと」
話し掛けてきた男の二度目の邂逅に、思わず言葉を返してしまう。伽藍個人は今まで会って来た人間の事はある程度記憶している。
しかし、今話し掛けてきた男にはあまり覚えが無い。老けて風体が変わったのならば納得してしまうが。
驚きで返された壮年の男は苦笑いを小さく浮かべてから、自分を打ち明けた。
「悪い、あれから何年も経っていたな。憶えているほうが可笑しいか。俺は神無。
『無轟の息子』っていえば解ってくれるか?」
「!」
無轟。その名を聞いて、有耶無耶な記憶が澄み渡り、その男―――神無を理解した。
彼個人とは恐らく無轟の死の後の葬式で会った程度しか憶えていなかった。
伽藍は驚きつつも、笑顔で頷き返した。それを見た神無も安堵の笑みで応じるが、その様はやはり無轟によく似ている。
そして、記憶が明確になった事で彼の周りに居る男女も自然と理解できる。
「アンタが確かツヴァイ、で、お前が神月……とヴァイか。大きくなったなー、あの時はまだ小さかったのにな」
「急になれなれしいな……まあ、いいけどさ」
「アハハ、すっごい怖いおじちゃんって覚えてた」
「ふふ、今回は此処まで来てくださってありがとうございます」
親しげに名前を当てた伽藍に、神月はやや表情を険しくしつつも頷いて、ヴァイは笑顔で応じ、ツヴァイは淑やかに礼をした。
しかし、ふと疑問を抱き、神無へと怪訝に質問した。
「ん? 此処は無轟の居た世界とは違うはずだ……引越しでもしたのか?」
「いや、ちょいと訳ありで家族そろって此処に寝泊りしている」
「訳在り? ハートレスにでも呑まれたか」
神無たちが住まう世界「メルサータ」は一度、闇に呑まれてしまった事が在る。その事件に巻き込まれた神無たちは一瞬苦い表情を見せるも、直ぐに消した。
神無はその事態よりも最悪な事を想定し、真剣な物腰で言葉を返した。
「……それより最悪になる可能性がある」
「!」
その雰囲気、発した言葉の重みに「本物」を理解したのか、伽藍は息を呑む。
傍らに座っている王羅も同様に物々しいほどに真剣な表情で頷き返した。
しかし、伽藍自身にはそういう事件を解決する実力は備わっていない。それを自ら理解したうえで言った。
「―――ま、俺が出来るのはあくまでも依頼
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